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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
7人の勇者編

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第二百五十八話 炎の魔女

ユキは冷静にレーナの動きを観察する。エレナの話からするとレーナ・スカーレットはスカーレット家の中でも《紅蓮の勇者》であるエレナ以上の炎魔法の使い手であり、《最炎技巧》という二つ名で呼ばれている。彼女の能力は《炎の魔女》と呼ばれるさほど珍しい能力ではなかった。だがレーナは他の能力者と違い、炎魔法を使うという点で誰よりも優れていた。魔法の選択、発動タイミング、威力、スピードそれらの全てを相手や環境に合わせて変化させるスタイルであり、《最炎技巧》と呼ばれたのだ。


「あなたのような魔法使いと戦えることは非常に光栄ですが、それは生前であればという話です。死体を動かすような非人道的な魔法を許すわけにはまいりません。」

「………。」


ユキは周囲の温度を引き下げる。ユキも氷魔法の使い手の中でセルベスタ王国に限らず彼女の右に出る者はいないだろう。そもそも氷魔法を使用できる者は少ない。ユキは《氷結の乙女》という能力で氷魔法の威力、規模が桁違いである。他の魔法は使用できないが、Aランクの冒険者になる実力は伊達ではないのだ。


「『氷の陣地(アイス・フィールド)』!」


二人を取り囲むように氷が発生する。『氷の陣地(アイス・フィールド)』は周囲に氷を発生させ温度を低下させる。炎や水の魔法は周囲の温度に影響を受けやすい。寒いところではいつもよりも多くの魔力を消費しなければ炎属性魔法は思うような威力や規模は出せない。だが周囲の氷は一瞬にして炎に包まれた。


「『炎熱地獄ブレイジング・インフェルノ』ですか…!」


レーナは『炎熱地獄ブレイジング・インフェルノ』を発動させていた。この魔法は周囲を炎が燃え盛り相手に襲い掛かる魔法であるが、同時に自分の命も危険にさらす魔法である。温度が急上昇することで喉の渇きや体温の上昇は避けられない。だから非常に扱うのが難しい魔法であるのだが、今のレーナにそのような調整は必要がない。すでに死体であるレーナは自身の炎が身体に包み込まれでもしない限り影響はないのである。


「『氷の皮膚(アイス・スキン)』…これでいつまで持つか。」


ユキは急速に上がる体温に危険を感じ、氷で身体を覆う。魔力を流し続ければ氷を保つことができるが、長くは持たないだろう。何を仕掛けてくるかわからない《最炎技巧》だがだからと言って待っているだけではやられてしまうのはこちらだ。


「『氷の弾丸(アイス・ブレッド)五重(クインティプル)』!!!!!」


レーナに向けて氷の弾丸を放つ。レーナは炎の壁を出現させ氷の弾丸を溶かす。だがレーナの背後から雪がすでに発動させていた『氷柱(アイシクル)』がレーナの身体を突き刺した。レーナの身体を貫いたかに見えたが炎へと変わり消え去った。『炎の残像(フレイム・ヴィジョン)』をユキが最初の攻撃をしてきた時点で発動したのだ。お互いに魔法の応酬が止まらない。だがこのままでは明らかに不利なのはユキである。


(このままでは『氷の皮膚(アイス・スキン)』が消える前に私がやられてしまいそうですね。)


ユキは魔力が多い方ではあるが、『炎熱地獄ブレイジング・インフェルノ』の熱気から守るために使用している『氷の皮膚(アイス・スキン)』に魔力が持っていかれている。大規模な魔法を発動するためにはこの魔法を解除する必要があるが、解除してしまえば30秒と持たないだろう。


(これをやるのは久しぶりですが出し惜しみはできませんね。)


ユキが何かを企んでいるのを察知して、レーナは炎の分身をいくつも作り出した。レーナ自身も炎に包み込まれどれが本物なのか見分けがつかない。『炎の複製体(フレイム・レプリカ)』、レーナが最も得意とする魔法である。エレナが倒した時もこの魔法によって死を偽装していた。


「『氷の息吹(アイス・ブレス)』!」


氷の息吹(アイス・ブレス)』が複製体へと襲い掛かる。だが複製体の方が熱量が高く、氷は蒸発し水へと変化するさらにその水は高温で水蒸気へと変化した。ユキが狙ったのは攻撃ではなく氷の蒸発によって素蒸気を発生させ目くらましをすること。この一瞬でユキは『氷の皮膚(アイス・スキン)』を解き魔力を集中させる。暑さの中で集中力が乱されそうになるが、冷静に魔力を集めていく。


(間に合って!)


持ってあと数秒というところでユキはある魔法を完成させた。レーナはすでに『炎の複製体(フレイム・レプリカ)』を再び発動させている。その数は先程の比ではなく、数十体であった。だがレーナはユキの姿を見失っていた。ユキは先程まで立っていた場所から姿を消している。そして周囲の『炎熱地獄ブレイジング・インフェルノ』の炎が徐々に弱くなっていることに気付いた。レーナは魔力を込めて威力を高めようとするがどんどんと弱くなっている。


「もう炎魔法が使えることはありません。この辺りを私の魔力で満たしました。」


中に浮いているユキを見上げながらレーナは何度も魔法を発動しようとするが発動できなかった。死体であるが故に気付いていなかったが、周囲の温度は下がり続けすでに氷点下になっている。常人であれば少し前から白い息を吐いているはずである。ユキ自身はこの魔法の影響を受けないために息は白くなっていないためレーナは気付かなかったのだ。


「『零魔氷の世界ゼロ・アブソリュート・ワールド』。私がこの魔法を誰かに使うのは二度目です。この魔法は周囲に与える影響が多すぎる。誰かが近くにいる場合は巻き込んでしまう恐れがあるので使用できません。」


絶対魔氷の世界ゼロ・アブソリュート・ワールド』、ユキの魔力を純粋な氷属性の魔法として周囲に散布するという単純魔法である。だが相手をただ凍らせるよりもいくつかのメリットがある。周囲の空間をユキの魔力で満たすために敵は攻撃されていることに気付きにくい。さらに温度を下げ相手の熱を奪うことで思うように魔法を発動できなくさせる、そして命も奪うのだ。ユキはやたらとこの魔法を使う事はしない。簡単ではないが、命を奪ってしまえる。そこにユキは忌避感を覚えているのだ。彼女がAランク止まりの冒険者だったのもこれが理由である。Sランクになるにはギルドからの依頼を断れない。そして依頼には罪人の処刑なども含まれている。実力的にはSランクに匹敵するのだ。


「あなたが死体でよかった。どうか安らかにお眠りください。」


ユキが地上に降りると同時にレーナの身体は氷漬けになった。ユキは氷漬けになったレーナを優しく撫でるとバラバラに崩れ去った。


◇◇◇◇


時は少し遡る―


二の扉に入った宮廷魔道士団長セドリック、翠狼聖騎士団長オリバー、アリアの三名はどこかの建物内に飛ばされた。道は一本で先に進めと言われているように感じた。不吉な魔力を感じる方向へと歩いていく。アリアやオリバーは一度オルロスで感じ取ったことがある魔力である。死体を動かす魔法、その術者である魔族がこの先にいる。道の先には扉があり、それを開くと玉座が置かれていた。老齢と思われる魔族が肘掛けに手を付き深く椅子に腰かけている。これまでに会ったどの魔族よりも重圧を感じなかったが、どの魔族よりも強いとアリアは思った。


「貴様らが、ワシの相手をする人間共か。《勇者》がいないとは舐められたものだな。」

「残念だけど君の相手は私達ですることになる。セルベスタ王国の誇る騎士団長二名に彼女は《大賢者》だ。退屈はさせないよ。」


セドリックが言葉を発し終えたとほぼ同時にオリバーの剣が魔族の身体に突き刺さる。オリバーは何か違和感を覚え、即座に後方へと下がった。オリバーの剣が刺さったにも関わらず、魔族は微動だにしていない。


「あいつ何か変です。」

「相変わらず早い男だがここは先手必勝あるのみだろう。」


セドリックがすでに後方に展開している『雷の矢(ライトニング・アロー)十重(ディカプル)』を魔族に向けて放つ。またしても魔族は避ける動作すらしない。直撃を食らったにも関わらずその魔族は変わらず玉座に鎮座している。退屈そうにこちらを見ているだけであった。


「…退屈だな。ワシの名は‘’不死‘’のイモータル、貴様ら程度の魔法を何千何万と受けてもワシの命に掠りもしないだろう。」


‘’不死‘’のイモータルと名乗った魔族は退屈そうにしている。二人の団長の攻撃は並ではなかったはず、にも関わらずイモータルはまったくダメージを受けていないということにアリアは驚愕した。だがアリアはそれならば自分の役割があるとすぐに次の一手を打つことが出来た。


「『聖なる光(ホーリー・ライト)』!」


アリアは魔族の弱点である《聖》属性魔法を発動する。しかしイモータルはまるで気にしていない様子だった。『聖なる光(ホーリー・ライト)』が直撃した場所は少しだけ焦げ跡が付いているがイモータルがが息を吹きかけると何事もなかったかのように無傷であった。


「《聖》属性か。バトラー!」


イモータルが叫ぶとどこからともなく魔族が一体現れる。アリア達には目もくれず、バトラーはイモータルに向かって跪いている。こちらの魔族は《上位序列》魔族と遜色ない圧を放っている。


「イモータル様、如何様でございますか。」

「奴らの相手をお前に任せる。」

「畏まりました。」


バトラーは三人の方へと振り返ると戦闘態勢に入るのであった。

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