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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
亜人間戦争編

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第百九十六話 聖なる雨

相手の正体がわかったところでエレナ達は捕縛して支配から解放することを選んだ。


「さてこちらは三人います。叔母様には悪いですが大人しく捕まってもらいましょう。」

「そうですね。私細かい調整できませんけど。」

「私が…フォロー…する。」

「『炎の球(フレイム・ボール)』。」

「来ましたよ!」

「ここは私が!」


ルミはまっすぐにレーナへと突っ込んでいく。ルミは大分人間の姿の状態でも龍の身体の時の特徴を発揮できるようになってきた。口から火を吐けることからわかるように龍種は元々火に強い。鱗の防御力に注目がいきがちだがそれも強みなのである。


「『炎の矢(フレイム・アロー)』」

「『炎の槍(フレイム・ランス)』!」

「『水の壁(ウォーター・ウォール)』!」


レーナは炎の中に突っ込んでこちらに向かってくるルミには目もくれず、『炎の矢(フレイム・アロー)』をエレナとコーデリアへと向けて放つ。すかさずこちらも魔法で防御をする。『炎の槍(フレイム・ランス)』をぶつけ威力を減らし『水の壁(ウォーター・ウォール)』で完全に防ぐ。コーデリアだけでは太刀打ちできなかったが仲間が入ればどうにかできる相手ではある。


「ここ!…うわぁ!」

「ルミ!」

「これは…。」


ルミは炎を抜けレーナへと腕を振り下ろすが身体に触れそうになった瞬間、見えない何かに吹き飛ばされた。わずかではあるエレナ達の元にも熱い風が届いた。


「あれは恐らく『炎の身体(フレイム・ボディ)』の熱風で吹き飛ばしたのでしょう。ルミで無理なら私達でも突破は難しいかもしません。」

「私の…水も…蒸発する…。」

「これじゃ近づけないですね。」


火を消すことができればいいがここには水属性魔法の使い手はコーデリアしかいない。それに火に強いルミでも力で負けるとなると打つ手がない。ここは何か視点を変えて対応する必要がある。何か策はないだろうかエレナは考える。…やむを得ない、レーナには悪いが同じスカーレット家の人間として彼女をこの手で葬ろうとエレナは覚悟を決めたのだった。


「お二人共、作戦があります。よく聞いてください。」

「はい。」

「うん…。」


エレナは二人に作戦を話す。二人はそれを聞いて驚いた。エレナの作戦は叔母であるレーナの亡骸を燃やし尽くすという提案であったからである。支配から解放して遺体を埋葬するのではなくここで焼却を行おうというのだ。その作戦を聞いてコーデリアとルミは驚いた。


「本当にいいんですか?」

「ええ、他に選択できる余裕もありません。それにこれ以上彼女の亡骸を弄ばれるのはスカーレット家の人間として見過ごすことはできません。」

「わかった…エレナが…そう決めたなら…。」

「ありがとうございます。では作戦通りに!」


ルミは再びレーナへと向かっていく。コーデリアはそれをサポートするようにレーナの魔法に対処する。エレナは魔力を込め集中する。ルミが再び攻撃を仕掛けようとするとまた『炎の身体(フレイム・ボディ)』を発生させる。熱風は再びルミの身体を吹き飛ばした。


「『水の弾丸(ウォーター・ブレッド)三重(トリプル)』!!!」

「!!!」


コーデリアの放った『水の弾丸(ウォーター・ブレッド)三重(トリプル)』はレーナの『炎の身体(フレイム・ボディ)』を貫通する。しかしあと少しのところでレーナの身体には届かずに蒸発してしまった。レーナはコーデリアの方に向き直り魔法を放とうとする。


「『揺レ動ク神ノ槍(グングニル)』!」

「………。」


エレナはコーデリアが作った隙間に『揺レ動ク神ノ槍(グングニル)』を放ちレーナの身体を貫いた。上半身と下半身が辛うじてくっ付いているような状態でその重さに下半身は耐えきれず倒れる。エレナはゆっくりとレーナの元へと近づいていく。反抗的な視線を向けられるが、抵抗しようにも身体が動かないそんな状態であった。


「あなたは魔法を発動させるまでの時間が大きい、そこを狙わせてもらいました。そうは言ってもほとんど並かそれ以上ではありましたが。恐らく操られているが故に本来の実力は発揮できなかったのでしょう。安らかに眠ってくださいレーナ叔母様。」


エレナはレーナの身体を炎で包んで燃やした。三人はそれを見ながらレーナの弔いをするのであった。


◇◇◇◇


ユーリとアザミは操られた亜人族の対応に追われていた。コーデリアとジェマのことも心配であり、一刻も早くこの状況を何とかしなければと考えていた。するとジェマの方に大きな魔力が近づいていくのを感知した。一瞬身構えたがすぐに心配から安堵に変わった。ユーリはこの魔力の主を知っている。以前にも助けてもらったことがある騎士団長の中でも最速の男、翠狼聖騎士団団長オリバー・マイルズの魔力であった。それにその少し後ろには見知った仲間の魔力を感じる。


「アザミ!援軍が来たみたいだ!」

「本当ですか!これでなんとかなりますね!」


ルミが頭上を通り抜けるとそこから一人、ユーリとアザミの元へと降りてきた。その彼女は今この状況を一番変えられる魔法を使える者である。


「アリア!」

「ユーリ!」

「助かった。今はアリアの力が一番必要なんだ。」

「とりあえずジェマとコーデリアのところにも増援は送ったよ!ユーリ達の状況を教えて!」


ユーリはアリアに今の状況を説明した。亜人族の間でいざこざが発生していたこと、それを自分達が調べていくうちに魔族の仕業であることが判明したこと。そして魔族は今亜人族の皆を操りお互いに戦わせていること。


「亜人族の皆は魔族の魔力で操られているんだ。」

「なるほど。つまり《聖》属性の魔法であればそれから解放できるってことね。」

「話が早くて助かる。俺の《聖剣クラレント》では皆を傷付けずに解放するには骨が折れる。」


俺も解放はできるが効率は良くない。俺の場合魔力を消すというより攻撃の副産物で消えるという表現が近い。だからダメージを与えすぎないようにする方が神経を使うのだ。その点アリアは魔力だけを消し去ることができる分そういった調整は必要ない。とはいえこの人数をたった二人で対処するのは厳しいものがある。


「でも私だけでもこの人数は…そうだ!ユーリ『合体魔法(シンクロ・キャスト)』なら!」

「そうか。《聖》属性を付与できれば…!よし、それで行こう!」


とはいえ傷付けないようにする魔法を組み合わせなければ意味がない。なるべく傷付けないように…いやあの魔法を組み合わせればいけるか?考えてもしかたない。アリアの準備はできているここはやるしかない。


「ユーリいくよ!『聖なる光(ホーリー・ライト)』!」

「『水の球(ウォーター・ボール)』!『突風(エア・ブラスト)』!」

「「『合体魔法(シンクロ・キャスト)聖なる雨(ホーリー・レイン)』!!!」」


ユーリは水の塊を空に浮かべそれを風によって細かい粒へと変換する。『聖なる光(ホーリー・ライト)』を通ったそれらの水滴はそれ一粒一粒が呪いを放つ聖水へとなっている。雨と言っているが、実際にはシャワーに近いのかもしれない。


「うぅ…。」

「うわぁ…。」

「見てください。皆さん解放されていきます。」


合体魔法(シンクロ・キャスト)聖なる雨(ホーリー・レイン)』によってそれを浴びた操られていた亜人族は続々と倒れていく。魔族の魔力はもう感じないということは支配から解放されたのだろう。上手くいってよかった。


「よかった。」

「それにしてもユーリまさか一人で二つの魔法を『合体魔法(シンクロ・キャスト)』で成功させるなんて。」

「ぶっつけ本番だったけどなんとかなってよかったよ。」


ほとんど咄嗟に体が動いたような感じだが、同時に魔法を発動させることができた。本来別の魔法を同時に発動させることは難しいと言われている。その理由は属性の違う魔法はお互いを干渉し合うからである。例えば『身体強化(フィジカルブースト)』などは対象が自身と外なので干渉はしないが、それ以外の魔法を同時に発動しようとするとどちらも外側に発動しようとするために干渉し合い魔法がまともに発動しないか制御ができないと言われている。言われてはいるが絶対にできないというわけではない。複数の属性を使いこなす能力を持ってる者や適性がある者などは使用することができる。とはいえあまり複数の魔法を同時に発生させるメリットはないのだ。なぜなら最初の魔法から次の魔法を発動するまでの速度を縮めることができればほとんど同時に発動できるからで、わざわざ同時発動で成功するかしないかにかけるよりもそっちの方が確実だからである。今回成功したのは恐らく複数の《勇者》の力を持つからだとユーリは考えた。


「だけど同時発動は『合体魔法(シンクロ・キャスト)』くらいでしか使うメリットはないかな。そうじゃなきゃ上手く合体させることができないからね。」

「とりあえず皆の介抱しないと!」

「私もお手伝いします!」


亜人族を支配していた魔族の魔力は完全にこの場から消えた。ジェマとコーデリアの方も不穏な魔力は今のところ落ち着いている。戦っている様子もないことから恐らく戦闘に勝ったか、相手の身柄を拘束することができたのだろう。これで事件も一件落着かと三人が安堵した瞬間にそれは上空に現れた。見覚えのある黒い穴、そしてそこから現れる人間族でも亜人族でもない種族の生物。そして先程まで感じていた魔族の魔力を帯びている。その男はこちらに目を向けると驚くほど穏やかな表情でこちらへむけて挨拶をする。


「初めまして《勇者》。」


今回の事件を引き起こした張本人と思われる魔族であった。


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