第百八十五話 別れと出会い
次の日俺達は村の中心へと集まっていた。目的は俺とアザミの婚約を発表するためである、もちろん嘘だが。クタンさんにも協力してもらって一芝居してもらう手筈になっている。
「今日皆に集まってもらったのは嬉しい知らせがあるからです。」
「なんだクタンさん。」
「早く教えてー。」
村人達は俺達が前にいることからもなんとなく《勇者》関連であることはわかっているだろう。何かを凄く期待するようにこちらに視線を向けている。何だかちょっと緊張してきたな。
「ここにいる《雷霆の勇者》アザミは同じ《勇者》であるユーリ殿と婚約した。」
「うぉぉぉ!!!」
「おめでとー!!!」
「今日はなんてめでたい日なんだ!!!」
村人達は俺とアザミの婚約を聞いて大歓声を上げる。俺はその勢いに圧倒されその場で倒れこんでしまいそうになるくらいだ。
「だが二人はこれから外の世界に出て《魔王》との戦いに備えなければならない。」
「そうなんだー。」
「《勇者》様だもんなぁ。」
「仕方ないよね。」
問題はここからである。アザミの両親の目的であるあの大きな屋敷をクタンさんに返すという方向に話を持っていく必要がある。婚約だけではそのままでいいのではないかという意見が出るかもしれない。そこで俺達はもう一つ策を考えた。
「そしてそれはどのような戦いになるかわからない。だからもう二度とここには来れないかもしれない。」
「そんなぁ…。」
「残念だなぁ。」
「だけど皆のことも心配だ。だからこの村を安心して任せられるクタンさんを中心に頑張っていってほしいと思う。そのためには村の一番目立つあの屋敷周辺に勇者教の本拠地を置いて欲しいいんだ。」
「でもそれでは現在使っている教会はどうするんですか?」
「あそこは凄く大事な場所だから使用しないで欲しいんだ。」
俺達が考えた策とは《勇者》である俺達の口からクタンさんに勇者教の中心人物として頑張って欲しいこと。そのために勇者教の拠点を屋敷周辺に集めることであった。そうすれば屋敷をクタンさんの住居にすることができるのと《戦の勇者》と出会った教会の地下から人を遠ざけることができるからだ。それに《勇者》でなければ情報を知ることはできないが、あそこにあまり人を立ち寄らせたくないという狙いもある。何が起こるかわからないから余計な情報を知って皆を危険にさらしたくないという思いがあるからだ。クタンさんは知ってしまったが彼の心の中だけに留めてもらうことにした。
「わかりました。《勇者》様がそういうなら…。」
「我々がクタンと一緒に勇者教を盛り上げていきます!」
「皆ありがとう!」
こうして村人たちの説得をすることができた俺達は屋敷をクタンさんに返しアザミの両親は元の家へと戻ることができた。さてあとはここで聞いたことを急いでシャーロット達に教えるだけである。
「お世話になりました。」
「いえ、こちらこそ色々とありがとうございました。またいつでも来てください歓迎します。」
「今度は他の皆を連れてきますね。」
「アザミも気を付けるんだよ。」
「うん。行ってきます。」
俺達はクタンさんとアザミの両親とあいさつを済ませる。そして龍の姿になったルミの背中に乗り込み霊峰ベルベティスに別れを告げる。
「色々あったけどとりあえず丸く収まってよかったかな。」
「だけど問題はあるぜ。《魔王》は倒せないってことがわかったんだ。どうやって戦うかは考えておかないといけないんじゃないか?」
ジェマの言う通り《戦の勇者》ヴィクトリア・アークが言っていた《魔王》は不死身であるという点。だから《6人の伝説の勇者》は封印することしかできなかったという。今の俺達がこのまま強くなったとして果たして正攻法で倒すことができるのかというのはわからない。そのためにどうするのか…。
「封印する…。」
「たしかにそれも一つの手なんだけど…。」
《6人の伝説の勇者》の様にもう一度封印するというのも一つだろう。どんな封印なのかわからないがそれに近いことを実現させることはもしかしたらできるかもしれない。しかしそれでは根本的な解決にはならない。また次の世代の《勇者》に託すことになってしまう。なぜかはわからないが俺達が決着をつけるべきであると感じるのだ。もしかしたら俺の能力である《7人目の勇者》がそう言っているのかもしれない。
「まあ俺達だけで考えても仕方がない。一度、皆と相談しなくちゃ。」
「そろそろ繋がるんじゃないか?」
「試してみるよ。」
俺が通信機で連絡しようとした瞬間ルミは大きく体の向きを変更させる。咄嗟に背中の鱗に捕まったが危うく振り落とされてしまうところであった。
「ルミ、どうした?」
「すみません!人影が見えて見られたような感覚が!」
「人影?」
俺は背中から下を覗き込む。一応魔法で俺達の姿を隠している。だから地上から見えることはないはずだ。しかしルミは俺達と違ってそういう視線には敏感である。この辺りは霊峰ベルベティスを抜け、もうオルロス国の辺りである。下には森が広がっており、人がいるような気配は感じない。
「何も見えない気がするが…。」
「いや何かいる。」
「あっ!今光りましたよ!」
木々の隙間から時折光が見える。あれは誰かが魔法を放っている光だろう。戦っているということか?もし人間族であるならこの場所で戦っているつまり亜人族に襲われているのかもしれないという考えが俺の頭によぎる。
「仕方がない。ルミは皆を乗せてこのまま上空で待機しててくれ。俺が下に降りて様子を見てくる。」
「おいおい、本気かよ。」
「もしルミが感じた視線が人間族のだったら亜人族に襲われているのかもしれないだろ?」
「それはそうだが…。」
「大丈夫ちょっと確認してくるだけだ。コーデリア俺の代わりにルミの姿を消してくれ。」
「…任された。」
俺はルミの背中から光が見えた方に向かって飛び降りる。光属性魔法で自分の姿を隠しつつ、風属性魔法でゆっくりと降下する。地上に着いた俺は気の影に潜みながら魔法が放たれている方に近づいていく。見つけた…しかしどうやら人間族ではなさそうである。あれはエルフ…か?
「●●●●●!」
「クッ、●●●!」
声は聞こえているが正直何を言っているか全くわからない。エルフ族であるギルド長のライラさんは人間族の言葉で喋っているからあまり考えたことなかったが、エルフ族は違う言葉を喋るんだな。それに耳が長いことは似ているが肌は黒く髪の色は白い。雰囲気が違うように感じる。それに言葉はわからないが何か揉めている様子である。
「●●●!」
「●●●●●!」
「キャ!」
複数人のエルフ族が同じ種族であろう女性に向かって次々と魔法を放っている。女性の方はそれを一人で耐えきっている。しかしこのままではいずれ限界が来るだろう。このままやり過ごすこともできるが原因がわからないけど複数で寄ってたかっているこの状況を俺は見逃すことはできない。
「『風の壁』!」
「●●●!?」
「『身体強化』!そして『煙幕』!」
俺は『風の壁』で魔法から女性を守る。そして『身体強化』をし、女性を抱え上げ『煙幕』で目くらましをしこの場から離脱した。女性は戸惑った様子で何かを訴えていたが何を言っているかわからないので、とりあえず逃げることに専念した。
「さて、一体どうしようか。」
「●●●●?」
「えーっと…。」
「●●●●●。」
まったく何を話しているかわからない以上会話もままならない。もしアリアがいれば言葉がわかる魔法なんかを作れるかもしれないななどと考えていると上空にいるはずのルミ、ジェマ、コーデリア、アザミがいた。
「あれどうしてここに?」
「ユーリの…魔法を…感じた。」
「ってコーデリアが言うからよ。何かあったのかと思って降りて来たんだよ。」
「それでそちらの方は?」
なるほど、俺が魔法を使ったことがわかって心配して降りてきてくれたってわけか。俺は皆に現在の状況を説明する。このエルフ族っぽい女性は同じ種族の仲間から攻撃を受けていたので助けに入ったこと。事情がわからないので反撃もできずとりあえずここまで逃げてきたということを。
「なるほどな。」
「だけど彼女から話を聞こうにも言葉がわからなくて困っているってわけ。」
「エルフ語…わからない。」
「アタシも獣人族ならまだしも他の亜人族はな。」
「私はまったくわかりません。」
「そうだよなぁ。」
コーデリアとアザミは俺と同じく知らなくても当然だろう。ジェマならもしかするとという期待も少しあったが獣人族しかダメなようだ。俺達がどうしようかと頭を悩ませているとルミが何やらうんうん頷いている。
「ユーリさんにありがとうとお礼をいっているようですよ。」
「えっ…それはどういたしまして。じゃなくてルミ、彼女が何を言っているかわかるの?」
「ええ。ドラゴンですから。」
「ドラゴンだからって。」
ドラゴンだったらエルフの言葉がわかるのか?いや、たしかシャーロットがドラゴンは知能が高いから人間族の言葉がわかると言っていたな。普段のルミからは想像がまったくできないが、あながちバカにできないのかもしれない。
「それで彼女はなんて?」
「どうやら彼女はダークエルフという種族らしいです。」
「ダークエルフ?エルフとは違うのか?」
「違うらしいです。それとここからすぐに立ち去れって言ってます。」
「うーん、一応さっき何で襲われてたのか教えてもらえる?」
「わかりました。」
ルミに通訳してもらうと彼女は少し考えたあと立ち上がった。そして指で着いてこいというジェスチャーをした。
「付いて来いって言ってます。」
「一体どこに?」
「そこまでは…。」
「怪しさ満点だな。」
「危険…かも…。」
「ユーリさんどうしますか?」
こちらから事情を聞いておいて嫌ですと断りづらい状況ではある。それに少し気になるのも本音だ。ここは一つ付いて行ってみることにしよう。
「とりあえず行ってみよう。何かあればすぐルミの背中に乗って飛んでいけばいいから。」
「そうだな。アタシも少し気になってきた。」
「どこでも…大丈夫…。」
「私も少しドキドキしてきました。」
「それじゃあ行こう!」
俺達はダークエルフの後を付けながら森の深くへと進んでいくのであった。
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