第二百十一話 変幻自在&瞬水
ワメリの姿は俺が殺されかけた四天王の一人である“剛腕”のバリオンの姿へと変化した。ワメリの得意な『変身魔法』は見た目を変身させる魔法である。本来であれば魔力を変更させることができないため探知が苦手な相手や魔物などにしか通用しない。だがワメリは見た目だけではなく魔力そのものの質を変化させることができる能力なのであろう。実際にバリオンと対峙したことがあるからこそわかる。目の前でワメリの変身する姿を見ていなければ本物と見分けが付かないくらいのレベルである。
「『炎の槍・三重』!!!」
「『悪魔の水壁』」
俺が『炎の槍』をワメリに向かって放つと横にいる細い男の魔族が前に出てきて水の壁によって防がれる。魔法を放った時、瞬間的に魔力が跳ね上がった。こいつもかなりの強敵であることがわかる。当たり前だがワンダーよりも序列が上なのだから全力がこの程度のはずがない。だがこちらは数で勝っている。まずはとにかく分かれて戦う必要がある。
「シャーロット!エレナ!」
「わかっています!『四角突き』!」
「『炎の槍・三重』!!!」
「………。」
シャーロットとエレナは俺の伝えたい意図に気付き、細い魔族に向かって攻撃を仕掛ける。しかし二人の攻撃は当たらない。これでは引きはがすのは難しいか…そう思った次の瞬間に魔族の背後にディランが現れた。すでに『雷身体強化』で身体能力を底上げしていたのだ。その速さに対応できず魔族は後頭部に蹴りを食らい吹き飛ばされた。
「こちらは任せろ!」
「わかった!何人かは三人の援護を!他の皆は俺とワメリの相手をするぞ!」
「OK!」
「わかったよ!」
シャーロット、エレナ、ディラン、カルロス、コーデリア、コータ、フルーの7人は細い男の魔族を相手に。ユーリ、アリア、ウール、デリラ、ジェマの5人とサポートのアザミはワメリの相手をすることとなった。ワメリは特にそれを止める素ぶりは見せなかった。これでこちらの狙いである分断には成功した。魔族は基本的に協力して戦闘をしようとしないが例外はなくワメリもそのようだ。こっちとしてはそちらの方が助かるが、裏を返せば協力しなくても勝てるという自信があるということなのかもしれない。
「『力の拳』!」
「『龍の爪』!」
「『雷撃一閃』!」
ワメリは右手に魔力を込めて真っすぐにこちらに突っ込んでくる。そして右手を振り下ろす。俺は《聖剣クラレント》をデリラは背中の大剣を即座に引き抜きそれを真正面から受け止める。二人掛かりでも吹き飛ばされはしなかったが、どんどんと後ろに押されてしまっている。魔力と魔力がぶつかり合い周囲の地面にはひびが入っている。長くは持たない。
「ぐぅぅぅ!!!」
「はぁぁぁ!!!」
「『炎の矢・三重』!!!」
「『水の球』!」
俺とデリラが攻撃を受け止めている隙にアリアとウールが魔法で追撃する。しかしワメリの拳は止まらなかった。バッセとの会話でもバリオンのことを思い出したが奴は『身体強化』を得意魔法としていたように思う。だから『身体強化』何重にも発動しており、そのおかげで大した攻撃力のない魔法は恐らくダメージにならないのだろう。非常に単純ではあるがだからこそ厄介で強力な能力である。
「『砂の爪』!」
「『力の衝撃波』!」
「うわぁ!」
「ぐわぁ!」
「っつ!」
ジェマは追い打ちをかけるようにワメリに魔法を叩きこむ。しかし体は無傷でダメージを与えることはできていない。ワメリはさらに魔力を左腕に込めると地面に叩きつける。その衝撃で接近していた俺達四人は吹き飛ばされてしまった。
「まったく何て防御力なんだ。ただの『身体強化』じゃないのか?」
「魔族の使う『身体強化』が僕達が使用する『身体強化』違うのかもしれないね。」
「セドリック団長も言っていたけど常に『身体強化』を使用し続けてあの体になったんじゃないかな?普通の魔族と違ってかなり大柄だし。」
「その可能性はありそうだね。」
初めて会った時はまだ魔族についてわかってないことが多かったからあまり気にしたことはなかったが、アリアの言う通りバリオンは他の魔族に比べて明らかに大柄である。模擬戦の時のセドリック団長が言っていた常に使用することで身体を鍛えるということに近い事を恐らくバリオンもしていたのだと思う。倒されたとはいえ四天王の一人であったことには変わりないからな。
「でどうするよ?」
「俺の全力をぶつける。それでダメージが入らなければ恐らくダメージを与えることができないと思う。」
「わかった。僕たちはそのアシストってことだね。」
「アタシも行くぜ。」
「アシストは任せて。」
あの時よりも俺達だって成長している。俺の全力でワメリを…いやバリオンを叩きのめす!
◇◇◇◇
魔族を吹き飛ばしたディランはそのまま追い討ちをかけようとさらにスピードを上げて背後に回ろうとする。しかし魔族は一瞬で姿を消し、離れた距離へと移動した。ディランは今の動きに何か不審な点を覚えた。ただ動いて移動したというよりは目の前から消えて突如遠くに現れたという感じでだった。だが何か魔法を発動したような兆候は見えなかった。
「気を付けろ。奴は何か移動に関する能力か魔法があるぞ。」
「瞬間移動ということでしょうか?」
「恐らく…。」
細い魔族の男は大きな溜め息をつくと何かをぶつぶつと呟き始めた。ディランは先程移動した瞬間に魔力が跳ね上がった気がしたが、また元の魔力に戻ったと今は感じていた。あの白髪の男は魔力をまったく感じないという能力か何かかのだろうが、この男は普段は魔力を抑えているのだろう。
「あんなに相手にしないといけないなんて聞いてない…。はぁ…。」
「おい、お前!《上位序列》魔族だろう?」
「…僕は《序列六位》"瞬水"のリーモ。」
細い男の魔族は《序列六位》"瞬水"のリーモと名乗った。《序列六位》ということはワメリ・ミームよりは下であるということだ。しかし《上位序列》の魔族であることは間違いない。こっちにいるメンバーの中ではディランとコータが二人で倒した《序列八位》“万雷”のボルナが最も《序列》の高い強かった魔族である。あの時よりも二人だけじゃなく皆さらに強くなっているし、こちらは6人もいるので有利であることには間違いない。
「『雷の矢・三重』!!!」
「『悪魔の水矢』」
「『炎の壁・三重』!!!」
ディランの放った『雷の矢』はリーモの放った水の矢に飲まれそのままこちらへと向かってくる。エレナはそれに対しさらに魔法を放つ。雷属性を纏った水の矢はエレナの炎の壁によって全て蒸発させられた。
「はぁ…やっぱり大人数相手は面倒だな。」
「なっ?!きゃぁ!」
「エレナ!くそ!また消えた?!」
リーモは再び目の前から一瞬にして消えたかと思うとエレナの背後へと移動しており殴り飛ばされてしまう。コータは目の前で起こった事象に対応しきれなかった。早すぎる移動という感じではない、明らかに瞬間移動をしていると確信した。
「『風の弾丸』!」
「『魔法弾・拘束』!」
「『悪魔の噴水』」
「うわぁ!」
「くそっ!」
だが原理や移動に入るモーションなどもなく攻撃を仕掛けるがことごとく躱されてしまう。そして逆に攻撃を受けてしまった。こちらの方が数では勝っているのに完全に遊ばれている状態である。なんとかしてあの瞬間移動の謎を解かなければ勝ち目はないとシャーロットは考えていた。
「厄介ですね。あの瞬間移動の魔法は。」
「ああ、発動するタイミングや魔力を直前まで観測できない。」
「気付いた時には背後に回られているということですね。」
「何か対策はできないものか…。」
「私…わかった…かも…。」
「本当ですかコーデリア?」
コーデリアは自分の考えを話す。コーデリアの《副技能》は周辺の水を感知するものである。水の音や気配を感じ取ることで人や物の探知をすることもできる。コーデリアが言うには奴が瞬間移動している位置は必ず水場があるということらしい。
「水場といっても水たまりとかは見えないけど…」
「もっと…地下…。」
「なるほど、地下水脈ということでしょうか。」
「そう…だけど…いっぱい…。」
「たしか王都のここら一体には地下水脈が広がっています。ですがそちらをどうにかするのは難しそうですね。」
コーデリアによってリーモの瞬間移動の謎を解くことはできた。しかし地下水脈を利用した瞬間移動ということは地形を変えることでもしなければ防ぐことができないだろう。それを今からどうこうすることはできない、それに広い範囲に地下水脈が広がってる以上ここら辺の地形は奴の能力と相性がいいというわけなのだ。
「一体どうすれば…。」
「私に一つ考えがあります。」
エレナはリーモの瞬間移動を封じるとある作戦を思いついたのだった。
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