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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
亜人間戦争編

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第百九十五話 スカーレット家

オリバーはジェマの魔法発動までの時間稼ぎのためにローランに向かって再び剣で斬りかかる。しかし《聖剣デュランダル》の能力に阻まれて上手くダメージを与えられない。


(時間稼ぎをするのが目的だ。ダメージは与えられなくてもいい!)


ジェマはローランに悟られないよう魔力を込める。これから使用する魔法にはイメージが大事であり、今のジェマには使用するのに少しハードルがある。


「くっ!」


ローランもいつまでも防御に徹しているわけでもなく、本気でないとはいえそれなりの早さのオリバー以上の速度で斬りかかる。オリバーの能力《疾風》はその名の通り風属性の魔法により疾風のごとく自身の身体能力を上げるものである。その部分だけに注目すればフルーの能力に近い物があるが厳密には両者には決定的な違いがある。フルーの能力は元々の身体強化と風属性の魔法に適正があるという能力であるが、オリバーの場合は風属性の魔法に適正がありそれを身体能力に利用しているという違いがあるのだ。なので身体強化という点においてはフルーの方が上回っているがそれ以上に風属性の魔法の練度が高く、オリバーの方が応用が利くということである。


(全力というわけではないが、ゆったり相手もしていられないようだ。)


オリバーは身体強化に割いていた魔力を自身へと戻す。そして手のひらを前に出すと無数の風の塊が現れる。オリバーをそのまま再びローランへと斬りかかる。


「『風剣の舞(エアブレイド・ダンス)』!」


オリバーの剣がローランに向かって振り下ろされると、風で作られた剣も同じようにローランへと襲い掛かる。ローランは変わらず対処を続けるが徐々に押され始めていた。風で作られた県はオリバーの動きに合わせて動くようになっている。ただ動くだけではなくそれぞれが意思を持つような剣と遜色がない。ローランにしてみれば複数人を相手している感覚なのだ。


「いつでもいけるぜ!」

「わかった!」


ジェマの準備が終わったようで、オリバーはさらに畳みかける。ローランは少しずつ押されているものの傷付いたから動きが止まるということはなく変わらず動き続けていた。だがオリバーの本当の目的は攻撃することではなくある地点に追い込むことだった。


「『蟻地獄(アントライオン)』!」

「!!!」


オリバーは所定の位置まで誘導したあと高く飛び上がると、地面の砂はローランのみを地面へと引きずり込んだ。『蟻地獄(アントライオン)』という魔法には大きな魔力が必要である。その性質上、地面に常に魔力を流し続け地形を変化させる必要があるからだ。だがジェマのように魔力の供給限界がない場合はそのデメリットはない。


「今だ!」

「『風の檻(エア・プリズン)』!」


ローランが地面から出れなくなっている上からさらに『風の檻(エア・プリズン)』で地面に縛り付ける。これではいくらローランでも動けない。二人はローランを捕らえることに成功した。


「ふぅ、なんとかなったな。」

「だけどただ動きを止めただけだ。この死体を操る魔法をなんとか解除しないとね。」


死体を操る魔法を使ってローランを操っていたことは間違いない。しかしただ戦闘で負かすだけでは彼を解放することはできない。とりあえず二人はこのまま一度休息することにしたのだった。


◇◇◇◇


ジェマ達がローランを拘束する少し前―――


コーデリアは目の前の魔導士に苦戦していた。明らかに彼女の方が格上であり、自分だけでは彼女に勝つことができない。だからこそユーリ達の邪魔にならないように時間を稼ぐことだけを考えていた。


「『水の壁(ウォーター・ウォール)』!」

「……」


炎属性の魔法ばかり使う相手の女性は基礎的な魔法しか使ってこない。しかし何故かこちらが押し負ける。コーデリアも最初にユーリ達と出会った頃に比べて、今やそこそこの実力者である。いくつもの戦闘経験を経て、《溟海の勇者》の力で水属性の魔法ならばかなりの練度であるはずだ。魔法にも単純な相性は存在する。火に水をかければ消えるし、土に雷は通らない。だが練度に差があれば相性などは関係なくなる。海に火を放っても消えてしまうし、大火事に少量の水では意味がないのと同じことである。


(つまり…この人と…練度の差が…大きい…!)


コーデリアは考える。見た感じこの女性は正気ではない。もしかすると魔族の新しい魔法か能力なのかもしれないと。そうこう考えているうちにコーデリアの周りは火の海に包まれていた。ただ闇雲に基礎的な魔法を放っていたのではなく、この大きな魔法を発動させるための布石だったのだ。


「『水の壁(ウォーター・ウォール)三重(トリプル)』!!!」


コーデリアは自分の周りを水で覆う。しかし火の海はどんどん小さくなりコーデリアを潰すように周りに押し寄せてくる。ふいにコーデリアの周りをさらに別の炎が包み込む。その炎は女性の放った炎を押し返した。コーデリアの前に二人の女性が降り立つ。


「援軍…助かった…。」

「ギリギリのところでしたね。コーデリア。」

「間に合ってよかったです!」


コーデリアの元に駆け付けたのはエレナとルミであった。ジェマの元にオリバーが向かっていることに気付いた三人はそれぞれ別れて援護することにした。ユーリの元にはアリアを向かわせエレナとルミはコーデリアの元へと来たのだ。


「あの方…どこかで…。それに何かおかしな魔力を感じますね。」

「私の…魔法が…押し込まれる。」

「コーデリアさんの魔法を返すとは只者ではないですね。」


エレナは女性から感じる不思議な魔力とそれ以上に何か不審な点を感じていた。だが何が引っかかっているのかは自分でもわからなかった。そうこうしているうちに女性は魔法を放つ。エレナとルミは即座に対応する。


「『炎の槍(フレイム・ランス)』」

「『炎の槍(フレイム・ランス)』!」

「『龍の息吹(ドラゴン・ブレス)』!」


女性によって放たれた『炎の槍(フレイム・ランス)』は二人の魔法によって押し返された。女性の体に火が燃え移る。彼女の身に着けていた衣服が燃えて隠されていた顔がはっきりと見えた。


「エレナ…に似てる?」

「ほ、本当ですね…。」

「まさかこんなことが?」


その女性はどことなくエレナに顔が似ていた。緋色髪でスカーレット家の人間の特徴である。そしてエレナはあることをふと思い出した。以前ローラン団長の死体が盗まれた事件の時、各地で墓石が掘り起こされ死体が盗まれていた。そしてその中にはスカーレット家の人間もいたのだ。


「そういうことですか。彼女はもしかしたら…いえ、スカーレット家の人間のようですね。」

「ローラン団長が死体を盗まれた時に発生してたあれですか?」

「はい。彼女は恐らく私の叔母にあたるレーナ・スカーレットです。彼女は私が産まれる少し前に冒険者としてSランクの任務にあたり亡くなったと聞いています。」

「ということは…Sランク?」

「いえ、昇給のためのSランクだったと聞いているのでAランクということでしょう。ですがSランクに値する実績があるということに間違いありません。」


エレナはレーナ・スカーレットについて覚えていることを話す。レーナはエレナの叔母にあたり、エレナの母親の実の姉である。家に縛られるのが嫌で騎士団には所属せず冒険者となった。その反面エレナの母親はスカーレット家の人間ではあるが魔法の才能に恵まれなかった。レーナは冒険者として活躍しAランクになるほどの実力者であった。しかしSランクに昇格するために受けた依頼で討伐対象であった魔物に殺されてしまったというのがエレナが知ってる限りの情報である。エレナが物心ついた頃にはすでにスカーレット家から出ていたためレーナと直接の面識はない。


「なるほど…ということは…あれは死体…。」

「死体を操っているということですか?たしかに先程の攻撃を食らったのに血も出ていませんね。」

「恐らくデリラの言っていた《死霊使い》の仕業でしょう。死体を操る魔法、たしか『死霊魔術(ネクロマンシー)』と呼ばれていて禁呪魔法の一つだったと思います。」

「禁呪魔法?」

「なんらかの理由で使用を禁止されている魔法のことです。『死霊魔術(ネクロマンシー)』の様に人間や動物の死者を操るということはその人を冒涜していることと同じですから。」


エレナは『死霊魔術(ネクロマンシー)』について多少の心得があった。以前デリラが言っていた《死霊使い》の話を覚えていたため、学園の授業で禁呪魔法について教えてもらった時に『死霊魔術(ネクロマンシー)』についても詳しく自分で調べたことがあった。死んだ人間や動物を操る魔法であるが、すでに死んでしまった生物にも尊厳はあり他人に勝手に操られていいわけがないということから禁呪魔法に指定されている。そもそもそう簡単に使用できる魔法ではないと記載されていたはずだ。だがユーリが対処している操られた亜人族から感じる微量な魔族の魔力。これも魔族の仕業なのだろうとエレナは考えていた。


「支配から解放するにはアリアかユーリの元へと引っ張っていくしかないようですね。」

「捕まえる…。」

「わかりました!任せてください!」


三人はレーナを捕らえ支配から解放するためにアリアとユーリの元へと連れてくことに決めた。


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