第二百三話 二回戦決着&三回戦
デリラのあの暴走状態は長くは持たないだろう。ここで全てをぶつけて決め切らないと恐らくこれ以上のものはないカルロスだけでは火力不足で恐らく負けなくても勝ち筋がなくなってしまう。
「『魔法弾・貫通』!」
「ちぃ!」
クリス団長とデリラは技をぶつけあっているその隙を狙ってカルロスが校章を狙いにいく。先程の『魔法弾』とは違い今回は『貫通』とも加えている。これで片腕で防ぐということはできないはずだ。案の定デリラから距離を取り『魔法弾・貫通』を躱した。だがデリラはその隙をついてさらに距離を詰める。
「『龍の爪』!」
「『龍の爪』!」
再び大剣同士がぶつかり合い轟音を響かせる、いまいちお互いに決め切れないでいる状態が続く。だが明らかにデリラの動きが悪くなってきている。あの状態も長くは持つまい、このままではガス欠になって負けてしまうだろう。そんなデリラの様子を見てクリス団長は攻撃を辞めた。
「埒があかねぇな。全力でぶつかってこい!今、お前の持てる全てを全部ぶつけてくるんだ!」
「はぁはぁはぁ…。わかったよ。これが正真正銘僕の最後の切り札だ!」
デリラの魔力がどんどんと大きくなる。大剣を真っすぐにクリス団長の方に向けると走り出した。
「行くぞ!『龍の突撃』!」
スピードに乗ったデリラは飛びながら回転を加えながらクリス団長へと向かっていく。クリス団長はそれを受け止めようと大剣を構えようとするが、体が動いていない。手足が地面から伸びている魔力の糸で拘束されている。カルロスが最後の技を決めさせるためにすでに魔法を放っていたのだった。
「『魔法弾・拘束』!拘束させてもらいました!」
「くっ!」
「いっけぇぇぇぇ!!!!」
会場は光と煙に包まれてしばらく何も見えない状態が続いた。デリラの魔力は感じられない、まさしく全てをぶつけたというところだろう。やがて煙が晴れそこには大きな影が一つ、クリス団長であった。周辺にはデリラとカルロスが倒れていた。リリス先生が二人の校章を確認すると手を上げた。
「第二回戦!勝者!クリス・ドラグニス!」
「俺に勝とうなんて100年早ぇよ!出直してきな。」
「今、何が起こったんだ?デリラの技は決まったように見えたが…。」
「はい。私にもそう見えました。」
カルロスの魔法によって両手を塞がれ身動きの取れなくなったクリス団長にデリラの技が決まったように見えた。しかし実際はその反対だったようだがどうなったのかまったくわからなかった。
「今のはクリス団長が拘束を解いて反撃したんだよ。」
「イヴァン副団長。」
「なにたまたま通りかかったのでね。少し時間もあるし今の試合を見させてもらったよ。」
そんな俺達の疑問に答えてくれたのはたまたま通りかかったイヴァン副団長だった。彼が言うにはカルロスの拘束を解いたということだったようだが一体どうやってだろう。
「カルロス君の拘束は地面から伸びている魔力の糸によるものだっただろう?クリス団長はデリラ君が突っ込んでくる直前に能力による『身体強化』を行って、それを引きちぎったんだ。そしてデリラ君の攻撃に対抗すべく地面に大剣を突き刺して衝撃波を発生させた。たしか『龍の尻尾』という技だったかな。」
「なるほどそういうわけだったんですね。」
「そして衝撃波によって勢いを弱められらデリラ君の校章を殴って破壊且つ気絶させた後、これまた衝撃波でふらついているカルロス君の校章を殴って気絶、破壊といった流れかな。」
「それをあの一瞬で動いてやってのけたとなると流石ですね。というかよく見えましたね。」
「それなりに長い付き合いだからね。戦い方もなんとなく把握しているよ。それじゃまだ仕事があるので私は失礼するよ。」
デリラ達と戦っている時たしかにクリス団長の身体能力がそこまで高いと思っていなかったが、そうか発動すらさせていなかったんだな。いやそれともデリラの様に発動する条件みたいなものがあるんだろうか?どちらにせよ全然本気じゃなかったということだろう。全力を出してやっとその一旦を見ることができたということか。流石騎士団長最強と言われているだけある。
「次は私達の番ですね。」
「さっきのを見せられちゃうと底が知れないな。」
「アルフレッドは長く騎士団長の座にいますがほとんど情報はありません。クリスの様に最初から全力を出してくるということもないでしょうから二人共気を付けてください。」
クリス団長には負けてしまったがデリラもカルロスも良く戦ったと思う。デリラは力を制御ともっと使えるようになること。カルロスも接近戦で何か使用できるようになることだろうか。『魔法弾』はあれだけ使いこなせるわけだし、同じ無属性である『身体強化』も使用できるかもしれない。無属性魔法は他の属性魔法と違って何でもかんでもできるわけではないが適性はあるのではないかと思う。そして三回戦、エレナとコータの相手はアルフレッド団長だ。彼に関してはあまり情報がない。炎属性魔法に適正があり《精霊》を呼び出せるということはわかっているがそれ以外はわからない。とはいえ前二人の団長よりも接近戦が得意ということはないだろうから魔法の勝負にどれだけ勝てるかが重要になるだろう。
「それでは三回戦アルフレッド・マーティン VS エレオノーラ・スカーレット & コータ・イマイペアの試合を行います!」
「ほっほっほ。若者の力見せてもらおうかな。」
「はい。よろしくお願いします。」
「胸を借ります。」
「それでは三回戦………開始!」
試合開始の合図と同時にコータもエレナもアルフレッド団長の方へと駆けていく。相手の機動力がないと判断しての動きだろう。それをみてアルフレッド団長は少しも動かない。魔法を発動している兆候もないが…?このままで大丈夫か?とこちらが心配になるほどであった。しかしその心配は杞憂に終わった。
「何?!うわぁ!」
「コータ!」
「『炎の爆弾』!ほっほっほ。若者は何事も突っ走りたくなるものだからいかん。落ち着いて周りを見ることも大事じゃぞ。」
アルフレッド団長は自分よりも5mほど手前に『炎の爆弾』という魔法をすでに発動させていた。まったく魔力を感じることができなかったし、何もない空中が爆破したように見えた。いやよく見ると微妙に空気の揺らぎの様なものが見える。温度を調整して見えないようにしているということだろう。
「あんなに離れているのに調整なんてできるんだ。」
「炎属性だけだろうけどあれじゃ実質『罠魔法』みたいなものだね。」
「あれはそんな緻密な操作は必要ないけどその分威力はない。」
「逆にこっちは緻密な操作は必要でも威力はあるということだな。」
「その緻密な操作ってのが普通じゃないんだけどね。」
一度放たれた魔法を操作することはまったくできないというわけではない。もとろんほとんどの者はできないだろうがその属性に突出した適性があればという話だ。炎や水なら温度土なら硬さといったように魔力の操作しだいで変化させることができる。ただ誰にもできることではない、そしてそれをさらに見えないレベルにまで変化させるという魔術師は今までみたことがない。炎属性なのにまるで光属性や無属性の魔法を使用しているみたいだ。
「仕掛けがわかれば対処もできます!『炎の矢・三重』!!!コータ!そこから9時の方向に三つ!」
「OK!『突風刃・三重』!!!」
「ほぉ、中々やるの。」
たしかに凄い技術ではあるが、相手の魔力の流れを見る《副技能》を持っているエレナの前では意味をなさない。エレナとコータはすでに仕掛けられている『炎の爆弾』を全て破壊した。
「今度こそいかせてもらいますよ!『風の弾丸・二重』!!」
「『炎の壁』!」
「『炎の槍・三重』!!!」
アルフレッド団長はコータの魔法を防ぐが、その後ろからエレナはさらに追い打ちをかけていた。
「『地獄炎の壁』!」
「うわぁ!あ、熱い!」
「ぐっ!なんという熱さでしょう。」
しかしアルフレッド団長の『地獄炎の斧』によってエレナの魔法は焼き尽くされた。同じ炎属性の魔法なのにここまで違うものなのだろうか、それに離れているここまで感じるほどの熱量だ。流石《精霊サラマンダー》を使役しているだけのことはある。
「これを突破することができなければワシの元には辿り着けないぞ。」
「仕方ない。早いですが賭けるしかないようですね。コータ。」
「わかった。『竜巻・二重』!!」
「これは目くらましかの。じゃが、『炎の球』!」
コータは『竜巻』によって目くらましを図った。だがそんな小細工が通用するわけもなくアルフレッド団長はすぐに魔法で『竜巻』を吹き飛ばす。しかしそこには二人の姿がなかった。すぐに魔力を探ると自分の真上にコータが移動してきていた。先程の『竜巻』は目くらましではなく、コータ自身を上に押し上げ視界から消えるためであった。
「『風の刃』!」
「何度やっても同じことじゃ!『地獄炎の壁』!」
「『突風』!」
しかしコータに魔法はまたも『地獄炎の壁』によって防がれる今度は地面から頭上にかけて発動されたそれは隙間がない完璧な防御態勢になっていた。コータはこのまま落下すれば炎に飲み込まれてしまうため空中で魔法を発動しなんとかその場から離れていた。
「ここです!『揺レ動ク神ノ槍』!」
「しまった!」
アルフレッド団長はコータの一連の動きに気を取られてエレナの姿を探ろうとしていなかった。いや厳密にはエレナはずっと同じ位置にいる。『陽炎』によって姿を消していたのだ。本来『陽炎』は残像を作り出す魔法であるが炎の温度調節によって姿を消したのだった。得意魔法ということもあるが先程のアルフレッド団長の『炎の爆弾』を見て咄嗟に判断したエレナも相当の使い手である。そしてエレナから放たれた『揺レ動ク神ノ槍』はアルフレッド団長の『地獄炎の壁』を貫きその体へと刺さっていた。
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