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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
亜人間戦争編

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第百八十七話 精霊

エルフ族の集落は思っていたよりも俺達人間族と変わらないように見える。木材を多く使っているという特徴こそあれど基本的な家であると言える。少し特徴として変わっているのはこのあたりの木は大きいから地面だけではなく、木の上に家があることくらいだろうか。


「ユーリさん大丈夫でしょうか?」

「たしかにめちゃくちゃ警戒はされているな。」

「大丈夫さ。いざとなればルミに乗って逃げればいい。」


しかし気になるのはどうしてエルフ族の長と思われる人は俺達をここに招き入れたのかということだ。この警戒のされ方からも人間族を警戒しているのは間違いない。にも拘わらずわざわざここに招き入れた意味はなんだろうか?俺達は集落の中にあるひときわ大きな木の中にある集会所の様な場所に通された。座れという合図をされ素直に座る。もちろん周りはエルフ族の戦士に取り囲まれたままだ。


「そう警戒しなくてもいい。お前たちも構えるな。」

「しかし長!」

「この方たちは大丈夫だ。」


やはり俺達をここに連れてきたのはこの集落の長だったようだ。長がエルフ族の戦士に警戒を解けという指示を出すと不服そうな顔ではあったが一応弓は背中にかけてくれた。そして長は一息つくと喋り始める。


「私はヤーンという。いくつかあるエルフ族の集落の一つであるここの集落の長をしている。お主らは《勇者》の子らだな。」

「えっ、どうして俺達が《勇者》だと?」

「私は《能力》で精霊が見えるのだ。」

「精霊?」


精霊というと『召喚魔法』で呼び出す生物のことだろうか。たしか紅鳳凰聖騎士団長アルフレッド・マーティンが『精霊召喚(スピリット・サモン)』で炎の竜サラマンダーを呼び出せると聞いたことがある。その精霊のことだろうか?見えるとは一体どういう意味なんだろう。


「君達は魔力を感じ取ることができるか?」

「はいそれはできますけど…。」

「魔法とは人間が発する魔力を利用して精霊が引き起こしている物なんだ。どちらもいなければ魔法は成立しない。」

「あっ…。」


俺はあることを思い出し声を出してしまった。そういえばすっかり忘れていたが、随分昔にコータも同じようなことを言っていた。それにカノンコートでウェールもそんなようなことを言っていたな。俺達は普段から精霊に力を借りることで魔法を発動しているということ。あまり意識したことはなかったが、たしかに俺達の体から抜けていく魔力は魔法陣へと変わりそこから炎や水などの属性の魔法が放たれるという現象は詳しくはわかっていない。


「じゃあ…魔法陣は…どういうこと…?」

「あれは精霊との対話に必要な言語の様な物だ。それを魔力で外へと描いているのだ。」

「なるほど、コミュニケーションってことね。」

「まあ精霊と言っても名前のあるような大精霊とは違い、まだ小さな物でしかないがな。それらが集まり具合によって魔法の強弱はかわる。」


精霊召喚(スピリット・サモン)』で呼び出せるような精霊というのは大精霊ということなんだろう。俺達が普段使っている魔法はその大精霊になる前の小さな精霊を利用しているというわけだ。


「それでそれとアタシ達が《勇者》だっていうのと何の関係があるんだ?」

「私ははるか昔《勇者》を見たことがあるんだ。」

「《勇者》を見たことがある?」

「ああ。私が《勇者》にあったのはかれこれ700年くらい前の話だがな。」

「700年前の《勇者》…ですか。」


700年前の《勇者》っていうのはつまり《6人伝説の勇者》のことだろうか?たしかブリジットさんの話では初代《勇者》つまり元《魔王》がこの世界に来たのが数百年前と言っていたはずだ。もしかしてその七人の《勇者》の誰かのことを言っているのだろうか?


「まだ私が幼い時であったが、彼女はここを通り霊峰ベルベティスへと向かって行った。その時見た彼女の周りには無数の精霊が常に漂っていた。普通魔法を使用する時に魔力を感じ取りどこからともなく現れるのだが、《勇者》の周りには常に精霊が漂っているのだ。そうだな例えばそこの青髪のお主は水属性の魔法が得意だろう?」

「正解…。」

「そして茶髪のお主は土属性の魔法、黄髪のお主は雷属性の魔法だな。」

「合ってるな。」

「そう…なんですかね?」

「アザミは多分そうだよ。」


ヤーンさんが見た人が本当に《勇者》かどうかはわからないが、仮にそうだったとして霊峰ベルベティスに向かったと言えば《戦の勇者》ヴィクトリアの可能性が高そうだ。だがまだ自己紹介もしていない俺達それぞれの得意な魔法属性を言い当てた能力は本物だ。精霊には属性があり、その見分けがつくというのもここまでの話も全て本当なのだろう。


「だが私が幼い時に見た《勇者》とお主らは少し違う。彼女は様々な属性の精霊を引き連れていたが、お主たちはそうではない。男のお前さんを除いてな。」

「俺ですか?」

「ああ。お主だけは私が見た数百年前の《勇者》と雰囲気が少し似ている。」

「雰囲気ですか。つまり無数の精霊を連れていると。」

「そうだ。」


ヴィクトリアは特定の属性だけではなくて複数の属性の精霊を連れていたということだ。そして俺だけが皆とは違い、おそらく《伝説の6人の勇者》と同じであると。なぜ皆は違うのか、それは俺が《7人目の勇者》であることと何か関係があるのかもしれない。俺達はヤーンさんに自己紹介をした、もちろん《勇者》のことも全てである。この人からも何か情報を聞き出せるかもしれない。


「という感じなんですけど…。何かわかりますか?」

「うーむ。たしか何か聞いたような気もするんだが…すまない。」

「そうでしたか。いえ構いません。」

「それでアタシ達が《勇者》だから招き入れたってだけじゃないんだろ?」

「うん…まだ何かある…。」

「流石は《勇者》だな。もちろんこの話をしたかったというのもあるが、本当の話はここからだ。」


ここまでのヤーンの話はとりあえず俺達が《勇者》であるかという確認の話にすぎない。本題はここからの様だ。一体その《勇者》である俺達に何を頼もうとしているのか。ヤーンはウィルルの方に視線をやるとエルフの言葉で会話を始める。ダークエルフ族とエルフ族の使用する言語は同じなんだな。


「お主らもこの者から大体の概要は聞いていると思うが今回の事件についてだ。」

「エルフ族の子供達が誘拐されたって話だね。最初はエルフ族側から仕掛けたって聞いたけど。」

「そのことを話す前に、『翻訳(トランスレート)』。これでエルフの言葉がわかるだろう?ウィルルとやら何か喋ってみなさい。」

「●●、これで私の声が聞こえるのか?」

「聞こえた。凄い、こんな魔法もあるのか。」


ヤーンは『翻訳(トランスレート)』という魔法を使った。すると先程までまったく何を言っているかわからなかったウィルルの言葉が理解できるようになった。これでスムーズに話をすることができる。


「さてお互いの会話が通じるようになったところで本題へと入ろう。君達がウィルルとやらから何を聞いたのかは知らないが我々はダークエルフ族に手出しなど出していない。」

「嘘だ!我々の領地が燃やされたことは間違いない!」

「それを言うならそちらだって我々の子供達を誘拐したではないのか?」

「くっ、それは…。」

「こうして無事に君は連れてきてくれたその事実は間違いない。だからこそ私はどうするべきなのか決めかねている。一度ちゃんと我々は話し合うべきなのだ。そこで君達にいい案を出して欲しい。他の種族なら信頼できないが《勇者》ならば私は信じることができる。」


要するに俺達に種族間の中を取り持って欲しいということか。実際やったやってないというのは俺達には判断できない。もう少し詳しく聞いてみないといけないな。そもそもなぜ森を燃やしたのがエルフ族であるとダークエルフ族は考えたのだろうか?


「まずはウィルル、森が燃やされた時のことをもう少し詳しく教えてくれ。」

「いいだろう。森が燃やされたのは5日ほど前のことだ。我々が渡ってきた川があっただろ?あの近辺の森が突如として燃えたのだ。幸い見張りがすぐに気付き消化することができたが、気付かなければもっと火の手は広がっていただろう。」

「それがどうしてエルフ族の仕業だと?」

「消化活動をしている時にエルフ族がその場にいたのを複数目撃している。もちろん私もだ。」


ふむ、それならばウィルル達がエルフ族の仕業だというのも理解できる。ダークエルフ族側の領地に入るのもこうして俺達がいるところを考えても難しくはないはずだ。


「だが我々の中にその様なことをした者はいない。」

「何だと!」

「まあウィルル落ち着いて。今度はヤーンさんの話を聞くよ。そもそもどうやって誘拐されたの?俺達みたいに入ってきてもすぐ気付きそうなもんだけど。それにどうやってあんな大人数連れ出したと思う?」

「あれは3日前の夜中のことだった。我々が寝静まった頃に突如としてダークエルフ族が現れ、子供達を連れて闇夜に消えたのだ。もちろんすぐに気付いた我々も追ったのだが逃げ切られてしまった。いや消えてしまったという方が正しいかもしれない。」

「消えてしまったね…。」


例えば何か瞬間移動の様な魔法を使ったとしたらできないことではない。あとは『幻覚魔法』なので引き付けて逃げ出したとか。それなら似たようなことをウィルルがやっていたし、ダークエルフ族ならできそうな気もする。


「魔法を使って逃げたんじゃないのか?」

「いや私もその場にいたからもし魔法を使えば精霊の動きでわかる。もちろん魔道具もだ。あの時そういった形跡は感じなかった。」

「つまり突然現れて、突然消えたと。」

「そんな話信じられないな。我々の中にその様な魔法の使い手はいない。」


魔法の痕跡、精霊を見ることができるとそれがわかる。魔法道具の線も考えたがそれも精霊が関わるようで使用すればわかるということか。ふむ…他に考えられることと言えば例えば身体能力の向上だろうか?


「『身体強化(フィジカル・ブースト)』の様な魔法でも精霊の動きはわかるのか?『翻訳(トランスレート)』もそうだが常時発動しているような魔法だ。」

「ああ、もちろんだ。」

「ということは魔法を使った線はなさそうだが。」

「元々の…身体能力…。」

「それもあまり人間族と変わらないだろう。我々は獣人族の様な強さもないし、ドワーフ族の様な器用さもない。もっとも人間族に近い亜人が我々エルフと言っていいだろう。その代わり寿命は長く、ほとんど老化することもない。不死ではないがな。」


たしかにエルフ族は年齢よりも見た目がかなり若そうだ。ライラさんもかなり若く見えるしな。エルフ族の素の身体能力が高いというわけでもないとなると、やはり何か謎はあるはずに違いない。それにしても瞬間移動か…俺はあることを思い出す。


「ヤーンさんは魔族を見たことがありますか?」

「魔族だと…?いや見たことはないが…。」

「魔族は恐らくですが俺達とは根本的に違う魔法を使用しています。それが精霊を介した魔法ではなく悪魔の力だそうなんです。俺は何度も魔族と戦い実際に目にしたことがありますが、奴らは一瞬で長距離を移動します。だから突然現れるという点にも説明がつく。」


そう、俺が思いついたのは魔族の存在だった。先程の話でウェールが言っていたことを思い出したが、奴らの魔法は炎や風が発生していても俺達と違い精霊の力ではなく悪魔の力を借りているという話だった。それであればヤーンさんは精霊しか見えないので魔法の痕跡がわからなくても不思議ではない。


「そんなことが…。しかしなぜ魔族がこんなところに…。」

「わかりません。しかし、ダークエルフ族とエルフ族の抗争を起こそうとしているのは間違いなさそうですね。」

「我々はまんまと騙されていたと?」

「はい。奴らは狡猾で自分で手を出さずに裏で操ろうとします。本当の狙いは何なのかを知る必要があるかもしれません。」


獣人族にもすでにコンタクトを取っていたところから考えると、このオルロス国にすでに魔族が入り込んでいても不思議ではない。理由はわからないがこのやり方はいかにも魔族らしいと思う。一体魔族は何が狙いなのだろうか。


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