第百九十九話 集合
いつもの様に俺とアリアはシロに準備を手伝ってもらい学園へと向かう準備をしていた。どうもランマはまたどこかへ出かけているらしい。マルクさんの話によればたまに帰ってくるらしいからまたしばらくすれば帰ってくるだろうとのことだった。霊峰ベルベティスに行く前にちょっと様子が変だったことが気になるがまあ帰ってきてきてから聞けばよいだろう。
「いってきます。」
「行ってくるね!」
「ユーリ様、アリア様!いってらっしゃいませ!」
学園に投稿するのも久しぶりな気がするな。セルベスタに帰ってきてから新しく得た《勇者》の情報や魔族のことの共有やシロのことをモルガ長老に聞きに行ったりと意外とバタバタしていた。長老に白狐族のことを聞いたら少しだが情報が手に入った。可能性として凄く高いということらしい、というのもシロは能力を授かっているがまだそれがなんなのかわからない。長老曰く、白狐族の能力は来るべき時が来たら発現するなんて言われているらしい。何もわからなかった時に比べてたら大分色々なことがわかったと思うが随分とあやふやである。シロ本人にそのことを伝えたがポカーンとしていたし、あまり自覚はないようだ。
「さて問題はどうやって騎士団長達と戦うかってところかなぁ。」
「そうだね、そもそもどうやって戦うんだろう。」
「まず向こうは6人だろ、でもってこっちは10人いるから単純に数では勝っているわけだけど。」
「そう簡単にいくわけじゃないよね。」
この前エレナに聞いた俺に内緒にしていたというセルベスタ王国騎士団長達との修行それと模擬戦。俺は皆と違って直接修行をしてもらったわけじゃないから、この模擬戦が実質修行みたいなものである。とはいえ向こうは6人しかいないがこっちは俺、アリア、エレナ、ディラン、フルー、コータ、デリラ、ウール、シャーロット、カルロスの10名である。仮に2対1がOKだったとしても二人は1対1になる。誰相手に1対1で戦うのかというのも勝敗を分けそうだな。そうこうしている内に学園に着く。新しい教室へと俺達は向かう。
「というわけで6騎士団長と戦ってもらいます。」
「何がというわけでだよ!無理無理死んじゃうよ!」
「まあまあ私達も稽古付けてもらったじゃない。」
「稽古と試合じゃ全然違うだろ!怪我したらどうしてくれるんだ!」
とウールはずっとこの調子である。ウールはクリス団長を呼びに行き稽古をつけてもらったようで大分トラウマになっているようだった。彼は手加減とか知らなさそうだからな。ちなみにだが今日から俺達は3年生になった。といっても3年生に進級したのはいつものメンバーだけだ。だから人数は減ったが面子としては大きく変わってはいない。学園と称しているが要するに騎士団員候補生を育てる施設であり、逆にならない生徒は他の職種を極めるため2年生時点で大抵は卒業前に行く場所を決めている。3年生に進級する生徒は王族やら選ばれた貴族、あとは学園で教師として務める者くらいである。俺達の世代はそのほとんど騎士団に行っており、残った生徒も自分の働き口は2年生時点で全員決まったらしいから結果的に俺達10人だけになったようだ。
「そこは安心してください。ルールは【D・B】と同じですから。」
「【D・B】か懐かしいな。」
「模擬線といったらこれという定番だね。」
俺達の模擬線は【D・B】に決まったらしい。【D・B】とは一年生の聖騎士祭で行った競技でもある。相手の校章を先に破壊した方が勝ちというシンプルなルールである。武器の使用もOKでもちろん魔法の使用もOK。あの時は初めての聖騎士祭で四天王に責めてこられて死の淵を彷徨ったんだったな。
「それはいいけど人数はこちらの方が多いけどどうするの?」
「はい。2対1を4組と二人は1対1で戦ってもらうことになります。なので二人を相手にしてもらう騎士団長には2個校章をつけてもらうことになります。ちなみにハンデとして対戦相手はこちらが選んでいいそうです。」
「ハンデになってるのか怪しいとこだけど。」
「まずは誰と誰が戦うかを決めないといけないね。」
「騎士団の中で強さ順はどうなっているんだろう?」
元々騎士団最強だったのは間違いなくクリスだが、“信仰”のグレモリーによって片腕を落とされてしまった。今は義手だがその実力は衰えていない。むしろ上がったのではないかなんて言われることもあるくらいだ。次点ではセシリアさんではないかと思う。彼女の剣技と魔法は小細工が必要ないくらいに圧倒的であるし何より《聖剣ガラティーン》がある。
「ちなみに【D・B】は武器が使えるけど流石に《聖剣》は禁止でいいんだよね?」
「はいセシリアには《聖剣ガラティーン》は禁止といってあります。もちろんユーリも《聖剣クラレント》は使用禁止ですよ。」
「それはよかったと同時にしょうがないな。」
今回は《聖剣》は禁止にしてくれるようだ。良かったがセシリアさんを除く他の騎士団長は特別変わった剣をしようしているわけではないのにあの強さであるということを考えるとあまり意味はないかもしれないな。それに一人底知れない人物を忘れていた。宮廷魔導士団団長のセドリック・モルガン。なんだかんだ一番会っているのは彼だろうが底がまったくわからない。弱いということはないだろうからある種不気味な存在であることに間違いない。
「こりゃ前途多難だな。」
「【D・B】を行うのは10日後ですからまだ時間はあります。じっくりと対策を練りましょう。」
「結構先なんだな。」
「あぁ、セシリア団長は今当たられている任務が少しだけ長引いていてね。」
「セシリアさんが手こずるとは珍しいね。」
「相手はあの勇者教だからね。」
俺は勇者教という言葉を聞いて反応する。忘れもしないガルタニアでの一件、人々を騙し魔物に変貌させてしまったあの事件。思い出しただけでも腹が立つ、魔族のしたことは許せない。そんな俺を察してかシャーロットが俺の肩に手を置く。
「大丈夫です。フルーが言っている勇者教は本物ですから。」
「本物?」
「ええ、そのちょっと厄介なだけで害があるわけではありませんよ。セシリアの領地で立てこもっているようですが時間が経てば食料も尽きますし直に諦めるだろうとのことです。」
「そうか、それならいいんだけど。」
「今日はここで解散いたしましょう。まだ10日もありますから今日はここまでで作戦はまた明日以降に考えましょう。」
本物の勇者教かそれなら問題ないな。またあのような事件だったら問題だがそうそう魔族も同じ手は使わないだろう。そしてその日はそこで解散となった。
◇◇◇◇
魔族領にて―――
魔王の部屋、そこには四天王が集まっていた“信仰”のグレモリー、“不死”のイモータルそして…
「あなたの実験は成功したよぉねぇイモータル。」
「ああ。おかげでワシの能力の幅がまた一つ広がった。」
「………。」
「相変わらずクールなのねぇ。アッシュ。」
身長と同じくらいの大きな剣を背中に背負っている白髪で長身の男はアッシュと呼ばれている。グレモリーの問いかけには答えずに深く目を閉じている。
「聞く気がないのかしらぁ。」
「構わん。奴も動かねばならない時がくれば動く。それよりも…」
イモータルは柱の影に目を向ける。四天王しか入れないはずのこの部屋で聞き耳を立てている者がいることを察知していた。イモータルはそちらに向けて黒い炎を放つ。すると柱の影からあちちと言いながら若い魔族が飛び出してきた。
「これはこれは四天王の皆様お揃いで。」
「何の様だワメリ。」
「私だけではありませんよ。」
ワメリの後ろから若い魔族達が続々と出てくる。ワメリ・ミーム以外の《序列》魔族の面々である。ユーリ達にやられた者を除けば現在《序列》魔族はあと6名である。アッシュは彼らの姿を見ると目を開け背中に背負っている大剣をつかんだ。グレモリーも圧を掛ける。
「あらあら《序列》魔族の坊や達が私達に何の用かしら?」
「………。」
「グレモリー様、アッシュ様。私達は争いに来たわけではありません。」
ワメリは四天王の面々にニコニコと笑いながら話しかける。別に気を使っているというわけでも四天王に媚びているわけでもないということは皆わかっている。彼女はそういう魔族なのだ。だからこそ何を考えているかわからない。
「そちらはバリオン様をそして我々も《勇者》によって半壊しました。なのでここらで一つ私達同士の争いは辞めて協力体制を取るというのはどうか提案しに来ました。」
「協力体制?」
「はい。《魔王》様復活も近い今、争っている場合ではないのではと思いまして。」
ワメリは変わらず笑顔で四天王側に提案をする。イモータルは不信感を抱きつつも他の《序列》魔族も納得しているといった顔だ。そもそもなぜ四天王と《序列》魔族が揉めているのかという話になるが《序列》魔族はそこまで《魔王》様に対する忠誠心があまりないことが原因である。まったくないわけではないが四天王たち含め旧種の魔族よりも関心が薄い。だがここにきてなぜ急に《魔王》様へ忠誠を誓う様になったのか謎は深まるばかりだ。
「その要求を呑もう。だがワシの指示には従ってもらうぞ。」
「はい、それはもちろん。」
「バトラー!」
「はい。イモータル様。」
「円卓を用意しろ。」
「畏まりました。」
バトラーと呼ばれる魔族はこの魔法城の全てを管理している執事である。それと同時にここを守っており《魔王》がいない今四天王の執事の様なことをしている。そしてバトラーが指を弾くと《魔王》の部屋に円卓が出現した。これはまだ四天王と呼ばれるほど魔族が減る前、《魔王》様を守る側近が座っていたとされる物であった。各々が円卓の席に座る。
「では始めよう。《魔王》様復活のために。」
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