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第二百四十三話 神が与えし聖なる槍《ロンゴミニアド》

ブレイズは不気味な魔力を纏いながら立ち上がる。水龍のブレスによってバラバラにされた身体は再生しつつあった。エレナは悪魔の力を使用することが直感でわかった。その瞬間、ブレイズを中心に大きな爆発が起こった。こちらとは距離が離れていたがエレナ達三人以外の面々はブレイズの魔力にやられていたこともあり防御が間に合わず吹き飛ばされていた。幸いにも騎士団員達は『治療魔法(ヒール)』の魔法道具を持っているので即死の心配はない。だが、これ以上の戦闘は続行不可能である。ここまで三人のみで戦っては来たが魔力や回復のバックアップがなくなるのは痛手であった。


「『悪魔解放ディアボリカル・リベレイション・ベリアル』」


ブレイズの両肩と足首から炎が吹き出し、肌の色も赤黒く変化している。もちろんバラバラであった身体も復活している。先程までは何もなかったが、周囲は燃え盛る大地へと変化し、呼吸をするだけで喉が焼けるようだった。すぐにコーデリアは得意の水属性魔法で三人の身体を水に包む。だがこれでも長くは持たないことはわかっていた。


「お前らの事を舐めてたわけじゃないが、まさかこの姿まで見せるとはな。」

「ここからが本番というわけですか。」

「ああ。」


エレナが瞬きをした瞬間、ブレイズの姿が消えた。その瞬間に横にいたジェマが遥か遠くの壁に吹き飛ばされたのが見えた。ジェマの名前を叫ぼうとしたその瞬間今度はコーデリアが地面に叩きつけられていた。そして自分の背中に凶悪な魔力を感じた時にはエレナは爆発に巻き込まれていた。


「俺は爆発しか使えないが、この姿になると移動も防御も攻撃も全てのことに爆発の衝撃を活かすことができる。例え理解できてても身体がそれに追いつかねぇ。」


ブレイズはそう落ち着いた口調で語った。ブレイズは元々戦闘そのものを楽しむタイプである。だから『悪魔解放ディアボリカル・リベレイション』を発動することはあまり乗り気ではなかった。なぜならば悪魔を解放した自分は強すぎると感じていたからだった。これでは戦いがすぐに終わってしまい楽しめない。だがらいつもよりも冷静になってしまっていは自分がいた。しかしその心配はない、なぜならばエレナ達もまた新たな力を身に付けたことでブレイズの本気に匹敵する力を持っているからである。三人は立ち上がりながら、手元の通信用魔道具である決意をした。


「こちらもあれをやるしかないですね。」

「ああ。」

「わかった。」


《進化の勇者》イオ・エヴォリュートが残した迷宮遺物(アーティファクト)によって能力の進化の可能性を知った、ユーリ達は二ヵ月半の修行によってそれを習得していた。ユーリは習得しているかどうかわからない。なぜならば彼は合流するのが最後だったということもあるがユーリの修行だけは特殊な方法で行われていたのでわからないのだ。それ以外の《勇者》の面々と学園に通う仲間達は能力を進化させることができた。だが騎士団長達や【真夜中の魔女】の三人は進化させることができなかった。これは元々《勇者》のみが能力を進化させることができたのだが、同級生達が同じように進化させることができたのは長く一緒に過ごすことでその影響を受けたことによる副産物である。


「《紅蓮の勇者》!」

「《溟海の勇者》!」

「《大地の勇者》!」

「「「《勇者の未来(ブレイブ・フォース)》!!!」」」


イオ・エヴォリュートによれば、《勇者の未来(ブレイブ・フォース)》はその名の通り今後成長していくだろう自分達の能力の練度を強制的に引き上げることができる技である。《勇者》の能力は《魔王》との戦いのために生み出された能力である。だから長期間能力を高めることができないようになっている。だがその可能性をこれまでの経験から予測して成長することが出来る様にするのがこの《勇者の未来(ブレイブ・フォース)》なのだ。《勇者の未来(ブレイブ・フォース)》を発動している最中は魔力の総量が増え、『身体強化(フィジカル・ブースト)』を発動しなくとも身体能力が向上する。さらにそれまでに蓄積されたダメージを忘れて動くことができる。ただし《勇者の未来(ブレイブ・フォース)》が解かれた際にそのダメージは復活するためただ忘れることが出来るだけである。


(今の攻撃で受けたダメージは回復する前に止めましたが…)

(《勇者の未来(ブレイブ・フォース)》が終わる前に決着をつけねぇと回復もできねぇ。)

(これで…終わらせる…!)


勇者の未来(ブレイブ・フォース)》の発動持続時間は約30分、連続使用するには1時間は開けなければいけない。しかも使えても最初よりは持続時間は短くなる。全快させるためには魔力や体力、気力の回復も不可欠であるためだ。


「『爆炎悪魔の爆発ベリアル・エグスプロージョン』!」

「『海神の圧ポセイドン・プレッシャー』!」

「『地母神の障壁』!」


ブレイズは先程までと比べ物にならない爆発を自身の周囲から広がるように放った。だがそれにすぐコーデリアとジェマが反応し抑え込んだ。そのままブレイズに爆発を押し込んだ。ブレイズは抑え込まれたことに素直に驚いていた。これまでこの姿になった時の魔法は止められたことがなかったからだ。だからこそ対処の方法は考えていなかった。


「もっとデケェ爆発で吹き飛ばせばいいだけだがな!『爆炎悪魔の超爆発ベリアル・ハイパー・エグスプロージョン』!」


ブレイズは押し返された爆発をさらなる爆発で吹き飛ばした。三人は爆発に巻き込まれるが《勇者の未来(ブレイブ・フォース)》のおかげでダメージは抑えられている。後々ダメージは負うだろうが、今はそんなことを気にしている場合ではない。エレナは先程から魔力を頭上に集めている。ブレイズはこれに気付いていない。《勇者の未来(ブレイブ・フォース)》によってジェマの魔力はさらに大きくなっているために周囲はほとんどジェマの魔力が侵食している。そのおかげで上空に集めている魔力にブレイズは気付いていなかった。


(限界まで…もっと限界まで魔力を集めなければ…)


エレナが上空に魔力を貯めている理由はエレナの使用する魔法の中で最も攻撃力のある魔法である。これが通用しなければおそらくブレイズを倒す術がないということはコーデリアにもジェマにもわかっていた。頼みの綱は彼女しかいないのだ。…だが当然ブレイズはエレナが何かを企んでいるということを気付いていた。攻撃してくるのは二人だけでもう一人は何もしてこない、ということは何かを企んでいるに違いないと。だがブレイズの性格的にそれを先回りして潰そうなどとは考えない。何か仕掛けてくるなら仕掛けてこいというスタンスなのだ。エレナはある意味このスタンスに救われている。


「『地母神の流砂』!」


ジェマもこのままでは攻め切れないと考え大規模な魔法を放つ。『地母神の流砂』は周囲を砂漠に変化させる魔法である。この魔法は岩や土を砂に変化させるので水上では発動することができない。幸いここは下が少し硬めの地面であり砂にするのには必要な魔力が多いが《勇者の未来(ブレイブ・フォース)》状態では難しくなかった。そしてジェマに合わせるようにコーデリアも大規模な魔法を放つ。


「『海神の大津波ポセイドン・ビッグウェーブ』!」


コーデリアの《副技能(サイドセンス)》により、この魔大陸にも水脈があることはわかっていた。そして少しずつ魔力を伸ばすことで周囲の水に自身の魔力を混ぜることによって操作することができ何もないこの土地でも大きな津波を起こすほどの魔法が発動できた。こちらも《勇者の未来(ブレイブ・フォース)》あってこその魔法である。ブレイズは砂に飲み込まれて這い上がってこない。そして砂は水を吸い込み重く硬くなる。さらに二人の魔力によって完全に抑え込まれておりブレイズは魔法を発動したくてもできない状態になった。エレナはブレイズの真上へと飛び上がり、これまで貯めていた魔力を集め一つの大規模魔法に集約した。


「『神が与えし聖なる槍(ロンゴミニアド)』!」


神が与えし聖なる槍(ロンゴミニアド)』は以前アリアの『聖なる光(ホーリーライト)』と『揺レ動ク神ノ槍(グングニル)』による『合体魔法(シンクロ・キャスト)』によって生み出された魔法である。エレナが《聖》属性魔法を使用できるようになったわけではないし、もちろんコーデリアとジェマも使用できない。魔族との戦いにおいて《聖》属性が使用できるかどうかというのは最重要であった。もちろんなくても倒せないわけではないが難易度が跳ね上がる。だからどうにかして《聖》属性を付与する方法を考えた。そこでできたのが《聖》属性の力が込められた魔法道具である。修道女(シスター)が何日もかけて祈り魔力を集めることで《聖》属性が込められる魔法道具をディミスが作成した。ディミスの能力《自由な錬金》は想像した魔法道具に制限を付けていくことで実現させることができるというものだ。今回作成したこのペンダント型の《聖》属性付与魔法道具は使用できるのは一度、修道女(シスター)が魔力を込め続け祈りを捧げるという条件で実現した代物である。故に数は少なく4つが限界であった。そしてそれは《聖》属性を持たないグループに渡されており、エレナ達もその一つだった。


「いっけぇぇぇぇぇ!!!!!」


神が与えし聖なる槍(ロンゴミニアド)』はブレイズを飲み込んだ砂漠一帯を消し飛ばした。否、浄化したともいうべきか。辺りは大きな光と爆風に包み込まれて三人や倒れた兵士達は何がどうなっているかわからなかった。ちょうど三人は《勇者の未来(ブレイブ・フォース)》が切れその場に倒れこむ。エレナが辛うじて抉れた地面に目を向けると何者かの這い上がる音がしたのだった。


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