第二百六十話 死者の魂よ永遠なれ
イモータルはヴァイスに次いで古くからいる魔族である。ヴァイスが倒されてしまった今、最も長く魔王に仕えている魔族はイモータルだけになる。ヴァイスに比べて人型に近い見た目をしているため、見た目もかなり老け込んでいる。そして産まれながらにして魔族である最初の世代である。ヴァイス達最初の魔族が子を成し産まれたのがイモータルである。故に彼は魔族という種族を象徴するような能力を持って生まれてきたのだ。旧種魔族の中でもとりわけ強力な魔法を使用できる。
「『炎の槍・十重』!!!!!!!!!!」
「『風剣の舞』!」
セドリックとオリバーはイモータルの復活させた不死の軍団を次々になぎ倒していく。バトラーの様に身体を残してしまうとイモータルの魔力によって復活してしまう。そのために二人は魔族を魔法で身体を焼き尽くし、切り刻んでいる。
(す、凄い…。)
アリアは二人の団長の圧倒的な魔法を見て驚きを隠せなかった。自分達もレベルは上がっているはずなのだが、団長達の戦いはまたひと味違うものだ。長年セルベスタ王国を守ってきたという経験が彼らを強くしている。残骸になった魔族をアリアが小規模な《聖》属性魔法で消し去り、あっという間にイモータルの召喚した魔族は全て倒された。
「『闇死者の大行進』!」
イモータルは再び『闇死者の大行進』により魔族を召喚する。
「何度やっても同じことだ!」
「こちらの消耗を狙っているのだろうが、この程度ではあと何万回繰り返そうと我々の消耗など大したことはない。」
再びセドリックとオリバーは魔法で魔族を倒していく。そしてアリアが《聖》属性魔法で消し去る。ほんの一瞬だけアリアは違和感を覚えた。消し去った魔族からはイモータルの魔力が抜けて本人のところに戻っていく。これ自体は『死霊魔術』としておかしなことではないと情報共有はできている。
(魔力の量が変化している?)
アリアは魔族を消し去る際にわずかだが、魔力が元々あった量よりも増えていることに気付いた。つまりイモータルは最初に行使した魔力以上に魔力を回収しているということになる。その危険性に気付いたアリアはすぐに声を荒げた。
「お二人共!これはイモータルの罠かもしれません!」
「フン、小娘が今更気付いても遅いわ。」
イモータルの頭上にはいつの間にか黒い魔力が集まっていた。魔力が増えていることに気付くまでまったくその存在に気付かなかった。
「あれは一体…?」
「どうして気づかなかったんだ?!」
死者を操るには魔力が必要である。普通その魔力は死者を動かすために使用されて魔力が尽きればその魔法は使えなくなるものだ。だがイモータルの魔法は魔力を使用するのではなく死者に貸与するものである。当然その魔力は自身へと変換される。さらに死者であるにも関わらずイモータルの魔力を持った者は僅かではあるが、魔力を周囲から集めることができる。そしてそれが大量に回収されることでイモータルは自身の魔力を増幅させていくことができる。
「ではさらばだ。『死者の魂よ永遠なれ』!」
膨大な黒い魔力が輝き地面へとぶつかる。全てを飲み込む魔力の圧力。アリアは直感でこの魔法は自分の《聖》属性魔法をぶつけなければやられてしまうと思った。それも生半可なものではなく、大規模な《聖》属性魔法を。
「はぁぁぁ!!!」
◇◇◇◇
アリアは魔族との戦いに備えて自身の能力である《大賢者》の理解をさらに深めるべく、様々な魔法を学んでいた。学ぶといっても様々な戦いを経た今のアリアには大抵の魔法は再現できる。固有魔法ももちろん使用できる。これはセドリックも同じで能力によって本来の形とは違う形で同じ魔法を発動させることができるのだ。例えば《雷母》グリア・ローゼンも『暴雷雨の災害』は『雷の矢』を圧縮し雨粒のように小さな雷の粒を天候を操るほどの魔力を必要とする。だが魔力操作に長けており多量の魔力があれば限りなくオリジナルに近い再現をすることができる。過程が違えど結果的に同じ魔法にすることは可能なのだ。アリアの《大賢者》はそれを容易にする。
「うーん…どうすればいいかなぁ…。」
アリアが思いつく限りの各属性の魔法の使い手にはあらかた魔法を教わった。だが、これまでに使えなかった魔法を使用できるだけでは来る《魔王》との戦いには足りないと感じていた。明確な壁をぶち破る成長がなければ《魔王》や魔族とは戦えない。
「やぁアリア君。」
「セドリック団長。」
アリアはセドリックに自分の事を相談した。セドリックは少しだけ考え込むと、いつもとは違う雰囲気で口を開いた。
「アリア君の中でもまだ極め切っていない魔法がある。」
「《聖》属性の魔法…ですね。」
「ああ。だが完全な使い手は存在しない。」
《魔王》や魔族に唯一特攻できる魔法属性である《聖》属性、魔法の存在こそ確認されているもののその使い手はほとんどいないとされている。というよりもセルベスタ王国の調査をもってしても現在《聖剣》を介して発動できるユーリやセシリアを除けばアリア以外に見つけることができていない。
「…とされている。」
「えっ…。まさかいるんですか?」
セドリックはいつものおどけた雰囲気ではなく、真剣な眼差しでアリアを見つめていた。《聖》属性の使い手を知っている。シャーロットがセルベスタ王国のありとあらゆる伝手を使って調査をしていることは知っている。当然セドリックも協力しているに違いないのだ。だからこそアリアは驚きを隠せなかった。それと同時に意図的に隠していた理由が何かあるのだろうとも思った。
「勘違いしないでもらいたいが、わざと隠していたわけではないんだ。」
「はい。そんなことをする人ではないとわかっていますが…一体どんな理由が?」
「《聖》属性を使えるセルベスタ王国唯一の魔法使いは今現在意識を失っている。」
「意識を失っている?」
セドリックは語り始めた。セドリックの学友であったクリア・セインズは《聖女》と呼ばれていた。文字通りの能力者ではなく彼女の持つ雰囲気がそう呼ばせていたあだ名である。彼女は魔力は非常に多かったが魔法が使えず聖リディス学園にやってきた。現在ではそういった事情の生徒は学園に入れないが、当時は魔法の素質がある者であれば入学は可能であった。彼女はその膨大な魔力を他人に渡し、回復や攻撃の手伝いをすることで、彼女自身は何もできなくても彼女にできることをしていた。いつからか彼女の噂は騎士団へと広がり彼女は学園を卒業後騎士団員として配属されその魔力を活かしている内に《聖女》と呼ばれるようになった。
「そんな方がいらっしゃったんですね。聞いたことがありませんでした。」
「彼女のことはタブーとされている。」
「どういうことですか?」
セドリックは続きを話し始める。クリアはその魔力を活かして騎士団に貢献していた。ある時彼女は騎士団の遠征に付いていき、そこで魔物に襲われた。彼女はけが人を庇うために魔物の前へと飛び出した。その時彼女は使えないはずの魔法が発動した。後にそれは《聖》属性魔法と呼ばれる物であった。彼女は人々のためになることを長年続けることで女神の様な神聖な力を授かることができた。
「こうして彼女は《聖》属性の魔法を授かることができた。だがその魔物は魔族が改造した特別な魔物であったためにダメージを負ってしまったんだ。」
「そんな…。」
「それからというもの彼女は目を覚ましていない。彼女のことがタブーになっているのは《聖》属性の魔法を使ったにも関わらず魔物を倒せなかったという事実を隠すため。それと彼女を頼りにしすぎてしまった騎士団の負い目もある。」
セドリックは重苦しく語った。アリアを強くするために話をしていたはずが、どこからかクリアを助けてもらう話になっている。だがセドリックはアリアこそが彼女を助ける鍵になるのではないかと感じていた。
「むしろこれはお願いになってしまうかもしれないな。彼女のことを君に見て欲しいんだ。同じ《聖》属性の魔法をつかえる君に。」
「わかりました。何かのお手伝いになるかもしれません。」
アリアはセドリックの頼みを聞き入れることにした。
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