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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
7人の勇者編

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第二百五十三話 精霊同調

「貴様…何をした?」


ヴァイスは召喚した飛竜が一撃で、いや一瞬で消されたことに驚いていた。それと同時に何をされたのか全く理解できなかった。ただ風が駆け抜けていっただけの様に思えた。理解自体はそれで間違っていない。ただその風がどのような物だったのかがわからなかった。聖属性でもなければ特別強い物でもなかった。しかし一瞬にして飛竜は朽ち果てたのだ。


「そんなに難しい話ではないんだよ。君の飛竜は悪魔の力を宿しているだろう?それを消し去ったのさ。」


ディランはそう語るコータの姿を見て違和感を覚えた。コータは異世界人であり、時々自分達にはよくわからない言葉や口調になっているが、今喋っているコータはその時と同じような感じであった。まるでコータではない誰かが喋っているようだとディランは思った。


「悪魔の力には圧倒的な攻撃力か、聖属性でなければ対抗できないはずだ。だが先程の魔法はそのどちらでもなかった。」

「そうだね、私が使った魔法はそのどちらでもない。君は精霊とはどのような存在か理解しているか?精霊とはこの世とは別の存在、つまり悪魔の存在している世界と同じなんだ。」


悪魔と精霊は同じ世界に存在している。しかしお互いに干渉し合っているわけではない。それはなぜか、お互いが脅威となる存在だからである。精霊が操る力は悪魔に最も有効的であり、悪魔の力は精霊に最も有効であるのだ。二つの力はどちらにとっても自分達の存在を消滅させることができる力を持っている。先程のコータが使用した魔法は純粋な精霊の力による魔法であった。そのために悪魔の力を宿した飛竜は一瞬にして消え去ったのである。


「私達はお互いに脅威となる存在なのさ。」

「だがそれはつまり…」

「今のお前の状態では悪魔の力も脅威となるということだな!『悪魔の龍爪ディアボリカル・ドラゴン・クロウ』!」


ヴァイスは禍々しい爪の生えた腕を振るう。コータはそれを跳躍して回避する。精霊の魔法が悪魔に有効であるように悪魔の魔法もまた精霊には有効である。今のコータは『精霊同調(シンクロ・スピリット)』によって精霊と同一の存在になっている。大した攻撃でなくとも悪魔の力というだけで致命的なダメージを負ってしまう。


「だけど僕には仲間がいるから問題ない!」

「『雷神の槌(トール・ハンマー)』!」


ディランがヴァイスの真上から両手を握り腕を大きく振り、ヴァイスを地面に叩きつける。初めて知る事実にこれまで少しの動揺を見せることもなかったヴァイスが見せた一瞬の隙をディランは見逃さなかった。


「コータ!その状態はどれくらいの時間維持できる?」

「あと10分が限界ってところかな。」


精霊同調(シンクロ・スピリット)』には時間制限がある。そもそも精霊がこの世界に完全に顕現することが難しい理由は適正を持つ者が少ないからである。精霊は適性を持つ者を通してこの世界に顕現することができるが、アルフレッドやコータ程の適性を持つ者は中々いない。さらに精霊と対話を重ねることができるというのはもっと限られてしまう。そのためこの世界の住人は魔力を通し、精霊は魔法という形でこの世界に干渉することで対話を成立させている。精霊本来の力を引き出すには適正者を依り代にして『精霊同調(シンクロ・スピリット)』で完全顕現する必要がある。そしてその状態を維持するのは適正者としても精霊側としても負担が大きいのである。常に100%の親和性を持たなければならないためその集中力は計り知れない。


「わかった!ここで勝負を決める!」


コータから『精霊同調(シンクロ・スピリット)』の制限時間を聞いたディランはここで最後の勝負を仕掛けるために自身の魔力を跳ね上げる。すでに『雷身体強化ライトニングフィジカルブースト』を発動している状態であるが、修行によって身に付けたその先の魔法を発動するためである。この魔法は一度発動するとしばらく動けなくなってしまうという弱点がある。そのためにここで勝負を決める必要がある。


◇◇◇◇


ディランはセドリック団長に言われたことを思い出していた。「一撃の破壊力を求めたいのか、誰にも追いつかれないスピードを求めたいのか。何か一点を極めなければ固有魔法にはなりえない。」ディランの開発した魔法『雷身体強化ライトニングフィジカルブースト』に対する評価である。たしかに『雷身体強化ライトニングフィジカルブースト』によって通常の『身体強化(フィジカル・ブースト)』では成しえない動きを可能としているだがそれでもどこか一芸に特化しているわけではないのだ。


「どこかに強化の重点を置かなければ…。」


雷属性魔法の利点と言えばその速さと破壊力である。どの魔法属性よりも優れている部分ではあるがその分、他よりも形を保つのは難しい。ディランも少しは他属性の魔法を使う事ができるが、消費する魔力は多少雷属性の方が大きいというのもある。だからこそ『雷身体強化ライトニングフィジカルブースト』は雷属性の魔力を自身の身体に流すことでその利点を活かしているとも言えるのだ。どこかに一点集中させるというのはできないわけではない。例えば腕に魔力を集中すれば力は上がるし、足に魔力を集中させるとスピードが上がるだろう。


「だがそれを『雷身体強化ライトニングフィジカルブースト』でやる意味は一体なんだろうか…。」


攻撃力を上げるだけならば通常の魔法を強化した方が早いし、速さを上げるだけなら『身体強化(フィジカル・ブースト)』を『多重展開(マルチ・キャスト)』をする方が魔力の効率も良いし簡単である。ディランは父親であるイヴァンので修行を行っている。今はちょうど休憩時間でありイヴァンは宮廷魔導士団員の修行を見ている。


「やあディラン。」

「コータ。」


そこに偶然コータが現れた。コータは自身の修行の方向性である精霊との親和性を高めるために城にある文献を漁りに城へと戻って来ていたのだった。ディランは自分にない発想がコータにはないかと頼ってみることにした。コータは異世界から転生してきている。別の世界の考え方が何か解決の手助けになるのではないかと考えた。


「というわけなんだが、コータの意見が聞きたい。」

「なるほど…たしかにそりゃ難題だ。」


二人はああでもないこうでもないと議論を重ねた。ディランが考えている強化の方向性は間違ってはいないがそのためにすることはコータにもいいアイデアはなかった。他の属性の魔力を同時に発動させるという案も出たが仮にそれが実現してもバランスに気を取られてしまい難しいのではないかとなった。だがここでコータはあることを思いついた。


「例えば火を使う魔物は火を使いやすいし水にいる魔物は泳ぎが得意なわけだろ。だったら雷属性が得意な魔物なんかを参考にしてみるってのはどうかな。」


人間族やその他の亜人族はそれぞれ得意な魔法があるが、種族によって使えない魔法属性というのは存在しない。あくまでも得意不得意があるだけだ。だが魔物はその種類であればその属性の魔法が得意である。そこにヒントがあるんじゃないかとコータは考えた。しかしディランは少し否定的であった。なぜならあくまでも魔物はその魔法を発動しやすいように身体の作りそのものが違う。例えば炎の属性が得意な魔物は身体が火に強くできている。だがディランはこの発想を悪くないと思った。


「なるほどな…いや魔物を参考にするというよりもその形を再現するってのはどうだ?」

「要するに龍を模倣するなら翼と鱗を作るってことかい?でも翼は再現できても飛翔はできないだろ?」


ディランはコータの意見を聞いて魔物の見た目を再現するようにすればいいのではないかと考えた。しかしコータはそれをする意味がわからなかった。翼のある生物のように翼を炎や雷で再現したところで飛べるようになるわけではない。


「そういう複雑な物は無理だ。だが…」

「何か思いついたんだね。それならよかったよ。」

「ああ。すまない、助かった。」


コータはディランが何か掴むことができたことを確認しその場を去っていった。ディランはコータとの会話の中で掴んだ『雷身体強化ライトニングフィジカルブースト』の完成形に向けて修行を続けるのであった。


◇◇◇◇


「全ての魔力を解放!」


ディランは今残っている全ての魔力を放出する。ただ放出するのではなくそれを自身の身体に何層にも重ね合わせる。肉体を魔力で締め付けることで自身の肉体が魔力に変換してしまったかのように錯覚させる。そしてその魔力は手首、足首、首元から煌々と伸びている。それ以外の部分はうっすらと鱗の様な物で覆われており額からには角の様な物が伸びていた。


「『身体獣化・雷獣麒麟黈ノ型』」

「まるで魔物の様な姿だな。」


地面に叩きつけられたヴァイスがゆっくりと立ち上がる。ダメージは入っていない。そしてディランの姿を見て驚いた。まるで魔物の様な姿と表現したが、ヴァイスの知る限りではこのような姿の魔物は存在しない。頭から一角を生やし、手首と足首からは波打つように輝く魔力が溢れている。そして龍の物ほどではないが鱗によって覆われている。


「だが、姿が変わったからといってなん…」


瞬間ヴァイスの片腕が吹き飛んでいた。ヴァイスは何が起きたかを理解するよりも先に身体の再生を優先させた。そしてその判断は正しかった。先程まで視界に入れていたはずのディランは消えている。魔力を感じるがそこら中に感じているためにいまいち正確な居場所がつかめない。魔力をばらまきながら移動しているのか、もしくは速すぎて自分の探知では追うことが出来ないかである。すぐに自分の周囲を吹き飛ばす魔法を放つ。


「『悪魔の龍波動ディアボリカル・ドラゴン・サージ』」


自分を中心に半径30m以内に魔力の圧力をかける。しかしそのどこにもディランの姿もコータの姿もなかった。


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