第二百三十七話 迷宮の核
ユーリ達は50階層へと向かっていた。一度魔力の流れを捕らえたユーリは下の階層に降りれば降りるほどたしかなラクシアの魔力を感じていた。間違いなく迷宮を維持するための何かが50階層にはある。
「ここが50階層か。」
「思ったよりも早く来れた。」
「俺は初めてじゃないからね。」
リュミエールは迷宮に入るのは今回が初めてであり、田舎に住んでいた彼女はどうゆうものなのか、話半分くらいにしか聞く機会がなかった。魔物が現れ階層ごとに道や気候大きさなどがバラバラであると聞いていたために50階層ともなるともっと時間がかかるものだと思っていたが意外にも早く辿り着いた。それもそのはず、ユーリはこのレシア砂漠の迷宮は初めてではなく、ある程度道がわかっているからである。それでなくとも探知の魔法を使用できるユーリとアリアがいれば最短ルートで進むことができるが。
「…うん。やっぱりこの部屋全体に魔力が蓄積されてる。」
「じゃあここに《魔力融合炉》みたいな物が?」
「というより、この部屋その物がこの迷宮の核みたいになっているんだと思う。」
ラクシアの魔力はこの50階層全体に満ちている。恐らくこの部屋自体が迷宮の核なのだとユーリは感じた。しかしそうなると問題はどうやってその魔力を発散させるのかというとだ。ラクシアの無尽蔵の魔力は迷宮を半永久的に修復していることから察するに放出してもすぐに元に戻ってしまうと考えられる。となると魔力を回復し留めておく器を破壊する必要がある。
「この部屋毎吹き飛ばすしかない。」
「そんなことできるの?」
「私達が生き埋めになること気にしなければ吹き飛ばせるかも。」
この部屋全てを吹き飛ばすとなるとユーリとアリアの二人掛かりで魔法を放つ必要がある。そうすると崩れたこの部屋の瓦礫に埋もれてしまい無事ではすまない。しかし二人を瓦礫から守る者がいればそう難しい話ではない。それを理解したのかリュミエールはすぐに決断を下した。
「ならば私が二人を守る。」
「それはありがたいんだけど…」
アリアは言葉に詰まる。リュミエールの言う通りそれができればいいが、問題はそのリュミエールが魔法を使用できるのかという点であった。これまでは黒い魔力に操られるばかりで本人は元々魔法を使えたわけではない。《勇者》であるからまったく使えないということはないだろうがアザミの様にまずは基礎的な部分から教えなければならないとアリアは思っていたのだ。
「…うまく言えないけど、頭の中に明確なイメージはある。これをそのまま魔法として放てると思う。」
「わかった。そこまで言うならリュミエールを信じるよ。」
「私もリュミエールを信じる!」
「任された。」
リュミエールは二人からの信頼に答えたいと思った。まだ意識がまともになってからそこまで時間が経ったわけではない。にも関わらず不思議と現状を受け入れ《聖闇の勇者》としての自覚が芽生えつつあった。魔法が使用できると感じているのもこれが原因である。
「じゃあいくよ!」
ユーリとアリアは魔力を込める。リュミエールもそれにならって魔力を込めた。
「『海神の波』!」
「『魔法弾・乱打・五重』!!!!!」
ユーリは《溟海の勇者》の力を発動させ『海神の波』によって波を引き起こす。50階層は比較的狭い階層ではあるが、それでも小さな街くらいの大きさはある。全体的に岩場になっており少しだが植物も生えているそんな階層だ。この階層を崩すには工夫がいる。ユーリは波を起こし、この階層にある岩や植物を巻き込んで壁へとぶつける。壁にはひびが入る。だがこの程度ではすぐに修復が行われてしまう。そこでアリアはそのひびを狙い無数の『魔法弾』を叩きこむ。ひびは段々と大きくなり階層全体に広がっていく。
「このまま押し切る!」
「リュミエール任せるよ!」
「ああ!」
リュミエールは意識を自分の中へと向ける。これまで無意識であったとしても魔法を使い続けていたのは間違いではない。すでに魔法を使用するための感覚は身に付けているはずなのだ。内から溢れ出る黒い魔力、もう一つの白い魔力それぞれを両手に集める。
「そろそろ崩れそう!」
「リュミエール!」
50階層の崩れた瓦礫が三人に襲い掛かる。リュミエールの身体から二つの魔力が飛び出した。黒い魔力は襲い掛かる瓦礫を飲み込み破壊する。白い魔力は三人を包み込み瓦礫から身を守った。そのまま地上へと上がっていく。ユーリ達が地上に出ると建物はガラガラと音を立てて崩れ始めた。
「『黒い手』『白い繭』!」
「リュミエール…君…。」
ユーリは素直に驚いていた。リュミエールが別の属性の魔法を同時に発動していたことにである。通常別の属性の魔法を発動させることは難易度が高い。だがリュミエールはそれを初めての魔法でやってのけたのだ。恐らく闇属性と光属性の魔法に限ってではあろうがやはりリュミエールも《勇者》であると思い知らされた。
「上手くいったみたいだ。」
「上手くいったとかそんなレベルじゃないよ!」
「うん。やっぱり《勇者》なんだね、リュミエールも。」
ユーリは通信の魔道具を出しすぐに迷宮の核のについての情報を共有した。その後各地のに散らばった騎士団長、《勇者》達の活躍によって《大進行》は終息していった。
三日後―
ユーリ達はいつも通り城の部屋で今回の事件についての報告を受けていた。
「各地で後片付け被害の状況確認などは進んでいますが、問題はありません。」
「大きな被害は出ていないっていう認識でよかった?」
「はい。我々が出向かないといけないほどの事態は起こっていないですね。」
カルロスが淡々と今回の件に関して報告を行う。ユーリは念のために被害の状況を確認するがカルロスは意図をくみ取って答えてくれた。自分達が行かなければならないほどのことは起こっていない、これを聞いて一同は一安心した。
「それにしてもよく迷宮の核なんてわかったね。」
「《女神》様と《6人の伝説の勇者》に意識の世界で会ったっていう話はしただろ?その時の会話から思うところがあって仮説を立てたら見事に的中したって話さ。」
「これでもう《大進行》が起こっても大丈夫だね!」
《大進行》の対処法は今回のことで知ることが出来た。しかしもう《大進行》は起こることはないとユーリは考えていた。なぜならば魔族が《大進行》を発生させていたのはリカーナ・アークの研究によれば魔力を集めるためであると言われていたからである。今回の《大進行》は魔力を集めることが目的ではなかったとユーリは考えていた。
「すでに魔力が集まっているのに今回の《大進行》は起こった。」
「なるほど、ユーリ君は今回の《大進行》は別の目的があったということが言いたいんですね。」
「俺も同意見だ。恐らく魔族の狙いはこちらの戦力を少しでも削ぐことが目的ではないだろうか。」
ディランの言葉にユーリは頷く。すでに《魔王》復活のカウントダウンは始まっている。《女神》と《6人の伝説の勇者》の話から残り三ヵ月、その時間稼ぎと考えていた。そしてそれは当たらずとも遠からずである。今回、魔族側は封印が解けたとはいえまだ少し魔力が足りないこともあり《大進行》を起こした。《大進行》はいつでも発生させられるわけではなく、周期が決まっている。これはリカーナ・アークの研究からマークが導きだしているが、これは正解である。偶然重なったこのタイミングを利用して魔族は魔力の回収とユーリ達の戦力を削ぎ時間稼ぎすることを考えていた。ユーリ達は魔力の回収はないと考えてしまっていた、これが後に失敗であったと気付く。
「こちらの修行のことも考えると復活する三ヵ月よりも少し前に畳みかけるべきだと思う。」
「そうですね。できれば二ヵ月、多くて二ヵ月半のタイミングで仕掛けたいところです。《魔王》の封印が完全に解ける前に魔族を片付け《魔王》のみに専念できる状況が望ましい。」
「問題は大きく二つ。僕たちの強さがそれまでに引き上げられるか、どうやって魔族の住む大陸まで行くかということかな。」
現在魔族の住む大陸に行く方法は偶然ユーリによって見つけることはできたが、こちらから攻めるのに自分達や騎士団を大勢送り込むには現実的な方法ではない。それを実現できるようにマーク達に頑張ってもらう必要があるのだがこればかりは祈るしかない。
「俺達はマークを信じて自己の能力を上げることだけを考えよう。少なくとも四天王に渡り合えるレベルでなければ話にならない。」
「そうですね。騎士団長達もすでに取り組んでいるようですし、私達も加わりましょう。」
「うん。僕はちょっと当てがあるから修行してくるよ。」
「私はブランシェさんのところに行く。」
それぞれが修行のために最適な場所や相手を決めている中、ユーリとリュミエールだけが考え込んでいた。リュミエールの方はユーリの中で当てがあるのだが、自分をどうやって鍛えるかの答えだけが浮かんでいなかった。ひとまずマルクに意見を聞こうと思っていた。
「リュミエールは俺の師匠に鍛えてもらうよ。」
「わかった。」
「それじゃそれぞれ行き先が決まったようですね。問題がなければ次に集まるのは少なくとも二ヵ月後です。必ず強くなって会いましょう!」
「「「おう!!!」」」
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