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第二百四十九話 雷龍

ディラン、コータ、ウールの三人と騎士団員の面々は七の扉へと進んでいく。全員が通り終わると扉は消える。ディラン達は振り返ることなく進んでいた。不安や恐怖がなかったわけではない。ただ扉を通る時から今に至るまで隠そうともしていない魔族の魔力を感じ取っていたために他の事に気が回らなかった。


「ディラン。」

「わかってる。」

「隠す気もないってことか。こりゃ相当自信があるとみたね。」


魔族の魔力は近づくにつれて増している。だが何か小細工を仕込んでいる感じではなく、堂々としているようにウールは感じていた。そしてそれは隣にいるディランからも同じように感じ取っている。


「…貴様らが俺の相手か。」

「ああ。」

「《勇者》…ではないが、そこらの小兵というわけではないようだな。」


ディランと魔族の魔力がお互いにぶつかり合う。特に周囲に何かが起こっているわけではない。ただお互いに魔力をぶつけあうことで牽制し合っているに過ぎない。騎士団員たちはその気迫に押されてしまい気絶してしまった者もいるくらいであった。


「我が名はヴァイス。《上位序列一位》”雷龍”ヴァイス。」

「一位…。」


《上位序列一位》つまり《序列魔族》の中で最も強いということである。実際にはワメリが序列を偽っているためにワメリの方が実力的に上であるのだが、ディラン達はまだそれを知らない。だがヴァイスの実力はチリースやブレイズよりもさらに一線を画す物である。ワメリと同等か場合によってはそれ以上であるといっても過言ではなかった。


「相手が誰であろうと俺達はただ戦うだけだ。」

「ああ、そうだね。」

「僕も覚悟を決めるよ。」

「では…行くぞ!」


ヴァイスは自身の身体を魔力で包み込み真っすぐと突っ込んでくる。三人は真正面からそれを受け止める体制を取る。ヴァイスの身体がディランにぶつかりディランは吹き飛ばされる。続けてその隣にいたコータとウールに拳を振るい吹き飛ばした。たしかに手応えを感じていたがどこか違和感を覚えていた。その一瞬の思考の間に背後を取られてしまっていた。


「『風精霊の暴風槍シルフ・ストームランス』!」

「ぐっ…!」

「『雷の剣(ライトニング・ソード)二重(ダブル)』!!」


ヴァイスが攻撃したのはウールの『蜃気楼(ミラージュ)』によって作り出された三人の分身体であった。それによって隙を作った所をコータが背後から突き上げディランが身体を切り裂いた。…つもりであった。コータの攻撃であれば魔族と言えど身体を貫通するはずであるし、ディランの攻撃によってバラバラになっているはずである。だが実際にはヴァイスの身体には傷一つ付いていなかった。


「俺達の攻撃で傷が付かないか…。」

「こりゃ相当高い防御力だと思った方がいいかな。」

「ふむ、なるほど。最初に我が攻撃をしたのは分身体というわけか。」


分身体であるということを見破られてしまったが、元々『蜃気楼(ミラージュ)』は初見殺しの魔法であり見破られたところで対処はできない。ウールの魔力が尽きない限りは何度でも発動できる固有魔法であるからだ。だがウールが違和感を感じていたのはそこではなかった。先程、分身体を攻撃した時も二人の魔法を受けた時もヴァイスは魔法を全く発動していなかった。それどころかあれだけ放出していた魔力も今は全く出ていない。


「だが我が肉体の前には何の意味もなさない。」

「二人共、ちょっと聞いて。あいつは攻撃の時も防御の時も魔力を全く使用していなかった。一瞬だけ魔力を込めたとかそういうレベルじゃない魔力を込めていないんだ。」

「ってことは素の身体の性能がよほど高いってことか。」

「厄介だな。」


魔族は他の種族と違い臓器が存在しない。食料や水分も必要とせず、全て身体のどこかにある核からの魔力供給によって活動をしている種族である。魔力は血液に混ざり身体に巡らせることで動かしており、人間族よりも強固で頑丈である。魔力を込めていないようなただの剣では身体に傷付けることはできない。だがまったく傷が付かないというわけではなく、個体差はあれど強力な魔法や特別な剣であればダメージを与えることができる。


「我が肉体はただの魔族の物ではない。龍と魔族の両方の特徴を備えている。」

「龍だと?」

「魔族とは何か貴様らは知っているか。」


魔族とは《初代勇者》が《魔王》になった時に引き連れていた亜人族が《魔王》に分け与えられた魔力によって生まれた種族である。とはいえ魔力を与えた事自体は偶然である。《初代勇者》が自身の仲間に傷ついて欲しくないと思ったことがきっかけで《魔王》へと変質しその過程で生まれたのが魔族なのだ。


「現《魔王》である《初代勇者》によって生み出された種族。」

「そうだ。魔族は繁殖できないわけではないが、種の存続のために行うことは稀だ。今いる魔族もほとんどが《魔王》様が突如生み出した者達ばかりだ。そして初めて魔族になった世代の最後の生き残りが我だ。」


ヴァイスは《魔王》が初めて魔族を生み出した時に誕生した魔族であった。だがここまでの話とヴァイスが龍の特徴を引き継いでいるということが何の関係があるのか三人にはわからなかった。そしてコータはある疑問を覚えた。


「おかしくないか?《序列魔族》ってのは新種魔族なんだろ。」

「悪魔を使役しているかしていないのかという違いでしかない。新旧というのに生まれた順番は関係ない。我の次に古いのがバリオンだったが今はワメリになる。」


新旧という名前に引っ張られていたが、長く存在しているかどうかは関係ないのだ。悪魔を使役して魔法を使っているのか、それとも能力による魔法なのかという違いがある。この時点ではディラン達は知らないが、ワメリだけが魔法ではなく能力を所有し悪魔を使役しているという点から新旧のどちらの特徴も兼ね備えている。チリースは能力と言っているが厳密には悪魔の能力であるためにこれには当てはまらない。


「なるほど新種と旧種に関して僕らは思い違いをしていたみたいだな。」

「それと龍の特徴を持っているということが何の関係がある。」

「《魔王》様には龍の仲間がいた。だがその龍は《魔王》様を庇い絶命した。《魔王》様はその龍を生き返らせるために覚醒したのだ。」

「まさか…」

「そうだ。その龍こそ雷龍ヴァイスであり、この我の事である。」


《初代勇者》はその強大な力を恐れられ仲間を引き連れてこの大陸へと逃げ伸びてきた。だがそれを許さずに《初代勇者》を滅ぼそうとする勢力がここまで押しかけてきて戦いになった。そのせいで《初代勇者》は《魔王》へと覚醒するに至り長きにわたる魔族との戦いが始まってしまったわけだが、その始まりの相手がこの目の前にいる雷龍ヴァイスであるのだ。


「我は始まりの魔族。そして龍種が変質した者だ。」

「こりゃクリス団長か、デリラをぶつけるべきだったかね。」

「今更だな。それに龍殺しの技がなくとも倒せないわけじゃないさ。」


ディランはユーリの顔を思い浮かべていた。操られていて本気ではなかったとはいえ純粋な龍種であるルミナライゼを倒した男だ。龍殺しの技ではないからといって龍にダメージを与えられないわけじゃないというのは彼が示してくれている。ディランに不安や恐れなどはまったくなかった。


「では今度は我から行かせてもらおう!フン!」


ヴァイスは地面を叩きつけると大きな地震が起こった。地面が割れ三人へと襲い掛かる。三人は上空へと飛び上がる。ヴァイスはその隙に背後に周りこんでウールを弾き飛ばす。続けざまにディランとコータに襲い掛かる。二人はヴァイスの攻撃を躱し拳を顔面に叩きこむ。ヴァイスは怯みもせずに二人のボディに拳を打ち込み吹き飛ばした。


「いてて…ったくなんて力と硬さなんだ。これが龍の本当の力か。」

「ルミは龍の中ではまだ子供だからなんとかなってたかもだけどこれはやばいね。」

「二人共来るぞ!」


コータとウールの二人は龍の純粋な強さに少しだけ怯んでいた。龍は魔法が使えない、だがヴァイスは悪魔と契約している魔族である。つまり魔法をが使える可能性が高い。にも関わらず、ここまでの戦闘でヴァイスはまったく魔法を使用していない。それどころか魔力を込めてすらいないのだ。ただの身体能力だけでディランやコータの魔法を打ち砕き、あの速さと力を実現させている。ルミも同じ龍であるが、人の姿の時は多少頑丈であるもののそこまで突出しているわけではない。これが成熟した龍との違いなのだと二人はわからされていた。だがディランだけはいつもと同じようにただ目の前の敵を倒すという思いが揺らがなかった。


「『雷の槍(ライトニング・ランス)三重(トリプル)』!!!」

「ぬるいわ!」

「それはどうかな。」


ディランの攻撃をものともせず突っ込んで来たヴァイスは魔法を弾き飛ばすとそれが囮であったことに気付いた。この三人が組んでいる理由は《勇者》以外で最も力があり、連携が優れているからである。ウールの能力はデリラとよく修行しているために勘違いされるが相性が特別いいわけではない。癖を知り尽くしていて合わせやすいのがデリラであるというだけである。実際に上手く魔法の呼吸を合わせやすいのはコータとディランである。《勇者》の面々も独特な魔力の流れのために感知が得意ではないウールにとっては合わせにくい。その点コータとディランはまさに正統派であり、ウールにとっては合わせやすい相手である。


「『蜃気楼(ミラージュ)現実(リアリティー)』!」

「同じ魔法は無駄だと知れ!」


雷の槍(ライトニング・ランス)三重(トリプル)』を弾いたところに再び『蜃気楼(ミラージュ)現実(リアリティー)』によって『雷の槍(ライトニング・ランス)三重(トリプル)』を放つ。だがこれもヴァイスには効かない。同じ魔法が効かなかったのだから当然である。だが『蜃気楼(ミラージュ)現実(リアリティー)』には他人の魔法を再現するだけでなくその存在も本人から魔法の方に向けさせるという副次的な効果がある。ヴァイスが気付いた時には背後に大きな魔力が戦待ってきていた。

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