第二百九話 最終戦決着
「やぁぁぁ!!!」
「はぁぁぁ!!!」
この一撃に全てを込める。俺は《剣の勇者》の残りの魔力を全て込めて『剣神の一閃』を放つ構えを取る。セシリアさんは『雷撃一閃だ。
「『剣神の一閃』!」
「『雷撃一閃』!」
二人の剣が魔力が激しくぶつかり合う。お互いに一歩も譲らないがだんだんと俺の方が押され始める。最初の時はセシリアさんが鎧を付けていたために互角のように感じていたがどうやらパワーも向こうの方が上らしい。このままではやられてしまう、そう思った俺はセシリアさんの足元にある魔法を放つ。
「これで終わりだ!『剣技・三段突き』!」
「同じ手は食わない!」
セシリアさんは俺の三方向から同時に斬りかかる『剣技・三段突き』を全て防いだ。そのまま俺の校章に向かって斬りかかろうとするが、足元にある何かに右足を取られた。それはユーリがあらかじめ仕掛けておいた魔法であった。
「『影落穴』!」
「くっ!だが!」
『影落穴』によって体制を崩されるがセシリアは残る左足で踏ん張り身体を捻り再び体制を立て直す。そしてユーリの校章に再び斬りかかる。ユーリは咄嗟に左手に魔力を込めた。
「『雷撃一閃』!」
バリン!
セシリアの『雷撃一閃』はユーリの校章を破壊した。ユーリはそのまま倒れこんだ。右手に持っていた『贋聖剣』は砕け散った。そしてリリスはユーリの校章を破壊された確認すると手を上げる。
「勝者セシリア…」
「待て、リリス。これをよく見てくれ。」
セシリアはリリスの勝敗宣言を遮る。自分の校章を見せるがリリスにはどういう意味かわからなかった。ユーリのと違い校章は破壊されていないように見える。セシリアは少し笑うと校章を指で弾く。するとセシリアの首に着けていた校章は綺麗に真っ二つに割れた。
「私の校章も破壊されている。」
「さ、最終戦セシリア・グランベール VS ユーリ・ヴァイオレット両者引き分け!」
観客席の皆は驚いていた。あのぶつかりあった瞬間に何が起こったのかわからなかったからだ。倒れているユーリを見てみるとなぜセシリアの校章が破壊されたのかわかった。左手に『贋聖剣』が握られていたのだ。
「最後『雷撃一閃』を受ける瞬間に左手に『贋聖剣』を作ったんだ。」
「カウンターを決めたということですか。」
「多分最初からもしもの時に狙っていたんじゃないかな。でも勝つという選択肢を最後まで捨てたくなかったんだろうね。」
「流石というべきかな。見事な試合だったね。」
ユーリは最後に倒れる前に左手に魔力を込めて長時間は持たないが『贋聖剣』を作っていた。自分の校章が破壊されるセシリアが勝利を確信し油断するその瞬間を狙っていたのだった。しかしそれは最初から引き分けを狙いに行くようなものだった。だから本当に負ける瞬間まで頭になかったのだが咄嗟に発動させたのだった。
「ユーリは私が連れて行こう。」
セシリアは気絶しているユーリを抱えると医務室まで運んで会場を後にした。その道中にはすでにセドリックがおりセシリアに声をかけてきた。セシリアはそれを自分が負けたことによる叱責だと思ったため開口一番謝罪を述べた。
「すみません。負けてしまいました。」
「いや構わないさ。それより最後どうして《聖》属性を使わなかったんだい?『影落穴』消せたんじゃないかい?」
セドリックの目的はセシリアが負けたことを責めるのではなくどうしてい《聖》属性魔法が使えるのに闇属性魔法である『影落穴』を無力化しなかったのかということである。ユーリには話していなかったがセシリアは雷属性魔法、水属性魔法、そして光属性魔法に適性がある。そして光属性の中でも一部の者しか使えない《聖》属性魔法も使えるのだ。だからあの時なぜ使わなかったのかセドリックは純粋に疑問だった。なにせセシリアという人物は決して手を抜くような人物ではないからだ。
「はは、買い被りすぎですよ。ただあの時一瞬良くないことを考えてしまって対応が遅れてしまっただけです。それでは彼を医務室に連れていくので。」
「ああ、君もちゃんと治療を受けるんだぞ。…良くないこととは一体なんだろうか?」
セドリックにああは言ったがあの時ユーリの魔法発動徴候には気付いていた。しかしセドリックに言った通り一瞬良くないことを考えてしまったのだ。それは『影落穴』をよく使っているユーリの師匠でもある自分の大嫌いな人物の顔が思い浮かんだという良くないことである。そのために判断が遅れ対応することができなかったというのが真実である。しかしそれは誰にも言えないことだ。なぜか嫌いな彼女に負けたような気分になるからである。
「彼の治療を頼む。」
「あらあら。あとは任せてね。」
◇◇◇◇
意識が戻る。身体はまだ全快というわけにはいかないが動かないほどではない。《勇者》の力を全て使っておまけに全ての魔力を使い切ったこともあってその反動が出ているのだろう。幸い大きな傷という傷はないからこうしてじっとしていれば治るだろう。だんだん意識が明確になってきたのでゆっくりと瞼を上げる。目の前にはにっこりと笑っている女性が一人。
「あら起きたんですね。」
「ええ、おかげさまで。ありがとうございますディーテさん。」
そこにいたのは師匠と同じく【真夜中の魔女】のメンバーであるディーテ・メシオアがいた。彼女の能力は《豊穣なる大地》というもので回復に特化している。今まで戦った皆の回復が早かったのはディーテさんがいたからだったのか、納得ができた。
「うふふ、ユーリ君の治療に関しては私だけじゃないわよ~。」
「久しぶりね。ユーリ君。」
「ケーネ先生、お久しぶりです。先生が治療してくれたんですね。でもどうしてここに?」
ケーネ・ジェンナ、彼女はかつてユーリが《勇者》の力を使用できなくなった際にお世話になった町医者である。とはいっても『治療魔法』が使用できるわけではないので症状診断や魔法や魔力に関する部分の対処が主である。コータ曰く異世界では症状によって病院というのは細かく別れているものらしいが、こちらの世界では大抵医者といえば全ての症状に対処することが多いのでケーネ先生のような医者は珍しい方である。
「最近はお城の仕事も手伝っているのよ。」
「ケーネちゃんがいるとすぐに症状の判断ができるから助かるのよ〜。」
「私は治療はできませんから。ディーテさんがいらっしゃらないと役に立ちません。」
「あらあら〜そんなことないわよ〜。特にユーリ君に関してはね〜。」
二人はお互いに褒めあっている。実際俺のような特殊事例はケーネ先生のような人がいなければどうなっていたかわからないし謙遜することはない。症状を的確に判断することも必要なことである。それにしても二人は知り合いなのだろうか?やけに仲が良い気がするが。
「お二人とも知り合いなんですか?」
「ケーネちゃんは私達の後輩なのよ〜」
「といっても在学中は面識はありませんでしたが。」
「そうだったんですか。」
そこで俺はある疑問を持った。今後輩って言ったよな?学園のって意味だとは思うが、ケーネ先生ってディーテさんより年下なのか?俺はケーネ先生のことを初めて会った時から凄く年上だと思ってしまった。ディーテさん達の後輩ということはまだ20代ということだ。いやそもそも俺が彼女のことを凄く年上だと思ったのはイヴァンさんのことを君付けで呼んでいたからである。もしかして何か特別な関係でもあるのか?ここはストレートに聞いてみるか。
「ケーネ先生って結構お若いんですね。イヴァンさんのこと君付けで呼んでいたのでてっきりもう少し上かと思っていました。」
「あら失礼しちゃうわね。でも勘違いさせてしまったのは私かしら。イヴァン君は私の義兄にあたるのよ。私の一番上の姉がアレストール家に嫁いでいるの。」
「はーなるほど。ということはディランの叔母にあたるわけですか。」
「そういうことね。そうはいっても私はあまり姉と仲良くないから面識は少ないけどね。」
何か謎が解けたような気分だ。なるほどケーネさんのお姉さんがイヴァンさんの奥さんつまりディランの母親というわけか。世間は意外と狭いのだなと感じる。そんなこんなで談笑をしていると皆んなが俺のいる医務室まで来てくれた。
「みんな来てくれたんだ。」
「ユーリ君、身体はもう大丈夫ですか?」
「なんとかね、明日には全快してるよ。ところで試合はどうなった?」
「えーユーリ覚えてないの?」
「最後にを発動したところまでは覚えてるんだけどセシリアさんの校章を破壊できたかどうかまでは…」
最後に校章を狙って『贋聖剣』を作ったことまでは覚えているのだがそれが果たして成功したのかどうかはわからなかった。
「結果は引き分けでしたよ。」
「ということは最終的に俺達の勝利ってことか。なんだかあんまり気持ちのいい勝ちじゃないね。」
「そうですね。どちらかというと負け越しですし、ただ得る物は多かったんじゃないでしょうか。」
総合的には俺達の勝ちということではあるが、いまいちな結果であることに間違いはない。とはいえ得る物も皆あったと思う。俺も全力を出したがセシリアさんには届かなかったとはいえ、初めてセシリアさんに会ったあの時から2年でここまでこれたということでもある。そう考えれば大分成長したと言えるのではないのだろうか。こうして俺達三年生の模擬戦は終了したのであった。
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