第百九十一話 ハーピィ族
俺達はドワーフ族に貰った地図を頼りにして、ハーピィ族の領地へと向かっていた。ハーピィ族は全体的な数が少ないことと、その特性もあって街のような定住的な建物があるわけではなく一か所に留まることもないらしい。なので今は一応仮の住処になるそうだ。しばらく歩いていると渓谷のような場所に出た。その一角にハーピィ族が集まっているのが見える。
「やぁよく来たね。さっきはどうも、私はハーピィ族代表のピートだ。」
「改めましてユーリ・ヴァイオレットです。」
俺達は改めて互いに自己紹介をしつつ、襲われたハーピィ族がいるという場所まで案内してもらった。道すがらハーピィ族の特徴についても色々教えてもらった。ハーピィ族は他の亜人族とは違い全て女性しかいないということだ。そのため他の種族の男性との間に子供を作るらしい。だが必ずハーピィ族の特徴を持つ女性が産まれるため、増やそうと思っても他種族に協力してもらう必要があり全体的な数が少ないそうだ。
「ハーピィ族はそこまで人間族と敵対してはいなかったよ。そもそも奴隷制度に反対というわけでもなかったんだ。人間族は我々の見た目をそこまで嫌悪しないし、子を産むという目的は果たしやすかったからな。それに私の様な年齢の年寄りでも需要があったのさ。」
そう笑って話すパートの年齢は人間族で言えば10代か20代くらいであるが、年齢は60を超えているらしい。人間族の俺達から見ればとてもそうは見えない。エルフやダークエルフも年齢より若く見えるし、亜人族は人間族よりも長寿である種族が多いのだ。しかし奴隷制度に反対していなかったというのには意外である。
「それは…いいんですかね?俺は奴隷にされて酷い扱いをされた亜人族の話しか聞いたことがないので…。」
「まあ今の世代の子供達はそうだろうね。利害関係の一致というやつかな。本能みたいな物でね、子を産み種族を存続するのが一種の使命みたいな感じなんだよ。でなければハーピィ族は滅んでしまうから。」
種族の絶滅というのは俺達人間にはあまりに縁遠い話であり、あまり実感も湧かない。だが奴隷という制度がなくても彼女らの種を存続させる手伝いはできるのではないかと考えている。そう思っている内に療養中のハーピィ族の元へと辿り着いた。俺は一人一人を見て周り、『治療魔法』をかける。しかし傷は塞がってもあまり顔色が良くならない。それにこの感じはやはり…。
「多分襲われたのは魔族だと思います。ケガとは別に魔族の魔力の痕跡を感じます。これが皆さんの身体に大して呪いの様に作用しているのでしょう。」
「やっぱり…。治せそうかな?呪いであれば聖の魔法か薬がいるって聞くけど…。」
聖属性の魔法でなければ呪いの治療をすることは難しい。そしてそれを使用できるのはアリアしかおらず、ここにはいない。だが聖属性の武器ならば俺も持っている。そう、《聖剣クラレント》だ。少し荒っぽい治療にはなるだろうがこのまま放置すると衰弱して、死に至ってしまう。
「少し荒っぽくなりますがそれでも構いませんか?」
「命には変えられないよ。」
「わかりました。《聖剣クラレント》!皆さんじっとしててください!」
俺は鞘から《聖剣クラレント》に魔力を込めプレッシャーを与える。ケガ人にはキツイだろうがこれで魔族にかけられた呪いを解呪することができる。ドワーフ族に貰った鞘のおかげか思っていたよりも《聖剣》の魔力操作がスムーズになった様に感じる。前まではただ漠然と魔力を放出するだけであったが今は少しではあるが意識して放出することができている。
「これで大丈夫だと思います。完全に魔族の魔力の気配は消えました。」
「ありがとう助かったよ。しかしハーピィ族もドワーフ族もと続くとどうやらかなり内部まで魔族が入り込んでいるらしいね。」
「そのようですね。できれば会議に参加していた種族意外にも話を聞きたい所ですが…。」
「ラミア族やリザード族とかもいるけど私達以上に少ないから…。魚人族ならもしかしたら話を聞いてくれるかもしれないよ。」
魚人族か先ほどの集まりでも終始黙っていたし何を考えているか一番わからない種族だったな。まったく面識のないラミア族やリザード族よりも話す余地はありそうに感じるが…。ここは思い切って魚人族の元へといってみることにしよう。
「魚人族はどのあたりに住んでいるかわかりますか?」
「魚人族というくらいなんだからもちろん海だよ。」
「それもそうか。」
「海は…どっち?」
「ここを真っすぐに進んでいけば海に着けるよ。ただ私達もあんまり魚人族とは会話したことないから気を付けてね。揉め事を起こすような対応ではないと思うけど。」
「わかった。」
俺達はハーピィ族の集落を後にして今度は魚人族の住む海を目指して歩いた。魚人族について詳しいことは何もわからない。学園で習った知識で言えば、海に住んでいるということ陸に上がってくることもできるということくらいだ。
「何か嫌な予感がしてきたな。」
「私も…。こういう時…大抵何か起こる…。」
「そうだね。早くルリが皆を連れてきてくれるといいんだけど。」
ルリに助けを呼びに行ってもらってから結構時間は経っている。しかし誰もまだ来ていない、たしかシャーロットが何かを皆に頼むとか言っていた。もしかしたら国を出ているのかもしれない。そうなると時間がかかってしまう。ジェマとコーデリアの言う通り、俺もたしかに何か嫌な雰囲気を感じている。俺達四人だけでは戦力として不安が残る。アザミはまだ魔法を使い始めたばかりだしな。
「そろそろ海じゃないか?」
「見えてきた…。」
「綺麗ですね。」
ピートに言われた方向に進んでいくと海に出た。辺りを見回すが何もない。それもそのはず魚人族が海に住んでいることもありこの辺りには誰も近づかないそうだ。ハーピィ族は空を飛べるのでこの辺りを見ることもあるらしいが、魚人族を見かけたことはないらしい。ということは普段からずっと海の中にいるということなのだろう。俺達は海岸まで進み、海を眺めてみる。さてここから先どうやって進んだものだろう。できる限り魔法で空気の空間を作って中に入るか?どこまでいけるかわからないが素潜りするよりは長い時間潜ることが出来るだろう。しかし試したことがないからどれくらい持つかわからない。それにこのメンバーの中で風属性の魔法を使用できるのは俺だけなので人数分を出すのは少々厳しい。そんなことを考えていると海の中で何か影のようなものが動いたのを感じた。
「海の中!」
「あぁ!何かいる!」
「敵…?」
「魔物でしょうか?!」
俺達は警戒して身構える、海の中の影は目で捉えきれない速さで動いている。すると大きな音と共に海から何かが飛び出してきた。
「ひょーい!!!」
「な、何だ?」
海から飛び出したのは金髪の魚人族であった。その魚人は海から飛び出て陸へと両足で着地する。こちらに気付くと笑顔を浮かべながら走って向かってくる。敵意は感じられないが先程の会議ではいなかったため初めて見る顔だ。
「あんたたちが《勇者》か!な!そうなんだろ!」
「そ、そうだけど。君は?」
「おっと自己紹介が遅れたな!俺はナーノだ!お前たちを迎えに来た!」
「何か威勢のいい奴が来たな。」
「うるさい…。」
「元気なのは素晴らしいことだと思います!」
どうやらこのやたら元気の良い魚人族の青年はナーノというらしい。暑苦しいのはさておき俺達を迎えに来たというのはどういうことだろうか?まるで俺達が来ることがわかっていたような口ぶりだが…。
「あのナーノさん。俺達を迎えに来たというのはどういう意味ですか?」
「ナーノでいいぞ!俺は族長にお前たちが来るから迎えに来るように言われただけだぞ!さぁ、俺達の集落へ行こう!」
「話…通じない…。」
「まぁなんにせよ、案内してくれるっていうならいいじゃねぇか。どうせ行く当てもなかったんだしよ。」
「ですが海の中にどうやって行くのでしょう?」
いまいち会話が嚙み合っていないがとにかく魚人族の集落まで案内してくれるのなら話が早い。しかしアザミが言うように海の中では息が続かないので潜る方法がない。というか集落が海の中にあるならば仮に潜ることができたとしてもそこで会話したりすることができないのではないだろうか。ナーノは何か思いついたような顔をするとポケットから綺麗なネックレスの様な者を取り出した。
「そうだった。これを渡さないといけないんだった!」
「ネックレス?」
「素敵ですね。」
「これは空気を発生させる特別なサンゴ礁を加工して作ったものだ!魚人族以外は海の中に潜ることが出来ないからこれを渡すようにって言われてたんだった!」
俺達はナーノから渡されたサンゴ礁で作ったというネックレスを身に付ける。本当にこれで海の中で息ができるのだろうか?さぁ行くぞ!と言わんばかりにナーノは海の中へと進んでいく。俺達もそれに続いて海の中へと入っていく。するとネックレスから空気の泡のようなものが発生し俺達の体にピッタリとくっ付いた。息ができる、どうやらこのサンゴ礁から空気が継続的に発生するようで息苦しくならない。
「これは凄いな。」
「会話もできるみたいだしな。」
「もらって…いきたい…。」
「まさか初めての海でこんな経験ができるとは!」
アザミは霊峰ベルベティスにいたから海に入るのは初めての体験であった。最も海で泳ぐのではなく息をして海の中に潜るという経験はユーリ達も初めての経験であるが。
「ちゃんと俺に付いてきてくれよな!」
「ああ。皆行こう。」
ユーリ達はナーノの後に続き海の深くへと進んでいくのであった。
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