第二百五十六話 暗黒影の深夜城
「それで手っていうのは?」
「拙者の技で魔法道具を破壊することはできるでござる。問題はその技は威力が高い代わりにスピードはあまり出ないでござる。」
「なるほど。つまり技を当てられるだけの隙を作ればいいのね。」
ディアナが魔力を込めると周囲の影が集まってくる。龍を足止めするための大魔法を使用するつもりなのだ。ルミとランマはそれを見て二体の龍の魔法道具を倒すための構えに入った。
◇◇◇◇
ランマは修行の中で自らの新山田流を派生させたオリジナルの技をいくつか習得している。新山田流は壱〜漆の技があるが漆式は唯一ランマが習得していない技である。先代の大和国将軍であるリューマによって処刑人として育てられたランマだが、その剣技もまたリューマによって教えられたものである。リューマは代々山田流という剣技を継いでおりランマはそれを教わり、自身の能力を加えることで新山田流へと昇華させた。だが陸式と漆式はどのような技かわからなかった。そんな時に大和国にいるハルから手紙を貰い、魔族との戦いの前に久々に会いに行くことにした。
「ハル姉久しぶりでござるな。」
「本当にそうだね。最近は忙しいのかすっかり手紙も少なくなってるし。」
「申し訳ないでござる。」
「いいのよ。それだけ楽しく元気にやってるってことだもん。それよりも来てもらったのはこれを見せるためなの。」
ハルはそういうと一枚の紙きれを出してきた。所々シミで汚れており、何かの文章や絵柄が書いてあるがランマには読めなかった。しかしこの紙にどこか懐かしいような感覚を覚えていた。
「これは一体なんでござるか?」
「これはあなたを拾った時に握っていた物らしいわよ。」
「拙者が握っていた?」
ハルの話によればランマが大和国の前将軍であるリューマに拾われる際に握っていた物であるということ。ランマは幼いころなのでほとんど覚えていなかったのだが、リューマは友人であるハルにこのランマの握っていた紙を渡していたらしかったのだ。なぜランマに直接渡していなかったのか、ハルに渡していたのかはわからなかったがそこに意味がある気がした。
「でも何書いてあるか私にはわからなかったのよね。字も見たことないものだし。」
「ふーむ。たしかにこれは何を書いてあるのかわからないでござるな。こっちで調べてみるでござるよ。」
ランマはハルから紙を受け取り、調べてみることにした。セルベスタ王国に戻りこの手の物に詳しそうなコータとマークに相談してみることにした。二人にもこの紙に何が書いてあるかはわからなかったがコータはあることに気付いた。
「この紙に書いてある人の絵さ。なんか刀握ってるし、ちょっとランマに似てるよね。」
「そうでござろうか?」
「たしかにそうかも。」
「異世界でこんな感じの絵があるんだよ。浮世絵っていうんだけど…まあそれともちょっと違うけど雰囲気は似てるかな。」
コータに言われて二人もたしかにと思うところがあった。この絵に描かれている7つの人物の絵。同一人物であり、よく見れば手に持っている物は刀に見えなくもない。そう言われてランマははっとした。この絵に描かれている人物が何をしているのか。
「この絵は拙者が使う山田流の型に似てはござらんか?」
「そう言われると似ている気がする。ってことはこれは山田流の技が書かれている古文書ってことか。」
「となるとこの絵の下に書いてある文字は恐らく技の名称と説明だね。でも最後の絵だけ何て書いてあるかの部分が読めない。でもそれ以外のところはランマの技から推測すればなんとか分析できると思う。」
「よろしく頼むでござるよ。」
ランマは古文書の分析をマークに任せて自身の修行へと戻った。
◇◇◇◇
ディアナは魔力を自身に集めていく。ディーテはそんなディアナに手を向けている。大魔法に必要な魔力を分け与えているのである。ディアナは魔力効率が良く、少しの魔力で魔法を発動させることが得意である。だが闇属性の魔法の中には大きな魔力を消費する大魔法がいくつか存在している。厳密に言えば他の属性魔法に比べ、闇属性魔法は使い手が少ないためにあまり分析が進んでいない。そのためコツやノウハウのような物がないので大きな魔力が消費する大魔法ということになってしまっている。
「ディアナ…そろそろ…」
「もう少し…もう少しだけ…」
「僕の魔力も使いたまえ!」
ディーテの肩にディミスが手をのせる二人の魔力がディアナへと集まっていく。周囲には影が落ち暗くなっている。魔力を込めているだけなのにすでに魔法が発動しているような錯覚に陥ってしまう。
「『大魔法・暗黒影の深夜城』!」
地面から伸びた影が二体の龍種のさらに上へと伸びていく。地面の魔物と空中にいる飛竜も含めて全て影の城の中に閉じ込められる。その中から魔物の悲鳴とも取れる咆哮が複数聞こえる。影の中では無数の人影のようなものが魔物を攻撃している。魔物が人影を攻撃して消えてもすぐに復活する。この魔法はディーテが発動してから魔力を消費し続けることで維持することができる。三人の魔力を全て使い切る勢いで消費し続けている。二体の龍種以外はほとんどが消え去った。だが二体の龍種は影から抜け出そうとしている。
「『龍の息吹』!」
逃げようとする龍に向かってルミがブレスを放つ。ほとんどダメージは与えられないが、ランマからの目を逸らすことには成功した。ランマは『天翔脚』によって空を駆け上がり、すでに二体の龍の首元まで迫っている。古文書から解読したランマが知らなかった6つ目の型。
「『新山田流陸式・双瞬閃光』!」
ランマの身体が二つに分裂する。古文書によって判明した『新山田流陸式・双瞬閃光』。素早い動きで二人に分裂し、攻撃を仕掛ける技である。だがこれでは技の威力が他の技に比べて弱いのでそれぞれの龍の首に付いている魔法道具を破壊することはできない。
「『新山田流伍式・泰山砕き・極撃』!」
ランマは続けて二体の龍の首元の魔法道具に技を放つ。魔法道具は砕け散り二体の龍は地面へと落ちた。それと同時にディアナの魔法も消える。ランマは魔力を全て使い切り地面へと落下する。すぐにルミがランマを背中に乗せて回収した。
「ルミ殿…助かったでござるよ。」
「いえいえ。聞いていたので大丈夫です!」
魔力の少ないランマは続けて技を放つことが難しい。普通全ての魔力を使い切ることは危険なためにすることは少ないが、今回ランマは魔力を練り、全ての魔力を使い連続して『天翔脚』『新山田流陸式・双瞬閃光』『新山田流伍式・泰山砕き・極撃』の三つを発動させた。一度連続で魔法を発動させようと思うとそれに集中してしまい無防備になってしまう。そのため足止め役と、最後に自分を回収する役が必要であった。
「これでルミ殿の両親は元に戻るでござろうか。」
「そうですね。とりあえず事情を聞いてみないことには…。」
ルミの両親が目を覚めるまでしばらく魔力回復に努めることにするのであった。
◇◇◇◇
マルクはローランと思われる魔力の方向に向かって森をかけていた。マルクはローランと面識がある。ユーリの両親であるユートとレストに出会うまでは騎士団とぶつかることも多々あった。今よりも冒険者と騎士団の関係は悪く、特に冒険者として暴れていたマルクは度々ローランとぶつかることがあった。今セルベスタ王国にいる中でもっとも彼の実力を知っている人物といっても過言ではない。開けた場所に出るとローランの周りに無数の騎士団員が倒れている。
「久しぶりだなローラン。」
「………。」
ローランからの返事はない。マルクも昔の友人に喋りかける口調に戻っていたが、すでに死体となってしまっている彼から返事はない。ローランはマルクを見ると先程まで使用していたと思われる剣を捨て、生前愛用していた《聖剣デュランダル》を引き抜いた。
「ほぉ…意識を失っても俺の剣は忘れていないようだな。」
マルクも腰に帯刀していた剣を引き抜く。マルクは普段、普通の剣を使用しているが、引き抜いた剣は細剣であった。冒険者時代に使用していた《銘剣ワルキューレ》、久しぶりに戦闘で使うがあの頃と変わらないほどにしっくりときている。屋敷の深くに置いていたが、一日たりとも手入れを欠かしたことはない。マルクは目の前の相手に対して反応をしているような気がした。マルクはローランに斬りかかる。
「《聖剣デュランダル》、その輝きはすでに失われているが折れぬ能力は何かで再現しているのか?」
マルクは《聖剣》ではなくなったデュランダルを砕くつもりで剣をぶつけたが、刃こぼれどころか傷もついていない。マルクは本気でローランの相手をしなければならないと感じていた。
少しでも面白いなと思っていただけたら幸いです!
皆さまの応援が励みになりますので、ぜひ下部よりブックマーク・評価等お願いいたします!




