第二百十四話 雷霆の覚醒
「アリア!『魔力供給』を!」
「わかったよ!アザミ、手を握って!」
「はい!」
アリアはアザミの手を握り魔力を吸収する。その魔力はまだ拙いという感じがしたが確かな強い意志を持っているとも思った。そしてユーリに向けて魔力を供給する。アザミの魔力を受け取ったユーリは《雷霆の勇者》の力を引き出す。髪の色は黄色く変化し魔力は空気を劈くようであった。
「よし!これで『雷撃一閃』を最大火力で叩き込める。アザミは下がっててくれ!」
「はい!頑張ってください!」
ユーリは鞘に納めながら《雷霆の勇者》の魔力を《聖剣クラレント》に込める。デリラ、ウール、ジェマの三人が懸命にワメリの相手をして時間を稼いでくれている。全力を出すにはもう少し時間が必要であるためなんとか持ちこたえて欲しいと考えていた。『魔力供給』で《雷霆の勇者》の力を引き渡したアリアもデリラ達の加勢に入る。
「『龍の鉤爪』!」
「『水の球』!」
「『砂漠の刃』!」
デリラ、ウール、ジェマの三人はワメリに向けてそれぞれ魔法を放つ。しかし相手の防御力を突破することは難しい。デリラの剣は素手で受け止められ、ウールとジェマの魔法は身体に当たるが弾けてしまう。やはりユーリの本気の一撃でなければ倒すことはできないと考えていた。一方でワメリはユーリが何かをしていることに気付いているが三人の相手をしている。どうしてかはわからないがこちらとしては好都合であった。
「しかし、まったく効かないとはな。」
「いや、奴にも何か弱点があるはず。」
「うーん…。」
デリラは何かを掴みかけていた。先程から幾度となく攻撃を仕掛けているが、どこか違和感を感じる部分があるのだ。《副技能》である直観がそれを教えてくれていた。すると何かを閃いたといった顔をしていた。
「わかった!」
「デリラ何がわかったんだ?」
「あいつ多分防御にバラつきがあるんだよ!いくら『身体強化フィジカルブースト』で全身を強化したり鍛えていてもバランス良く鍛えるのは難しい。僕の大剣は必ず拳か腕で止めているし。」
ウールはデリラが斬りかかった時のことを思い出す。たしかに最初のユーリとデリラの攻撃も拳で防いでいた。あれは向こうから攻撃してきていたからそうだと言えばそうなのだが、先程のデリラの攻撃も魔法を発動するまでもないにしろ手を使っていた。魔法の攻撃には無反応であったのに。
「なるほど、そういうことか。」
「でそれがわかったからってどうすんだよ。」
「デリラとジェマはそのまま相手をしていてくれ。僕はユーリにこのことを伝えてくる。」
ウールはユーリに向かっていく。そして入れ替わるようにアリアがデリラとジェマのサポートに入る。
「『聖なる光円』!」
「『龍の鉤爪』!」
「『砂漠の刃』!」
「『力の衝撃波』」
《聖》属性であるアリアの魔法もやはりあまり効果がない。《上位序列》魔族ともなると自分たちの弱点である《聖》属性の対策くらい当然している。ましてや今のワメリは四天王のバリオンなのである。生半可な魔法では到底及ばない。三人は『力の衝撃波』によって吹き飛ばされる。そこに準備ができたユーリとウールが走りこんでくる。
「よし!ウールいつでも行けるぞ!」
「OK!」
魔力を込め終わったユーリはウールの後ろに続いて走り出す。二人が何をしようとしているかはわからないが、三人は再びワメリの気を逸らすために魔法を放つ。
「『砂漠の刃』!」
「『龍の突撃』!」
「『炎の矢・三重』!」
しかし三人の攻撃は時間稼ぎにもならず吹き飛ばされる。ワメリはウールに向かって大きな拳を振り下ろす。ウールは吹き飛ばされ、続けてユーリにもその拳が襲い掛かる。しかしワメリが攻撃したユーリはウールの魔法によって作り出された分身であった。本物のユーリはすでに背後へと回り込んでいたのだった。ユーリは鞘から《聖剣クラレント》を引き抜き斬りかかる。
「『蜃気楼ミラージュ』!決めろユーリ!」
「うぉぉぉ!!!『聖剣・雷撃一閃』!!!」
「ウォォォォォ!!!!!」
ウールが思いついたことそれはバリオンの身体のなかで最も強化のしにくい部分である背中を攻撃することである。正面ではないため攻撃が見えにくく当たる瞬間に防御がしにくいと考えたのだ。実際にそれは当たっていてバリオンの身体は左脇腹から右斜め下までざっくりと斬られ上半身と下半身が真っ二つになっていた。すると幻のようなバリオンの姿が消えて片腕を抑えたワメリの姿が見えた。傍にはワメリの物と思われる左腕が落ちている。
「まさかここまでやるとは。」
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
ユーリは魔力を使い果たし元の姿に戻ると片膝を地面につける。ワメリは落ちた左腕のところまで歩いて行くとそれを拾い上げる。そして切れた左腕に近づけると瞬く間に接合された。感触を確かめるように軽く動かす、そして頷くといつものようにヘラヘラとした様子で口を開き始めた。
「さて、はやられてしまったようですが私達の目的は達成することができましたのでそろそろ帰るとしましょう。」
「な、何だと!」
シャーロット達が相手をしていた魔族の魔力はなくなっている。恐らく皆んなで倒すことができたのうだろう。そして俺は足に力を入れて立ち上がる。他の皆んなもまだ戦えるといった様子だ。
「あちらを見ればわかると思いますよ。」
「皆!それに師匠!」
そういうとワメリは消えた、いや騎士団長達が戦っている長髪の魔族の方へと移動したのだ。何か異変を感じた俺達はそちらに目を向ける。するとそこには騎士団長達と先程男の魔族を相手にするため分かれたシャーロット達、それに師匠が倒れていたのであった。
◇◇◇◇
真っ先に飛び込んだブランシェとオリバーはすぐに違反を感じとり距離を取った。先ほどの攻撃は何かがおかしかった、いや原因ははっきりしている。魔力がなくなったのだ。
「ブランシェさん。」
「間違いにゃい。あの亜剣にゃんとかは魔力を断ち切っているんだにゃ。」
「魔力を断ち切るだと?」
「僕達が魔法を発動して近づいた瞬間、あの剣が振るわれました。それに気付いた僕達は斬られる前に距離を取りましたが一瞬魔力を感じなくなりました。」
「信じられん。そんな剣が存在するのか?」
アッシュの持つ《亜剣レヴナント・ブレード》は近づく者の魔力を断ち切る能力がある。剣を振えば魔力を断ち切り一瞬ではあるが無防備な状態になってしまう。ブランシェやオリバーは元々の能力が『身体強化』系統の能力であるが故にすぐに自らの異変に気付き距離を取ることができたのである。
「なるほど。ではこういうのはどうかな『炎の矢・十重』!!!!!!!!!!!」
「ではワシは『炎竜精霊の息』!」
『身体強化』に影響が出てしまうのであれば遠距離からの魔法はどうだろうと考えたセドリックは『多重展開』を全快で魔法を放つ。アルフレッドはセドリックとは別の観点から魔法を放った。《精霊》の力を使用した魔法である。本来であれば《精霊》を召喚して魔法を使用するのがアルフレッドのスタイルであるが魔力を断ち切るという《亜剣レヴナント・ブレード》が《精霊》に対してどのような効果があるかわからなかった。そのために召喚するのではなく魔力だけを借りて魔法を放ったのだ。こうすることで威力は劣るものの《精霊》の魔法と同等の効果のある魔法になる。
「…シッ!」
しかしどちらの魔法もアッシュは簡単に斬り伏せた。なんてことはなくただ剣を一振りしただけで『多重展開』の十重と《精霊》魔法を消し去ったのだ。そのような効果のある《魔剣》や《聖剣》は存在しない。
「これはかなりヤバそうだにゃ。」
「ワシらの魔法も効かないとなるとクリスとセシリアもダメじゃろう。」
「だが、恐らく奴は魔力が使用できないはずだ。じゃなければあの剣を扱うことができないだろうからな。」
「だから魔力が感じないんですね。」
魔力を断つ剣などは魔法使いにとってみれば天敵以外の何物でもない。常に魔法を使用できない状態でいるというのは考えるだけでぞっとしてしまうほど今の人間族は魔力に依存している。そのため使用者本人も魔力を使用できず魔法は発動できない。だからアッシュからは魔力を感じることができないのだろう。
「あとはセシリア君の《聖剣》が通じるかどうか。」
「魔法なしでぶっ潰せばいいだけの話さ!」
残されている手はセシリアの《聖剣ガラティーン》が通用するかどうか、でなければ生身で戦う必要がある。クリスは後者を選択し、大剣を引き抜くと真っすぐにアッシュの方へと向かっていく。魔法がなくとも剣術だけでクリスやセシリアは並のレベルではないのは間違いないのだ。
「おらぁ!」
「クリス団長に続く!ブランシェ!オリバー!」
「わかってるにゃ!」
「はい!」
クリスの後を追いかけるようにセシリア、ブランシェ、オリバーもアッシュに向かっていく。しかしアッシュの目にも止まらぬ速さについていくのがやっとでなかなか攻撃が当たらない。するといつの間にか背後に回っていたアッシュにクリスとオリバーは斬りつけられたのであった。
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