第二百話 6人の騎士団長
次の日俺達は改めて作戦会議をすることにした。幸い授業という授業もないので時間はたっぷりあるから焦る必要はないだろう。メンバーを決めてその後それぞれの対策に充てる時間は十分にある。
「そういえば6試合やるんなら勝敗はどうなるの?」
「【D・B】は引き分けもあり得るのでそれを鑑みて2勝1分以上の成績であればこちらの勝利ということでいいそうですよ。」
「一応勝ち負けは決めるみたいだけど負けたら何かあるの?」
「私達は課題の追加ですね。騎士団長達は減給だそうです。」
「なんかリアルな社会を見せつけられているようで嫌だなぁ。」
俺達が負けたら課題が、騎士団長達が負けたら減給だそうだ。もちろん元々手を抜くつもりはないが課題を増やされて喜ぶ者はいないだろう。そして話は本題へと入っていき、まずは誰を一人で戦わせるのかという話になった。
「俺は一人でいいと思う。まず色々な魔法属性が使えるし剣技もある。だから誰と戦ってもなんとかなると思う。」
「あえてユーリ君を組ませて勝率をあげるというのも手だとは思いますが…。」
「いや確かにユーリの言う通り一人でやらせよう。多分俺達では足手まといにしかならない。」
流石に足手まといなんてことはないが、1対1の方がやりやすいという気持ちはある。これまでの戦いで皆と戦うこともあったが命のやり取りをするわけではない試合では自分のことに集中したいというタイプである。手数が増えればそれだけ判断する時間も必要になるからな。
「逆に僕はペアにして欲しいかな。一人では絶対無理。」
「ウールやアリアはサポート向きだもんね。」
「ひとまず騎士団長のおさらいをしてみよう。」
青薔薇聖騎士団団長セシリア・グランベール
《聖剣ガラティーン》の使い手でその剣技と雷属性魔法の攻撃力は底知れない。
翠狼聖騎士団団長 オリバー・マイルズ
《疾風》の能力と二つ名を持つ。その鮮やかな剣技と速さは目で捕らえることができない。
紅鳳凰聖騎士団団長 アルフレッド・マーティン
炎属性魔法に彼以上に適正がいる者はこの国にいない。唯一《精霊》を呼び出すことができる点も厄介。
黄角聖騎士団団長 ブランシェ・アンバー
武器なしの近接戦闘では騎士団長の中で一番。オリバー程スピードはないが俊敏性と持久力が持ち味。
紫龍聖騎士団団長 クリス・ドラグニス
騎士団長最強の男。片腕を失うもその強さは異次元である。魔法は苦手らしいがそもそも必要ない。
宮廷魔道士団団長 セドリック・モルガン
誰も戦っている所を見たことがなく一番底知れない人物である。ただ団長になるくらいなので恐らく…。
「といった具合でしょうか。」
「やはり問題になりそうなのはクリス様とセシリア様ですね。」
「単純に強いというではオリバーさんやブランシェさんも負けてはいない。」
「アルフレッドさんも《精霊》を出されると対処できるかどうか…。」
「結局全員問題ってことなんじゃないのそれ。」
「セドリック団長が一番謎に包まれていると思うけど、誰か何か知らないの?」
「少しだけだがセドリック団長のことならわかるぞ。子供の時だが彼の戦いを父から聞いたことがある。」
どうやらディランはセドリック団長について何か知っているようだった。父親のイヴァン・アレストールは宮廷魔道士団副団長長であるから、近くにいることも多いはずだ。たしかに一番情報を持っていることだろう。
「彼は全ての魔法属性に適正があり、『多重展開』できる最大の数は十重までと聞いたことがある。」
「十重だって?!とんでもない化物じゃないか。」
「ただ魔法以外はあまり得意ではないようだから、接近戦が得意な奴をぶつけるべきだろうな。」
「なるほど。」
「私はクリス団長と戦いたいなぁ~」
「正気かデリラ!あんなにボコボコにされたのに!」
どうやらデリラはクリス団長と戦いたいらしい。クリス団長に今回の件と修行しに行ったのはデリラとウールである。そこでかなり絞られたのがウール的には効いているようだが、デリラはむしろやる気が出ているようだ。元々二人の戦闘スタイルは似ているし学ぶところも多いのだろう。
「いいんじゃないか?クリス団長とデリラを戦わせるの。」
「私も賛成です。戦闘スタイルも似ていますし、あとはサポートできる人を付けたら良いのではないでしょうか。」
「デリラにはカルロスを付けます。二人なら役割分担もできますしちょうど良いでしょう。」
とりあえず一番やっかいそうなクリス団長の相手は決まったな。全員厄介と言えばそうなんだがクリス団長のパワーに対抗できるのはデリラくらいのものだろう。それにカルロスがいれば長距離狙撃こそできないものの上手く支援攻撃ができるだろうから校章を狙って勝ちにいくという点で評価できる。
「それでいうなら同じような戦闘スタイルは同じような人材をぶつけるべきなんじゃないか?どうせ小細工は通用しないだろうし。せめて同じ分野で上回る可能性をぶつける方がいいと思うんだが。」
「一理ありますね。では私はオリバーと戦います。」
「俺はセシリアさんかな。」
「私はブランシェさんだね。」
「ディランは少しでも情報を持っているという観点からセドリックの相手をしてください。」
「任された。」
「エレナは同じ炎属性魔法の適性があるアルフレッドの担当をお願いします。」
「わかりました。」
順調に誰が誰を相手にするか決まっていく。残るは誰が1対1で戦うのかというところだが俺は一人で戦いたい。皆が足手まといとかそういうわけではない。もちろん勝率を上げるという点ではペアを組んだ方がいんのだろうが俺もデリラに感化されてしまったかな。セシリアさんと1対1で戦いと思っているのだ。
「俺はセシリアさんと一人でやらせて欲しい。」
「わかりました。」
「私はサポート欲しいかな。一人でブランシェさんと戦うのはちょっと自信がないや。」
「だったら僕がサポートするよ。ブランシェさんの戦い方にはちょっと興味あるし。」
俺はセシリアさんと1対1でフルーとウールは二人でブランシェさんの相手をすることになった。フルーならば同じ武器を持たない戦闘スタイルだし、ウールの能力的にも戦えるサポートをすることができるだろうから組み合わせとしては悪くないだろう。
「さてあとはアリアとコータの割り振りですがアリアはディランとセドリックと戦ってください。」
「わかったよ!でもどうして?」
「先程のディランの話で少しだけセドリックのことを思い出しましたが彼は若い時に騎士団で呼ばれていた二つ名があることを思い出しました。」
「二つ名?」
「オリバーさんの《疾風》みたいなものだよ。もっともオリバーさんの場合はその能力の名前から取ってる部分もあるけどね。」
「それでセドリック団長の二つ名って?」
「《千の魔術師》です。」
「《千の魔術師》ねぇ。」
《千の魔術師》か随分と大きく出てる名前だとは思うが、もしかしたら本当に魔法を千種類使えるなんてことがありそうな所が恐ろしい。ディランの話が本当なら『多重展開』できる最大の数は十重らしいからその信憑性は高いな。《大賢者》のアリアですら五重が現状の最高なのに。俺達の中でこれを超える者もいないしな。流石と言わざるを得ない。
「つまり《大賢者》のアリアに魔法の対応をしろということだね。ディランが攻撃メインで。」
「そういうことです。」
「わかったよ!ディラン頼むよ!」
「ああ。任せておけ。」
さて残ったコータを誰と組ませるかという部分だが俺を除けばペアがいないのはエレナとシャーロットの二人である。どちらかというとシャーロットに組ませるべきではないかと思う。シャーロットは接近戦しかできないことに比べてエレナはどちらもある程度対応できる。それにオリバーはどちらも対応してくることを考えるとシャーロットと組ませる方が相性はいいように思う。
「シャーロットと組めばいいんじゃないか?」
「いえ、私は一人で戦わせてください。」
「僕は別にどっちでも構わないよ。」
「私も一人で戦いたいというこだわりはないので問題ないですが、シャーロットにしては珍しいですね。客観的にみたらオリバー団長と戦うあなたが組んだ方がバランスはいいと思います。だからユーリ君も提案したのだと思いましたが。」
「うん、エレナの言った通りだよ。別に全然いいんだけどね。」
「…最近私はあまり戦闘を行っていませんから。勘を取り戻したいと思っているだけですよ。」
シャーロットの言っていることも理解できる。ここのところ大きな戦闘にあまり参加していないというのも事実だろう。シャーロットにしてはそういった自分の我儘を通すのは凄く珍しいが、《勇者》として何か思うところがあるのかもしれないな。この前の《進化の勇者》イオ•エヴォリュートが残した迷宮遺物に記載してあったことも関係しているのだろう。能力の成長に関して明確に何かを掴んでいるのはエレナだけだから。
「そうかそれならこれで決まったな。」
「はい。一度まとめてみましょう。」
【D・B】対騎士団長戦
青薔薇聖騎士団団長 セシリア・グランベール VS ユーリ・ヴァイオレット
翠狼聖騎士団団長 オリバー・マイルズ VS シャーロット・セルベスタ
紅鳳凰聖騎士団団長 アルフレッド・マーティン VS エレオノーラ・スカーレット & コータ・イマイ
黄角聖騎士団団長 ブランシェ・アンバー VS フルー・フルーラ & ウール・レディ
紫龍聖騎士団団長 クリス・ドラグニス VS デリラ・バルムンク & カルロス・クライフ
宮廷魔道士団団長 セドリック・モルガン VS アリア・リーズベルト & ディラン・アレストール
「といった具合になります。これから試合の日まではペアの者はそれぞれ連携の確認や作戦会議を。私とユーリは一人で戦うための調整を行いましょう。皆さん勝ちにいきますよ!」
「「「「「「「「おー!!!!!!!!」」」」」」」」
俺達は9日後の【D・B】対騎士団長戦に備えて準備を進めていくのであった。
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