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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
魔導天空都市編

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第百七十八話 能力の謎

アザミの目も覚めたので俺たちはセルベスタ王国に戻ることにした。色々任せきりになってしまっているが、ツネヨシ将軍ならカノンコートの人々をうまく導いてくれるだろう。とにかくアリアを無事に取り返すことができたし、《勇者》であるアザミを見つけることもできた。これで一件落着である。


「ところでランマの姿が見えないけどどこ行ったの?」

「ついに我慢できなくて走って帰るってさ。」

「大和国からセルベスタまで走って帰るの!?」

「相当な馬車嫌いだな。」


元々ランマは馬車嫌いではあるが、ここまで酷くなっているとは思わなかった。大和国からセルベスタ王国まではかなりの長距離だ。それに間にはレシア砂漠もある。いくら休んだとはいえこの長距離を走っていくのは流石のランマでも厳しいとは思うが…。


「一応ルミを呼んで背中に乗せてもらうようにするかも聞いたんだけど「大丈夫でござる!それにルミ殿の背中に乗るのも正直苦手なんでござるよ。」って。」

「そうだったんだ。」

「昔はそんなことなかったけど能力者になってからダメになったらしいよ。」

「へぇーそんなことあるんだね。」


能力者になってから苦手になったか…。よく考えてみればランマの出自こそわからないが元将軍お抱えの役人であるからそれなりの生活はしていたはずだ。大和国にも他の国とは少し違うものの、馬車の様に馬を使った乗り物はある。子供の頃に乗る機会はあったように思う。するとディランが口を開いた。ディランがこの手の話に参加するのは珍しい。


「俺にも似たような覚えがある。」

「似たようなこと?」

「俺は元々泳ぎが得意だったが、今はまったく泳げなくなった。特に何かがあったわけではないんだがな。」

「たしかにそれは少し変だね。」

「そうかな?別におかしなところは感じないけど。」

「例えば何か怖い思いをして苦手になったというのは理解できるけど、急にまったくできなくなるってのは変だろ。」


成長するにつれ苦手になるというのはあり得ない話ではない。だが、ウールの言う通り急にまったくできなくなるという話になると少し違和感を覚える。能力者についてまだわからないことがあっても不思議ではない。現にわかっていないことの方が多いわけだしな。そんな雑談をしながら順調に進んでいき俺たちはセルベスタ王国へと帰ってきた。


「ふぅ。やっと着いたね。」

「皆、私を助けに来てくれて本当にありがとう。」


皆と別れる前にアリアは改めて皆に深く頭を下げてお礼を言った。


「何言ってんの!友達なんだから当たり前でしょ!」

「僕達に何かあったときは頼むよ。」

「もちろん!」

「皆本当にありがとう。ゆっくり休んでくれ。アザミはこのまま城まで連れていくよ。」

「うん、任せるよ。」


本当にいい仲間を持ったと俺は改めて思った。皆とはそこで分かれて、俺一人でアザミを城へと送り届けることにした。休んだとはいえ今回は今までの中で、割とハードな戦いだった。自宅に戻りゆっくりと休んでほしいと思ったからだ。俺は城でシャーロットにアザミを任せて屋敷へと戻っていった。アリアが攫われたのが突然だったこともあって屋敷に連絡したのは全てが終わった後だったからユキさんとマルクさん、シロには心配をかけてしまったな。すでにアリア達は屋敷に戻っているから無事な姿は見せれているだろう。


「ただいま。無事に皆帰ってこれ…」

「うわぁ~んアリア様が無事で良かったですぅ…。」

「う、うん。ありがとうシロ。」


目の前にはアリアに抱き着く大きな毛玉、ではなくシロであろう人物が大きな声で泣いている。シロであろうというのは声からシロではあることはわかるのだが、明らかに俺達が知っているシロとは大きさが異なっている。ほんの少し前までは俺達の半分くらいの背丈しかなかったのに今はもうアリアよりも少し大きい。このままでは俺も抜かされてしまいそうな勢いである。


「お帰りなさいませ。ユーリ様。」

「あ、うん。ただいま。」

「おっしゃりたいことはわかりますが、これが亜人族の特徴なのでございます。」


その光景を見て固まっている俺にマルクさんとユキさんは駆け寄り頭を下げる。いまいち状況を理解できていない俺にマルクさんは解説してくれるようだ。


「亜人族の特徴ですか…。」

「種族によっても変わりますが、亜人族は人間と違い成長する時は一気に成長するようになっているんですよ。」

「へぇそうだったんですか。」

「まあアタシに言わせればそれにしてもかなり遅いタイプだと思うけどな。珍しいぜ。」

「そっか。ジェマは長いこと色々な亜人族と生活してたね。」


どうやら亜人族は人間族と成長の仕方が違うらしい。それにしても一気に大きくなりすぎな気もするがこういう物なのだろうと俺は納得する。ジェマが言うには珍しいタイプのようだし、シロは何か特別なのかもしれないな。


「犬耳や猫耳系統の獣人族だと思ったがそれとも違うな。一体何の種族何だ?」

「シロはイヴァンが拾ってきた子だけど、詳しいことはわからないらしんだ。ジェマがいない時、長老にも聞いたけど結局シロのことを知っている人はいなかったから。」

「なるほどねぇ。アタシもオルロスに住んでる全ての獣人族を知ってるわけじゃないからな。エルフやドワーフなら見たことあるが。」


亜人族の国オルロスでは様々な種族が暮らしている。その中でも一番多いのが獣人族で、さらに細かい区分の種族で分けられている。いくらジェマといえど全ての種族と面識があるわけではないのだろう。ジェマでわからなければ俺達にはわかるまい。


「あっ!ユーリ様お帰りなさいませ!」

「ただいまシロ。随分と大きくなったね。」

「はい!シロは少し大人になりました!」


顔や体ももちろんだが何より立ち振る舞いなんかも少し成長したように思う。まあ大人というにはまだまだ早いが。何せ俺達だってまだ子供だからな。日が暮れる少し前にはランマも帰ってきたので全員で食事を取った。あの距離を走って来ていたのでもう少し日がかかると思っていたが馬車に乗ってきた俺達と半日くらしか変わらないとは恐ろしいスピードである。


「それにしてもランマ随分と早かったね。」

「そうでござるか?なんだか体が軽く感じたでござるよ。」

「能力の影響かな?」

「あまり実感はないでござるが…。」


ランマの能力《神速》は言うなれば身体強化系の能力である。しかしそれはデリラやブランシェさんの様に常時発動型とは少し違っており、意識的に身体強化を行う部分を選択している。無意識に能力を発動しているというわけではなさそうだが…能力そのものが成長しているのか?


「そういえば乗り物も昔は苦手じゃなかったって聞いたけど。」

「まったく乗れないというほどではなかったでござるよ。」

「だけど能力を授かってから苦手な物が増えたと。」


たまたまなのかそれともこの二つに何か関係があるのか?ディランとランマの二人だけじゃあまりに参考例としては少なすぎるな。するとこの話を聞いていたマルクさんが少し反応を示した。何か知っているのだろうか?


「そういう覚えなら私にもありますよ。」

「マルクさんにもですか?」

「能力を授かる前というわけではないですが、年齢を重ねるにつれて魔物と戦闘する時には能力が発動していなくなっていきました。その代わり対人に関しては能力の上昇がより高くなりました。実はそれが冒険者を引退した理由の一つでもあります。冒険者の依頼のほとんどは魔物退治ですから。」

「そうだったんですか。」


うちの両親に世話になったからというのは聞いていたがマルクさんが冒険者を引退した理由については知らなかったな。魔物と戦闘する時には能力が発動しなくなったか。今回のランマの件と無関係と言い切ることはできなさそうだ。要するに能力は成長する可能性が高く、成長する方向というのは自分で選ぶことができないといったところだろうか。


「マルクさんだったら能力なしでも魔物ぐらい簡単に倒せそうですけどね。」

「たしかにそうかもしれませんね。ですがSランクともなると強力な魔物の依頼に駆り出されますから、こうして執事の仕事をするのが難しくなってしまうと考えたというのもあります。」

「私も似たような物ですね。Aランクも同じ様に遠くの国の依頼を頼まれることもあるのでこうしてメイドの仕事をすることができませんから。」

「師匠もよくあっちこっち行ってますもんね。」


高いランクになるともちろん報酬もいいだろうが、その分自由は少なくなってしまう。冒険者の利点は自由であることなのにそれが無くなってしまっては割に合わないということだろう。騎士団はこの国から中々離れられないという性質上、冒険者を使いたい場面があるのも仕方がないことなのだろう。


「この話は明日みんなが集まった時の話題にでもしよう。もしかしたらそれどころじゃないかもしれないけど。」

「マークが言ってた《進化の勇者》が残した迷宮遺物(アーティファクト)の解析が進んだって話ね。」

「どんなのか…気になる…。」

「一体何がわかったのかねぇ。」

「明日になればわかるさ。」


今回の様に突然何が起こるかはわからない。だから俺達は少しでも今よりも強くならないといけない。そのためには《進化の勇者》が残した迷宮遺物(アーティファクト)が何か俺達の力になってくれるといいんだけど。

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