第二百二十五話 証言
しかしリカーナさんと俺の考察が合っているとした場合、現状魔族がこれ以上増えることはないと考えてもいいかもしれない。四天王やその部下達、あとは《序列魔族》が現在わかっているがこれらを《魔王》が復活する前に全て倒し切れば《魔王》が復活することはないかもしれない。希望が持てる話である。
「さて、ここはこれくらいかな。」
「ああ、あとはエーラ達に任せることにしよう。」
「そうですね。」
思ったよりもわかったことが少なかったが何もないよりはマシであろう。それにまた時間が経てばわかることもあるかもしれない。俺たちは後の処理をエーラ達に任せ一度街へと戻ることにした。なんやかんやあったがとりあえず魔人のことは一件落着といえるだろう。しかし当初の目的であった黒い甲冑の騎士に関する情報がまったくなくなってしまったことを思い出す。コンバットは黒い甲冑の騎士を俺達が探していることを聞いてあのような格好をし、接触を図ってきていただけであった。ランマが邂逅した本物の黒い甲冑の騎士に関する手掛かりは今の所あの街外れの場所にしかない。そう考えていた俺達だったが城に戻ると一番にラックが俺達の元へと駆け寄ってきた。
「そういえば黒い甲冑の騎士の目撃情報がありましたよ!」
「本当ですか?!それは一体どこで?」
「ザザを見つけたという洞穴の辺です。ただ…」
ラックは少しバツの悪そうな顔をしている。何も手がかりのない俺達にとって凄く貴重な情報だが何かあるのだろうか?
「それを証言しているのはザザなんです。見間違いかもしれなくて…」
なるほど。つまりラックはザザの証言だからいまいち信用はできないと考えているのだろう。ラックはまだ今回の時間の詳細を知らないからザザはコンバット達の仲間か何かだと思ってるのかもしれない。いや幼い彼女の証言が信用できないという部分が大きいか。
「いやそれがわかっただけでも十分ですよ。後は俺達が直接ザザに聞きます。」
「それで彼女は今どこに?」
「地下の部屋に繋いでいます。あっ、誤解しないでくださいね。繋いでるといっても彼女の力を抑えるためですから。」
「わかってますよ。案内してください。」
ザザは見た目こそ幼女であるものの魔人である。コンバットの実験によって変化させられたわけだが、そのせいで普通の力ではない。戦闘員ではないラックのような者が殴られれば無事では済まないだろう。そのための拘束である。恐らく繋ぎ止めることがメインと言うよりは力を抑え、もし外れた場合はすぐにこちらがわかるようになってるという類の物だろう。俺達はそんなことで誤解はしないが、ラックは少し心配性である。能力のお告げをする時は堂々としているが、年上であってもこう言う時は少し頼りない印象である。俺達はラックに連れられて地下の部屋へと向かう。部屋の中には大の字で寝ているザザがいた。
「おい、ザザ起きろ。」
「ラックか!今日は何して遊ぶんだ?」
ザザはラックの姿を見ると飛び起きてこちらに向かってくる。向かってくると行っても拘束されている分限界はあるがこの部屋の中では自由に動き回れるのだろう。そして俺達の方に目を向けると身体を地面に這わせ戦闘体制に入る。
「大丈夫だ。ザザ、みんなも真っ黒の話を聞きたいだけなんだ。」
「ラックがそういうなら信じる。」
先ほどラックを頼りないなどと形容したが前言撤回しよう。彼がザザと有効的な関係を築いてくれなければ話を聞くこともできなかったな。特に俺とジェマには直接手を加えられたからだろうか恨みが晴れないといった様子らしい。といっても使用したのは二人とも攻撃魔法ではないからダメージはなかったはずなのだが。ラックは引き続き情報を聞き出す。
「それでザザは真っ黒を見たんだよな?」
「うん。一瞬だけだけど。」
「いつ見たんだ?」
「お前達が襲ってきた前の晩だよ!こっちじゃない方に歩いて行ったけど。」
ザザの言う真っ黒、要するに黒い甲冑の騎士と思われる人物。どうやら俺達はかなり近くまで迫っているらしい。それにザザの証言が本当ならばヴェルス帝国側ではなくセルベスタの方に向かっている。とはいえ少し時間が経ってしまっている。急いで追いかけなければ。
「ありがとうザザ!ラック悪いけど俺達は黒い甲冑の騎士を追いかけるよ。ここでお別れだ。」
「せっかく来ていただいたのにおもてなしもできなくてすみません。」
「いやいや元気な姿が見れただけで十分だよ。エーラ達にもよろしく言っておいて。」
「あ、待ってください!」
俺達はその場を出ていこうとするとラックに引き留められる。
「またお告げは出ています。」
「お告げというとたしかラックの能力《幸運の導き手》のやつだっけ。」
俺が直接聞いたわけではないが以前、ラックがエレナに俺へのお告げが出たとかなんとかで間接的に聞いたことがある。「東の国へ行け」そう言われたはずだ。そしてレシア砂漠で迷宮を見つけ大和国での事件などが起こった。それだけ見れば幸運だったと言えるかどうかは微妙なラインだが結果的に《勇者》のことを知れたり、ランマ達と出会うことができたのだ。今回もお告げの内容によっては何か大きなことが起こるのかもしれない。
「それでラック誰に対して出たんだ?」
「アリアさんです。」
「わ、私?」
「はい、お告げではこう出ています。「光と闇が交わる時、試される」だそうです。」
今回のお告げはどうやらアリアに出たらしい。それにしても「光と闇が交わる時、試される」か。一体何のことだか見当もつかないな。俺の時はまだ「東の国へ行け」というシンプルな物だったからあまり深く考えなくてもなんとなく意味は理解できたが。まあいいとりあえず、アリアを注意していればいいだろう。
「わかったよ。よくわからないけど気を付けるね!」
「それではまた会いましょう!」
「ああ、ザザのことをよろしく頼むぞ。」
今度こそ俺達は別れてヴェルス帝国を後にした。ヴェルス帝国からセルベスタ王国の間に他の国はない。つまり境目を歩き続けでもしなければ必ずどちらかの国にいることになる。そして国境沿いには必ず衛兵がいる。つまり不審な人物がいればすぐにばれてしまうということだ。もっともそんなことで捕まるならすでに捕まっている気もするが俺達が触れ回ったことで大分警戒は強まっているはずだ。少しでも不審な点があれば気付くだろう。
「さてここまでは何もなかったな。」
「ああ、だけどここからが問題だ。」
俺達はザザが住んでいた洞穴まで来ていた。ザザが出会った黒い甲冑の騎士が本物であり証言を全面的に信じるのであればここからロンドの方へと向かったことになる。俺達はロンドへの道を歩きつつ、何か痕跡は残っていないか念入りに探す。
「まあ今更証拠なんて残ってるかどうか微妙だな。」
「それは…そう…。」
「二人共真剣に探しなさい!」
ジェマとコーデリアがアリアに窘められる。まあ二人の気持ちもわからないでもないが、現状これが最善策なのだから仕方ない。俺達はロンドへの道をどんどんと進んでいくが魔力の痕跡などは特に感じない。コーデリアの《副技能》にも特に反応はないようだ。しかしやけに静かだな。魔物が頻繁に出るというわけではないがまったくいないわけでもない。それに動物も出ないわけではないのにやけに静まり返っていると感じた。
「なんか静かじゃ…」
皆に同意を得ようと振り返った瞬間ユーリは異変に気付いた。いやそれまでまったく気付かなかったというべきかもしれない。とにかく今現在自分が置かれているこの状況は異常であった。なぜかというと先程まで一緒に歩いていた仲間が誰もいなくなっているからだった。こんなことは通常ならばあり得ない。つまり何かが起こっていることは間違いないのだ。だが一体何が起こっているのかがユーリには理解できなかった。
「アリア!コーデリア!ジェマ!アザミ!ランマ!」
仲間の名前を呼ぶが誰からの返事もない。近くに魔力も感じない完全に分断されている。魔族の仕業だろうか?いや魔族がわざわざこのような分断作戦をする必要はないし奴らはそういう生物ではない。他に考えられる人物や組織に心当たりはないが、まさか黒い甲冑の騎士なのか?
「だけどこれは呪いの類じゃないな。結界か…?」
黒い甲冑の騎士が呪いを得意としていることはこれまでのことから判明しているが結界が得意かどうかはわからない。もしかしたらそちらも使用できるかもしれないが、だとすればかなりの使い手と言わざるを得ない。結界はそう簡単に発動できるものではない。規模の小さいものならともかくこのように自分以外を消すなどといったことは大規模に分類される。複数人で発動もしくは魔道具か何かで起点を作らなければこうはならないのだ。
「仕方ない。『炎の矢』!」
ユーリは森や空に向かって魔法を放つ。もし結界であれば魔法を放てば何かしらのアクションが起こる。自分がどこかに捕らわれているなら魔法はどこかで消えるだろうし逆に壁のようなものにぶつかる。しかしユーリの放った魔法は空を切り、木々を燃やした。
「ってことは俺じゃなくて皆の方が何かの魔法にかけられているのか?」
結界であればこのような結果にはならないと考えたユーリは次に自分ではなく周りの方が魔法にかかっていることを怪しんだ。しかし仮にそうだった場合、接近に気付かないものだろうか?と新たな疑問が思い浮かぶ。自分達をそこまで騙せる技量の持ち主がいるだろうか、魔族でもなければ現状その可能性は薄いだろう。
「…もしかして?」
ユーリはある結論に至った。魔法袋から鞘に納められた《聖剣クラレント》を取り出す。そして鞘から抜くと《聖剣クラレント》で自らの腕を斬りつけるのであった。
少しでも面白いなと思っていただけたら幸いです!
皆さまの応援が励みになりますので、ぜひ下部よりブックマーク・評価等お願いいたします!