第二百三十六話 迷宮の謎
ユーリ達は迷宮に付くと周囲の魔物を追い払う。レシア砂漠から一番近い街であるイシュカからも冒険者達が戦闘に参加していた。ユーリ達のおかげで迷宮周辺の魔物はあらかた片付いたので街の応援へと戻っていった。ユーリ達は迷宮の中に入り《大進行》の原因が何なのか探っていた。
「さぁ魔物が少なくなっている今のうちに原因を探らないと。」
「迷宮ってラクシアさんが『創造』で作ったって言ってたけど刻印魔法も組み込まれているしそう単純な魔法じゃないよね。」
「たしかにそうだね。俺達は元々この解明できない技術を古代魔法と呼んでいたけど、ラクシアさんの口振りじゃそんな特別な物ではないって感じだった。どうして普通とは違うんだろう?」
本来の『創造』という魔法は物を作り出すことができる魔法である。例えば剣や槍などの武器や防具、発動者の創造次第である程度の物は作成可能である。そして発動時に魔力を使用すればそれ以上の魔力を必要としない。なので最初に込める魔力をいかに調整するかという技術が問われる。大きければいいという物でもなく、かといって少ないのも良くない。だからこそ迷宮のような建造物を作り、なおかつ数百年も持たせるというのは不可能に近いわけだが《創造の勇者》ラクシアはそれを実現させているということになる。
「《創造の勇者》の力やラクシアさんが無尽蔵の魔力を持っているとしても、ここまでの魔法を発動するのに無からというのは考えにくい。」
「どういうことだ?」
ユーリの発言に疑問を持ったのは意外にもリュミエールであった。リュミエールは魔法について知らないわけではないがユーリ達の様に学園に通っていたわけではないのでそこまで詳しいわけではない。そういう点はジェマやコーデリア、アザミも同じ様なものだ。ユーリはその疑問にすぐに回答をする。
「『創造』!この魔法はこうやって何もないところから物を作り出せるけど、ただ魔力があればいいっていうわけでもないんだ。かといって適当でもダメだから剣くらいの大きさなら大丈夫だけど迷宮みたいに大きい物は難しいって話さ。」
「ふーん。例えば元々ある建物の上から覆うように作るとかできないのか?」
「できなくはないけど…」
ユーリはリュミエールの発言を考えてみる。例えばあらかじめ建てられている建造物に上から被せるように『創造』をするのはどうだろうか?普通に建造するよりは少ない負担で済むだろう。しかし外側だけやっても中の建造物を崩さずに何百年も維持できるだろうか?それならば全てを『創造』で作る方がまだ保てるのではないだろうかとユーリは結論付けた。
「やっぱり厳しいと思う。外側は持たせることが出来ても中の建造物は劣化しちゃうよ。」
「うーん、普通の建物で何百年も建ってるものなのかな?」
「そういう建物もあるにはあるよ。」
迷宮でなくとも百年単位の建造物は存在している。だが迷宮は圧倒的に年数が桁違いである。迷宮の多くは解明されておらず、現代では使われていない刻印魔法が刻まれている。その刻印魔法が何らかの効果を発揮しているということもなくはないが、迷宮全てに張り巡らされている刻印魔法を描くことは不可能だろう。それこそ刻印魔法に強い《勇者》でもいれば可能だろうがあの6人の中にはいない。
「古くならないことばかり考えていたけど、よく考えたら迷宮って勝手に修復しているよね?」
「たしかに。ってことは刻印魔法は修復するような物ってこと?」
「そこなんだよね。そもそも刻印魔法をこの規模で発動できないと思うんだよ。」
迷宮に描かれているこれはもしかしたら刻印魔法ではないのかもしれない。これが何か秘密を解くカギになっている気がするとユーリは考えていた。
「魔力かぁ。それは魔物も同じだよね。」
「どういうこと?」
「迷宮では魔物は発生するけど原因はわかってないんだよ。」
魔物がどうやって発生しているかもわかっていない。そもそも自然に存在する魔物もどうやって出現しているかは未だ解明されていないのだ。ただ迷宮では自然よりも高確率で魔物は発生し強力な魔物が多いということはわかっている。
「どうして迷宮の魔物は普通の魔物より強力なのかとかもわかってないんだよね。」
「それは普通の魔物より魔力を得ているからじゃないかな。ほら迷宮って建物そのものが魔力を帯びているし。」
アリアの言葉でユーリはあることに気付く。迷宮の魔力はどこから供給されているのかということである。生物であれば時間が経てば魔力の器に魔力が再び供給される。しかし建物はそういうわけではない。にも拘わらず迷宮は修復も行われているし、魔物も発生し魔力が供給されているのだ。
「もしかして…《魔力融合炉》みたいなものがあるんじゃないか。」
「あのカノンコートを浮かせてたみたいな?」
「そう、でも規模だけならあれだけの物じゃなくてもいいはず。常に発動し続ける必要はないし、全てを修復する必要はないから。」
「なるほど。崩れない程度ならいいもんね。」
迷宮にどこから魔力の供給をされているのか、それはカノンコートを浮かせていた《魔力融合炉》の様に魔力を生み出す物があるのではないかとユーリは考えていた。規模はあれほどのものでなくてもいいし魔力さえ供給させることができれば、実現可能であると。《創造の勇者》ラクシアは無尽蔵の魔力と言っていた。もしそれを器に何らかの方法で留めることができたら《魔力融合炉》と同じ効果を持たせることができるのではないだろうか。
「仮にそんなものがあったとしてどうやって探すの?迷宮は全部調べつくされてると思うけど。」
「そうだよね。でももし実在したら魔族の魔法で魔力の供給を操ることが出来れば、《大進行》を起こすことができると思う。」
何らかの方法で魔力を供給していたとして、そこを魔族が抑えていれば《大進行》を起こすことは容易になる。操作系の魔法は自らの魔力を少しでも込めれば操ることが出来るからだ。魔族にもそのような能力者がいるのだろう。
「どうして魔族は見つけられたんだ?」
「うーん、そう簡単には見つからないようになってるはずだけど。」
問題はどうやってそれを魔族が見つけているのかということだ。ユーリは自分達にも見つけられないようなものを魔族が見つけられるとは考えていなかった。少なくとも狙われることを想定しているはずだ。
「いやどれだけ隠蔽しても隠せないものがある。魔力の供給路だ。」
「つまり魔力が通っている場所を辿ればわかるってこと?」
「そうだよ。多分それを隠すために迷宮は魔力が常に漂っているんだ。だけど修復されるときに必ず魔力は通るはず。」
「なるほど、じゃあ迷宮を壊して修復する瞬間に魔力を探るんだね。」
「そういうこと!」
迷宮を壊せば必ず修復される。つまりその瞬間には魔力がどこからか供給されるのだ。今ならば《勇者》の魔力を辿ることはそう難しいことではない。なので迷宮を破壊して供給源を探すことにした。
「『炎の矢・三重』!!!」
「『土の弾丸・三重』!!!』」
ユーリとアリアは迷宮の壁に向けて魔法を放つ。少しの傷ならすぐに修復されることはないため迷宮が崩れかねないほどのダメージを与える必要がある。かといってダメージを与えすぎると自分達が危険になってしまうため威力は調整しなければならない。
「これくらいでどうだ?」
「見て!壁が!」
ユーリ達が魔法を放った壁には大きな穴が開いてボロボロと崩れている。すると周囲がほんのわずかではあるが魔力が流れるのを感じた。その魔力は刻印魔法だと思っていた文字から感じることが出来た。
「なるほど、刻印魔法だけじゃなくて魔力の通路もあるからどういう魔法かわからなかったんだね。」
「刻印魔法にはある程度規則性もあるからね。魔力の供給路用の文字も記載されているから余計混乱したんだ。」
刻印魔法は魔力を込めながら記載するがその微妙は調整をするのは難易度が高い。迷宮全てにそれを行うのは不可能だ。だが一部だけであればできないことはないのだ。だから一部に刻印魔法をしておいて、残りは魔力の供給路にしておけば自然と刻印魔法が発動するし、刻印魔法そのものを隠すことにも繋がる。
「とはいえ小規模の刻印魔法でここまで修復できるのがそもそもおかしいんだけど。」
「それはひとまず置いといて早く魔力を探らないと!」
「そうだね。」
ユーリは修復されている壁に手を触れて供給されている魔力の痕跡を辿っていく。どんどん下の階層へと向かって行くがある地点でそれは止まった50階層である。このレシア砂漠の迷宮は何層まであるのか正確にはわかっていない。基本的には100層である迷宮だがセドリック団長が以前ユーリ達を探すために降りた62階層までしか到達したことがないからである。迷宮は魔物の強さだけではなく、簡単に降りたり登ったりできないことから食料の問題などがある。階層によっては手に入れられないこともないが、全ての階層がそうであるわけじゃないのだ。そういう点でいえば今回急いでいるユーリ達にとって魔力の供給源が50階層にあったのは幸運であった。
「見つけた50階層だ。」
「よし急いで行こう!」
「わかった。」
ユーリ、アリア、リュミエールの三人は50階層を目指すのであった。
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