第百九十八話 亜人族のこれから
あれから俺達は亜人族の手当をして、今回の件についての話し合いを行った。これ以上人間族がここに立ち入ることをあまり良く思っていない亜人族も多かったので代表として俺とアリア、エレナ、ルミ、アザミそしてあとから駆け付けてくれたシャーロットの6名が残った。今後にちて話すために一週間後に議会が開かれた。議会にはエルフ族代表ヤーン、ハーピィ族代表ピート、ダークエルフ族ウィルル、魚人族マーシー、獣人族ブライ、ドワーフ族デンクそして俺達人間族である。魚人族であるマーシーが地上に来れるようになったのはアリアの《大賢者》の能力で口伝の魔法をマーシーさんに伝えることができたからである。上手くいって良かったが、これからはマーグさんやナーノの様に口下手な人が魔法を伝えることは難しいので他の方法を考えると言っていた。ウィルルは今回の事件の活躍もあり正式にダークエルフ族の代表として認められたようだった。
「さて詳しいことは大体わかりました。それで今後の皆さんの方針ですがセルベスタ王国代表として改めて申し上げます。オルロス国として正式に承認を受けていただきたいのです。もちろん現在の議会制はそのままで構いません。魔族という共通の敵と立ち向かうために協力していただきたいのです。」
シャーロットは頭を下げる。その姿に亜人族の代表たちは驚いていた。シャーロットは決してその場限りの行為で頭を下げているわけではない。彼女自身心から亜人族に敬意を払っているのだ。俺を含めて若い者達は亜人族と一緒に育ってきている。もちろん奴隷制度とその背景にあった亜人族の恨みも全てを理解しているとは言わないが、少しずつ未来はいい方に向かっているように思う。
「私は賛成だよ。ハーピィ族の皆を治療してくれたユーリには恩があるし他の皆も守ってくれた。」
「私も賛成だ。ダークエルフ族から疑われていた私を救い、魔族と戦った。」
「ドワーフ族もいいぜ。もとより俺達はそこまで拘りはないしな。鍛冶仕事さえできれば文句ない。」
「エルフ族も問題ない。王女とはいえあなたも《勇者》の身だ。それを私達は信じる。」
ハーピィ族、ダークエルフ族、ドワーフ族、エルフ族と続いて賛成してくれた。元々彼らは俺達にも協力的であったからこの流れはある程度予測できた。問題は…
「魚人族としても協力体制自体は構わない。だが我々はオルロス国に加盟はしない。これは我々魚人族という種の特別な生態にあることを理解していただきたい。」
「詳細はユーリから聞いております。わかりました、魚人族として我々と協力していただければと思います。」
魚人族は今でこそオルロス国周辺の海域に住んでいるが元々この地に長くいるということではない。色々な海域に魚人族がおりそれぞれが生活をしている。このオルロス国の海域にも集落があるというだけに過ぎないのだ。だから魚人族に協力はしてもらえてもこのオルロス国だけを拠点にすることは難しいという話である。そして残るは獣人族であるが…彼らは恐らく賛成しないと思う。昔の奴隷制度のせいで一番の迫害を受けてきたのは彼らだ。他の国に散らばっている同族もそうだろうが、そう簡単に人間族への恨みは消えないだろう。もちろん一部の友好的な獣人族はセルベスタ王国でも働いているし、騎士団の中にもいると聞いたことがある。だがオルロス国の獣人族は特に人間族への恨みを持った者が多いように感じる。
「代表のワシ個人の意見としてはお主らの提案を呑みたいと思う。だが知っての通り我々獣人族は亜人族の中でも特に種族が分かれており、代表としてワシが来ているが実際言うことを聞いてくれるかどうかはわからない。今回の件で恩を感じている者も大分増えたがそれでも反乱分子を抑えることはできないのじゃ。」
「そうですか…。」
やはり獣人族と完全に和解するのは難しいか…。どちらの立場もわかる獣人族でも居ればいいんだが…。仕方がないとりあえず獣人族だけは後回しにしておくしかないだろう。幸い獣人族以外は賛成してくれているから議会としての問題はないだろうがこれは後々問題になりかねない。早めになんとかしなければいけないな。
「議会としてはセルベスタ王女に賛成ということでよろしいですかな?」
「「「「「「異議なし。」」」」」」
「ありがとうございます。まずは今回被害にあった皆さんの支援と住居についてですが…」
その後もシャーロットの進行でオルロス国を支援するための話し合いが進められた。そこから先の話し合いはほとんど俺の出番はなかったが。議会が終わったあと俺はあることを聞くために獣人族代表のブライを待っていた。今日はライガがおらず一人だけなのでスムーズに話すことが出来そうだ。
「呼び出してすみません。」
「いや構わないさ。あの時ライガの一撃を受け止めた時から《勇者》の力に疑いは持っておらんよ。」
「力だけですか?」
「すまない言い方が悪かったな、《勇者》に選ばれるような人物の素行も含めてということじゃ。あそこでライガをぼこぼこにでもされていたらその力の振るい方に疑問も持っただろうが。」
「ははは。」
たしかにあそこであれだけの差を見せつけられて俺が偉そうにしていたら凄く嫌な奴に見えたことだろう。あの時はとにかく信じてもらうことばかり考えていたからな。それはさておきそろそろ本題に入ろう。俺が聞きたかったことはシロのことである。
「実は俺の家に奴隷の獣人族がいまして。あっ、安心してください奴隷と言っても元で今は奴隷紋も消えて彼女の望みでうちでメイドとして働いています。その彼女はこのオルロス国近くで発見されたそうなんですが、どんな種族かもわからず手がかりもありませんが彼女の故郷や仲間がいないか探しているんです。」
「なるほどの。その彼女の特徴を教えてもらえるか?」
俺はシロの特徴をブライに話した。彼は少しだけ考え込んで唸っていた。やはりこれだけの特徴だけは難しいだろうか。
「まさか生き残っていたとは…。」
「その口振りは何かご存じということですね。」
「ああ。おそらくそのシロという少女は狐族ではないかと思う。不思議な力を持つ者が多く戦闘だけに限らず色々なことができる。」
狐族という名前は俺も聞いたことがある。とはいえ俺が知っているのは猫族や狼族など様に耳や尻尾があるということくらいだけど不思議な力があるというのは初耳だな。一体どんなものなんだろうか。
「狐族ですか…。たしかに今まで会った獣人族の中にはいないけど狐族なら俺も知ってるけどたしか色が黄色っぽい種族と聞いたことがあります。でもシロはその名の通り耳も尻尾も白いんだ。だから狐族とは違うんじゃないですか?」
「狐族の中にはさらに特別な種族がいるんじゃ。白狐族と呼ばれておりその力は様々でどのような力になるかというのは個々で違うらしいが神に近いと言われている。」
「神に近い…。」
神に近いと言われてもピンとこないな。女神様ということだよな?恐らく強い魔法が使えるとかそういう力の話ではないと思うけど…。女神様ができて俺達のできないことといえば世界を渡るとかだろうか。《迷い人》であるコータは転生というものをしてこの世界に産まれている。流石にそこまでスケールの大きい話ではないだろうか。
「まあその娘が本当に白狐族かはわからんがな。それに恐らく純血ということではないだろう。もう何百年も前に滅んだと聞いておる。皆がその神に近い力を狙って争いの火種になってしまったからな。恐らく血を引いていて一種の先祖返りみたいなものだろう。狐族に知り合いがいないか聞いてみよう。」
「わかりました。ありがとうございます。」
俺はブライとの会話を最後にセルベスタ王国へと戻ることにした。霊峰ベルベティスでアザミの両親に会うだけだったのが色々なことが起こったな。《伝説の6人の勇者》ヴィクトリア・アークのことやこの大陸の外側の話、それに魔族のことなど色々なことが判明した。また帰って色々と皆と話さないとな。
「おーい、皆!」
「ユーリ遅いよ!」
「ごめんごめん。帰ろうか。」
「はい。」
龍の姿になったルミの背中に乗りオルロス国を後にした。飛び立ってしばらくした後に俺はあることを思い出す。バッセが自爆する前にエレナが言いかけていたこと。俺がこっちに来る前に何か頼み事をしていたことを思い出したんだった。何をお願いされていたのだろうか?
「そういえばエレナ、あの話の続きだけど…。」
「ユーリ君に黙っていたことですか?」
「そうそう。何で俺だけ内緒だったんだ?」
「そうですね。シャーロットが言うにはユーリ君を驚かせたかったということともう一つ。私達の修行も兼ねていたんです。」
「修行?」
「はい。私達はオリバーさんを連れてくるのとついでに修行をしてもらったんです。」
なるほどそういうことだったのか。それならそうと言ってくれれば良かったのに。俺も修行をしてもらいたいのに。いやでも結果的にこっちにきていなければ魔族の陰謀を食い止めることができなかったことを考えると良かったのか?
「それで俺を驚かせる方は?」
「三年生には進級試験がないですよね?」
「そりゃ俺達しかいないからね。」
「ついでに言うと聖騎士祭も卒業試験と呼ばれる物もないわけなので学園長とシャーロットが何か区切りが欲しいという話になったそうでして。」
三年生では進級試験がないからと、ここに向かう前に学園長と面談をしたことを思い出した。そうか聖騎士祭もないのか人数も少ないしな。それに卒業試験がないのも元々だろう。本来であれば騎士団に所属して入団することが最終試験みたいなものだからな。
「一体何をしようって言うんだ。うん…?」
待てよ…オリバーさんに修行をしてもらうだけなら別に王都まで連れてこなくてもいいんじゃないか?わざわざ来てもらったということはまさか…。俺の考えていることが分かったのかエレナとアリアはにっこりと笑う。
「まさか…。」
「そのまさかです。戦うんですよ、私達と。」
なるほどそう来たか。どうやら俺達はセルベスタ王国が誇る最強の6つの騎士団、それぞれに置かれている選ばれし最強の騎士団長と戦わなければいけないらしい。
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