第二百二十八話 魔族の住む大陸
「それでユーリ君に頼みたいことだけどこの魔法道具にこの前の土にやったみたいにして欲しいんだ。」
「魔力を込めるってやつ?」
以前マークに頼まれて鉱石の謎を解くために俺は魔族が移動魔法を使用したと思われる場所から採れた土に魔力を込めて鉱石作りにチャレンジした。しかし同時に全ての属性を込めることはできず普通に魔力をおぼ安い土であるということしかわからなかった。
「それは構わないけど普通に『瞬間移動』するだけじゃないかな?」
「ディミスさんの見立てではそんな単純な魔法道具でもないらしいんだ。」
「というと?」
「普通の魔法道具はユーリ君も知っている通り魔法が込められている。厳密にいえば道具に刻印がしてあってそれぞれ効果を発揮する。」
マークの言う通り魔法道具には魔法が込められている。それは魔力を流すだけで発動できるようになっているためあらかじめ刻印がしてある。とはいえそう単純な物でもなく刻印は誰でも刻めるわけではない。厳密に言えば刻印はできるが調整ができないという方が正しいかもしれない。例えば料理に使うための火を出す魔法道具があったとして俺が刻印したらものすごく勢いの強い炎が上がる。魔法道具職人がすればちょうど良い炎にできる。刻印はただ書けばいいという物ではなく魔力を込めながら書き込むために集中と魔力を込めるバランスが重要になってくるのだ。
「だけどこの魔法道具には明確な刻印魔法があるわけじゃないんだ。」
「もしかして込める魔力によって効果が変わる…ということか?」
「うん、まだ恐らくという段階だけど。僕らでも試してみたけど『瞬間移動』しかできなかった。ただ一つ言えることは魔力を込めるというより吸い取られる感覚に近いってこと。」
そういえばカノンコートでアポカリプスヘイロンが放つ《超高層雷放電カノン砲》から回避する時にウールに触られて『瞬間移動』使用したことを思い出す。あの時は戦闘中であったからあまり細かなことは気にしていなかった。アザミのこともさらっと言われていたが気にも留めていなかったしな。言われてみれば魔力を吸われたような気もする。いうかあの時はメインで使っていたのはウールだったからあまり吸われなかったのだろうか。
「まあとにかく物は試しにやってみるか。」
「気を付けてね。かなり魔力を吸われるから。」
俺はマークに手渡された『瞬間移動』の魔法道具を握ると魔力を込める。するとみるみると魔力が吸われていくのがわかった。俺は負けじと魔力を込めるしかし自分の魔力のみでは足りず、《勇者》の魔力も順々に開放していく。俺が握っていた『瞬間移動』の魔法道具は大きく輝いており、目を開けていられない。マークの姿も見えないくらいである。流石にヤバいと思った俺は反射的に手を離した。
「う、うーん。マーク大丈夫?」
俺が手を離したことで『瞬間移動』の魔法道具への魔力供給は止まった。あのままでは全ての魔力を取られるところだった。ユーリは普通の人とは違い魔力の器が複数ある。自分の魔力が無くなる前に《勇者》の魔力が使用されるため人よりも魔力量は多い部類である。それでも先程は少し危ないところであったと感じた。そして足元に落ちた魔法道具を拾おうとしたときに違和感がありすぐに顔を上げた。
「な、なんだここは?」
そこは先程までの城の景色ではなくまっさらで何もない荒野の様な場所であった。植物もないし生物の気配も感じない。マークの返事がなかったことからおそらく自分が『瞬間移動』の魔法道具によってどこかに移動してしまったのだと考えていた。しかしこのような場所に覚えがない。というよりもここは何だか普通の場所ではないと感じていた。
「少し歩いてみるか…。」
なんとなく危険であると感じながらもユーリはその場所を探索してみることにした。幸い先程『瞬間移動』の魔法道具に吸われた以上の魔力は残っている。多少移動しても戻れるだろうと考えていた。周囲に魔力は感じない、誰かがいる気配も全くない。空は太陽が見えないくらい分厚い雲に覆われており、少し寒さを感じていた。丘を越え少し見晴らしの良いところに出た。
「あれは…城か?」
霧がかかっていて全貌は明らかになっていないがその形からなんとなくその建物が城であるということがわかった。そしてその城に向かって歩みを進めようとした瞬間に大きく心臓の鼓動が跳ね上がった。
「ぐっ…。」
否、それは自分の心臓の鼓動ではない。その城の方角から響いている何かの生物の心臓の鼓動であると直感的にユーリには理解できた。それがなぜなのかはわからなかったが。そして城の方から何かがこちらに向かってくる。それは黒い霧に包まれながらも猛スピードでこちらに来ており、ユーリの視界に入るのにそう時間はかからなかった。
「まさか一人で来るとは思わなかったぜぇ。《勇者》よぉ。」
その者に心当たりはなかったが、この魔力そして禍々しい様相見間違えるはずがない。魔族であった、それも会ったことのない少なくともワメリ以上の《上位序列魔族》であると理解できた。ユーリは思いがけず震えていた。それは魔族と相対したからではなく、この場所がどういう場所なのか理解できてしまったからだ。ここは…いたこの大陸は間違いなく魔族が住んでいる大陸だ。思いがけず魔族の住む大陸を自分は見つけてしまったのだ。
「俺もまさか来れるとは思ってなかったよ。」
「流石に一人で来るほど馬鹿じゃないよな。うん?それは…そういうことか。」
魔族は俺の持つ『瞬間移動』の魔法道具に目をやると少し考えた後、何か納得したような顔をしていた。
「それでどうする?ここまで来て手ぶらで帰るってことはねぇだろ?まだお前のことは俺しか気付いていないようだしなぁ。」
「いや、俺はこのまま帰らせてもらう。」
「帰れると思うなぁ!」
魔族が大きな声で叫んだ瞬間俺は大きく後ろへと飛ぶ。すると俺が居た場所は大きな爆発に巻き込まれて地面が抉れている。先程こちらに向かっていた時から薄々気付いてはいたがこの魔族は恐らく炎属性を得意としている。飛んでいた時に見えていたのは黒い霧ではなく、黒い煙つまり煤である。何かを燃やしながらこちらに向かって飛んできていたということだ。だから俺は炎属性を得意としていると考えたのである。
「追いかけっこか?」
「ああ、捕まえてみろよ!」
ユーリはこの大陸に移動するまでにすでに大量の魔力を使用している。現時点で普段の半分より少し多いくらいだ。まともにこの魔族と戦っていたら帰れなくなる。だから魔法を使用するタイミングは慎重に選ばなければならない。そしてすでに『瞬間移動』の魔法道具に魔力を込め始めている。時間にしてあと1分は耐えなければならない。
「オラァ!ジジイが言うには《勇者》はまだ殺せねぇらしいからよぉ。せめて楽しませてくれや!」
「ちっ!『身体強化・三重』!!!」
着地してすぐに飛び上がらなければ奴の魔法に捕まってしまう。とうとう素の身体能力だけでは避けきれなくなりそうで『身体強化』を発動した。これで魔力はギリギリだ。魔法を使うとしても小規模な物をあと一回くらいが限度である。だがそれは相手にも気付かれていた。
「いいのかぁ?その魔法道具に込める魔力を使っちまってよぉ!」
「お前の相手をするのにそのままじゃ失礼かと思ってね。」
「なるほど、頭も駆け引きも悪くねぇ。だが…」
魔族が指を鳴らすとユーリの腰の辺りが爆発した。そのままユーリは吹き飛ばされる。先程までの爆発は魔力を使用した兆候があった。だが今の爆発は指を鳴らしたこと以外は何も気づけなかった。恐らく手を抜かれていたのだろう。辛うじて『瞬間移動』の魔法道具は手放さなかった。
「ぐぅ…。」
「なんだ?もう終わりか?」
『身体強化』を発動していたとはいえ今のダメージはかなり大きかった。しかしこの傷を『治癒魔法』で治療してしまうと確実に戻れなくなってしまう。ユーリは震えながらも立ち上がる。魔力が込め終わるまであと30秒。
「いや…まだ…まだ…。」
「いいねぇ!俺はぁ根性ある奴は嫌いじゃねぇ。だがこれならどうだ?」
そういった魔族の指先には魔力が込められている。それは炎の球だが『炎の球』ではない。実際に魔族の使う魔法はユーリ達とは違うので当たり前だがそういうことではなく同じ系統の魔法ではないという意味である。炎を圧縮して小さく小さくしている。見ているだけでそれに込められている爆発力がとんでもないということが理解できた。だがそんなものをここで解き放てばユーリだけではなく魔族の方もダメージは免れないだろう。
「その顔いいねぇ!一緒に爆発しようぜぇ!」
魔族は地面に圧縮された炎を叩きこむ。すると辺りは爆発に包み込まれたのであった。
◇◇◇◇
ユーリが消えてから三日―――
アリアは城にある病室を訪れていた。そこにはあの白髪の美女がいる。彼女は健康上すでに何の問題もない。しかしどういうわけか魔力が回復していない。普通魔力は少しづつ回復する、特に寝ている時は無駄に何かを消費することもないのでもっとも効率よく魔力を回復させることができる。
「一体どうしてなんだろう。」
彼女は自然に魔力を回復できない体質なのだろうか?そんな体質は聞いたことがない。しかしジェマが一瞬で魔力を回復し続けるのと同様に魔力がまったく回復しないという体質もまたあり得る物ではないかとアリアは考えていた。すると後ろから声を掛けられる。
「アリア。」
「エレナ。」
二人はお互いの名前を呼び合う以上の会話はしなかった。お互いにここにいるということはどういうことなのかを理解しているからだ。エレナは隣で白髪の美女が寝ているベットをちらりと見てすぐにアリアの隣に座る。エレナもきっと同じようなことを考えているに違いないとアリアは思っていた。
「ユーリ…。」
白髪の美女の横で眠っていたのは全身に大怪我を負ったユーリであった。
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