第二百二話 一回戦決着&二回戦
ウールの『蜃気楼・物語』によってブランシェさんの校章は一つ砕かれた。一瞬驚いたようだが、すぐに考えるのを辞めたのか体勢を整えた。その後も四方から魔法は襲い掛かるが、ブランシェさんは地面を叩きつけると空高く跳躍し魔法の包囲網から抜け出た。
「なるほどにゃ!いい魔法持ってるにゃ!それならこれはどうかにゃ!」
ブランシェさんは空中でくるりと一回転するとそのまま頭から地面へと落ちてくる。右手に魔力の集まりを感じる、何か仕掛けてくる。二人もそれを感じ取ったようで衝撃に備えられるようにガードの体勢に入る。
「『肉球の衝撃』!」
「うわぁ!」
「きゃあ!」
「そしてこれが功夫にゃ!」
『肉球の衝撃』の衝撃波は地面を伝わって二人をその場に倒れさせた。離れている観客席のここまでわかるぐらいの大きな揺れだ。立っていろという方が難しい話であろう。そしてすかさずブランシェさんはその隙を狙いに行く。
「はい!」
「『水の壁』!ぐわぁ!」
「ほい!」
「『風の壁』!な…きゃぁ!」
二人は攻撃される前に身体とブランシェさんが突き出した手のひらに壁を作って直撃を避けた。…様に見えたが二人はダメージを受けている。先程言っていた功夫というもののせいだろうか?魔法を発動した兆候は見えなかったが。
「なるほど、功夫ね。」
「コータ知っているのか?」
「知っているというほど詳しいわけでもないけど。僕らの世界のある国で伝わる武術みたいなものかな。今のは魔力を壁に向かって放った…いや正しくは通したという感じだったね。」
「『魔力撃』の様な魔法とは違って技術というわけか。」
ブランシェさんは色々な魔法が使えるというタイプではないはずだ。先程フルーにも指導していたが魔法だけに頼らないという技術の内の一つだろう。魔法だけが全てではないし、自分の能力や得意分野を伸ばしてこそ極めることが出来る境地というものがある。フルーとブランシェさんは結構似ているタイプであるから実践して見せてくれているのかもしれない。
「もう終わりかにゃ?」
「くっ!『水の牢獄』!」
「時間稼ぎかにゃ。」
ウールはブランシェを『水の牢獄』で閉じ込めた。纏わりつく水を振り払うにために時間がかかる。今のうちにフルーと作戦を立てようとウールは考えたのだろう。ウールは倒れているフルーの元へと駆け寄っていく。
「フルー大丈夫?」
「なんとか…。ウールは?」
「骨にひびが入ってるかも…。」
状況は悪いままだ。決定的な決め手に欠けている、このままではこっちの方が先にダウンしてしまう。だがウールにはもうひとつ『蜃気楼・現実』という奥の手が残っている。これは自分ではない誰かの分身を作り魔法まで再現するという魔法である。まずこれを初見で見破ることはできない、あとはどのタイミングでぶつけるかというのが重要になる。
「さて作戦会議は終わったかにゃ?」
「ええ、おかげさまで。『水の球』!『水の球』!」
「さっきの魔法かにゃ?同じ手は通用しないにゃ!」
「させない!『風の拳・二重』!!」
「くっ!『肉球の衝撃』!」
フルーはウールの準備を邪魔させないためにブランシェさんに飛び掛かるも『肉球の衝撃』を直撃してしまった。これは戦闘不能になってもおかしくないと誰もが思った。だがフルーの姿が消えた。
「『蜃気楼・現実』!」
「これも分身体?!しまっ…」
「ここだ!」
「それでもまだまだ甘い!『肉球の衝撃』!」
「『風の拳』!」
ブランシェさんは『蜃気楼・現実』によって作られた分身体を攻撃したのだった。後ろから校章を狙ったフルーが現れる。だがブランシェさんもそれに反応しフルーに掌底を入れようとする。フルーもそれに対抗して拳を入れようと腕を伸ばす。
バリン!
「にゃにゃ?!」
「か…勝った…。」
「クロスカウンター…。」
フルーはブランシェさんの腕を遮るようにしながら顔面に拳を入れていた、といっても拳の先が触れている程度である。ブランシェさんの腕はギリギリのところでフルーの身体には届いていなかった。ブランシェさんはしまったという顔をしている。直撃こそしなかったものの、拳に纏った風によってブランシェさんの校章は破壊されていたのだった。そしてそれを確認したリリス先生が腕を上げる。
「第一回戦!勝者!フルー・フルーラ & ウール・レディペア!」
「二人共よく頑張ったよ。」
「と、とりあえず治療を…。」
「私も…。」
二人はすぐに治療するために運ばれていく。ブランシェさんの方はというとすごくバツが悪そうな顔をしている。いくら修行をつけるためとはいえちょっと油断しすぎていた所もあっただろう。まったくこちらの情報がなかったということもある、ウールの魔法は初見殺しだからな。騎士団長達が座っている反対側の観客席から物凄い圧を感じる。とくにセシリアさんなんて今にもブランシェさんに飛び掛かりそうな勢いだ。
「初戦から勝利できたのは大きいですね。」
「僕達も続くよ!」
「はい、サポートはお任せを。」
とにもかくにも1回戦の勝利を手に入れることが出来たのは大きい。次はデリラとカルロスのペアだ、相手はあのクリス団長である。それに先程ブランシェさんが負けたこともあって恐らく気を引き締めてくることだろう。破壊された会場はすぐに魔法で修復され両陣営とも集まってくる。
「それでは二回戦クリス・ドラグニス VS デリラ・バルムンク & カルロス・クライフペアの試合を行います!」
「俺はブランシェの様にはいかないぜ。」
「ふん!負かしてやる!」
「お手柔らかにお願いします。」
「二回戦………開始!」
「おらぁ!」
「やぁ!」
試合開始直後、クリスは片手で背負っている大剣を振り下ろす。それに合わせてデリラも背中の大剣を握り、受け止める。剣同士がぶつかった激しい轟音が観客席まで響いている。二人の顔は心なしか笑っているように見える。デリラはすでにクリス団長に修行をしてもらっていることもあってお互いに全く知らない中ではない。二人共同じ龍殺しの魔法を使用することもあって親近感の様なものを感じているのかもしれない。
「おらおら!もうへばってんじゃないのか?」
「まだまだぁ!」
客観的に見て大柄な成人男性であるクリス団長にわずか10代前半の女の子の腕力が叶うはずがない。いくら身体能力の強化系能力者であるとはいえ、お互いにそうである場合ほとんど差は生まれないことだろう。しかしそこまで差をないところを見ると単純にデリラの腕力がすでに並ではないということがわかる。家名にもなっている龍殺しのバルムンクさんの血がそうさせているのかもしれないな。二人が剣を合わせている所にクリス団長の校章を狙ってカルロスの『魔法弾』が飛んでくる。
「そんな小細工は効きやしねぇよ!おらぁ!」
「ぐっ!」
クリス団長は失った片腕を金属製の義腕に変えている。その腕に魔力を流し込み『魔法弾』を握りつぶしている。生身じゃないからこそできる防ぎ方だろう。そして両手で大剣を持ち直すとデリラが力で押され始め、足元にはひびが入っている。クリスはデリラの気が緩んだ一瞬の隙を狙って大剣を腰の方へと構えなおす。それに合わせてデリラも大剣を腰の方へと構えなおした。
「『龍の爪』!」
「『龍の爪』!」
二人の『龍の爪』がぶつかり合う。火花を散らし力は拮抗しているかに見えたが、デリラの方が吹き飛ばされた。そこをクリスは見逃さなかった、デリラの元へと突っ込み追撃をかける。しかし側面から魔力の高まりを感じる。
「『魔法弾・乱打』!」
「『龍の鉤爪』!」
大量の『魔法弾』がクリス団長に向かって襲い掛かる。それらを全て撃ち落とした。この時クリス団長は純粋なパワー勝負をすることができるデリラよりも魔法で的確に校章を狙ってくるカルロスへと標的を変えた。
「ちまちま攻撃してるようじゃ俺は倒せないぜ!」
「そうですね。ですが校章を破壊できれば勝利なので。」
「簡単にはやらせねぇよ!『龍の爪』!」
元よりカルロスは長距離狙撃ができないというこの状況でクリス団長に対して意味のある攻撃はできないと考えていた。そのためもし接近戦になった時に回避に徹して時間を稼ぐという手筈を整えていた。デリラの能力である《戦闘狂》は戦えば戦闘能力が徐々に上がっていくからである、それともう一つの手のためだ。瞬間クリス団長はカルロスから目線を変える。禍々しい魔力を自分が先程吹き飛ばした少女から感じたからだ。
「少しはこの力も使えるようになったんだよ!」
「お前その姿、ドラゴンか?なるほど、面白い!」
デリラは自分のルーツを探って以前暴走した力を完全ではないが操作できるようになっていた。それと《戦闘狂》による戦闘力の上昇、この二つが組み合わさってとてつもないプレッシャーを放っていた。先程まで戦っていたデリラとは違うことをクリス団長も感じ取っていることだろう。
「『龍の爪』!『龍の爪』!」
「『龍の飛翔』!『龍の飛翔』!」
これまでの暴走状態では自我を失っていたが今は正気を保っている。たしか前に龍殺しの魔法を使うと暴走を抑えられると言っていたから魔法を連発しているのだろう。だがそれもいつまでは持たないはずだ。ここからが正念場だ。
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