第二百十二話 瞬間移動
ワメリ達が王都周辺に襲来する少し前のこと―――
《魔王》の部屋で円卓に座っている四天王と《序列魔族》達、正確にいうならば《上位序列魔族》の面々は来たる《魔王》復活のために協力体制をとることにし、立場を平等にという意味のあるこの円卓という場所に座って。議題はもちろん《魔王》の復活についてである。
「ワメリ、現在の状況を皆に共有しろ。」
「はい。現在《魔王》様復活のための魔力収集率は50%といったところでしょう。このペースでいくならば、あと100年ほどかかる計算になります。」
「ちっ、《勇者》は着実に集まってるというのに。何故こんなにも魔力の集まりが悪いのだ。」
イモータルは苛立っていた。そもそも《魔王》が封印されたのは700年以上前のことである。それを考えるならば半分以上残っているにも関わらず、残り100年で50%を集めることができるのならばこれまでのことを考えれば十分早い方である。だが《勇者》の力が揃いつつある今、一刻も早く《魔王》を復活させなければならないとイモータルは考えている。100年もかけている暇はないのだ。
「だがよぉジィさん。そもそも《魔王》様を復活させる必要あんのか?今から俺達が《勇者》をぶっ殺したまった方が早いんじゃねぇか?」
「口を慎みなさい。ブレイズの坊や。」
「あぁ!?んだとババア!」
「まあよいグレモリー、平等なのがこの円卓という場だ。ブレイズその疑問に答えてやろう、《勇者》を殺してもまたすぐに新たな《勇者》が現れるだけだ。それに《魔王》様の封印を解くにはどの道、多くの魔力を必要とする。《勇者》が出てくることで人間族の魔力は何故か高くなる傾向にあるようだからな。それがここ数百年でわかったことだ。今が最も魔力を効率的に集めることが出来ている。」
「だから泳がせておけってことかよ。へいへいっと。」
多くの人間族がここ数百年で力を付けてきている。それは間違いなく《勇者》が関わっているに違いないとグレモリーは考えていた。実際その予想は当たらずとも遠からずである。周知の事実というわけではないが《魔王》を倒したいと考えている女神が《勇者》以外にも強力な能力を人間族に授けているのは事実である。例えばアリアの《大賢者》の様な。それに騎士団長達やユーリの友人など通常の能力者も《勇者》の近くにいることでその影響を間違いなく受けており確実に強くなっている。
「バリオン様は精力的に魔力集めをしてくださっていたのでいらっしゃればもう少し年数を縮めることができたと思いますが…。」
「ふん、私達はそれぞれ集めていたわよぉ。あなた達《序列魔族》はそうでもなかったみたいだけどぉ、何か別のアプローチをしていたのではなくて?」
「もちろんでございますグレモリー様。我々は人間族への工作それとメインとしては《魔王》様の衣服を使用して魔力を集めておりました。ですが現在は《勇者》側の人間に奪われております。」
「それで?」
「あれは手元にあるだけで魔力を集めることができるのですでに相当の魔力が溜まっているかと。」
人間族対立派の獣人族に《迷い人》の衣服を渡したのはワメリであった。ワメリは獣人族に《迷い人》の衣服を渡し、その影響で獣人族の性格を粗暴にし効率よく魔力を集めようとした。戦闘が行われれば多くの魔力を回収することが出来るからだ。そして《迷い人》の衣服それ自体にも魔力を回収する能力があり、仮に獣人族から他の者の手に渡ったとしても目的を果たすことはできるのだ。
「それを回収しようというわけだな?」
「はい。私とリーモで行って参ります。」
「…俺も行こう。」
「アッシュ様に来ていただければ確実でしょう。」
イモータルとグレモリーは驚きを隠せなかった。ほとんど自発的に動くことはなく四天王の中でも何を考えているのか一番わからないアッシュが自主的に回収の仕事をするといったことに。だが彼も出るということは確実に魔力の回収をすることはできる。後はその他の準備を進めなければとイモータルは考えていたのだった。
◇◇◇◇
エレナはリーモの地下水脈を使った瞬間移動を攻略する方法を思いついた。それを皆に共有する。
「なるほど、たしかにそれなら反応できるかもしれません。」
「この方法ならシャーロット、ディラン、フルーなら反応できると思います。他はその三人の援護をメインで。コーデリアは三人以外の保護をお願いします。」
「…わかった。」
「任せてよ!」
「ではいきます!『炎の空間』!」
エレナはリーモを除いた自分たちの周りを炎の部屋で囲った。『炎の空間』という魔法の範囲の大きさはそこまでではないが、正方形に炎が燃え盛っており体温が徐々に上がっていくのがわかる。
「それで僕が近づかなくなるとでも?無駄なあがきだね。」
「やってみなければわからない。」
「いくら僕が魔族の中でも温厚な方だといっても舐められたらムカつきもする。」
「ベラベラと喋る奴だ。」
「他の魔族の前だと喋れないのか?」
ディランとコータはリーモを煽り攻撃を誘う。『炎の空間』の中にいる自分たちの元へと誘っているのだ。実際リーモはとても静かな魔族だと思っていたが、ワメリ達と離れ一人になった途端に口が軽くなる。それほどまでに魔族の中で《序列》というのが大事なのだろうかとディラン達は思った。リーモは今最も低い立場にあり魔族の中でも発言権がなく静かにしていることが多い。その鬱憤が溜まっていることもあって、煽りとわかっていながらもまんまとそれに乗っかってしまったのだ。リーモは姿を消すとディランの後ろへと回り込む。しかしディランはそれに反応し拳を放つが避けられる。
(コイツ…今反応したのか?)
リーモは自らの瞬間移動に反応されたことに驚いたが、まぐれだと思い次はすぐ隣にいるシャーロットに向かって攻撃を仕掛けた。シャーロットはリーモの姿が現れる瞬間には動きリーモへと斬りかかっていた。
(魔眼はまだ上手く使いこなせませんが…ここ!)
「ぐっ!」
シャーロットはリーモが出現した瞬間に斬りかかった。リーモは即座に瞬間移動で回避したが、腕にかすってしまった。またも瞬間移動を捉えられてしまった。一体何が起こっているのか。もう一度仕掛けようと思い今度はフルーを狙う。まぐれはそう何度も続くわけがない。
「『嵐の衝撃』!」
「アグッ!」
「今だよ、ディラン!」
「『電磁砲』!」
「グワァァァ!!!」
しかしフルーもリーモの瞬間移動を予測しており姿が現れたと同時に『嵐の衝撃』を叩き込む。この魔法はブランシェとの戦いの中で自分に足りない部分を考え覚えた魔法である。普段使用する『風の拳』は拳の周りに風を纏わせる魔法であり相手を殴りつけた時に風を攻撃に使用しつつ拳の防御にもなっている。その分破壊力は下がってしまう。しかし『嵐の衝撃』は掌から触れた相手に直接風を纏わせた衝撃を叩きこめるのでその分防御をすることはできないが攻撃力は上がる。ブランシェに皆と同じようにならなくていいと言われたアドバイスから改めて自分の戦闘スタイルを見つめなおした。
(私は接近戦が得意なんだからブランシェさんみたいに一撃が重い攻撃魔法を使う方が合っている。エレナやディラン、コータみたいに色々できないとダメって勝手に思ってたけど『風の見切り』は回避の魔法なんだから防御は捨てても良ければいいんだ。)
フルーは元々かなり戦闘センスがある。周りの魔法力に圧倒されて気付いていないが、そこらの騎士団員よりも数段強い。魔法もそれなりに使えるのに周囲に流され戦闘スタイルまで流されてしまっていた。そこをブランシェとの戦いで思い知らされ自分なりの回答を出すことができたのだった。
「やったか?」
「いやこのくらいでやられるなら苦労はしない。来るぞ!」
リーモは再び起き上がると瞬間移動を繰り返しながら再びこちらに近づいてくる。しかし『炎の空間』の中ではシャーロットの《魔眼》、ディランとフルーの反応速度には勝てない。エレナの考えた作戦はリーモが瞬間移動してくると周辺の温度の変化によって近づいてきたかどうかわかるというものだった。それに反応するのは並大抵の反応速度ではないがシャーロット、ディラン、フルーの三名ならば反応することができると考えた。結果リーモの瞬間移動そのものは封じられないが、攻撃を当てることには成功しているのだ。
「『嵐の衝撃』!」
「甘い!」
「『雷の剣』!」
「遅い!」
「『千の突き』!」
「グワァァァ!!!」
フルー、ディランの攻撃を瞬間移動によって回避できたが逃げた先にシャーロットが反応しておりリーモに『千の突き』で斬りつけた。三人の猛攻からは逃れることができなかった。冷静に判断することができればエレナや防御を固めているコーデリア達の方に瞬間移動し、攻撃すればこの作戦を封じることはできると気付けただろう。三人以外は瞬間移動には反応することができないからだ。しかし瞬間移動にここまで反応されたことがないリーモは冷静な判断を下すことができなかったのだ。そして、リーモは本気を出してここにいる全員を始末することを考えたのだった。
「『悪魔解放・ウェパル』」
「こ、これは?!」
「ディラン!」
「ああ、ボルナの時と同じだ。皆気を付けろ!」
リーモの身体の傷はみるみるうちに修復されていき全快した。身体は魚の鱗の様な物が出てきて細いという印象からむしろ太く大きいというように変貌した。周りの地面からは、水が噴き出し始め土には多くの水たまりが発生し地面はぬかるんでいる。ディラン達は足を取られ動きづらそうにしている。
「本気でお前たちを消してやる!」
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