第二百二十二話 研究所
城での協力を終えた俺達はその日の宿を街で取った。エーラが用意してくれると言われたのだが、城の中というのは気が休まらないし気を使ってしまうので遠慮させてもらった。エーラ達だけじゃなくて他の城勤めの人も俺達に凄く感謝をしてくれている。だから話を聞かせろと引っ張りだこになってしまうので遠慮させてもらったという部分もある。俺はベットに寝ころびながら考えを纏めていた。すると部屋をノックする音が聞こえる。どうぞというとアリア達が入って来た。
「どうしたの?」
「さっきの戦いの話をしようと思って。」
「そういうことね。アリアは外から見ててどうだった?」
「相手もそこそこ戦えそうではあったけど、実力ではユーリの方が勝ってたと思う。」
「たしかにね。」
相手のことを探ろうとしながら戦っていたために手を抜いていた。言い訳がましいが最初から本気を出していれば勝てたというのは本当である。黒い甲冑の騎士が二人いるとは思わなかったしな。もし呪いをかけられたらと考えると普段通りの実力が出せなかった。
「しかし、黒い甲冑の騎士が二人いるとは思わなかったな。こんな偶然あんのか?」
「ない…とはいえない…。」
「ですが偶然にしてはできすぎな気もします。」
「拙者もアザミ殿に同意でござる。」
偶然といって片付けていいものか俺もアザミとランマの意見に同意だ。コンバットは俺を狙いに来た。ということは俺達が黒い甲冑の騎士を探していることを知ってわざと見つかるようにしていたのではないかと思う。
「多分俺達が黒い甲冑の騎士を探していることを知ってたんだ。」
「どうして?」
「あれだけ街中で聞き回れば知ることもできるだろうぜ。」
「仲間が…いる…。」
「仲間が街の中で私達が黒い甲冑の騎士を探しているということを聞いて誘い出したということですね。」
真相はわからないがこれならたしかに納得はいく。となると本来俺達が探していた方の黒い甲冑の騎士の手がかりは完全になくなってしまったな。今回の件を解決したらまた地道に探すしかないか。次の日俺達はバーンさんが調べた情報を聞きに城へと向かった。
「もう調査できたとは早いですね。」
「元々軍人だしな。」
「それで結果はどうでしたか?」
「はい。現在冒険者になっている元軍人の者は全て身元確認できました。ですがあの時死亡判定になっていて死体が見つかっていない者は全部で20名います。そこにコンバット・アランドの名前もありました。」
「そうでしたか。20名も。」
魔族に襲われたあの事件の時は相当混乱していただろう。多くの軍人や民間人も被害に合い亡くなった人も多いはずだ。だから全ての死体が見つからなかったのだろうが、それが俺への恨みに繋がるとはな。しかしわからないのはどうやって生き延びて隠れてきたのかということだ。
「実は冒険者になった者から似たような人物を見たかもしれないという報告はいくつかあったようです。しかし死人が生き返るわけもないと相手にされていなかったようですね。」
「あの混乱期には仕方のないことだよ。それで彼らはどうして生き残れたのかということはわかっているんですか?」
「どうやらコンバットが所属していた隊長が魔族に殺されそうになったところを逃がしたらしい。その男の名前はウェイト・ベルルス。俺の同期だった男だ。」
「そうですか。ウェイトが…。」
「ウェイトの部隊は最前線だったから真っ先に魔族と戦った部隊だ。」
バーンさんの同期ということはそれなりにエーラも親しかったのだろうか。なるほど、魔族と直接戦ったから死んだと疑っていなかったが実際には隊長が逃がし生き延びていたということか。会わずともどれだけ勇気のある素晴らしい人だったのかということがわかる。
「しかしこれまで沈黙していた理由はなんでしょうか。」
「《制限失薬》によって能力を失っているから戦うための準備をしていたのではないだろうか。子供と言えど相手は魔族を倒した《勇者》だからな。」
「つっても今やそこらの相手じゃ務まらないくらいには強いけどな。」
「それに一人じゃないからね!」
「だがこのまま放置しておくわけにはいかないだろう?相手はそれを狙っているのかもしれないな。」
「そういうことか。」
彼らの狙いは俺に復讐することだ。俺の性格的にこのまま放置することはないから恐らく一人になることを誘いだされているのだろう。それにただこの二年間何もしなかったというわけではないだろう。何かを準備してきているに違いない。だが皆でいけば間違いなく出てこない。
「俺が囮になればいいわけですね。」
「ユーリ君?!危険ではないですか?」
「だけど相手は俺狙いだし、多分一人で行かないと出てきてくれないと思う。昨日だって皆が来たら逃げたわけだし。」
「それはそうかもしれませんが…。」
アザミは随分と心配してくれるが、実際これ以外に方法はないから仕方がない。相手が俺を狙っているのだというならこちらから出向いてやる。
「そう心配しなくても大丈夫さ。皆には俺のサポートをお願いするよ。」
「もちろん…。」
「任せろ。」
「気を付けてくださいね。」
「ああ。」
俺は一人で昨日コンバットと戦った場所へと向かう。皆には何があってもギリギリまでは手を出さず、相手の拠点を特定できるまでは動かないようにと言っておいた。コンバットがしていたように開けた場所で何もせずに仁王立ちしている。すると覚えのある魔力がこちらに近づいて来るのを感じた。
「一人で来るとは大した度胸だな。」
「一人で来なきゃ姿を見せなかったくせに。」
「そうだな。ここには戦いに来たわけではない。話に来たんだ。」
「話に来ただと?昨日俺を殺すと言って襲い掛かって来た奴が何をいうかと思えば。」
俺は話し合いに来たというコンバットの言葉に思わず笑ってしまう。昨日真っ先にお前を殺すと飛び掛かって来た奴が何をふざけたことを言うかと思ったからだ。だがコンバットの目は真剣である。一体何が狙いなのかはわからないが、こちらも事情を知らないといけない。
「それで話とは何だ?」
「お前は魔人の娘と接触したな。」
「ザザのことか。何故お前がそれを知っている?」
「あれは我らの研究の結果だからだ。」
「研究だと?」
何故コンバットがザザのことを知っているのだろうかと疑問を投げかけるが、コンバットは研究の結果だと言った。ザザは魔人の様であって俺の知っている魔人ではない。まさかとは思うがコンバット達は魔人の研究を行っているということなのか?もしそれが本当ならば見過ごすわけにはいかない。
「我らは魔族に殺されかけた、そしてお前はその魔族を倒したな。魔族を倒したお前を倒すことができれば我らはウェイト隊長に顔向けすることが出来る!自分たちの非力さを呪った我らは力を求めた。それが魔人の研究だ。」
「お前たちは狂っている。ウェイトという人物もそんなことはないはずだ。」
「お前に何がわかるのだ!まあいい。そして我々は研究を行いついに人間を魔人に変貌させることに成功した。」
「それがザザということか。」
「そうだ。」
コンバット達、ウェイト隊長の部隊にいた者たちはお門違いな俺への復讐を考えるあまり人としての道を踏み外してしまったということだ。しかしそう簡単に人間を魔人に変えることは本当にできるのだろうか。ザイルの時も薬を使っていたがあれは魔族側の仕込みであった。まさかとは思うが彼らも魔族に何か渡されているのかもしれない。
「お前はあの娘を人間に戻したいのではないか?」
「っ?!そうだなできるならそうしてあげたいが。」
「流石は《英雄》で《勇者》様だな。そこで一つ提案がある。俺達の研究所に来い、もちろん一人でだ。そうすれば彼女を人間に戻してやろう。」
正直いって彼の言っていることは本当かどうかは疑わしい。ザイルの時と違ってザザは魔人という生物として完璧に成り立っている感じがする。しかし人間に戻せる可能性があるならばそれを頼らない手はない。俺を殺すために他の邪魔が入らないよう一人で来て欲しいということなのだろうが、それだけのために随分とひどいことをする。いやザザはあくまでも研究の結果であって俺を倒す方の算段は別にあるということだろうか。彼らの真意を探るためにも彼らの研究所についていくしかない。
「わかった。その条件を呑もう。」
「それではお友達に気付かれないようにいくとしよう。」
コンバットは昨日逃走の際に使ったと思われる煙幕を取り出し地面に叩きつける。煙は大きく広がりこちらからアリア達の位置が認識できなくなった。魔法が発動できなくなっただけではなくこちらからの探知もできなくなるのか、中々いい道具を持っている。だが魔法だけが全てではないということを彼らは理解していないようだ。俺は魔法袋からある物を取り出し懐に忍ばせた。
「さぁ、付いて来い。我らの研究所に向かう。」
「あぁ。」
ユーリはコンバットの後ろをついて歩いていく。そのころ離れた場所で待機していたアリア達は突如ユーリの魔力が感じられなくなったことに驚いていた。ジェマは急いで木を駆け上り、ユーリのいる方向へと目をやるすると昨日と同じ煙が上がっていることに気付く。
「野郎!煙幕でユーリを攫う気だ!」
「ユーリ君…。」
「急いで追うでござるよ!」
「うん!」
5人は先程までユーリとコンバットが会話していたところまで向かう。煙幕はすでに晴れているがユーリ達の姿は見えなかった。それに魔力を感じない。これでは探知して捜索することができない。
「ユーリ、一体どこいっちまったんだ?」
「ユーリのことだからやられたということはないだろうけど。」
「戦闘になった気配もなかったでござるからな。」
「となると自ら付いていったということでしょうか?」
「恐らく…。」
もしユーリがコンバットとの会話で何かがあったとして付いていくとしても何も痕跡を残さないはずはないだろう。アリア達は必死で何か痕跡がないのか探すのであった。
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