第二十ニ話 王女と《勇者》
一旦、落ち着こう、フー。よし、今彼女は第一王女と言ったよな間違いなく。そんな彼女が俺達に果たして何のようなのだろうか。ここはストレートに聞いてみることにしよう。
「それで王女様が俺達にどのようなご要件でしょうか?」
「そんなにかしこまらなくてもいいですよユーリ。あなたとはほんの少し前まで力を尽くし戦った仲ではありませんか。」
戦った…仲?王女様と戦ったことあるのか?最近戦ったといえば魔族か【D・B】だけど…あっ、もしかして…俺は正体不明の《紫》クラスのフードの少女を思い出した。
「もしかして《紫》クラスの?!」
「はい。やっと気付いていただけたようですね。」
《紫》クラスのフードの少女はなんとびっくり、我がセルベスタ王国の第一王女でしたー、、、って素直に受けいられるかい!まったく気づかなかった、というか気にも止めなかった。ずっと不思議な感じはしていたけど疑問に思ってもそんなものかと流してしまっていた。
「シャーロット様、そろそろ本題に入りましょう。」
「まずは、エレオノーラ様に心より謝罪を。」
そういってシャーロットは頭をエレナに向かって下げた。
「そ、そんな頭を上げてください。それに何のことなのか…。」
「イヴァン・アレストールが王の名を借りスカーレット家に対して脅しを掛けていた件についてです。あのような命は王から出されておりません。」
「そうだったんですか。」
「聖騎士祭も彼の提案によって行われることになりましたが、まさか魔族と手を組みあのような事態になるとは…。」
やっぱりそうだったか、元々不自然な点はあった。わざわざそんな脅しのようなことをしなくても魔王討伐という名目であれば協力をしてくれるだろう。おそらくイヴァンがエレナの《勇者》の力を手元に置いておき利用しようとでも考えていたのだろう。だから他国には秘密にして戦力にするとエレナには説明していたんだな。それに聖騎士祭というイベントを起こし自分の出世のために利用しようとしたが、そこを魔族に狙われたというのが今回の件の真相だ。
「私達も彼に全てを任せきっていた責任があります。なので謝罪をさせていただきたいと。本当に申し訳ありませんでした。」
「いえ。それに結果的に聖騎士祭は優勝できましたし…素敵な仲間にも出会えました。なのでもう構いません。」
「そう言っていただけると助かります。」
まあ、その約束をしたイヴァンがすでに副団長ではないのでそんな権利はすでにないとは思うがはっきりと王家の方からお墨付きをもらえたのはエレナの安心にも繋がるだろう。
「それとここからが皆さんをユーリ、リーズベルトさんもお呼びした理由になるのですが、皆様にお願いがあるのです。」
「お願い?」
「そのためにまずは他国の情勢からお話しましょう。現在、打倒魔王に向け各国の協力体制を整えています。セルベスタ王国を含め同盟国は4国なのですが、我が国を含む3ヶ国が魔族の襲撃を受けました。我が国は騎士団長や皆さんのおかげでなんとか討伐できましたが、2カ国は残念ながらほとんどが壊滅状態です。」
「えっ…。」
「そんな…。」
魔族は我が国だけではなく、他国にも同時に侵攻していたということか。それに壊滅状態とは………。
「幸い死傷者はほとんどいないようですが、再建には時間がかかるでしょう。それにさてここからが本題です。」
「はい。」
「皆様には私と《勇者》を探して欲しいのです。」
「《勇者》を探す?」
「はい。魔族が表立って侵攻してきている以上一刻も早く、《勇者》を集めなければいけません。そのために皆さんのお力を借りたいのです。」
なるほど。たしかに伝説の上では6人の勇者が魔王を倒したとあるわけだし、全ての《勇者》で強力する必要がある。しかもこんな状況である以上またいいつ魔族が襲ってくるとも限らないし戦力を整えることが優先事項だろう。断る理由もない、喜んで協力させてもらおう。
「もちろん。協力させていただきます!」
「私も《勇者》として役割を果たしたいと思います。」
「わ、私も皆の力になりたいから!」
「皆さんありがとうございます。」
「それで《勇者》の場所はわかっているの?」
「ここにいる3人、有力な情報のある2人、最後の1人はまったく情報がない状態です。」
わかっているだけで5人ということか。年代も能力を授かる場所もバラバラなのにそれだけわかっただけでも上等だろう。…うん?今ここにいる『3』人って言ったのか?
「ここにいる3人?」
「はい。エレオノーラさん、ユーリ、そして私です。」
「えっ?王女様って《勇者》なんですか?」
「はい。王女ということもありますが、ずっと認識阻害のローブを被って気づかれないようにしていましたから。クラスでも大人しくしていましたし。」
そういうことだったのか、だからずっとフードを被っていたんだな。言われてみればあまり追求しようとか深く疑問に思わないようにしていた。というより、認識阻害でそう思わされていたというのが正しいな。今なら初めてエレナと会った時の様な《勇者》同士特有の不思議な感覚もする。
「なるほど。《勇者》の感覚を持ってしてもわからないとはすごいローブなのですね。」
「とても腕のいい鍛冶職人に作って頂きましたから。それに何重にも魔法をかけていますから、間違いなく世界で有数の魔法道具でしょう。」
なるほどそれは判別が付かないわけだ。でも向こうは《勇者》だということがわかるから、俺が《勇者》だと気付いたってことか。エレナが《勇者》ということは知っていただろうし、その時に《勇者》同士は判別できるということに気付いていたのだろう。だがここで一つ問題に気付いてしまった。
「王女様。非常にいいにくいのですが…。」
「何でも言ってください。それと私のことはシャーロットで構いませんし、言葉を気を使っていただかなくて結構です。これからは協力していく仲ですから。」
「ありがとう。シャーロットたしかに俺は《勇者》なんだけど、俺は《7人目の勇者》なんだ。」
「《7人目の勇者》?」
俺は《7人目の勇者》を授かるまでの経緯と魔族との戦いの中で女神様と会話したことを話した。
「事情は大体わかりました。ということは…」
「そう。現在判明している《勇者》は6人ってことだ。あくまでガセじゃないという前提ではあるけれど。あともう1人まったく情報がない者がいる。」
「わかりました。それではあとの二人の情報はこちらで調べさせましょう。カルロス!」
「はっ。承知しました。」
そういうとカルロスは席を立ち、部屋から出ていった。そういえばシャーロットは何の勇者なんだろうか。
「ところでシャーロットは何の《勇者》なの?」
「私は《剣の勇者》です。あらゆる剣を使いこなすことができます。」
なるほど《剣の勇者》か。だからあんなに凄い剣技だったのかな?《紅蓮の勇者》に《剣の勇者》、そして《7人目の勇者》ね。うーん特に共通するようなことはなさそうだな。《勇者》探しのヒントになったらと思ったんだが。
「とりあえず、本日はここまでにしておきましょう。詳しいことは日を改めてお話するということで。皆様お疲れでしょうし、お送りいたします。」
「そうだね。」
「なんだか、色々ありすぎて頭が混乱しそうな所だったよ。」
俺達は来るときにも乗った豪華な馬車で屋敷まで送って貰った。もう後夜祭も終わっている頃だろうしな。俺は屋敷に着くとすぐに寝てしまった。翌日俺が起きると客が来ているとユキさんから言われた俺は急いで準備をし、客間へと向かった。客間にはすでにアリアとマルクさん、ユキさんが揃っていた、あとエレナもいるみたいだ。客というのはディランとあの獣人の少女であった。だが彼女の格好は前回会った時に比べて良くなっている。
「やあディラン。今日はどうしたんだ?」
「ああ。折り入って君達に頼みがあるんだ。彼女をこの屋敷で雇って貰えないだろうか。」
「彼女を?」
「実は…」
ディランの話を要約すると、父親であるイヴァンのせいでアレストール家はかなりの罰則があったようだ。貴族の権利は剥奪されなかったが、財産は全て今回の件による負傷者などの治療費に当てられることになり屋敷も売り払うことになったそうだ。使用人は知り合いの貴族に雇って貰うことができ、ディランは学園の生徒なのでこのまま寮に居続けるらしいのだが、彼女だけが行く宛がなく困っているとのこと。エレナは前にも軽く説明したがまだディランのことを許してはいないようだ。
「以前は本当に酷い場面を見せてしまって、申し訳ない。余裕がなくて無理に暴行をしてしまったのだが彼女を死なせまいとしたからなんだ。」
「それはどういうことですか?」
「君達はどうやって奴隷にさせられるか知っているか?」
「契約魔法によって奴隷契約を結ばされると聞いたことがあります。契約を結ばされた者は体に奴隷紋が刻まれ、契約主には逆らえない。」
「その通りだ。元々彼女は私の父が任務先で拾ってきたんだ。彼女の住んでいた村は魔物さらには盗賊に襲われ、全滅していた。そんな中で唯一生き残っていた彼女を連れて帰ってきたのだが、彼女の体には奴隷紋が刻まれていた。」
なるほどその頃のイヴァンはまだ今ほど悪い奴ではなかったんだな。それで可哀想な彼女を引き取ったはいいが奴隷だったというわけだ。
「しかし、彼女の奴隷紋はまだ契約が破棄されていない、これは彼女を奴隷にした者が生きているということだ。ここで問題があるのだが、奴隷は契約者が離れると自害するんだ。」
「自害だって…、でも彼女は?」
「そうだ。彼女には父が無理やり奴隷紋に魔法を掛けて、仮の契約者となることで繋ぎ止めてなんとか自害をしないようにしているんだ。今はそれを父から引き継いで私が仮の契約者なのだが、少しでも遠くに離れられると自害してしまう。それに彼女は言葉が上手く通じないときがあるんだ。まだ幼く村で育った経緯からかこの辺とは少し言語が違うようで…以前は彼女が私から離れてしまいそうで注意したのだが、危なかったのでなりふり構わず強く当たってしまったというわけだ。」
「なるほど、そういう事情があったんだな。」
「だが、私の扱い方は褒められたものではなかったな。スカーレットが止めてくれてよかったと思う。本当にすまなかった。」
そういうとディランは深くエレナに頭を下げる。エレナもそんなディランの姿をみて許す気になったようだ。
「わかりました。以前のことは許しましょう。」
「ありがとう。それで屋敷のこともあり彼女を預ける必要があるのだが、信頼できる君達にお願いしたいんだ。頼む。」
まだ幼く家族もいない。そんな可哀想な彼女を放っておくことはできない。それはアリアも同じ考えのようだった。
「わかった。うちの屋敷で雇おう。」
「うん!大歓迎だよ!」
「マルクさんとユキさんもいいかな?」
「私共はユーリ様とアリア様のご意思に従います。」
こうして俺達は新しく獣人の少女を家族に迎え入れることになった。そういえばまだ名前も聞いていなかったな。
「君の名前を教えてくれるかな?」
「シロです。」
「そっか。これからよろしくねシロ!」
「…はい。」
シロの返事は弱々しく、不安そうであった。
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