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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
7人の勇者編

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第二百四十八話 蓄電

(あなたの《魔眼》はまだ完全には覚醒していないの。左眼だけしか使えていないでしょう?本来《魔眼》は両目で使用する物と私の師匠は教えてくれたわ。)

(マギアナ様もお師匠様から《魔眼》の使い方を教わったのですね。)

(ええ。)


シャーロットとマギアナの二人は『念話(テレパシー)』によって意思疎通を図っている。マギアナによれば《魔眼》という物は両目で使用してこそ真の力を解放することができるようである。マギアナ自身もこのことは《魔眼》を使用していた師匠から学んだことだ。


(《魔眼》はその名の通り魔法的な効力を持った眼のことよ。私の師匠は『強化(ブースト)』の《魔眼》を私は『石化』の《魔眼》を持っていたわ。『強化(ブースト)』は魔法や身体能力を向上させることができ『石化』は見つめた相手の動きを止めることが出来る力を持っていたのよ。)

(それは…。)


強化(ブースト)』の魔法はかなり強力だが、そこまで珍しい魔法ではない。魔力を込めて使用するという点では《魔眼》でなくとも普通の魔法でも同じだろう。例えば自身が得意としていない魔法が使えるというような場合であればいいのかもしれない。だがマギアナの『石化』の《魔眼》だけは明らかに異様な力である。相手を『石化』させるなどという魔法を聞いたことがなかったシャーロットは驚いた。そんな魔法があれば非常に強力である。


(でもね私も『石化』の《魔眼》を完全には使いこなせていたわけじゃないの。『石化』といっても相手を石に変化させるわけじゃないし止めれるのはせいぜい一人数秒ってところが限界ね。一度使うと魔力のほとんどを持ってかれてしまうからあまり使っていなかったの。)

(そうだったんですね。たしかにそれが無制限であれば相当強力な物ですから。)

(だからあなたの《魔眼》にも何かしらの能力が備わっているはずよ。)


シャーロットはオリバーと戦った時のことを思い出す。相手の攻撃がどこから来るのか本来は見えないはずの『風剣の舞(エアブレイド・ダンス)』の風の剣も見ることができた。魔力を観測するだけならエレナの《副技能(サイドセンス)》でも可能である。しかし自分の《魔眼》はそれとはまた違った要素があることを感じていたのだった。


(マギアナ様、ありがとうございました。)

(いえ、役に立てたのならよかったわ。)


その後シャーロットはまず両目の《魔眼》を覚醒させることを目指した。マギアナはシャーロットと話してから数日後に息を引き取った。まるでシャーロットと会話をしたことでその役割を終えたようにマギアナは感じていたのだった。


「本当によろしいのですか?」

「ええ。合図もしなくて結構です。」


シャーロットはカルロスに頼み自らを狙撃させるという修行を行った。《K&C-S》という名前の《狙撃銃》と呼ばれる武器を使って《弾丸》を打ち出して欲しいということだ。《弾丸》はその製造の難しさがありこれまでカルロスもあまり積極的には使えていなかったのだがディミスのおかげで魔族との戦いまでに大量に製造できる目途が立った。《K&C-S》によって放たれた《弾丸》は長距離の攻撃でも簡単に魔族の身体を破壊できる代物だ。それを《魔眼》の覚醒のために利用しようとシャーロットは考えた。


(まずは集中して左眼に魔力を込める。)


《魔眼》が発動したのを確認する。背後から魔力の乗った何かが高速で向かってくるのがわかる。シャーロットはそれを振り向きざまに剣で斬った。何度かその作業を繰り返していく内に《魔眼》の力を制御するに至っていた。だが肝心の両目《魔眼》の覚醒は起こらなかった。


「何かが間違っている…ということでしょうか…。」

「十分強力な物だとは思います。しかし両目とも《魔眼》になった時どのようになるかも気になりますね。」


片目だけでもかなり強力な《魔眼》ではあったが両目が開眼した時になったときどれほどの力になるのかそれを感じさせるには十分だった。こうしてシャーロットは《魔眼》の覚醒のために修行を進めていくのであった。


◇◇◇◇


チリースはシャーロットの剣戟を避けながら反撃を行っている。だがシャーロットの勢いは止まらない。徐々に自らのスピードに追いついてきているということもあるが元々チリースは自身の能力を高める努力はしていない。大抵の相手は自分の不死身さに諦めて戦闘にならなくなるからだ。だからなぜここまで必死に自分を追い詰めてくるのかわからなかった。自身も回避する必要はないのだが、得体の知れない恐怖感があった。


「『悪魔の巨人拳ディアボリカル・ギガントフィスト』」

「『付与魔法(エンチャント)攻撃(アタック)』!」


巨大な拳の形の土塊がシャーロットの正面に現れる。シャーロットは自身の攻撃を強化しこれを破壊した。そしてチリースの身体に剣を突き刺す。


「無駄だって言ってんだろぉぉぉ!!!」


チリースは焦りから声を荒げる。魔法を発動しようとした瞬間についに違和感が訪れた。身体が上手く動かないのだ。すぐに身体に何かをされたということに気付いた。先程から何度も無駄だと思っても斬りつけられていたのはこれを仕込むためだったのだと。


「やっと気づいたようですね。それは不死身であるあなたを倒すための魔法です。」

「僕の身体に何をしたかは知らないが、この程度でどうにかできるわけない!」


大地に接している限りチリースは何度でも復活をすることができる。つまり身体だけ新しくすれば身体に何をされようが新しい体に移動してしまえば問題はないのだ。即座に新しい身体を作り出し意識の移動を行おうとした。だが意識を移動させることはできなかった。


「な…何?!一体どうなっている?!」

「あなたの身体に刻み付けた魔法はある魔法使いの固有魔法です。」

「固有魔法だと…?」


アザミはチリースに『雷の鎖ライトニング・チェーン』を放つのと同時にシャーロットの剣にある固有魔法を使用していた。『蓄電エレクトロン・ストレージ』、使用した物に雷属性魔法である『静電気(ショック)』を付与させる魔法である。『付与魔法(エンチャント)』と違うのは付与した『静電気(ショック)』をまた別の物に付与させることが出来るという点である。これをチリースの身体を斬りつけた際に付与させていたのだ。『静電気(ショック)』自体は大した魔法ではなく身体に電気を流し痺れを感じさせる程度なのだが、『蓄電エレクトロン・ストレージ』によって生物の身体に付与された場合は元の術者が解除しない限り本人の魔力を使用しながら発動し続けるという特性がある。つまり生きている限り解除しなければ『静電気(ショック)』が発動し続けるし、何度でも付与させることができる。チリースは『静電気(ショック)』をすでに数百回以上付与されており、ついに身体を動かせなくなったのだ。


「固有魔法『蓄電エレクトロン・ストレージ』によって発動される『静電気(ショック)』は威力こそ大したことはありませんが一度付与されると術者が解除しないと解放されません。」

「そしてそれはここにいるアザミを殺せば二度と解けない。」


蓄電エレクトロン・ストレージ』の恐ろしい点は術者を殺せば二度と解除されることはないという点である。だが対処方法がないわけではない。『静電気(ショック)』を解除する魔法を使用すれば簡単に逃れることができるが魔族であるチリースにそれは使用できない。


「ふっ…だがこのくらいどうとでもなる!お前らが僕を殺せないことに変わりはないのだから!」

「シャーロットさん、最後の留めをお願いします。」

「ええ。」


シャーロットは両眼を閉じこの世界とは別の世界を観測する。シャーロットは自身の《魔眼》を《次元の魔眼》と名付けた。精霊や悪魔が存在する別の世界を観測できるようになる《魔眼》。両目を開眼した時に《次元の魔眼》には二つの能力があることに気付いた。左眼はその世界に存在する生物の動きを見ることができ、右眼は異なる世界の生物に干渉できるようにする魔法を発動することができるという能力が備わっていた。


「『剣神の次元風斬』!」

「バカなァァァァァ!!!!!」


チリースの身体に一体化している悪魔パイモンをシャーロットは異なる世界の側から斬りつけた。悪魔解放によって完全に一体化しているチリースも同じように身体が切り裂かれた。悪魔を移動させることで復活するチリースは大元であるパイモンが消えてしまってはエネルギーを吸収するための自然を発生させる悪魔は召喚することができない。自然のエネルギーも『蓄電エレクトロン・ストレージ』によってダメージを受け続けるので限界が来る。チリースの身体は再生しようと試みるが斬りつけられた身体は再生しきれずに塵となって消え去った。


「やりましたね…。」

「ええ…。」


シャーロットとアザミはその場に倒れこんだ。二人の《勇者の未来(ブレイブ・フォース)》が解けたのである。シャーロットの《次元の魔眼》は異なる世界に干渉した時は特に魔力の消費が激しくなる。元々魔力量が多くないシャーロットは《勇者の未来(ブレイブ・フォース)》が解けたことにより一気にその影響が出た。元々チリースにやられたダメージも回復していない。アザミも同じようにダメージが回復しておらず『蓄電エレクトロン・ストレージ』を何度も発動したことにより魔力切れを起こしていた。


「急いで治療しろ!」


壮絶な戦いに付いてこれていなかった騎士団員たちがようやく二人の元へと辿り着いた。デリラもすでに治療を行っている。六の扉 での戦いは決着した。

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