第二百五十二話 親和性
ヴァイスはウールの攻撃に耐えつつ、鱗を再生させようとした瞬間に違和感を覚えた。いつもより再生が遅くなっていたのだ。
「聖属性か!」
「ご名答!」
《水聖の騎士》のさらなる能力、それは聖属性の付与である。水属性魔法であればどんなものでも聖属性が付与される。セシリアの場合は《聖剣ガラティーン》に選ばれた際に能力が変化し、《聖剣》に元々備えられている聖属性を強化するものになっている。そのため通常の魔法には聖属性が付与されず、《水聖の騎士》の本来の能力を全て引き出せていなかったのだ。
「これで終わりだ!」
「ウォォォォォ!!!!!」
ウールは全ての魔力を使い果たし、ヴァイスに魔法を浴びせ続けた。それは自身の命が危ぶまれる行為だったが、ここで消耗させディランとコータに繋げることが一番勝率が高いことを理解していた。ヴァイスは鱗が全て剥がれ再生される前にその肉体に聖属性が付与された水属性魔法を受ける。龍の姿で鱗のない状態では殆ど防御力がない。例え規模の小さい魔法でもこれだけの数を打ち込まれては無事ではいられなかった。
「ウール!」
「待てコータ!このまま奴を叩く!」
コータは魔力を使い果たしたウールの元に駆け寄ろうとするが、ディランはそうすべきではないと判断した。今のヴァイスは確実に弱っている。ここで追い討ちをかけて完全に倒しきる方が良いと考えた。
「『風精霊の大嵐』!」
「『雷の大槍』!」
地面に落ちていくヴァイスに向かって二人は魔法を放つ。それらは地面にぶつかる直前に命中した。二人は確実な手応えを感じていた。現在ヴァイスの魔力は完全に消えている。しかし二人は警戒を解いていなかった。魔族という存在がこの程度で完全に倒し切れるほど甘い相手ではないことは身に染みてわかっている。
「『悪魔解放・アスタロト』」
魔法を放ったところから膨大な魔力が膨れ上がる。これまでの龍の魔力とは別の魔族であるということがわかりやすい魔力であった。ヴァイスの姿は人型に戻っており、所々龍の鱗を纏っている。纏う魔力はdこか不思議な雰囲気な物に変化していた。
「まさか聖属性の魔法が使えるとはな。おかげで悪魔の力までも解放するはめになった。この姿になるのは随分久しいな。」
「そりゃウールが頑張った甲斐もあるってもんだな。」
「ああ、ここからは俺達が相手だ。」
ディランとコータは魔力を引き上げる。ヴァイスはただ真っすぐにこちらに向かってくる。特に急ぐ様子もなくゆっくりと歩いているだけだ。
「『雷の大槍』!」
「『風の大槍』!」
ヴァイスに向けて魔法を放つがその場に立ち止まると微動だにせずただそこに立ち尽くしていた。そして回避を見せることもなく魔法を真正面から受ける。しかし魔法がヴァイスに当たる前に弾け飛んだ。二人は何が起こったか理解できずに固まってしまった。
「ふむ、この程度なら我がわざわざ手を下すまでもないか。『召喚・悪魔龍の軍団』」
上空に大きな魔力が集まっていき、暗雲が発生する。そして大量の飛竜が現れこちらに向かってくる。飛竜は一体一体が強固な鱗を纏っており荒々しい魔力を感じ取れた。それはヴァイスの様に龍であり悪魔のような性質を持っている物だと理解できた。
「行け!」
「ガァァァ!!!」
「くそっ!」
猛スピードでこちらに向かってくる龍を背に二人は一旦距離を取る。暗雲から次々と発生する飛竜に向けて魔法を放つ。すぐに吹き飛ばすことができたために再生能力はないことがわかる。しかし半端な魔法ではダメージを与えることはできないし、非常に厄介であった。コータは逃げるのを辞めて正面に向き直る。その様子を見てディランはコータが何をしようとしているのか察した。
「はぁぁぁ!!!」
コータの周りに魔力が集まっていく。それは緑色に変化し、周囲には風精霊と思われる精霊が具現化していた。本来精霊は契約した者にしか感じ取ることができない。そして具現化するには『召喚魔法』によって呼び出すという行為が必要である。しかし今のコータは『召喚魔法』を使用していない。にも関わらずディランの目にははっきりと精霊が見えている。これはそれだけコータと風精霊との親和性が高くなっているために起こっている現象である。
◇◇◇◇
コータが修行先に選んだのは同じく精霊を召喚し扱うことが出来る紅鳳凰聖騎士団長アルフレッド・マーティンの元である。彼は炎を司る精霊、炎竜精霊を使役している。精霊と契約している魔法使いはそれなりにいるが彼の様に召喚を行うことが出来る者は5人といない。
「たしかにワシの炎竜精霊と君の風精霊は同じ精霊ではある。しかしまったく同じというわけでもないのじゃ。」
「といいますと?」
「ワシに聞くより精霊に聞く方がはやいじゃろう。『召喚・炎竜精霊』!」
アルフレッドは自身の使役する炎竜精霊を召喚させる。コータも何度か目にしたことはあるが、やはり迫力が違う。そしてアルフレッドは炎竜精霊に軽く事情を話すとまずコータにも風精霊を召喚するように促した。
「なるほどな。小僧!おめぇはまだ完全にその風精霊を召喚していねぇ。」
「完全に召喚?」
「親和性が完全じゃねぇとも言えるがな。俺達精霊はこことは別の世界に存在していることは知ってるな?」
「はい。」
「こちらの世界に100%の力の状態で風精霊を召喚していねぇのさ。」
コータはこの修行時点ですでにシャーロットの《魔眼》について情報を共有しており、異なる世界が同時に存在しているということを知っていた。炎竜精霊をの言う異なる世界はそれの事を言っていると理解した。炎竜精霊曰く、精霊は異なる世界に存在しているが必ずしも実体があるわけではない。多くの力が集まった時にようやく炎竜精霊や風精霊という名前を持ち、精霊という存在としてこちらの世界に顕現できるようになるという話であった。
「世界に炎竜精霊は一体しか存在することはできない。俺が消えて初めて次の炎竜精霊が現れる。このジジイと契約していたことも全て忘れた別物としてな。」
「なるほど。同じ名前や姿であっても個体が同じではないってことか。」
「ああ。精霊を呼び出し操る適性がある人物が現れて初めてこの世界に召喚されるが、そうそうあることじゃねぇ。だから精霊を呼び出せる者は少ねぇのさ。」
コータは自身の知らなかった精霊という存在についてかなり詳しく知ることが出来た。炎竜精霊はこうして自らの口で人の言葉を話せるが風精霊はそうではない。魔力の供給や魔法の補助などのコミュニケーションは取れているが人間の言葉は話せない。
「話は逸れたが要するに今のこの世界で風精霊を召喚できる人間はお前だけ。そしてその力を全て引き出せていない。それができるようになればもっと強くなれる。」
「そういうことですか!では僕は何をすればいいんですか?」
「そこで親和性を高める必要がある。お前と風精霊会話できねぇだろ?」
炎竜精霊によれば精霊との親和性が低い状態であるために風精霊とコータは会話することができないということであった。コータは勝手な先入観で精霊には会話ができる者とそうでない者がいると考えていた。そして自分が呼び出している風精霊は後者であると。
「会話ができるようになれば親和性が高まると?」
「そりゃそうだろ。お前は仲間と会話もしねぇで仲が深まるのか?連携ができんのか?まあそういうこった。」
コータは炎竜精霊の言うことを聞いて確かにそうだと思った。自分が仲間と親交を深めるように精霊を仲を深めることで本当の力を引き出すことができるのだ。
「ありがとうございます。もっと風精霊と対話してみます。」
「ほっほっほ。精進することじゃな。」
「うるせぇクソジジイ!説明は全部俺任せじゃねぇか!」
炎竜精霊とアルフレッドは何やら言い争っている。喧嘩をするほど仲がいいというが、まさにこの二人に当てはまる言葉だろうとコータは思った。こうしてコータは風精霊との親和性を高める修行に取り組むのであった。
◇◇◇◇
「はぁぁぁ!!!」
コータの周り集まっている風精霊が身体に取り込まれていく。その部分から黄緑色の魔力が溢れだしコータの身体の色が変化する。全身が黄緑色に変化したコータはこの世の物とは思えない神秘性を放っているとディランは感じた。
「『精霊同調・風に愛されしの女精霊』」
あまりの神秘さにディランは言葉を失っている。ヴァイスですらそのコータの姿に硬直している。しかし『悪魔龍の軍団』」によって召喚された飛竜は止まることなく真っすぐにコータに向かって行く。
「『死の誘惑微風』」
コータは真正面に掌をかざした。すると生温い風が周囲を覆った。飛竜はコータに辿り着く前に一瞬にして塵となった。
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