第十八話 束の間の休息
今回の事件は各騎士団長達の早い対応のおかげもあり、被害はそこまで大きくなく済んだようだ。だが魔族と戦った騎士団長達と俺たちの傷は深く、発見されたあとは急いで病院に運ばれた。後で聞いた話だが『治療魔法』というのは多用すると元々身体にある自然治癒力というのを弱めてしまうらしい。なので俺たちはしばらく病医院で安静療養が必要だそうだ。昨日の【S・L】だが順位は付かず無効試合ということになった。あとは聖騎士祭3日目に行われる予定であった、【D・B】だが…
「え?あんなことがあったのに聖騎士祭まだやるんですか?」
「ええ。そうなの。」
俺たちが入院している病室を訪ねてきたのは、担任のリリス先生だ。どうやら聖騎士祭はまだ続けるらしい。アリアが驚いているが俺もである。あれだけのことがあったのでてっきり中止になると思っていた。
「学園側というより、王の意思でなんだけどね。今回の事件では幸い被害も騎士団と学園だけで済んでいるから、変わらず生活することで国民に不安感を与えないためということよ。あとは他国への牽制という意味もあるわ。」
「なるほど。」
四天王と名乗るような魔族が国に攻めてきたら国民に不安が出るのも無理はない。だがこんなときだからこそ各国強力してほしいものだ。もしかしたら《魔王》はもうすぐにでも復活するのかもしれないし。
「一応競技については代役を立てることも可能だけど…どうする?」
「競技はいつやるんですか?」
「2週間後よ。」
「そうですか。それならこのまま変更はなしで大丈夫です。」
「ユーリ大丈夫なの?」
「うん。元々俺はバリオンにやられて復活した後はそんなにケガしてないし、時間も経てば魔力も戻るから大丈夫。」
「それならいんだけど…。」
「じゃあ、出場ということで手続きしておくわね。」
「よろしくお願いします。」
まあ二週間は回復に専念すればいいだろう。元々勝負への準備はできているし、今更慌てて何かをする必要はないだろう。
「そういえばアリア、エレナの様子はどうだった?」
「うん、元気そうだったよ。」
「それならよかったよ。」
「ユーリと一緒で死にかけて女神様に会った時に傷は治ってたみたい。」
「女神様…か…。」
エレナに『魔力供給』をされた時、たしかに俺は《紅蓮の勇者》の力を使えていた。もしかしたら俺の《七人目の勇者》は他の《勇者》の力を使うことができる能力なのかもしれない。それに女神様の言っていたことを考えると他の《勇者》にも会って力を借りないといけないような気がする。とはいえ他の《勇者》は他国だって言っていたし、どうしたものか。
「じゃあ私はそろそろ行くからね。ちゃんと安静にしてるんだよ!」
「はいはい。ありがとう。」
そう言うとアリアは病室を後にした。それと入れ違いになるようにセシリアさんともう一人猫のような髪型をした女性が入ってきた。バリオンにやられた時、セシリアさんと一緒に助けに来てくれたような気もするが、ほとんど意識がなかったし、曖昧である。
「ユーリ、身体の調子は大丈夫か?」
「はい。助けて頂きありがとうございました。」
「若い騎士候補生を守るのも騎士団長の務めだからな。」
「それと、すいません。そちらの方は?」
「自己紹介がまだだったかにゃ?私はブランシェ・アンバー黄角聖騎士団長でセシリアちゃんの先輩にゃ!」
にゃ?という語尾が気になるが…まあいいか。この人が黄角聖騎士団長なのか、セシリアさんといいオリバーさんといい結構若い人ばかりなんだな。やっぱり実力さえあれば年齢は関係ないということだろうか。
「僕はユーリ…」
「ユーリ・ヴァイオレットにゃ!私のことはブランシェでいいのにゃ!うーむ、セシリアちゃんから噂は聞いてたけど…スンスン」
ブランシェさんが俺の近くに寄ってきて、匂いを確かめている。ちょっと恥ずかしいというかなんというか…。
「うん!中々、見どころありそうだにゃ!」
「あ、ありがとうございます。」
「すまないな。彼女の能力の《副技能》でね、匂いを嗅ぐと人の力量がわかるらしいんだ。まあそれでなくても私にもよくしてくるよ。」
「セシリアちゃんはいつもいい匂いがするからね〜。」
へー《副技能》って言うのか、知らなかったな。もしかしてエレナの魔力の流れが見えるというのも《紅蓮の勇者》の《副技能》ってことなのかもしれない
「《副技能》って言うんですね。初めて聞きました。」
「最近判明した物だからね。それに誰しもが持っているわけではないんだよ。」
「そうなんですか。」
「私達の世代くらいから第六感とも言える能力者が増えていて、《副技能》という名前を付けられたんだ。だから旧世代、私達よりも上の世代の能力者には備わっていない。」
「へぇ〜。」
もしかしたら俺やアリアにもあるのかもしれないな。今の所何もないけど。そういえばこの二人、俺が半殺しにされたあのバリオンと戦ったんだよな?もうケガは大丈夫なんだろうか。
「お二人はもう、身体の方は大丈夫なんですか?」
「ああ、伊達に鍛えていないよ。君もあの魔族と戦ってやられてた割には元気そうじゃないか。あの後他の魔族とも戦って倒したんだろう?」
「はい。セシリアさんにいただいた上回復薬とアリアのおかげで回復することができました。あの後の魔族は競技場にいた奴よりも大したことなかったので。俺一人じゃありませんでしたし。」
「ハハハ!魔族相手に大したことないにゃんて、うちの団員に聞かせてやりたいにゃ。」
たしかに強い相手ではあったけど、バリオンほどの衝撃はなかったな。先にあいつと戦っていたからこそ沿う感じたのかもしれない。まあおかげで死にかけたんですけど。
「そういえば、あのイヴァン・アレストールの処遇はどうなったんですか?」
「死刑…になる予定だったんだが、宮廷魔道士団長のモルガン殿が自分が責任を取るからということで死刑は免れたよ。まあイヴァンも実力はあるからこそ副団長になれたのだから、王も来たるべき戦いに備えて殺すよりも生かそうというお考えもあっただろう。」
「そうだったんですね。」
まあ本人も実際バリオンにやられて死にかけていたし、反省はしていることだろう。魔族と手を組もうなどと考える愚かさもわかったはずだ。
「それではそろそろ私達は失礼するよ。【D・B】も警備することになったから観戦させてもらう。」
「頑張ってにゃー!」
「はい。わざわざありがとうございました。」
俺は二人に向かって頭を下げると、手を振って病室を出ていく。さてやることもないし、今は睡眠でもして回復することに専念しよう。
◇◆◇◆
その頃、魔族領にて―――。
「バリオンが人間族に消されたらしいじゃなぁい。」
「奴は我らの中でも一番若い、実力がなくても仕方があるまいよ。」
「魔王様の復活も近い。人間族の戦力を少しでも削っておきたい。」
「それなら大丈夫よぉ。私の部下達が2つほど国を落としてきたわぁ。」
「ふむ。では引き続き他の国も頼むぞ。」
集まっている魔族はバリオンを除く四天王である。バリオンが王都を襲っているのと同時に他の四天王の手により、他の国への進行もされていた。王都はユーリ達によって進行を防ぐことができたが、他の国はすでに魔族の手に落ちてしまっていた。
◇◆◇◆
俺はエレナよりも先に退院することになり、エレナのお見舞いに来ていた。
「ユーリ君元気そうでよかったです。」
「ありがとう。エレナももうすぐ退院できるんだよね?」
「はい。」
「二人共、本当によかったよー」
アリアはエレナに飛びつき撫でられている。まあ魔族と戦って生き残れたのは本当に良かったと思う。もちろん皆の力があってこそだが。俺たちが会話しているとエレナの病室に3人の生徒が入ってきた。
「すでに先客がいたみたいだね。」
「君は!もう一体の魔族を倒した人!」
「フルーさん…病室では静かに…。」
エレナと一緒に魔族と戦った三人が入ってきた。あの戦いの後すぐに運ばれていったからあんまりちゃんと会話をしたことはない。
「やあ、ちゃんと挨拶するのは初めてだね。僕はユーリ・ヴァイオレット。ユーリで構わないよ。」
「私はアリア・リーズベルト。私もアリアで大丈夫です。」
「私はフルー・フルーラ!《翠》クラスだよ!フルーって呼んで!」
「僕は《青》クラスのウール・レディ。僕のこともウールって呼んでくれ。」
「マーク・ルーカスです…。ぼ、僕もマークで大丈夫です…《黃》クラスです。」
俺たちはお互いの自己紹介をそこそこに済ませて、軽く雑談をした。魔族と戦ったときのことや競技のこと、魔法に関しては知らないことも多くてとても参考になった。
「じゃあユーリが代表戦に出るんだ。だったらうちは勝てなさそうかな〜」
「それはやってみるまではわからないよ。」
「謙遜するなって。魔族を倒してるわけだしうちの問題児でも流石に勝てないかも。」
「問題児?」
「ああ。戦えばわかるさ。」
「うちも問題児というか変人だからなぁ…。」
「うちも…」
「そうなんですね。ユーリ君も問題児といえば問題児ですし。」
「ちょっとエレナ!?人聞き悪いよ!」
たしかに魔物に狙われたり、魔物と戦ったり、魔人と戦ったり果ては魔族とも戦ったりしたわけだが別に問題は起こしていないのだ。むしろトラブルを起こしているのはエレナの方が多いんじゃないんだろうか?
「じゃあそろそろ失礼するよ。」
「次は【D・B】の会場でね!」
「失礼しました…」
「うん、皆気をつけてね。」
三人は病室を後にした。俺達もそろそろ屋敷に帰ることにしよう。
「エレナ、俺たちもそろそろ帰るよ。」
「はい。わざわざありがとうございました。」
「お大事にね!」
こうして【D・B】まで束の間の休息を取ることができた。色々と問題はあったが、皆が無事でよかったと本当に思う。さて今からは最終競技に集中することにしよう。
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