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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
亜人間戦争編

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第百九十七話 不死

「私は四天王が一人“不死“のイモータル様、唯一の腹心、バッセと申します。」


現れた魔族は淡々と自己紹介をした。こちらが《勇者》であるということは知っているみたいだが、四天王‘’不死‘’のイモータルという名前もバッセという名も初めて聞く。一年の時の聖騎士祭では“剛腕”のバリオンそしてルミを操りクリス騎士団長が戦い腕を落とされたのが“信仰”のグレモリーという名前だったはずだ。


「お前が今回の事件の首謀者だな?」

「ええ、イモータル様の魔力を使って他人がどこまで操作できるのかという壮大な実験でした。魔人化させると長くは持ちませんからね。おかげでいいデータが手に入りましたよ。壊れるまで実験を行いたいところでしたが、あなた方が解いてしまったようなので、早いですが私が出ることにしました。」

「早い?まるでまだ何かあるみたいな言い草だな。」

「ええまあ。おしゃべりはこのくらいにして先に回収できるものはしておきましょう。」


バッセはジェマとコーデリアが向かった方に手を向ける。特に不思議なことは感じない。一体何をしている?いや考えるより動いた方が早い。何かをされる前に叩く。


「なるほど、レーナの方はやられましたか。貴重な駒でしたが…おっと!いきなり斬りかかってくるとは!」

「そっちに付き合ってられるほど暇じゃないんでね!」


俺は《聖剣クラレント》でバッセへと斬りかかる。バッセはそれを躱し、黒い穴から剣を取り出した。ユーリはその剣に違和感を覚える。恐らくこれは《魔剣》であると、どんな能力かわからない以上不用意に近づくのは危険だと判断した。


「ほぉ、この《魔剣ダインスレイヴ》に気付くとは。」

「割と何度も魔族と戦ってきてるんでね。《魔剣》を使用しているあたり、お前は魔法を使えないクチか?」

「そこまで知られていましたか。まあ今更隠す必要もありませんが、私の様な旧種魔族はたしかに魔法を使うことができません。あなた達が半分ほど始末してくれた《序列》魔族は生まれながらにして悪魔と契約し魔法が使える新種魔族と違ってね。」


あまり魔族についてわかっているわけではない、だから断片的な情報から推理した情報を元に結論を出していたに過ぎないがあながち間違っていたというわけでもないらしい。しかし、こうもペラペラ喋るところを見ると別に隠すものでもなかったのだろうか?それにこの口振り…旧種魔族と新種魔族には因縁でもあるのだろうか。ただひとついえることはこいつはこれまでの魔族とは違いよく喋る。ここは上手く話を合わせて聞けるだけ情報を抜き取りたい。


「だが四天王は《序列》魔族とは違うように見えたが?」

「ええ、四天王は全員が旧種魔族であり《序列》魔族の様に魔法は使えません。ただ旧種魔族にはある特徴があります。」

「ある特徴?」

「能力の発現による魔法が行使できるということです。必ずしも起こるというわけではないですがね。そしてそれは悪魔と契約している《序列》魔族よりも上であるということです。契約には代償がありますが普通の魔法を使うのに代償は必要ありませんからね。それはあなた達の方がわかっているのではないですか?」


なるほどバリオンは魔法を使っていなかったように思ったがあれは『身体強化(フィジカルブースト)』を使用していたのではないかと今ならば思う。グレモリーもルリを支配していたり魔物を爆破させたりしていたとクリス騎士団長が言っていたし魔法を使っていたことは間違いない。ただ《序列》魔族とは少し違うと思っていたがそういうことだったのか。恐らく旧種魔族は俺達で言う無属性に特化した魔法しか使えないんだ。逆に《序列》魔族は基本属性に特化しているということなのだろう。妖精から力を借りている俺達と悪魔から力を借りている魔族それぞれの魔法の基本属性が同じということも疑問ではあるがとりあえず今はこれがわかっただけでも十分だろう。


「なるほどな。色々とどうもありがとう。ところでそんなにベラベラと喋っていいのか?」

「構いません。この程度のことを知られても困りませんし、どうせあなた達はここで終わる運命ですから!」


バッセの持つ《魔剣》が光り輝くと大地が揺れる。先程までの会話は時間稼ぎであったということに気付いたがすでにバッセの準備は完了していたようだった。土や植物が集まりバッセの周りを包み込む。それらは龍の様な形に変化した。


「フハハハハ!これが《魔剣ダインスレイヴ》の力だぁ!一度解放された《魔剣ダインスレイヴ》は私を含めて周囲の生命力をも奪って糧とする!ここらの大地はすでに死の大地と成り果てたのだぁ!」

「生命力だと…!?」


《魔剣ダインスレイヴ》の能力に気付かずまんま時間稼ぎをされ力を蓄えさせてしまった。魔力であれば感知することができたが生命力となると生物でもなければ感知することができない。自然の生命力というのは人間には感知することはできないのだ。もしかするとそういう能力者はいるかもしれないが。今はこの辺り一帯の地面や植物だけだが、このままでは周辺にいる亜人族や俺達まで生命力を吸われかねない。


「アザミはなるべく亜人族の人たちを起こしてこの場から離れるように言ってくれ!」

「わ、わかりました!」

「『炎の矢(フレイム・アロー)三重(トリプル)』!!!」

「『風の弾丸(エア・ブレッド)三重(トリプル)』!!!」


アザミに解放した亜人族の皆を任せて俺とアリアはバッセにいや《魔剣ダインスレイヴ》に取り込まれた化物に魔法を放つ。しかし集まった木や土を使って防がれる。そしてそのままこちらに向かって襲い掛かってきた。先程までは龍のような姿だったが今度は大きな巨人の拳の様な形に見えた。


「「『身体強化(フィジカルブースト)二重(ダブル)』!!」」

「ウワァァァァ!!!!」


俺とアリアは『身体強化(フィジカルブースト)』を発動して回避する。図体はデカいからこそスピードはそこまで早くない。ただ少し厄介なのが生半可な火力では打ち消されてしまうことだ。せめてもう少し人数がいれば…そう考えていた時遠くが光ったかと思うと炎の槍が飛んできた。反対方向からは猛スピードでバッセに向かっていく者の姿も見えた。


「ユーリ!」

「ユーリ君!」

「みんな!無事でよかった!」


こちらに駆け付けてきてくれたのはエレナとコーデリアとルミそれにジェマとオリバーさんであった。ジェマとオリバーさんとルミはそのままバッセに向かって突っ込んでいく。エレナとコーデリアがこちらに駆け寄ってくる。恐らくこっちの狙いを理解してくれたということだと思う。


「これは魔族の仕業ということですね。」

「話が早くて助かる。バッセという魔族の仕業だよ。それに《魔剣ダインスレイヴ》の力も加わってあんな化物になってる。」

「なるほど、どちらも破壊したいけど大きな魔法を発動する隙がなかったということですね。わかりました。コーデリアとアリアは私達の防御をお願いします。」

「わかった…。」

「任せて!」

「俺はバッセを狙う、エレナは《魔剣ダインスレイヴ》の方を頼む!」

「わかりました!」


俺達はそれぞれの役割を決め、準備に取り掛かる。ルミとジェマ、オリバーさんの三人は上手く注意を引いて時間を稼いでくれている。しかし相手も理性は失っていないようでこちらに向けて土の塊を飛ばしてきている。俺とエレナはそれぞれ魔族の核と《魔剣》を破壊するために魔法の準備をする。俺は《紅蓮の勇者》の力を引き出す。


「いつでもいけます。」

「俺もだ。皆!」


全員おれとエレナの準備が整ったことを確認するとこちらに向かってくる。当然バッセもそれを追いかけてこちらへと向かってくる。ギリギリまで近づいたところで皆は左右へと散っていく。


「エレナ!」

「はい!」

「「『揺レ動ク神ノ槍(グングニル)』!!」」


俺とエレナが放った『揺レ動ク神ノ槍(グングニル)』を同時にバッセに向かって放つ。バッセは手の様な形を作って防ごうとするが二つの『揺レ動ク神ノ槍(グングニル)』はそれを貫通して的確にバッセの身体と《魔剣ダインスレイヴ》を貫いた。


「グワァァァァァ!!!!!」

「皆を操った罪は重い。」


土や木々は《魔剣ダインスレイヴ》が砕けたことによりその場にバラバラと崩れ落ちた。巻き込まれた亜人族などはいないようで俺は一安心した。


「皆ありがとう。助かったよ。」

「まあユーリだけでもなんとかなったと思うけどな。今まで会った魔族の中で断トツ弱い魔力だったぞ。」

「私も…そう思う…。」

「いや被害なしというわけにはいかなかったよ。そうかコーデリアとジェマは《序列》魔族しか会ったことないのか。《魔剣》を使う魔族は魔法が使えないんだよ。これまでそれは仮説だったんだけどさっき倒したバッセっていう魔族がべらべらと色々喋ってくれたよ。まあそのせいでこの辺りの地形大分変っちゃったんだけど。」


たしかにコーデリアとジェマの言う通り《序列》魔族ではないからあまり強い魔力は感じなかったのだろう。ワメリという《序列》魔族と会ったばかりだから余計にそういう風に感じるのかもしれない。最初の頃は《魔剣》相手にもボロボロだったことを考えると無傷で誰も傷付けられることなく倒すことができたというのは凄く成長したように思える。だがまだまだ上には上がいる。四天王“不死“のイモータル直接操っているわけでもないのにこれだけの数の亜人族を操ることが出来るだけの魔力量、いやその効力の方こそ脅威と感じるべきなのだろう。難しい顔をしているとオリバーさんが俺の肩をポンと叩きにっこりと笑う。そうだった、彼が来てくれたおかげでジェマの方の不思議な魔力は心配ではなくなったのだ。きちんとお礼を言うべきだろう。


「オリバーさん助かりました。まさか騎士団長がわざわざ出向いてくるとは。」

「いや、なんてことはないさ。僕が一番王都に着くのが速く、そしてここにいち早く迎えたということだけの話さ!」


オリバーさんの速さは相変わらずということのようだ。彼がいれば大抵の相手は問題ないだろうし実際かなり助かった。あとであの不思議な魔力の正体を聞いておこう。


「おかげで助かりました。ところでどうして王都に?それにエレナとアリアはどうして一緒に?」

「ああ、そういえばシャーロットがユーリ君には黙っているようにと言っていたのを忘れていました。」

「そういえばそんな話してたような…。」


なぜエレナ達とオリバーさんが一緒に向かってきたのが謎であったので疑問だったが、エレナの口ぶりからシャーロットが俺に内緒で何か進めていたことを思い出した。


「実は私達が頼まれごとをしていた内容ですが…」

「「「「「「「!!!!!!!」」」」」」」


その瞬間砕けた瓦礫の中から何かが動くのを察知した。それは倒したはずのバッセが立ち上がる姿であった。


「バッセ?!たしかに核は破壊したはず…。」

「何か様子がおかしい!」


バッセの身体に纏わりつく不気味な黒い霧、それらはバッセを包み込むと大きく膨らみ、魔力の上昇がわかる今にも破裂しそうであった。見ただけでそれがどのようなことを起こすのか理解できた。


「『龍化(ドラゴン・シフト)』!」

「『炎の監獄(フレイム・プリズン)三重(トリプル)』!!!」

「『水の壁(ウォーター・ウォール)三重(トリプル)』!!!」

「『土の壁(アース・ウォール)三重(トリプル)』!!!」


エレナ、コーデリア、ジェマの三人はそれを取り囲むように壁の魔法を発動させる。上の部分だけ開けて真上に爆風を逃がそうとしているのだ。続けてルミは龍の姿になり俺達を守るように前へと出た。だがこのままでは爆風は抑えられそうだが《魔剣ダインスレイヴ》によって集められた瓦礫なども爆風と共に上から降ってくる。


「アリア!オリバーさん!」

「任せたまえ!」

「わかってる!」


黒い魔力の膨らみは轟音と共に爆発した。壁の魔法はギリギリのところで持ちこたえて上部からは噴火のように爆風が漏れ出していた。そして上空に舞い上げられた瓦礫は地面に向かって降ってくる。


「『風剣の舞(エアブレイド・ダンス)』!」

「『魔法弾(マジック・ショット)三重(トリプル)』!!!」

「『雷撃一閃ライトニング・ストラッシュ』!」


オリバーさんとアリアと俺は上空に舞い上げられた瓦礫を魔法で消し飛ばした。こうして亜人族間戦争に思われた魔族の企みを俺達は阻止することができたのであった。

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