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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
亜人間戦争編

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第百八十話 面談

「とにかく能力について少しはわかったかな。」

「そうですね。能力の変化が来るとわかっているだけでも準備はできる。」

「それでは今日はここまでにしておきましょう。」


今回の件、《進化の勇者》イオ•エヴォリュートが残した|迷宮遺物〈アーティファクト〉に関しては能力の成長に関するものであった。だがまだ全ての解析が終わったわけではない。引き続き宮廷魔導士団の方で解析される。皆は続々と部屋から出ていく。俺も出ていくかと思った時、アザミがカルロスに連れられながらこちらへと向かってくる。そしてカルロスは少し離れる、二人で話したいことがあるということだろう。


「アザミも病み上がりのところ悪かったね。」

「いえ。…あの私が回復したらお願いしたいことがあります。」


アザミは少し不安そうな顔をしながら俺にお願いしたいことがあると言ってきた。


「もちろん大丈夫だけど。」

「それではまた…。」


話が終わると再びカルロスに車椅子を押されながら、アザミは部屋を後にした。一体お願いとは何だろうか、それにわざわざ俺を指名する理由は何だろう…?まあアザミが元気になればわかることだ。俺も屋敷へ戻ることにしよう。次の日いつもの様に久しぶりに学園へと向かった。


「そろそろ2年生も終わりますね。」

「このまま俺達は3年生へと進学するだけだから特に変化はないかもね。」


もうすぐ2年生も終わる、聖リディス学園には3年生に進級するのに試験はないらしい。そもそも3年生で学園に通う人が少ないからなのだが俺達としては都合がいい。いつものメンバーのほとんどは卒業後シャーロットが作るセルベスタ王国の7つ目の騎士団に所属するつもりでいる。だから3年生になるのもいつものメンバーしかいないのである。


「それじゃ私たちはこっちだから。」

「また授業が終わってからね。」


2年生では俺だけが《黒クラス》と分かれていたが、それもあと少しで終わるということだ。俺が教室に入ると皆がかけよってくる。


「ユーリ君久しぶり!」

「カイラ久しぶりだね。」

「あんまりにも来ないから心配しちゃったよ。」

「心配したぞ!」

「あははごめん。ラライとロロイも元気そうでよかったよ。」

「ユーリ君のことだから大丈夫だとは思うけど僕も少しは心配したかな。」

「ジークも悪かったな。」


久しぶりに見る《黒クラス》の皆は俺のことを心配してくれたようだ。少し申し訳ないことをしたな。そんな中俺は少しだけ周りを見回す。トリップの姿がないようだがどこにいるのだろうか。そんな俺の視線に気づいたのかカイラは察してくれたようだ。


「トリップなら最近はずっと宮廷魔導士団に入りびたりだから今日も休みだと思うよ。」

「そっか、シャーロットにスカウトされてたもんね。」


宮廷魔導士団は他の騎士団よりも部隊の数が多い。イヴァンやマークがいるのは研究所を主とした部隊でトリップが行っているのは王国を守る言うなれば守衛の様な部隊である。


「でも皆のことも聞いたよ。3年生になったらほとんど騎士団の方に行くんだろ?」

「うん、そうなんだ。私は青薔薇聖騎士団に。」

「私達は紅鳳凰騎士団だよ。」

「だよ。」

「僕は紫龍聖騎士団に。」


カイラは青薔薇聖騎士団、ラライとロロイは紅鳳凰騎士団にそしてジークは紫龍聖騎士団に行くことが決まっている。一年前には皆も自信がなく騎士団に行くのを諦めていたが今では立派に成長してそれぞれの道に進むことが決まっているのだ。なんだか感慨深いな。


「ユーリ君以外は皆騎士団に行くことが決まっているから、こうやって一緒に勉強できるのもあと少しだね。」

「私達が騎士団に行くなんて一年前の私たちが聞いたらきっと驚くね。」

「本当にそう思うよ。」

「これもユーリ君のおかげだね。」

「いやいや皆の実力さ。そろそろ授業が始まるみたいだ。」


俺は久しぶりの授業を受けて、かなり疲れてしまっていた。たまには勉強もしないといけないな、エレナにも怒られるし。それに魔法の基礎を学ぶのは大事だ。成り立ちや作られた理由などを知ると新しい魔法を開発するのにも役立つ。とはいえ俺の場合ほとんど直観の様な物で特に《勇者》の力を使っている状態だと無意識に魔法を使っている部分もある。新しい力を求めるのもいいが、一度今使える魔法を整理した方がより強くなる可能性もある。


「ユーリ君。学園長が呼んでいるみたいですよ。」

「ありがとう、わかったよ。」


さて今回は一体何の用だろうか。どうせ碌なことじゃないんだろうなと思いつつも俺は素直に学園長室へと足を運ぶ。扉の前に立ちノックをすると中から入れとの声が聞こえたので扉を開け中に入る。するといつもの様に偉そうに腰かけている学園長と横にはリリス先生がいる。


「お久しぶりですね学園長。で何の用ですか?」

「まあそう構えるな。座れ茶でも入れよう。」


俺は学園長室にある椅子に座る。学園長は指先を振ると棚からカップと茶葉が出てくる。慣れた手つきで紅茶を入れる動きは素人の俺からみてもかなり洗練されているように見える。紅茶をいれるのに洗練も何もないような気もするが。


「この前の話はどうだったかなと思ってな。」

「この前の話?」

「『詠唱魔法』についてだよ。」

「あー、ノービスさんのことですか。」

「紹介した手前一応気になってはいてな。アリアの誘拐事件のことはあらかた聞いたがそっちはどうなったかと思ってな。」


そういえばアリアが攫われる少し前に『詠唱魔法』について調べてたんだっけ。学園長に紹介してもらったノービス・ライカンさん。彼は魔道天空都市カノンコートの住人であったらしいと日記に書いてあったのだ。それのおかげでアリアが攫われたのがカノンコートである可能性をすぐに考えることができた部分もある。俺は学園長にそのあたりのことを詳しく説明した。


「なるほど。そうだったのか。」

「ところで学園長はなぜノービスさんのことを?」

「それは秘密だ。私にも情報網はあるんだよ。特に私の様な戦闘向けの能力者ではない者はそういう部分で力を持たないとな。」


たしかに学園長ともなる人であればそれなりに独自の情報網を持っていても不思議ではないか。それにしてもあまり気にしたことはなかったが、学園長の能力は一体どういう物なんだろうか。少なくとも戦闘系ではないことだけはなんとなくわかる。もし自身がバリバリに戦闘を行えるのであれば、この前の学園が襲われたときに自分が出てきているだろうしな。


「そういえば学園長の能力ってどんな能力なんですか?」

「うん?そういえば話したことはなかったな。私の能力は《占星術士》相手のことを見ると人となりがそれなりにわかる。もちろん能力や得意な魔法なんかもな。」


他人の人となりがわかるという部分はエレナの《副技能(サイドセンス)》に似ている。しかし学園長の方は能力や得意魔法までわかるという完全な上位互換だ。エレナの場合はあくまでも見たことを考察する必要がないが学園長の場合はそれが必要ないということであるからな。


「凄いですね。それなら何でも見透かされていそうで怖いですね。」

「だが君のことは最初からわからなかった。だから《勇者》に関することは私にもわからないぞ。」

「そうなんですか。」


なるほど。どうやらあらゆることが理解できるというわけではないらしい。俺の様な例外もいると。それは学園長にしてみれば俺のことはわからず警戒してしまう気持ちもわかる。だからこうして直接会って話す機会が多いのかもしれないな。エレナやシャーロットは言うまでもなく心配はないだろうから。とはいえ俺も真面目にしているつもりだから心外である。


「学園長そろそろ本題に。」

「おっとそうだったな。実は君を呼び出した理由はもう一つある。」

「えっ、そうなんですか?」


てっきり最初の理由だけだと思ったが、呼び出したのにはもう一つ理由があったようだ。リリス先生が口を開く。


「実は3年生に進級する皆さんにはこうして面談を設けているんです。進級試験がないのは知ってると思いますが、何もなしというわけにもいかないのでこうやって面談をしているんです。」

「面談ですか。」

「具体的には学園を卒業したらどうするのかということだ。」

「それならもう決まっていますよ。シャーロットが新しく作る騎士団に入るつもりです。」

「知っている。だが私が聞きたいのはその先の部分だ。」

「先の部分?」


学園長は紅茶を一口飲むと体勢を整えて再び俺へと視線を向ける。顔つきはかなり真剣なようだ。


「君が姫様の騎士団に行くのは《勇者》であり、魔族や《魔王》との戦いがあるからだろう?だがそれが終わった後はどうなる?君は本当にやりたいことがそれなのか?」

「………。」


俺は黙ってしまった。前にも考えたことはある。もし戦いが終わって《勇者》としての責任を果たしたらどうするのか、だが明確な答えは出ていない。


「まあ今はまだ答えがなくてもいい。だがもっと自分の未来にも目を向けて欲しいと思っている。何せここは学園だからな。まだ世の中を知るのには時間がある。ゆっくりといろいろなことを学んで考えるといい。」

「…わかりました。」

「これで終わりだ。もう帰っていいぞ。」

「それでは失礼します。」


俺は学園長室を出て、屋敷への帰り道を歩きながら将来について考える。《勇者》として魔族との戦いや《魔王》を倒すことは一番の目的である。だがその後どうしたいのか、冒険者になる?騎士団としてそのままセルベスタ王国のために働く?


「お帰りなさいませ!」

「シロ、ただいま。」


そうこう考えているうちに屋敷に着いてしまったようだ。今は考えても仕方ない。《勇者》としての責任を果たすことに集中したいと思う。学園長も言っていたようにまだまだ俺達に時間は十分にあるのだから。


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