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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
亜人間戦争編

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第百八十九話 無傷

俺達が机に到着するとすでに3つの種族の長が席に着いていた。今回の議長であるハーピィ族。ダークエルフ族、そして魚人族。魚人族は初めて見るがこうしてみると人間に近い見た目をしているように見えるな。そしてダークエルフ族はこちらを今にも襲い掛かってきそうな勢いで睨んでいる。エルフ族との因縁はかなり根深いようだ。俺からすればそこまで見た目も変わらないのになぜ争っているのかわからない、まあ人間族の俺達にはわからないような何かがあるのだろう。


「今回はこれだけか?」

「いや、あとドワーフ族と獣人族が来るよ。」

「フン、下等な奴らめ。時間も守れないとは。」


ヤーンの質問にハーピィ族の族長と思われる女性が答える。そしてダークエルフ族の族長がそれに悪態をつく。ダークエルフ族はエルフ族だけでなく他の種族にもこのような態度を取っているようだ。すると別々の方向から二組がこちらに向かって歩いて来る。


「来たな。」

「いや遅れてすまない。ギリギリまで作品を仕上げたくてな。」

「我々も済まないな。一人言うことを聞かない奴にてこずってしまってな。」

「大丈夫だ。これで全員揃ったな。始めるか。」


獣人族の代表とドワーフ族の代表が席に着く。ハーピィ族の進行により会議が進もうとしたその瞬間。俺に向かって、獣人族の従者と思われる者が襲い掛かる。俺は攻撃を躱し、後ろへと下がる。


「一体どういうことだ!」

「どういうことだとってのはぁこっちのセリフだな。エルフ族さんよ。なぜこんなところに人間族がいやがる?ダークエルフ族も一緒にいるみたいだしなぁ?」


獣人族の者はどうやら俺が人間族であることに気付いたらしい。認識阻害のローブを纏っているはずなのだが…いやこれは恐らく魔術的なことじゃないな。


「なるほど、匂いで気付かれたかな。」

「そういうことだ。お前は変な感じがするが匂いは完全に人間族の物だ。」


獣人族の嗅覚を少し舐めていたな。認識阻害のローブだけで隠せると思っていたがそういうわけにはいかなかったようだ。だがどの道ここまで来れた以上、遅かれ早かれ正体を明かす必要があったからちょうどよかっただろう。できればもう少し穏便にいきたいところではあったが。


「どういうことか説明していただけますか?ヤーン殿。」

「そうじゃな。ことの発端は我々エルフ族とダークエルフ族の揉め事じゃ。だがどうやらその背景には魔族が絡んでいることがわかった。今日の種族会議で他の皆も魔族に関して何か情報がないのか聞きたかったのじゃ。」

「それで人間族がいるのとどう関係かある?」

「彼が《勇者》だからじゃ。」


ヤーンさんが軽く事の経緯を説明する。みな驚いたような顔をしてこちらを見ている。俺を襲ってきた獣人族の彼だけを除いてではあるが。俺は認識阻害のローブを脱いで正体を現す。


「ヤーンさんの言う通り俺は人間族で《勇者》のユーリ・ヴァイオレットだ。たまたまここにいるダークエルフ族のウィルルを助けたことから今回の件を聞いてこの種族会議に参加させてもらった。魔族が絡んでいる可能性が高いんだ。」

「それを信じられる根拠は?それにウィルル!貴様裏切りおって!」

「俺達を奴隷商にでも売る気だろ!」


俺は自分が《勇者》であることを説明する。だがダークエルフ族と獣人族の従者達は信じられないようで怒りをあらわにしている。代表は何か考えこんでいる様子だ。さてどうやって説得をするべきだろうか。


「どうやったら信じてもらえるんだ?」

「簡単な方法があるぜ、お前が本当に《勇者》であるなら俺の攻撃何て無傷で耐えられるはずだ。」

「ライガそれはいくらなんでも無理だ!お前の攻撃に無傷で耐えるなど《勇者》であっても無理に決まってる。」

「どうする?やらねぇのか?」


なるほど。この襲ってきた血の気の多そうな獣人族はライガというのか。それによほど腕に自信があるらしい。こういうタイプはわかりやすく力を示すことができればいうことを聞いてくれそうではあるが、先程の攻撃を見るに無傷というのは中々厳しそうだ。だがこのままやらないというわけにはいかない。…一か八かにはなるが試してみるか。


「ああ受けるよ。その代わり俺の話を聞いてもらうよ。」

「ああ、もちろんだ。」


ライガの魔力が一気に跳ね上がる。先程の素早さもそうだがかなりの実力者であることは間違いない。よほど腕に自信があるのだろう。俺はその場にとどまり同様に魔力を込める。


「行くぞ!『ライガーストライク』!!!」

「『身体強化(フィジカル・ブースト)』!」


ライガーは集めた魔力を鍛え上げられた右手に込め真っすぐに俺の顔面めがけて拳をぶつける。俺もそれに答えるように顔面に『身体強化フィジカル・ブースト』を集中させる。ぶつかり合った瞬間周り衝撃波が広がる。ライガーはその場から一歩もいどうしていない俺に動揺しているようだ。


「そ、そんな!あり得ねぇ!」

「ふぅ。これで証明できたかな。」


ユーリの顔には少しのかすり傷もなく、その場から動くこともなく不敵に笑みを浮かべるのであった。


◇◇◇◇


「ユーリの奴大丈夫か?」

「何やら揉めているようですね。」

「いつもの…こと。」


認識阻害のローブを被りながらユーリ達を遠くから眺めていたジェマ、コーデリア、アザミの三名。早くも揉め事になっているユーリの姿を見ながら三人は息を潜めていた。


「ふぅーん。中々やるなあの獣人。かなり戦い慣れてやがる。」

「でもユーリ…反撃する…気がない。」

「どうしてでしょうか?」

「大方、攻撃を受けたら話を聞いてやるとか言われたんだろう。獣人族ってのはそういうのが多いからな。」

「なるほど。流石ジェマさんお詳しいですね!」


キラキラした目でジェマを見つめるアザミだが、コーデリアには少し思うところがあった。たしかユーリに聞いた話ではジェマもユーリに初めて会った時に戦いを挑んだと言っていた。獣人族に育てられたジェマもまったく同じことをしていたのだなとコーデリアは改めて知った。


「行くぞ!『ライガーストライク』!!!」

「『身体強化(フィジカル・ブースト)』!」


凄まじい二人のぶつかり合いから発せられた衝撃波が三人を襲う。特にアザミは初めてまともにユーリが戦う姿を見たので特に驚いていた。


「こ、ここまで衝撃波が来るなんて!」

「あの獣人…中々のパワー…。」

「だけどユーリには効いてねぇみたいだな。」

「どうしてユーリさんは微動だにしていないのでしょう?」


アザミはまだ魔法についての知識が多くなく、ユーリが何をしたのか理解できていなかった。コーデリアも『身体強化(フィジカル・ブースト)』を発動したことはわかったもののいくらユーリとはいえ『多重展開(マルチ・キャスト)』もなしで受けきるのは厳しいと考えていた。しかしジェマにはそのからくりがわかっていたようだった。


「なるほどな。私の魔力を使ったってわけか。」

「ジェマさんの魔力…ですか?」

「解説…。」

「ディランの『雷・身体強化ライトニング・フィジカル・ブースト』あるだろ。原理はあれと同じだろうな。」


身体強化(フィジカル・ブースト)』はその名の通り、身体能力を上げる魔法で無属性である。無属性の魔法の中でも比較的使いやすいが応用が利かない魔法でもある。例えば火属性を加えようとすると体温が上昇する。発火させるほどになってしまうため耐えられないだろう。仮に耐えられてもそれならば身体に炎を纏う魔法の方が『身体強化(フィジカル・ブースト)』がない分、楽に発動させることができる。それに片方に集中してしまうと身体強化の方がおろそかになってしまいどっちつかずになってしまう。その点ディランは元々雷属性に適正があるのもあるが、上手く雷を操り身体能力を向上させている。雷属性の魔力を身体に直接流し筋肉を活性化させているのだ。そして耐えられるように無属性魔力を適宜纏わせて負担を減らしている。


「アタシの土属性の魔力を『身体強化(フィジカル・ブースト)に組み合わせているんだ。身体に無属性の魔力の上に土属性の魔力を被せている。それに地面と自分の足を完全に固定しているんだな。土属性の魔力は硬化だけじゃなく固定も得意だからな。」

「なるほど。動いてないというよりも動けないの方が正しいかもしれませんね。」

「恐らく一発攻撃を受けてやるってな話だったんだろうな。あれじゃあまだ実践で使えなさそうだが受けるだけならうってつけの魔法だろう。」

「ユーリが…呼んでる…。私達も…行こう…。」


話がついたのかユーリがこちらを見ながら手招きしている。どうやら話はついたらしい三人は認識阻害のローブを脱ぎ、種族会議が行われている場所へと向かうのであった。


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