第二百十三話 三位一体
『悪魔解放ウェパル』を使用し魔物に近いような姿になったリーモの影響で『炎の空間フレイム・ルーム』は消されてしまった。恐らく発動してもすぐに消火されてしまうとエレナは考えた。これで瞬間移動を封じる術はなくなってしまったのだ。
「ウォォォ!!!」
「うわぁ!」
「コータ!『炎の槍・三重』!!!」
「『悪魔の大波』!」
リーモはコータの背後に移動して吹き飛ばす。即座に反応したエレナは『炎の槍』を放つがリーモが起こした大波によって消される。それどころか皆んな巻き込まれてバラバラに流される。この状況で離れるのは不味いと考えすぐに近くに集まった。
「くそっ!」
「なんという質量なんでしょうか。」
「攻撃もままならないとは…。」
周囲には水が溢れており、リーモの瞬間移動も封じれなくなってしまった。エレナはコータを蒼い炎で治療しながらあることを考えていた。先ほどの攻撃、コータが吹き飛ばされて自分が放った魔法。これまでのリーモならば再び瞬間移動をして簡単に回避していただろう。しかし先程は魔法を使って回避しており瞬間移動を使わなかった…いや使えなかったというのが正しいのではないだろうかと。
「先程のリーモの動きには違和感がありました。これまでは何度も連続で瞬間移動していましたが、先程コータを吹き飛ばした後、私の魔法は瞬間移動ではなく魔法で消されました。」
「つまり今のリーモは連続して瞬間移動を使えないってことが言いたいのかい?」
「はい。まだ確証はありませんが…」
「いや、試す価値はある。俺が囮になる援護を頼む!『雷身体強化』!」
ディランはエレナの仮説を証明するためにリーモへと突っ込んでいく。『雷身体強化』を使用しているためディランのスピードにリーモは瞬間移動をしなければ付いてこれないはずである。もし連続して使えないのであればまた魔法でこちらの動きに対処してくるはずだとディランは考えた。
「くらえ!」
「遅い遅い!」
リーモはディランの攻撃を回避し瞬間移動で背後へと回る。そして腕を振り下ろした。
「『魔法弾・貫通』!」
「グッ!小癪だなぁ!『悪魔の水爆』!」
カルロスの攻撃によりリーモの腕は弾かれる。しかし大したダメージにはならず、リーモは皆の周囲の水を爆発させた。やはりリーモは連続して瞬間移動をすることができないようだ。だが生半可な攻撃では奴にダメージを通すことができない。
「瞬間移動はなんとかなりそうだが問題は攻撃の方だな。《聖》属性持ちがここにいない以上圧倒的な攻撃力で核ごと吹き飛ばすしかないだろう。」
「僕に考えがある。ディラン、エレナ三人で『合体魔法』をするんだ。」
「さ、三人でですか?」
「炎属性の攻撃力、雷属性の貫通力、風属性の敏捷力を合わせればあいつを倒せる魔法ができるはずだ。」
コータの提案はたしかに筋は通っているが簡単にできるものではない。三人で『合体魔法』を成功させた例は少なくとも色々な知識のあるエレナですら聞いたことがなかった。それに難しさも二人よりも跳ね上がるだろう。だけどもしできたら確実にリーモを倒すことが出来るだろう。
「わかりました。やりましょう。」
「じゃあ…時間稼ぎは…任せて。」
「私とフルーで相手をします。カルロスはコーデリアとサポートを。」
「わかりました。」
シャーロットはリーモへと向かっていく。《魔眼》を使い慣れてないことと元々そんなに魔力が多くないことからこれ以上使用するのは限界がある。なのでこの攻撃に全てを賭ける。
「『千の突き』!」
「『悪魔の水壁』」
「なっ!」
しかしリーモは水の壁をでシャーロットとの間に出現させる。瞬間移動を使わせた直後に三人の魔法をぶつけなければ瞬間移動で避けられてしまう可能性がある。なんとかギリギリまで追い込む必要があるのだが、シャーロットの攻撃は通らなかった。そして水の壁を越え、フルーがシャーロットに続き飛びかかる。
「『嵐の衝撃』!」
「『悪魔の水爆』」
「『水魔流失』!」
「何ィ!クソッ!」
フルーの攻撃はリーモの魔法によって防がれそうになるが、コーデリアの魔法によって発動しなかった。周囲にはコーデリアが発生させた水をあらかじめ撒いてあったのだ。リーモとコーデリアどちらが発生させた水か見た目ではわからないが、コーデリアは自身の《副技能》によって知覚できた。その水を使用しリーモの魔力を消失させたのだ。何度もできる技ではないが、一瞬の隙を作ることができた。そしてリーモはフルーの拳があたる直前に瞬間移動を使用した。カルロスはこのタイミングを待っていた。
「『魔法弾・拘束』!」
「しまった!動けない!」
「今です!」
カルロスによってリーモの動きは封じられている。この瞬間を逃すまいとエレナ、ディラン、コータのっ三人は魔力を集中させる。
「『炎の槍』!」
「『雷の槍』!」
「『風の槍』!」
「「「『合体魔法・三位一体の超槍』!!!」」」
「グワァァァァァ!!!!!」
三つの属性が組み合わさった槍はリーモの身体を跡形もなく吹き飛ばした。元々それぞれ『合体魔法』を成功させたことがあるとはいえ三人で成功させたのは初めてだった。基本の槍魔法ではあるが合わさった魔法『三位一体の超槍』は攻撃、貫通、速さを兼ね備えた一撃となった。コータの考えは正しかった。
「やりました!」
「ふぅ、なんとかなったね。」
「凄いよ皆!三人で『合体魔法』成功させるなんて!」
「喜ぶのは後にして、早く他の皆さんの加勢にいかないと。」
「そうだな。…!?」
「どうしたディラン?」
「騎士団長達の魔力を感じない…。」
「えっ!?」
ディランは他の二人の魔族との戦闘に加勢しようと魔力を探る。ユーリ達の方はまだ戦闘しているようで魔力のぶつかりを感じる。しかし騎士団長達の方の魔力を感じ取ることが出来なかった。すぐに他の皆も魔力を探知するがやはり騎士団長達の魔力を感じることが出来ない。生死がわからない状態である。ユーリ達もまだ戦っているようだが、魔力を感じることができない騎士団長達の方に加勢に行った方がいいとシャーロットは考えた。騎士団長達が全員やられたというのは考えにくいが一刻も早くそちらに駆け付けることにした。
「ユーリ達には頑張ってもらって一刻も早く騎士団長達の元に行きましょう!」
「明らかに普通じゃない。」
「皆無事でいてください!」
シャーロット達は騎士団長達の元へと急いだのであった。
◇◇◇◇
ユーリは最も攻撃力のある一撃をバリオンの姿をしたワメリへと放つしかないと考えていた。攻撃力という点だけでいえば現状最も高いのは《勇者》の力を使っていない状態での《聖剣クラレント》を使用した『雷撃一閃』である。《剣の勇者》の力と《聖剣》の相性は良くない。以前シャーロットが《聖剣》を使える気がしないと言っていたがあながち間違いではないのだ。今だからその理由がわかるが《剣の勇者》の力はあくまでも剣というものを使用した能力の特化なのであって《聖剣》でなくてもいい。だからこそ《聖剣》を最大限活かすことはできないのだ。
(下手に《勇者》の力をしようするよりも魔族相手には《聖》属性をぶつけることのできる《聖剣》を使用する方がいい。)
「アリア!」
「わかってる!『聖なる光』!」
アリアは先程からワメリに向けて《聖》属性魔法である『聖なる光』を放っている。しかしほとんどダメージが入っていない。恐らくバリオンの得意魔法である『身体強化』による肉体の強化の方が勝っているのだ。『聖なる光』は《聖》属性の魔法というだけで攻撃力が高い魔法ではない。それ故にバリオンの防御力を突破できないのである。やはり《聖剣》による一撃を食らわせるしかない。
(せめて雷属性魔法の強化ができれば…そうか!)
ユーリはあることを思い出す。この場には《雷霆の勇者》であるアザミ・ト二トゥルスがいるということ。彼女はまだ魔法を覚えたばかりで戦力にはなっていない。皆が怪我をした時に介抱をするサポートとしてこの場にいるが、もし彼女の《雷霆の勇者》の力を使用することが出来れば『雷撃一閃』をさらに強化することができるかもしれない。
「アザミ、今こそ君の《雷霆の勇者》の力が必要だ。」
「えっ、私ですか?」
「そうだ。あの魔族を倒すにはどうしても必要なんだ。」
アザミはこれまでに戦闘経験を積んでいるわけでもないし魔法だって最近覚えたばかりで自分が戦えると考えてはいない。しかし彼女は自らの役目である《雷霆の勇者》という立場から逃げようとは考えていなかった。むしろ選ばれたからには何か意味がある。だからユーリ達の協力することにした。アザミは覚悟を決めた。
「私やります!」
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