第二百六話 五回戦決着
二人にセドリック団長が放った氷柱が突き刺さる直前に二人は爆炎に包み込まれた。一体何が起こったのだろう。煙の中から二つの影が飛び出す。
「なるほど、『爆裂』で自らも爆風に包んだのか!そういう発想はっ嫌いじゃないぞ!『雷の矢・十重』!!!!!!!!!」
「『|『雷の矢・五重』!!!!!」
アリアは地面に『爆裂』向かってを発動させて、『魔法弾・拘束』の魔力の糸を地面ごと吹き飛ばしたのだ。そういう躊躇いのない所はだんだんと俺に似てきているような気もする。アリアもまたシャーロットと同じようにどこかこのままではいけないと感じているようだ。特にカノンコートでの事件があって以降は。ディランも平均的な能力はすでに《勇者》である俺達に匹敵しているし、向かうところ敵なしという感じではあるが逆にそれ以上の何かはないように思えてしまう。この戦いで何かを掴めると良いのだが。
「もっと《大賢者》の力を見せてくれ!そんなものではないはずだぞ!ディラン君も本気でかかってきたまえ!」
「『雷身体強化』!」
「くっ!」
「『炎の槍』」
ディランは『雷身体強化』によって強化され、セドリック団長の背後へと一瞬で移動した。そのまま掌底を入れるとアリアが追い討ちをかけるようの『炎の槍』を畳み掛ける。二人共、かなり息が合っている。このまま押し切れるか?
「『蜃気楼』!だったかな?」
「なっ!?」
「それはウールの…!」
セドリック団長はウールの固有魔法『蜃気楼』を発動していた。二人は分身を攻撃していたのだ。しかし二人はそんなことよりもなぜセドリック団長が固有魔法を発動しているのかという点に驚きを隠せないでいた。
「何も不思議なことではないさ。固有魔法というのは本来その者が開発した魔法に付けられる名称だ。とはいえそれはあくまでも公式に言えばに過ぎない。例えば今この瞬間ウール君の『蜃気楼』を使用できる者がどこかに現れたらそれはもう固有魔法ではなくなる。もっとも最適化された状態で使うにはその能力や技術に依存する部分はあるがね。だから固有魔法と呼ばれるわけだからね。」
「発動するだけならできなくもないという話なら理解はできますが…。」
ディランの言いたいことは理解できる。セドリック団長が言った通り、最適化された状態で使うにはその能力や技術に依存する部分が難しいという話だから固有魔法なのだ。あれはウールの能力あってこそ実現している魔法である。俺が同じことをしようとしても似たような物はできても再現性がない。使えるというレベルにはならないという話だ。しかしセドリック団長が見せたのは完全にウールの『蜃気楼』と同等のクオリティだった。いつも近くで見ていた俺達がそう感じるのだから間違いない。だからこそ驚きを隠せないのだ。
「これが私の能力《魔法最適化》だ。模倣というわけではないよ、私はありとあらゆる魔法を最適化し使用することができる。魔法発動に必要な魔力は最小限にできるし、もちろん固有魔法も原理がわかれば発動できる。厳密に言えばできない魔法もあるけれど。」
「そんなの《大賢者》よりも凄いんじゃ…。」
「しかし弱点もある。例えばウール君の『蜃気楼』であれば元々非常に魔力を必要とする魔法であるとさらに魔力を使わなければ再現はできない。それに元々私は魔力量が少ないから何でもかんでも戦闘には使えないということだ。『蜃気楼』はあと一回使えるが、それで魔力は完全になくなってしまうから今日はもう使わないかな。」
どうやら種はセドリック団長の能力による再現であったらしい。要するに最適化を行うと俺達が固有魔法を発動するだけで効力を為さない状態から使用可能レベルまでにできるというわけか。『多重展開』を十重で発動しているのに感じる魔力が少なかったのはこの能力のおかげなのだろう。魔力量という明確な優劣がわかりにくいからこそ強さもわかりにくかったのだろうな。
「それに《大賢者》は僕以上のポテンシャルがあると思うよ。能力こそ有名だが詳しいことがわかっているわけじゃない。アリア君だって同じようなことができると僕は思うけどね。」
「私が固有魔法を…?」
「アリア君は真面目さ故か、少々常識に囚われてしまっている節がある。魔法とは本来自由な物さ。できないなどと考えるのはナンセンスだよ。」
アリアは今一度考える。初めてユーリと魔法を使った時、自然と頭の中にイメージが湧いてきた。今ではどうだろう人の使う魔法や学園で習った魔法を使用している。厳しい修行をしなくても魔法そのものはある程度理解するだけで使用できるというのは《大賢者》の恩恵だ。しかしそれが本来の使い方なのだろうか?セドリック団長の言う通りやりたいことを実現できるのが本来の能力なのではないだろうか。
「うんうん。いい顔になった。そしてディラン君、君はかなりの使い手だ。その年で《勇者》でもないのにそこまでの戦闘能力を持っているのは騎士団長達くらいのものだよ。流石イヴァンの息子なだけある、いや君の努力がそうさせているのだろうな。しかし、今君はこれ以上どうすればいいのかという壁にぶち当たっているのではないか?」
「………!」
ディランは図星であった。元々何か強みがなければと思い、父の様に固有魔法を手に入れようと考えた。そして固有魔法の開発に着手する上で『雷身体強化』を形にしたがこれが完成形だとは思っていない。だがどうすればいいのか煮詰まってしまっていたのは本当だ。
「たしかに俺の魔法はまだ未完成だ。」
「君もまだまだ固いんだよ。そうだな、『身体強化』という魔法は身体能力を上げる魔法だが君の場合はそれを雷属性の魔法を発動する時と同じようにすることで『雷身体強化』を発動できている。要するに大枠の形はできているということだ。問題はそれを使って何がしたいのかという部分だ。一撃の破壊力を求めたいのか、誰にも追いつかれないスピードを求めたいのか。何か一点を極めなければ固有魔法にはなりえない。」
アリアと同じようにディランもまた考え込む。たしかにざっくりと自分の適性を活かした魔法を開発したいとの思いからこれまで取り組んでいた。そのための大枠はもうすでにできているのだ。あとはこれを極めるためにどうすればいいのか。もっと自分の欲求を深掘りしなければいけないと考えたのだ。
「さておしゃべりはこのくらいにして、そろそろ決着を付けようかな。僕も騎士団長としては負けられないのでね。『水爆・十重』!!!!!!!!!」
「『炎の壁』!」
「今更そんな魔法では止められないよ!」
この時セドリックはアリアが何かを仕掛けてきていることに気付いていた。今更この程度の魔法で防げるとは思っていまい。それに顔つきもさっきよりもよくなっている。アリアはもう片方の手を前に出し魔法を放った。
「『突風』!『合体魔法・灼熱旋風』!!!」
「一人『合体魔法』か!だが!『氷の壁・十重』!!!!!!!!!!」
「あとちょっとなのに!」
アリアは一人で『合体魔法』を発動させた。本来複数の魔法を同時に発動させるということはできないため一人で行うことは難しい。とはいえついこの前アリアと『合体魔法』をした時に俺は同時に魔法を発動した。《勇者》の力があり別々の魔力を保有している俺だからこそできることだとばかり思っていたが、どうやらアリアもできるようになったみたいだ。だがあと一歩のところでセドリック団長には届かない。
「『『雷の槍』!『増大・二重』!!『電磁砲』!」
「な…何?!」
ディランは視界が狭まったことをチャンスと考えある魔法を放った。『炎の槍フレイム・ランス』『増大ブースト・二重ダブル』でできるエレナの必殺魔法とも言うべき『揺レ動ク神ノ槍』である。それを雷属性の魔力で再現したといったところだろうか。『電磁砲』と呼ばれ放たれたものは氷の壁を突き破りセドリック団長へと向かう。
「『雷身体強化』!」
「きゃ!」
「くそ!『雷身体強化』」
だがセドリック団長は『雷身体強化』を発動し『電磁砲』を紙一重のところで回避した。そして一瞬でアリアの目の前まで移動すると、校章を破壊する。続けてディランの元へと向かうがディランもすでに『雷身体強化』を発動させていた。だがセドリック団長の方が一歩上手であった。
「『避雷針』!『魔法弾』!」
ディランの魔力は『避雷針』に吸われ元の身体能力に戻ってしまった。その隙に『魔法弾』によって校章は破壊された。リリス先生は二人の校章が破壊されたことを確認すると手を高く上げた。
「第五回戦!勝者!セドリック・モルガン !」
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