第二百十話 亜剣
次の日俺達はリディス学園ではなく城の方へと来るようにシャーロットから言われていた。エレナとアリアは先に向かったようで、俺は1人で城へと向かっている。多分まだ疲労が残っていると思ったのだろうが単純に寝坊したということは秘密にしておこう。俺達が城に呼ばれている理由は昨日の戦いについての指導を騎士団長達が直々に指導してくれることになっているからだ。普段騎士団長は忙しいのだろうがわざわざ試合のために2日滞在してくれる予定を組んでくれたらしい。俺達にとってとてもありがたいことである。そして昨日もランマは帰ってきていなかったことが少し気がかりだったが、よほどのことがあれば何か連絡を寄越してくるだろうと考え彼女に任せることにした。ランマの強さならそこらの相手や魔物に負けるわけないしいざとなれば助けを求めてくるはずだ。ランマも通信機を持っているからな。
「おや?久しぶりだね。」
「あなたはいつぞやの冒険者さん。」
俺が城まで向かっている道中で出会ったのはいつぞやギルドの場所まで案内をしてあげた気の弱そうな冒険者の青年である。思えば彼とは何度か会うのだがまだ名前も知らない仲である。だが不思議と知らない仲ではないような気分になるのは何故だろうか。いや実際に今は知らない仲ではないのだけれど。
「今更ですけど自己紹介を。俺の名前はユーリ・ヴァイオレットっていいます。」
「ご丁寧にどうも。俺の名前はセーラ・ノアよろしくね。」
「今日はあのお二人は一緒じゃないんですか?」
「ああ彼らは今別の街にいるんだ。俺だけ少し用事があってね。しばらくの間王都に戻ってきたんだ。」
「そうだったんですね。…あっ、すいません。俺急ぐので!また!」
俺はセーラと別れの挨拶をかわし城へと急いで向かった。城に着き客間に通されると俺以外のメンバーはすで到着していた。今日呼ばれているのは昨日戦った俺達だけでなく、ジェマやコーデリアなど学園以外のメンバーもいる。シャーロットが他のメンバーも集めたのだ。大方現在のわかっている情報の共有会も含めているのだろう。それに《勇者》の強化も兼ねているということだろう。
「すいません、遅れました。」
「構いませんよ。それでは全員揃ったところで始めましょう。」
これまで判明していることの詳細は逐一シャーロットに報告しているし、騎士団長達にも情報は共有されているのでこれといって目立った新しい話は特になかった。こないだのオルロスでの亜人族間戦争を起こしたのも魔族であるということが今回のメインの話であったため、改めて俺はみんなはあの時のことを話した。アザミの産まれた集落にあった《戦の勇者》ヴィクトリア・アークの記録、魚人族が持っていた石板に書かれていた魔族達が暮らしている大陸つまり《魔王》の封印されている地についてである。
「まあ色々聞きてぇことはあるが《魔王》が不死身だっつーのは本当なのか?」
「そうですね。俺に向けたメッセージというのがわからないところではありますが、恐らく本当のことだと思います。《勇者》がその場所に辿り着くことで初めてメッセージが届く、そういう仕掛けはこれまでにもいくつか経験してますから。」
「まっそれもそうか。しっかしどうやって戦えって話だわな。」
「封印の魔法についても調べておく必要がありそうだね。」
クリス団長の言うことはもっともである。仮に現在の俺たちの戦力が《魔王》に勝っていたとしても本当に不死身であるのならばこちらが圧倒的に不利というか倒す術がない。セドリック団長の言うようにもう一度封印するというのが最悪の場合の手ではあるためそっちの情報は集めておくに越したことはない。だが封印をするのでは結局この連鎖は終わることがない。俺達が次世代の《勇者》に託すことになるがどうやってそれを行うのかという話も出てくる。《伝説の6人の勇者》の中には明らかに未来の俺達の動きを予測できる人物がいるため上手く俺達に伝えてくれているわけだが、そんな能力者は俺達《勇者》の中にはいない。もしかしたら最後の1人がそうである可能性もあるがそれを当てにするのはリスクが高い。
「結局いつものわからないけどとりあえず頑張りましょうということだね。」
「こらウール!騎士団長さん達の前でそんな言い方!」
ウールはため息交じりで文句を言う。それをフルーが窘める。
「フルー君、構わないよ。何も見つけられない我々よりも君達の方が何かと情報を見つけられているのだからそう悲観することはないさ。また手がかりを見つければいいんだ。」
「にゃー達はにゃーんにも見つけられないからにゃ!皆、頼んだにゃ!」
「ブランシェ偉そうにするな。」
「「「ははは!」」」
そうだな、いつも通りまた何かの縁で新しいことがわかるかもしれないのだ。そう悲観することはないのである。これから亜人族との交流も盛んになるし《勇者》や《魔王》に関する情報が手に入るかもしれないのだから。そろそろ時間もいい頃合いだし解散しようということになった。しばらくは今回の戦いから学んだことを活かして皆んな修行に励むことだろう。
「…っ!」
「どうしたシャーロット?」
「私の《副技能》が!」
突如シャーロットが頭を抑え出した。どうやら《副技能》が反応しているらしい。ということは何か危機が迫っているということ。そして王都から少し離れたところに魔族の魔力を感じた。俺達はすぐに異変に気付いて魔族の魔力のする方へと向かう。一体何の目的で魔族は王都に来たんだろう。
「どうして魔族が?!」
「とにかく急いで向かおう!」
王都を出て魔力を感じる方へと向かうとそこには見覚えのある魔族と見たことのない魔族が2人いた。2人はそこそこの魔力を感じる。だかもう1人はまったく魔力を感じなかった。魔力が低いのではなく感じないという方が正しい。これまでにこのような魔族に出会ったことがない、それがまた不気味さを際立たせていた。魔力はないが明らかに残りの2人よりも実力者である何か得体の知れない恐怖を感じる。
「や!また会いましたね。」
「ワメリ・ミーム!何の目的でやってきたんだ!」
「覚えていてくださり光栄です。今回は私の用事ではないんですよ。ね、お話してあけだらどうです?」
「………。」
「………。」
ワメリは他の二人の魔族に話を振るが無視をされている。それを見たワメリはため息をつく。
「はぁ、まったく喋れない魔族ばかりで困りますねぇ。まあいいでしょう。私達の目的は獣人族に貸し与えた衣服を回収しに来たのですよ。」
「衣服…《迷い人》の衣服のことか!」
「なるほどな。貴様らの狙いはそれというわけか。」
セシリア団長は相手の狙いがわかると《聖剣ガラティーン》を抜く、俺達も戦闘態勢へと入る。《迷い人》の衣服は現在師匠が管理しているはずだ。どこにいるのかはわからないが少なくとも今王都にはいないと思われる。それを伝えたところで素直に帰るわけはないだろうし、魔族の目的がなんであれ魔族は倒さなければならない。
「ユーリ。」
「わかってます。あっちの二人は俺達が、あの白髪長身の男を団長達でお相手お願いします。」
「悪いが加勢はしてやれないかもしれないぞ。」
「はい、セシリアさん達も気を付けてください。」
団長達は得体のしれない魔力も感じられない白髪長身の男の相手を、俺達は気弱そうな男とワメリ・ミームの相手をすることになった。まず真っ先に動き出したのはブランシェさんとオリバーさんだった。正面から長髪の男に攻撃を仕掛ける。
「『肉球の衝撃』!」
「『千の突き』!」
白髪の男は二人の攻撃を背負っていた剣でで防ぐ。二人は咄嗟に距離を取る。何かがおかしい、あの剣から不思議な感じがする。二人が距離を取ったのもそれが理由だろう。大剣というには細い長剣とでも言うべきだろうか長さは身長くらいあるにも関わらず、抜いた瞬間が見えなかった。
「凄いでしょ。アッシュさんは四天王なんですよ。‘’絶魔‘’のアッシュ、背負っている剣は《亜剣レヴナント・ブレード》。」
「し、四天王だと?!」
「珍しくやる気のようだったので連れてきちゃいました。」
やはりあのアッシュという魔族は只者ではなかったようだ。まさか四天王だとは思わなかったが、バリオンやグレモリーそしてイモータルこれが《魔王》軍四天王の全貌が判明した。だがどの四天王よりもやはり魔力を感じないという特殊性を感じる。ここまで魔力を感じないということに何か秘密があるのではないだろうか。そして《亜剣レヴナント・ブレード》まったく聞いたことがない剣だ。《魔剣》ではないのだろうか?《魔剣》の場合、代償があり魔法的な能力を引き出すことができる。だから《魔剣》そのものにも魔力を感じるが、《亜剣レヴナント・ブレード》はアッシュと同じように魔力を感じない。つまり《魔剣》ではないということだろうか。
「ユーリ!」
「はい!」
俺はセシリアさんの声掛けに答える。あちらは騎士団長達に任せるしかない、本当に四天王であるならば恐らく俺達では足手まといになってしまうだろう。俺達はワメリの方へと向かっていく。もう一人の魔族は見たことがない顔であるがあいつもおそらく《上位序列》魔族だ。
「さて私も少し遊ばせてもらいましょうかね。『変身魔法』。あなた達も見覚えのある姿じゃないでしょうか。」
ワメリは姿を小柄の女性魔族の姿から、大柄の魔族の姿へと変貌する。それは二年前俺を殺しかけセシリアさん・ブランシェさん・アルフレッド団長の三名で倒すことができた四天王の一人“剛腕”のバリオンの姿であった。
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