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第二百五十一話 水聖の騎士

ウールがヴァイスの鱗を砕いていく。ヴァイスは抵抗することなくそれを受けている。この時点でウールは違和感を抱いていたが、今ここで止めてしまっては能力の変化をさせている時間が勿体ないのだ。現在《水の奇術師》から《水聖の騎士》へと能力を変化させているウールだがこれには時間制限がある。長くは持たない、ただでさえ自分の能力ではなく慣れていないこともあり持って15分というところだろう。


(さっきのダメージが酷い…修行したとはいえもう持たない…!)

「…我の鱗を砕くとはな。だが無駄なことだ。」


ヴァイスが身体を屈める。ウールは何かが来ることを察知し、距離を取る。ヴァイスは翼を大きく広げたかと思うとウールに砕かれたはずの鱗がすぐに生えてきた。


「あいつ…。」

「ルミの再生力から龍の再生力は理解していたつもりだったが、ヴァイスのそれは比べ物にならないな。」


ルミの再生力も尋常でない早さである。腹に穴があけられても次の日には塞がっているし、本人も何事もなかったような顔をしている。だがヴァイスはそれ以上のスピードで再生している。龍だけではなく魔族となったことで再生力も上がっているのだ。


「まあわかっていたけどそう簡単にはいかないか。」

「それでどうする?我にはわからない何かの力が働いているようだが、それも長くは持つまい。」


ヴァイスはウールの能力の変化という事象に気付いてはいなかったが、それが長くは持たないことはウールを見れば理解できた。ウールはさらに魔力を練り上げ、《水聖の騎士》としての能力を最大限に引き上げる。《水聖の騎士》は水属性魔法の攻撃力を底上げし、特に剣を扱うことに関して大幅な強化がされる。だが本当の能力はそれだけではない。


◇◇◇◇


ウールは《水聖の騎士》の能力を使用できるようになるためにセシリアの元へと訪れていた。


「なるほど《水聖の騎士》について私に聞きたいということか。」

「ええ、他にいない能力ですからね。だからこそ使いこなせれば強くなれると考えています。」

「そうか…。」


セシリアはうーんと考え込むような素ぶりを見せている。そして口を開く。


「言いにくいんだが…実は私は《水聖の騎士》の能力を使いこなしてはいないんだ。」

「えっ?どういうことですか?」

「《水聖の騎士》は水属性魔法と剣技を向上させる物だが、知っての通り私の適性魔法は雷属性と水属性だ。だが水属性魔法も使えないわけではないが大規模な物しかないし、ここぞという時にはやはり使い勝手の良い雷属性魔法を使ってしまうからな。完全に使いこなせているかというと微妙なところだ。」


以前、ユーリとの戦いでセシリアは水属性魔法を使っていたが大規模な魔法ばかりであったことをウールは思い出した。たしかに能力を本当の意味で使いこなせているのであればそのようなことにはならないだろう。


「加えて私は《聖剣》の使い手になってしまったからな。」

「《聖剣》が何か関係あるんですか?」

「ユーリはどうかわからないが、ローラン元団長に聞いたことがあるんだ。《聖剣》に選ばれるとその能力もそれに合わせて調整されてしまう。だから本来なったはずの能力が今のような状態ではないかもしれないということだ。私の場合、剣技の方がより向上しているのだろうな。」


ウールはこの話を聞いた時、この《聖剣》による能力の変化こそ能力の進化とも言えるのではないだろうかと思ったがひとまず自身のことに頭を切り替えた。つまりセシリアさんに聞いても《水聖の騎士》の本来の力がどのような物なのかは概要しかわからないということだ。


「しかし能力の変化とは考えたな。君の固有魔法といい頭の柔らかさには驚かされるよ。」

「いえ、セシリアさんの《聖剣》の話を聞いていればいずれ気付いたことでしょう。」

「…すまないな。もっと早く皆に情報を共有すればよかった。」

「あっ、すみません。別にセシリアさんを責めたわけじゃ…。」


二人の間に少しだけ気まずい空気が流れる。ウールにその気はなかったが、セシリアを責めてしまったように聞こえてしまったなと少し反省した。


「しかしこのままでは役に立てそうにもないな。何かもう少し話せることがあるといいんだが…」

「そうですね。《聖剣》を手に入れたのは騎士団に入ってからですよね。」

「ああ。学園を卒業後に騎士団になり任務の先で手に入れた物だ。」


ここでウールは一つの疑問が浮かんだ。《女神の天恵》は10歳になると行われ能力を授かる儀式である。セシリアが《聖剣》を手にしたのは騎士団に入って以降ということは能力の変化が起こったのはそれよりも後ということになる。つまり今の自分達の年齢の頃には普通に能力を使っていた。


「セシリアさんは最初から水属性魔法は大規模な物だったんですか?」

「…そうだが?」

「適正がないとはいえ、それっておかしくないですか?逆ならわかるんですけど…」

「そういわれるとそうだな。」


普通能力によって自分に適正がない魔法でも身に付けることができる。しかし適性がないということは魔力効率が悪いか、強い魔法を出せないというのが定説である。だがセシリアはそれの真逆である。ということは何らかの意味があってそうなっているのではないかとウールは考えたのだ。


「初めから大規模な魔法に特化している…何らかの魔法を使うために特化している…?」


ウールは自分の中で答えを見つけることができた。こうしてセシリアの助言から魔族との戦いに備えて《水聖の騎士》を使いこなす修行を重ねたのだった。


◇◇◇◇


「はぁぁぁ!!!」


ヴァイスはウールの魔力が跳ね上がっていくことを感じていた。しかし例え自分に攻撃が通ったとしても鱗によるダメージの軽減、悪魔と龍の再生力を兼ね合わせているため致命傷にはなり得ない。だからこそのどんな攻撃であろうと《勇者》でもないただの能力者の魔法を恐れることはなかった。


「…ウールの奴。」

「これはまさか…。」


そんなヴァイスとは対象にディランとコータは何かを感じ取っていた。それはウールの魔力がただ膨大に膨らんでいくのではない。いくつもの魔力が無数に存在している状態。つまりウールの得意魔法である『蜃気楼(ミラージュ)』が発動しているということなのだが、そのスピード数はこれまでに見たことがない物であった。その展開の速さと突如として現れた大量のウールにヴァイスも驚愕した。


「なんだこれは?」

「『連鎖展開(チェイン・キャスト)』!」


連鎖展開(チェイン・キャスト)』というのはウールが修行の中で身に付けた技術である。『多重展開(マルチ・キャスト)』は一つの魔法を同時に展開する技術であるが、ウールは使用することができない。元々の魔力量が低い事と『蜃気楼(ミラージュ)』によって多量の魔力を消費するために普段から調整に気を付けている。そんなウールには『多重展開(マルチ・キャスト)』を使用するメリットがないからである。しかし《水聖の騎士》によって大規模な水属性魔法を発動することがより簡単になったことでそれを利用する方法を思いついた。それが『連鎖展開(チェイン・キャスト)』である。


「これで決める!『連鎖大魔法・蜃気楼(ミラージュ)革命(レボリューション)』!」


連鎖展開(チェイン・キャスト)』によって複数の『蜃気楼(ミラージュ)』から生み出されたウールは同時に様々な魔法を繰り出す。それはウールの魔力が尽きるまでヴァイスに魔法を浴びせ続ける。


「そういうことか。『蜃気楼(ミラージュ)』によって生み出されたウールは魔法を放ったあと、また『蜃気楼(ミラージュ)』を発動し新しいウールの分身体を作る。」

「それを魔力の続く限り発動し続けるということか。なんと無茶な。」


魔法を連続で発動させるには通常インターバルが存在する。どれだけ短くとも数秒間は魔法を発動することが出来ない。しかし『蜃気楼(ミラージュ)』にはインターバルが存在しない。それを活かしたのが『連鎖展開(チェイン・キャスト)』である。『蜃気楼(ミラージュ)』のみに特化した技術だが分身が発動する魔法にはこのインターバルが発生しないというところを利用し分身に『蜃気楼(ミラージュ)』を発動させ続ける。威力のある魔法は発動させられないが、最初に発動した魔力を維持し続けるだけでウールの魔力が尽きるまで半永久的に続けることができる。本来のウールの魔力だけでは最初の発動をすることができないが、《水聖の騎士》によってそれが実現できるようになったのだ。


「『水の球(ウォーター・ボール)』!『蜃気楼(ミラージュ)』!」

「『水の弾丸(ウォーター・ブレッド)』!『蜃気楼(ミラージュ)』!」

「『水の球(ウォーター・ボール)』!『蜃気楼(ミラージュ)』!」

「『水の剣(ウォーターソード)』!『蜃気楼(ミラージュ)』!」


ヴァイスの凄まじい数の魔法が襲い続ける。ヴァイスは翼を折り込みガードの体勢を取っている。この時までは耐え続けていればいずれ相手の魔力は切れると考えていた。自分の鱗をこの程度の魔法を何千発撃ち込もうとも傷を付けることはできない。仮に傷付けることができるとしても龍と悪魔の再生力であれば取るに足らない者であると。


「…グッ?!」


しかしヴァイスの分析はある点が間違っていた。それに気付くのにそう時間はかからなかった。


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