第百九十二話 勇者の繋がり
俺達は魚人族のナーノの案内により魚人族の集落へと向かったいた。ナーノはどんどん奥深くへと潜っていくがどんどん暗くなっていく。本当にこんなところに集落があるのだろうか。するとナーノは何もないところで止まる。
「ここだ!」
「ここだって…何もないけど?」
ナーノが立ち止まった場所は何もない場所であった。何か魔力を感じるわけでもない。再びナーノが進むとナーノ姿が消えた。一瞬にしてナーノの魔力を感じられなくなったのだ。すると今度は頭だけ出現し、何食わぬ顔でこちらを見ている。
「ナーノ?!」
「何立ち止まってるんだ?早く行こうぜ!」
「なるほど。目には見えない何かがここにはあるんだ。」
「だけど全く魔力を感じねぇ。」
「不思議…。」
俺達はナーノがいる場所まで進むと不思議な空間に包まれ先へと進むとそこには地上と変わらない明るさの綺麗な海が広がっていた。たくさんの魚や魚人族が泳いでいる。ここが魚人族の集落なのだろう。
「驚いたな。こんな綺麗な光景が広がっているとは。」
「さっきまでの暗い海からは考えられないな。」
「太陽が…ある…。」
「本当ですね。海の中なのに一体どういうことなんでしょう。」
海の上には太陽があるように見える。こんな深いところまで太陽の光が届くのだろうか?それにこの集落全体を隠している何かも不思議だ。これだけ大規模なのに魔力を一切感じない。俺達が景色に夢中になっているとナーノが俺達を手招きにする。町の中心部にある城の様な場所へと向かう。城の外観は大和国の城に近いものがあるな。中に入ると先程種族会議に出席していた魚人族の他に何名か高貴そうな服を着た面々が揃っていた。ナーノはその人達に向けて頭を下げている。
「《勇者》の皆さんをお連れしました!」
「助かったぞナーノ。下がってよい。」
「はっ!」
ナーノの仕事はここまでのようで頭を下げたままゆっくりと下がっていく。さて、一体ここにいる魚人族の代表たちはなぜ俺達を招待したのだろうか。会議ではあまり積極的に参加している感じではなかった。ここは敵地であるし、いくら魔力でこちらが勝っているとはいえ敵のホームであることに変わりはない。ここは慎重にいかなければ。
「さて、こんなところまで来てもらって済まないな。現代の《勇者》達よ。」
「いえ、俺達もあなた達にお話が聞きたかったので構いませんが。なぜ急に招待なさるようなことを?会議ではあまり発言なさっていないようなので魚人族の考えがよくわかりません。」
「なっ…、お前やはり会議で何も発言していないのではないか?!」
会議参加していた魚人の隣に座っている女性が声を挙げている。一体どういうことなのだろうか?
「私は任せると言った。そうであろう《勇者》。」
「あっ、はい。それはそうなんですけど…」
「それだけで何が伝わるんだ!このバカ者が!」
もしかして魚人族がいつも会議にあまり参加していないのはあの人のせいなのではないだろうか?あの反応から見るに会議に出席させる人選を間違えているのではないだろうか。女性がこちら側に向き直ると再び口を開く。
「すまないが今回の会議の話を要約してもらっていいだろうか?」
「えーっとまず今回は…。」
俺は今日の会議で話し合ったことを簡潔に纏めて全員に話した。それとドワーフ族とハーピィ族のところにも行ったがすでに魔族が侵入した形跡があったことを話した。
「なるほどな。とりあえずこのバカは後で占めるとして情報の共有感謝する。」
「いえ、それで俺達はなぜここに招待されたのでしょうか?もちろん願ってもないことでしたが。」
「自己紹介がまだだったな、私はマーシーこの隣のバカ者マーグと一緒にここの魚人族の纏め役をしている。そして君たちに来てもらった理由だが…そうだな、見てもらった方が早いだろう。あれを持ってきてくれ。」
マーシーは部下に何かを頼むと奥の方から先版の様な物が運ばれてきた。そこには何か文字が書いてあるが何と書いてあるかはわからなかった。それに少しではあるが絵も描かれている。
「この石板にはかつて我々の先祖と共にまだ見ぬ大陸へと渡った《勇者》についての事柄が記載されている。」
「《勇者》について?」
どうやら石板には《勇者》に関することが記載されているらしい。なぜ魚人族の元にそんなものがあるのだろう。それに先祖と共にまだ見ぬ大陸に渡ったとは…もしかして《6人の伝説の勇者》ではない《初代勇者》の方の話だろうか。つまり現在の《魔王》だ。
「まあそれほど深い内容ではない。奴隷制度なんてものができるはるか昔から亜人族は差別を受けていたがそれを《勇者》が助け一緒に差別のない国を作ったというような話が書いてあるのだ。」
「それは俺達も知っている話です。そしてその《勇者》というのは《6人の伝説の勇者》ではなく《初代勇者》であり、現《魔王》のことを指していると思います。」
「それはどういうことだ?」
俺は魚人族の人たちに《勇者》に関するこれまでの俺達の話を要約して説明した。初めて聞いたことばかりで驚いたと思うがどこか納得したような顔もしていた。
「なるほど。少し時代に違和感を感じていたがそういうことであったのか。」
「俺達は《魔王》を倒すために仲間と《勇者》の情報を集めています。何か他に情報はありますか?」
「この石板に書かれているまだ見ぬ大陸というのが《魔王》や魔族たちのいる場所なのだろう。」
「そこを見つけることができれば…。」
「こっちから攻めることができるってわけだな。」
今まで魔族は魔法でどこからか突如として現れていたが、どこを拠点にしているかがわかれば攻められる前にこちらから仕掛けることができるかもしれない。これは有力な情報だ。しかしマーシーは言いづらそうに口を開く。
「しかしそのまだ見ぬ大陸というのはこの世界には存在していないのだ。」
「この世界に存在していない?一体どういうことですか?」
「我々魚人族は世界中に広く散らばっている。なので海のことならばなんでもわかるが、我々が知らない大陸がないんだ。例えば最近でいうと大和国の周辺に新たに国ができただろう?」
「ここから正反対のことなのによく知ってますね。」
マーシーが言っているのは大和国周辺に落ちた魔道天空都市カノンコートのことだろう。一応混乱を避けるためにまだ他の国にはいっていないから俺達と大和国くらいしか知らないはずだ。ましてや人間族と関わりのない魚人族が知っているのはおかしい。海のことならばなんでもわかるというのはあながち嘘でもないのだろう。そうなるとますますわからないのがまだ見ぬ大陸の場所だ。いやなんとなく当ては付いている。だからこそ確認しなければならないことがある。
「質問なんですが、海の中で大陸とは逆方向に進んでいくとどうなりますか?」
「それは反対側の大陸に出るだけだが…何かあるのか?」
「実は…。」
俺はコータから聞いた仮説を話した。要するに本来であれば大陸の反対側に着くには大陸が大きくなければならない。しかし実際にはそこまで時間をかけずに反対側に着いてしまう。コータも断定はできないがもしかすると何かの力が働いていて俺達のいる大陸の外側が存在するのではないかという説である。
「なるほど。まったくあり得ない話ではないかもしれない。我々も海の中で異変に感じている部分があるんだ。そのネックレスやこの街を覆い隠している大きな海藻はこの海に自生している物ではないんだ。」
「そうだったんですか。というかこれ海藻なんですね。」
「ああ。どこからともなく流れてきた物を利用しているにすぎない。つまり外の海から流れてきたものであると言えるだろう。」
なるほど、自生していない生物か。まったく考えていなかった観点だ。もしマーシーの言うことが本当ならばやはりコータの仮説が正しい可能性がある。つまりこの大陸の外側に世界が存在してそこが《魔王》た魔族達のいる世界なのだろう。奴らは魔法でこちら側に来ることが出来ているというわけだ。
「色々な情報ありがとう。これでまた少しわかることが増えてきたよ。」
「いやこちらも助かった。何しろこのバカを含め数名しか外に出ることができないのでな。種族会議に行かせてるわけだがどうも情報が入ってこないので疑ってはいたのだが…。」
「魚人族って皆が地上に出ることができるわけじゃないんですか?」
魚人族は全員が地上に出れるものだと聞いていたがどうやらそういうわけではないようだ。それで口下手だけどマーグを送るしかないということなんだろうな。護衛の二人も腕っぷしは強そうだが、喋りはダメそうだったし。うん?でもナーノは外に出てたような…多少難はあるが彼でもいいのではないだろうか。
「ああ。厳密に言えば全員でることはできるのだが、ある魔法を使用しなければいけないんだ。その魔法は口伝なんだよ。」
「口伝?」
「口頭で伝える魔法のことさ。代々魚人族は親から子へと習うんだよ。まあそれがなくても地上には出ることはできるが、少しの間だけなんだ。」
「なるほど。じゃあナーノもそういうことだったんですね。」
口頭で伝える魔法か。見たことのない魔法を聞いただけで使用できるなんて普通は無理だ。だが魚人族の中でだけ伝えることが出来るのだろうな。何か力になってあげたいが…いやもしかしたらなんとかなるかもしれないな。
「もしかしたらその問題解決できるかもしれません。」
「本当か?!」
「はい。俺の友人に《大賢者》の能力を持つ者がいるので一度マーグさんの魔法を目の前で見させれば使用できるようになるかもしれません。」
「それはありがたい!」
「来るかはわかりませんが、すでに仲間に応援を頼んでいるのでもしかしたら…。」
アリアであればそこまで難しい魔法でもなさそうだし、一度見れば習得することができるのではないかと俺は考えた。すでにルミに助けを呼びに帰ってもらっているので一緒に来てくれる可能性はある。今回の魔族の事件が片付けばすぐにでも助けてあげられるだろう。
「ところで本題なのですが、ここでは魔族の被害はありましたか?」
「いや、今のところ何もない。やつらも海の中までは来ることが出来ないのだろう。お主らと同じように息をすることができないからな。そのネックレスもたくさんあるわけでもないから心配する必要はない。」
「そうですか。」
とりあえず魚人族に被害がなくてよかった。奴らも海の中では簡単に手出しすることはできないということなのだろう。しかし、すでに魚人族以外の種族にはほとんどが魔族絡みの事件が起きている。早ければもう何か仕掛けてきているはずだろう。一度地上に戻らなければ…そう考えていた時、一人の魚人族の男が急いで俺達の元へと向かってきた。
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