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第二百四十話 七つの扉

「ふぅ…。」


ユーリはいつもよりも少し早い目覚めであった。緊張しているせいだろうか。少し身体を動かしたくなったので皆を起こさないように外に出る。日課というわけではないが、ランニングと準備運動を行う。ここ数ヵ月は一人で過ごすことも多かったのでなんとなく一人の時間の方が落ち着く。王都の街並みを見て回るとちらちらと明かりが付いている。こんなに早い時間にも関わらず、すでに働き始めている人たちがいる。今日の戦いはこういう人々の暮らしを守ることになる戦いなのだ。必ず勝利を収めなければならない。身体が温まってきたところで屋敷へと戻る。マルクがすでに出迎える準備をしてくれていた。


「お帰りなさいませ。」

「ありがとうござます。」


マルクからタオルを受け取る。身体を水で濡らした布で拭き取り、着替えて朝食へと向かう。皆も起きて準備をしていたようで全員揃っての朝食はなんだか久しぶりに感じる。決戦前というのに皆の雰囲気はいつもと変わらない。それどころかむしろ普段よりも落ち着いているとさえユーリは感じていた。


「ユーリ殿、今日は随分早かったでござるな。」

「うん、少しだけね。ここ二ヵ月はずっと野宿だったからなんだか布団でちゃんと寝るのに慣れなくてね。」

「どんな環境だったの…。」

「意外と…悪くない…。」


アリアはユーリの発言に若干引いているが、コーデリアは好意的な意見の様だ。それにそれほど悪い物でもなかったとユーリ自身は考えている。自然体とも言うべきか、心を落ち着かせ身体の感覚に任せて眠り、起床する。これこそがユーリの修行の一つだった。魔力を使用するのに余計な力が入りすぎるのは疲労度も使用する魔力の量も増えてしまう。そのために普段から自然と一体になる感覚を覚えておく必要があるとユーリの修行を指示した人物は考えていたのだった。そして朝食を終え、各々部屋へと戻り準備をする。ユーリが玄関から外へ出るとすでに皆が揃っていた。


「それじゃあ、行くか!」

「うん!」


一旦城へと向かいいつものメンバーや騎士団長達と最後の打ち合わせを行った後、王都の外側にある平原へと集まる。マーク達がここに魔大陸へと移動する門を設置しているためだ。魔力の供給が始まり、門が輝き始める。シャーロットが門の前に立ちすでに陣形を組んでいる皆の前へと出ていく。


「私はセルベスタ王国第二王女、シャーロット・セルベスタである!」


いつもとシャーロットの口調が異なる。友人としてのシャーロット・セルベスタではなく、この国の第二王女であるシャーロット・セルベスタとしての言葉であるということだ。


「《伝説の6人の勇者》の時代から続いてきた魔族との戦いも今日で全ての決着を付ける!ここにいる勇敢な皆に感謝を。そして必ず我々の勝利を信じろ!」

「「「うぉー!!!」」」


ここにいる全ての者の士気を上げるいい演説だった。シャーロットの演説が終わるのと同時に魔大陸への門が開く。雪崩れ込むように門へと入り光へと包まれていく。


「ここが…。」

「ああ、間違いない。魔大陸だ。」


ユーリだけが唯一魔大陸に来たことがある。だからというわけではないが、確かめるようにここは魔大陸であることを呟いた。次々に門が繋がり各国からの兵士達も合流している様子が見られた。まず第一段階は成功だ。問題はここからだとユーリが思った瞬間にそれはやってきた。


ドォン!ドォン!ドォン!


「な、何が起こってるんだ?!」

「落ち着けこれが聞いていた《魔王》の心臓の音だよ!」


遠くから大きな振動が起こったのを皆が感じ、ざわざわとしている。ユーリは以前感じているので断言できるが間違いなく《魔王》の心臓の鼓動である。周囲の兵士の顔には先程まで闘志が漲っていたが、この魔大陸の異様な空気と畳みかける《魔王》の心臓の音に恐怖しているのだろう完全に委縮してしまっている。しかし以前来た時にもユーリはすでに経験しているため音に委縮することはなかった。一部の強者た達にも効いていない。しかし騎士団の兵士達や各国の兵士たちはそういうわけにはいかない。


「作戦通り、結界を張れ!」

「まずは落ち着くんだ!」


すぐに兵士達を取り囲むように無数の結界が発動される。ユーリの経験からこの《魔王》の鼓動対策は立ててある。《女神》曰く《魔王》の心臓の鼓動は魔族を鼓舞する魔法の様な物であると言っていた。しかしそれだけで、鼓動その物がこちら側に何か害をなしているわけではないのだ。つまり音を聞いてしまっても大丈夫な様に一度冷静になれればいい。そこで考え付いたのが結界を張ることである。結界その物に特別な効果があるわけではない、ただの防御壁なのだがそれでも目に見えて守られるというのは安心感を生む。故に結界の使える者を分散して配置している。もし結界を使う者が委縮してしまっていても魔法道具(マジック・アイテム)に結界の魔法をあらかじめ封じ込めてあるので魔力を流すだけで発動する。俺はシャーロットの元へと走り結界は問題なく発動していることを報告する。


「皆、大丈夫そうだな。」

「はい。」

「城はこの丘の先だ、兵を進めてくれ。」

「わかりました。」


シャーロットの合図で兵は《魔王城》へと進軍する。すると城が見えてきた辺りで突如上空の黒い穴から大きな扉が降って来た。まるでユーリ達を待ち構えていたかのように。


「止まれぇ!」


誰が叫んだかわからなかったが、すぐにその異常な状況に臨戦態勢になる。扉は順番に七つ上空から地面へと突き刺さる。魔族の魔力は感じない…とユーリが考えていた最中、すぐに覚えのある魔力も上空の黒い穴から出現したのがわかった。ユーリは先頭にいるシャーロットの元へと向かうとその覚えのある魔力の魔族に声をかける。ユーリの姿を見かけるとその魔族はいつもの様に…いや、いつも以上に不敵な笑みを浮かべていた。


「お久しぶりですねぇ。ユーリ・ヴァイオレットさん。」

「そちらも変わらないようだな。ワメリ・ミーム。」


七つの扉の前にたった一人で出てきたのはワメリ・ミームであった。奴とは何かと因縁のあるユーリだが、なぜワメリだけがこの場にいるのか今のユーリには理解できていた。


「ようこそ皆様お越しくださいました!魔族の住むこのイーヴィル・テルースへ。さて、ここからは私が案内人を務めさせていただきます。」


ワメリは芝居がかった動きでユーリ達を歓迎した。先程、《魔王》の鼓動対策で結界を張っているのでいきなり死に直結するなどということはないが、初めて見る魔族に怯えてしまっている兵士も見える。圧倒的な魔力の差、それであればまだ人間族や亜人族の強者と対峙すれば味わえる感覚だがワメリの意味の分からない動きや雰囲気に飲まれてしまっている。だからこそユーリはいつも通り、まるで友人に話しかけるような口調でワメリに問いかけた。


「案内人か、それでその七つの扉はなんだ?他の魔族の魔力も感じないが。」

「ではご説明しましょう。ここにある七つの扉は《円卓の魔族》がそれぞれ待ち構えております。」

「《円卓の魔族》?」


ユーリは余裕を持った態度でワメリと会話していたが、《円卓の魔族》という初めて聞く言葉に少し驚いていた。そしてワメリはすぐにユーリの疑問に答える。


「《円卓の魔族》とは四天王や《上位序列》という枠組みをなくした我々の様な《魔王》に仕える魔族の新しい名称です。円卓では皆平等ですから。」

「ふん!お前らの肩書なんて何でもいいさ。」

「そしてこの七つの扉はそれぞれ《円卓の魔族》が待ち構えています。」


一の扉 “信仰”グレモリー

二の扉 ‘’不死‘’イモータル

三の扉 ‘’絶魔‘’アッシュ

四の扉 ‘’変幻’’ワメリ

五の扉 ‘’爆粛’’ブレイズ

六の扉 ’’魔壌’’チリース

七の扉 ’’雷竜’’ヴァイス


ワメリが順番に扉の先に待ち構える《円卓の魔族》を紹介をしてゆくと扉が開かれる。初めて感じる魔力や覚えのある魔力もある。嘘を付いて罠に嵌めようというわけではないようだ。それにこちらとしてもどこにどの魔族が待ち構えているのか把握できた方が都合が良かった。


「七つの扉の先にいる、全ての《円卓の魔族》を倒すことが出来れば城へと向かうことができます。それでは皆様どうぞお進みください。」


そういうとワメリは扉の後ろへと下がった。ユーリはシャーロットと顔を見合わせて頷くとそれぞれ扉の前へと陣形を進めていく。そしてそれぞれの指揮官の元扉の奥へと進んでいった。ユーリとリュミエールは四の扉へと進んでいく。


「おや?随分と少ない人数ですねぇ。」

「お前を相手にするのは俺で十分だからな。」

「本当にいいんですか?私、こう見えて結構強いんですよ?」

「知ってるよ。お前、本当は《円卓の魔族》だったか?の中で一番強いんだろ?」


ユーリの言葉にワメリは少し目を開き驚いていた。一瞬であったが、ユーリは見逃していなかった。つまり図星であるということだ。


「どうしてそう思うんです?」

「以前、パッセという魔族が言っていた。《序列》魔族は生まれながらにして悪魔と契約し魔法が使える新種の魔族である。そして四天王は全員が旧種魔族であり《序列》魔族の様に魔法は使えないと。お前の魔法は属性魔法ではなく、恐らく能力によるものだ。それにバリオンに変身した時もそうだ。自分よりも上の相手に変身できるわけがない、少なくともお前はバリオンよりも強いということになる。」

「なるほど、半分正解ですが半分は外れていますね。」


ワメリは嬉しそうに笑っていた。自分の正体を見破られたことに大してだろうか、それともユーリの推理が間違っているからなのかわからなかった。少なくともユーリは的外れであるとは考えていない。修行した今ならわかるが、ワメリは四天王や《上位序列》魔族を含めて最も強い魔族であるとユーリは感じていた。だからこそ自分が相手をすると決めていた。ワメリはユーリの推理に付け加えるように話を続ける。


「たしかに私は旧種魔族ですが、悪魔とも契約している新種魔族でもあります。要するにハーフということですね。だからこそ私は全ての魔族の中で最も強いと言えるでしょう。ですがこのことを知っているのは《魔王》様だけです。」

「なぜお前は正体を他の魔族に明かしていない?魔族は自分の力を誇示し序列を明確に決める生物だ。」

「たしかに私以外の魔族はそうかもしれませんね。なぜ…ですか。その答えは戦いの中で見つけてください!」

「皆、来るぞ!」

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