第二十四話 冒険者の資格
冒険者、それは騎士団に入れなかったあぶれ者が行くというイメージが付いているがそれは誤りである。実際Aクラスの冒険者であれば戦闘能力だけでいえば騎士団よりも優れている者もいるくらいだ。また迷宮で出たアイテムは街に流通し他国との交易も盛んになるし、迷宮遺物は《6人の勇者伝説》を紐解くことにも繋がるので冒険者は重宝されているのだ。そして最大のメリットは国境を超えやすいという点だ。冒険者のライセンスはどの国も共通しており、身分を証明するのに役立つ、ランクはD以上でなければ他国に行けないがな。
「つまり国境を超える手段として、今の俺達でも簡単なのが冒険者になることってわけなんだよ。」
俺は城の客間で偉そうにアリアとエレナに向かって冒険者のメリットについて語る。シャーロットはお茶を啜りながら頷いている。俺達はシャーロットに呼び出されて城に来ていた。そこで他国の《勇者》を探すために国境を越える必要があるため冒険者のライセンスを取るようにと頼まれた。アリアとエレナはそこまで冒険者について知らなかったので俺が変わりに説明したというわけだ。
「なるほど。そうなんですね。」
「あんまり冒険者について詳しく知らなかったから、勉強になったよ!」
「ところでユーリ君は何でそんな冒険者について詳しいのですか?」
エレナがなぜ俺が冒険者について詳しいのか疑問を持ったようで、質問をしてくる。そういえば詳しくは言ってなかったんだっけ。俺は懐からある物を取り出す。
「それはこれが理由だよ。」
「そ、それは!」
「冒険者ライセンス!」
実は俺はすでに冒険者ライセンスを持っているのだ。聖騎士祭の修行の時に師匠に取らされていたのだ。ちなみにランクはEである。
「でもシャーロットこういう言い方はあれかもしれないけど、王女権限とかでなんとか国境を越えたりできないの?」
「同盟国であればよかったのですが、情報のあった国はどちらも非加盟国で協力体制には消極的でして…。」
そういうことか。魔王復活も近いのに協力的でない国も多い、こんな時だからこそ協力すべきではあるのだが魔王を倒した後の国同士のパワーバランスを懸念してのことだと前にシャーロットが言っていた。政治的な背景は俺には理解ができないが、倒した後のことを考えてもその前に国が滅びてしまえば意味はないと思うのだがな。《6人の勇者伝説》は老若男女が知っているからこそ所詮伝説だと軽視していて、実際に魔族に被害を受けていない国は危機感が足りていないらしい。
「それじゃあ仕方ないか。冒険者ライセンスDを目指す他なさそうだね。ちなみにシャーロットは持ってるの?」
「私はすでに所持しています。ランクもDです。」
「へぇ〜流石だね!」
「私もユーリと同じで修行は迷宮でしていましたから、《剣の勇者》の力は公にできませんし。エレナとアリアの実力ならすぐに冒険者ランクDになることができますよ。」
「頑張ります!」
「それじゃあ俺達は早速冒険者ギルドに向かうことにするよ。」
「はい。こちらは引き続き《勇者》の情報を集めておきます。」
俺達は城を後にし、冒険者ギルドへと向かった。冒険者になる方法は非常に簡単で、冒険者ギルドに行き登録受付を行って銀貨を2枚支払うことでライセンスが貰える。
「というわけでここが冒険者ギルドです。」
「ここがそうなんだ。」
「思っていたよりも人がいるのですね。」
「ちょうど皆、迷宮から帰ってくる頃だからね。」
そろそろ日も暮れる。ほとんどの冒険者はその日の夜までには帰って依頼報酬などを受取る。そんな冒険者達を横目に俺達は登録受付まで行き、担当の受付嬢は知り合いのリズさんであったので、初心者向けの説明は俺からしておくと省いてもらい、エレナとアリアの登録を済ませた。
「リズさんありがとう。」
「ぱったり来なくなったと思ったら可愛い女の子二人も連れてきてびっくりしちゃったわよ。」
「ユーリ知り合いの人?」
「そう。師匠と来た時にも担当してもらってたんだ。」
「そうなんですね。ユーリ君って本当…」
「ね!どうして女性とばっかり…。」
「…?」
「うふふ。モテるわね、この色男!」
エレナとアリアはやれやれという顔をしているが気にしないようにしておこう。さてとりあえず二人の冒険者登録もできたことだし、今日のところは帰るか。
「おいおい、騎士団目指してるガキがこんなところに何のようだぁ?」
「随分可愛いお嬢ちゃんを連れてるじゃねぇか。俺達が良いこと教えてやるよ。」
「あなた達何ですか!」
「ユ、ユーリ…。」
帰ろうと思った矢先に冒険者に絡まれてしまった。こういった輩は冒険者の中では珍しくない。騎士団と違ってルールや厳しい罰則がない冒険者だからこそすぐに問題を起こす輩も出てきてしまうのだ。
「あー、はいはい。そういうのいいから。」
「あぁ!舐めてんのかこのクソガキィ!」
「痛い目みないとわかんねぇみたいだな!」
絡んできた冒険者が俺に殴りかかろうとしてきた瞬間、足元が黒い闇に覆われそこに飲み込まれる。
「うわぁ!」
「なんだこりゃ!」
「私の可愛い弟子に手を出そうなんていい度胸してるわね。」
不意に俺の頭の上に大きくてやわらかい感触のものが2つ。そして身体を抱きかかえるようにして現れたのは漆黒のドレスを纏った魔女の様な風貌をした冒険者。
「ちょっと師匠!俺の頭に胸を乗せないでくださいよ!」
「あら、ちょうどいい高さだったからついね。」
「お、お前は【真夜中の魔女】の…!」
「何でお前がこんな所に…!」
Aランクパーティー【真夜中の魔女】に所属する俺の師匠でもあるディアナ・リーゼだ。俺は彼女の気配を感じていたのできっと助けてくれるだろうと信じ、手を出すことはしなかった。一応俺達は学園の生徒だから外であまり問題を起こすわけにはいかない、本当にやばかったらぶっ飛ばしていたけど。
「弟子のピンチに駆けつけるのは当然のことじゃないかしら?」
「いや、居たのは絶対たまたまでしょ。」
「ユーリ君、あとで魔法抜きの模擬戦しましょうか?」
「すいません。お断りいたします。」
やばいな、目が全然笑ってないよ…。余計な一言を発したおかげで怒らせてしまった。魔法ありでも勝てないのに師匠相手に魔法抜きなんて骨の一本や二本で済む話ではない、絶対に死ぬ。ここはひとつ…
「この不肖な弟子めが、ご迷惑を掛けてしまって申し訳ないです。美人で強くてお優しい師匠がいなければどうなっていたことか…。」
「そうね。もっと褒めてもいいわよ。」
「あのーそろそろそのお二人を離して上げたほうが良いのでは?」
俺は涙を浮かべて師匠を褒め自分を下げる。よし、ちょろくて助かった。俺と師匠がくだらないやりとりをしているとリゼさんが止めに入る。師匠の闇魔法『影落穴』に捕まった冒険者二人はすでに気絶しているようだった。あの魔法は対象を縛るだけではなく、魔力や活力も吸い取られ続けるので即死こそしないもののずっと捕まったままでいると間違いなく死に至る。
「リゼ後始末はよろしく。さっ、皆も行くわよ。」
「二人共行こ。」
「う、うん。」
「わかりました。」
俺達は冒険者ギルドを後にした。
「ところで師匠がギルドの方にいるなんて珍しいですね。」
「そうねぇ。ちょっとギルドマスターに報告があったのよ。ま、大したことじゃないわよ。」
「そうだったんですか。」
【真夜中の魔女】は名前こそ有名であるが謎の多いパーティーである、その理由の一つがそもそも姿を見たものが少ないということだ。それは【真夜中の魔女】のメンバーは師匠を含め面倒くさがりが多いからであるらしいのだが。そんな師匠がわざわざギルドマスターに対したことじゃない報告をするという点に違和感を覚えた。まあ少し引っかかるが、俺が深く聞くことでもないと気にしないことにした。
「ふーん、それでお嬢ちゃん達もライセンスを発行したってわけ。」
「そうなんですよ。」
「じゃあ私は用があるから、気をつけて帰るのよ。」
「はい。ありがとうございました。」
「助けて頂きありがとうございました!」
「冒険者はああいう輩も多いから舐められないように早く結果を出すといいわよ。それじゃあね。」
師匠は別れの挨拶をすると闇の中に消えていった。いつも思うが闇魔法は凄いな。
「やっぱりディアナさんはミステリアスで素敵ですね。」
「うん、大人の女性って感じ!」
「あー、二人にはそう見えるのかー。」
「「?」」
エレナとアリアは不思議そうな顔をして顔を見合わせている。短い期間ではあるが修行を付けてもらっていた俺に言わせれば見た目“だけ”はたしかに大人でミステリアスな女性ではあるが、中身は幼子のような感じなのだ。いつか二人にも本当の姿を教えてやりたいと思う。
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