第二百四十一話 爆粛
エレナ、コーデリア、ジェマは五の扉の中に入っていた。‘’爆粛’’ブレイズと言っていたワメリが嘘を付いているわけではないというのは魔力の感じからユーリが判断できた。特にグレモリー、イモータル、アッシュ
、ワメリ、ブレイズは魔力を一度観測しているために間違えることもない。そしてどんな魔法の使うのかということも判明しているため対策を立てることができた。扉の中の先の世界は何もない土地であった。先程までいた場所とそれほど景色に差はない。しかし《魔王》の鼓動はかなり後方から感じるため非常に遠くに移動させられたのだなとエレナは思っていた。
「俺の相手はあの坊主じゃねぇのか。」
エレナ達の100mほど先にいる腕を組んだ魔族は不満そうに言葉を発した。距離がこれだけ離れているのになぜか声がはっきりと聞こえた。恐らく魔族の魔法なのだろうが、エレナ達と共に入って来た騎士団員は身体が強張っていた。しかしエレナ、コーデリア、ジェマの《勇者》三人娘は逆に先頭に立ち迎え撃つ体制を取っていた。ブレイズはそれを見ると腕を解きにやりと笑った。
「お前らも《勇者》だな。その目、あの坊主とそっくりだ。」
「ええ。」
「もう一度あいつと戦いたかったが、その前にお前らと準備運動をするのも悪くねぇ。」
ブレイズの魔力が跳ね上がるのを感じる。向こうも戦闘態勢に入ったということだ。これまでのエレナ達であればこの魔力を感じた時点で恐怖し、勝てるかどうかわからないと思っていたかもしれない。しかし今の三人はブレイズの魔力を見ても負ける気がしていなかった。
「《上位序列三位》‘’爆粛’’ブレイズ、あなたがユーリ君と戦うことは二度とないでしょう。」
「お前は…ここで…終わり。」
「さっさと倒して《魔王》のところに行かせてもらうぜ。」
「面白れぇ!来い!」
三人はブレイズの方へと向かって駆けて行く。ブレイズの両手には炎が噴き出している。ユーリの話ではブレイズの使用する魔法は炎を圧縮し爆発力を高めるというシンプルな物だ。それ故に攻撃力も並ではなく、少しでも当たると大ダメージに繋がりかねない。
「『水の牢獄』!」
「ふん!こんなも…」
コーデリアは炎が集まっているブレイズの両手に『水の牢獄』を発動させる。この程度の水であればすぐさま蒸発させられると考えたブレイズだったがまったく、蒸発するような気配がない。それどころかみるみるうちに温度は下がっていく。
「『岩の腕』!」
「動けねぇ!」
さらにそこに『岩の腕』によって両足を拘束されて逃げられなくなった。しかしブレイズが気になったのはそこではなかった。もう一人の赤髪の少女が消えている。真上にいると気づいた時にはすでに回避不可能であった。
「『揺レ動ク神ノ槍』!」
エレナは『揺レ動ク神ノ槍』を放つと爆発に巻き込まれる前に後ろへと下がる。三人はここまで見事な連携をしているがあらかじめ準備していた作戦ではない。あくまでも小手調べにも拘らず、合図もなしでお互いの魔法を活かした攻撃をすることができたのだ。だが、この程度でブレイズを倒せたとは思っていない。煙が晴れるとそこには無傷の状態のブレイズが立っていた。もちろん拘束を解いた状態で。
「…はっはっは!中々いい連携だったぞ。最低限戦えるレベルには仕上げて来てるみてぇだなぁ!」
「この程度でやれるとは思ってなかったけど無傷とは。」
「こりゃすぐに他に加勢ってわけにはいかないな。」
「心配ない…。皆…強い…。」
「そうだな。まずはこいつを倒す!」
今度はジェマだけが正面からブレイズに向かって行く。ブレイズは再び掌に炎を集めるとそれを圧縮する。コーデリアは再び『水の牢獄』によってそれを封じる。コーデリアはこの二ヵ月の修行で主に水魔法の扱いを鍛えていた。《溟海の勇者》の能力があるとはいえ、元々コーデリアには魔法の才能があった。しかしソレイナ騎士団はあまり魔法適正のある者が多くなかったために彼女の能力を大きく伸ばすことはできなかった。その後ユーリ達と出会い、魔族との戦いの中で成長をしてきたが基礎的な部分が欠けていた。そのためにコーデリアは二人に師事を受けた。
◇◇◇◇
二ヶ月半前―――
セルベスタ王国には各国からたくさんの実力者達が集まってきていた。当然魔族との戦いに備えてである。騎士団員は連携や戦術の確認、騎士団長クラスは直接対決する魔族の対策などそれぞれの目的のため動いていた。その中でも《勇者》は《魔王》との戦いに備えて各々修行に取り組んでいた。コーデリアは
「なるほどねぇ。たしかに着眼点としては悪くないんじゃないかしら?」
「コーデリア様のお力になれるのであればいくらでもお手伝いさせていただきます。」
コーデリアが尋ねたのは知る中で最も水属性の魔法に長けたものである、ウェールとユキであった。ウェールはかつて《賢者の杖》に所属しており水属性の魔法に関してかなりの実力者である。ユキは厳密には水属性魔法ではないが、氷属性魔法は基本の5属性の中で分類するならば水属性に分けられる魔法だ。
「ふーん、たしかにあなたはかなりの感覚派ね。」
「感覚派…?」
「魔法の原理を理解せずに魔法を発動するタイプということですね。コーデリア様はこれまでに誰かに魔法を教えられたわけではありません。ですが《溟海の勇者》の能力である程度補正されているために魔法が使えてしまっている状態ということでしょう。」
「まあそもそも才能があるから成り立っているとも言えるわね。」
魔法はイメージが大事であるというのは世界の共通認識であり、学園でも教えられる基礎的な部分だ。《妖精》の力を借りて使用しているということは一部の者しか知らなかったことであるが、そもそも《妖精》から力を借りるには具体的なイメージが重要であるためこれは間違いではない。イメージといってもただ想像するだけではなく、その物の情報や知識などもそれには含まれる。だからこそ『創造』という魔法は無属性というだけでなく使用者が少ない魔法なのである。あれは何もない状態から物を作り出すという行為をする必要がある。ただ火や水を起こすのとは違って必要な情報力が膨大になる。簡単に言えば『創造』によって土の壁を作り出す場合、土と壁のイメージが必要だが、『土の壁』であれば壁のみをイメージすれば良いので後者の方が簡単であるということだ。
「何が…問題…?」
「魔法は理解をして使うのと、そうでないのでは威力も出力も変わるのよ。あなたは全ての魔法を全力で出しているのと同じ。もっと効率よくすれば楽に強く魔法を使える。」
「なるほど…。」
「それに水属性は5大属性の中でも最も使用者が多く、使いやすい魔法ですから。私の氷属性魔法は5大属性ではないですが、元は水属性です。温度を下げるというイメージを挟むことで発動しています。コーデリア様はすでに温度操作も使用できますね?」
魔法を発動できているからといっておろそかにしていい部分ではない。これを完全に理解するだけでコーデリアの魔法はまだまだ強くなると二人は確信していた。元々かなりの才能があるコーデリアがさらに基礎を理解することでどれだけ魔法の幅が広がるのか想像もできない。
「それができていれば土台はほとんどできているわ。さらにあなたの《副技能》は水の位置を把握して色々できるらしいじゃない。これを組み合わせれば最強よ。」
「わかった…。もっと…私に…色々教えて…!」
「はい。時間はあまりありません。すぐに修行に取り掛かりましょう。」
こうしてコーデリアはウェールとユキに修行をつけてもらうことになった。
◇◇◇◇
ブレイズの両手に纏わりついている水はコーデリアが遠隔で操作して水の温度を下げ続けている。そのために爆発の魔法が発動しない。修行によって身に付けた魔法の理解によって自分の手から離した魔力を操作する技能がさらに向上した。正直に言ってしまえばブレイズを凍らせることもできるが、もし凍らせてしまってもすぐに破壊されてしまうと考え蒸発することがないように温度を下げ続けている。だがその程度で止まるほどブレイズの魔法はやわではなかった。
「『悪魔の爆発』!」
「うわぁ!」
「ジェマ!」
ブレイズに向かって行ったジェマの足元で爆発が起こる。ブレイズの両手は確実に塞いでいる。しかしいつの間にか魔法が仕掛けられていた。先程、『揺レ動ク神ノ槍』による爆発が起こった時にすでに地面に魔法を仕掛けていたのだ。
「俺の魔法はあらかじめ仕掛けておくことでいつでも自由に爆発を起こすことが出来る。」
「ちっ、面倒だな。」
「ジェマ大丈夫でしたか?『蒼の炎』!」
「咄嗟に『砂人形』で身代わりを作ったがちょっと間に合わなかったみたいだ。エレナ助かるぜ。」
爆発が起こった瞬間に『砂人形』によってガードをしたため爆発との間に緩衝材が入り致命傷を避けることができた。エレナの『蒼の炎』によって傷を癒す。ブレイズは困惑していた。ブレイズの『悪魔の爆発』は爆発力もそうだが本当に危険なのはその隠密性である。罠魔法や刻印魔法などでは発動するまでわからないが、感知が出来ないわけではない。特にエレナの様に魔力を見る《副技能》を持っている物であれば容易である。ブレイズの魔法には魔力の痕跡が全く残らない。そのためになぜジェマが反応できたのかわからなかった。
(だが今のは確実に不意を突いたはずだ。この女、一体どうやって…)
ジェマもまたコーデリアと同じく修行によって自身の能力いや、本能というべき物を引き出していたのであった。
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