第百七十七話 雷霆
久しぶりの投稿になってしました。これからもぼちぼちは続けていくのでまたよろしくお願いします。
俺達は大和国で傷を癒やしつつ、カノンコートの今後の処遇についての話し合いを勧めていた。といってもそのほとんどはシャーロット、ウェール、ツネヨシ将軍の三名で行われておりほとんど俺達は役に立っていない。
「そういえばなんだけど1つだけわからないことがあって。」
「何がわからないの?」
俺達は今キクさんの屋敷でお世話になっている。今日は会合も終わり、皆ここに集まり談笑をしていた。そんな中アリアが疑問があると口を開く。
「サラのことだよ。どうして彼女は殺されたのかってこと。」
「たしかにそうだね。」
「使われたのはあの《超高層雷放電カノン砲》だと思うが。」
「その割には威力が抑えられてたんじゃない?」
「僕達と戦ったときのものは本来の使い方じゃなかったんだと思うよ。設計図みたいなのに書いてあった使用方法とは違う感じだったし。」
サラの殺害には《超高層雷放電カノン砲》が使われたというのは間違いないだろうが、威力はかなり違ったように思える。コータの話によれば魔法道具の研究施設で《超高層雷放電カノン砲》の設計図を見つけたらしい。だがそこに書かれていた使い方とは異なる方法であったようだ。
「そうですね。恐らくですがサラという方の家族は恐らくカノンコートからの脱走者なのではないでしょうか。ナムイ王は脱走者には厳しく対処しておりました。情報が漏洩することはカノンコートの存在知らせることになりますから。」
「随分と徹底していたようだな。」
「カノンコートについて情報がほとんどなかったからね。」
カノンコートについての情報を得ることができたのは偶然だったと言わざるを得ない。『詠唱魔法』を探している中、たまたまノービスさんを紹介してもらったことでカノンコートの存在に気付くことができた。あれがなければアリアを救出することはできなかったかもしれない。帰ったらお礼を言いに行こう。
「サラの方は両親に何か聞かされていると思われて消されたのだろうか?」
「その可能性が高いですね。ですがなぜ今頃になってというのかはわかりませんが。」
「サラが覚醒したから居場所を見つけることができたんじゃないか?」
「なるほど。それで脱走者の娘であることに気付かれたというわけか。」
サラがカノンコートについて何か知っていたかどうかはわからないが、脱走者である両親に何かを聞かされている可能性があるというだけで殺害されたのだろう。セルベスタ王国でさらに大きく能力を使ったことで居場所を特定されてしまったのだ。
「しかし情報漏洩を気にするという割には割と脱走者は出しているようだな。」
「脱走者は始末されると思っていたのであまり気にしてはいませんでしたが、どこかに抜け穴はあるのでしょうね。地上に降りるということもありましたし、逃げること自体はそこまで難しくないのでしょう。」
サラの両親やノービスさんが実際に逃げ延びているあたり他にも脱走者はいるのだろう。始末すればいいと言う割にはノービスさんは生き延びているが…まあその辺りは俺も詳しく知っているわけではないからノービスさんは上手く逃げていたのだろうか。サラの両親だって殺されたのは魔族のせいなのだから。
「すみません!お話中失礼します!」
「リュウ、どうしました?」
俺達が談笑しているところに慌てて入ってきたのはキクさんの使用人であるリュウさんだ。普段はとても落ち着いているのでここまで慌てている姿を見るのは珍しい。
「黄髪《勇者》様が目を覚まされました。」
「本当ですか!?」
どうやら黄髪の《勇者》が目を覚ましたらしい。俺達は急いで彼女の元へと向かう。扉を開けるとそこには体を起こした状態の彼女がいた。顔色もかなり良くなったように思う。そして彼女からは《勇者》同士の持つ特有の感覚があった。
「あ…あなた達は?」
「俺の名前はユーリ・ヴァイオレット。君も薄々は気付いているかもしれないけど、俺達は君と同じ《勇者》だよ。」
俺達は彼女にこれまでの経緯を大まかに説明した。そしてどうして彼女がカノンコートに捕らえられていたのかを彼女に尋ねる。
「改めて私を助けてくれてありがとうございます。私の名前はアザミ・トニトゥルス、《雷霆の勇者》と呼ばれています。」
「《雷霆の勇者》か。うん?呼ばれている?」
少し含みのある言い方に俺は引っかかった。呼ばれているというのは一体どういうことなのだろうか?
「私は霊峰ベルベティスの出身なので…。」
「なるほど、そういうことか。」
「?」
霊峰ベルベティスってどこなのだろうか、有名なのか?俺がいまいち理解していないような顔をしているといつもの様にそれを察してくれたエレナが説明してくれるようだ。
「霊峰ベルベティスというのは勇者教ができた土地なんです。」
「勇者教ね…。」
勇者教といえばソレイナ国でのあの事件を思い出す。マンダムという男が勇者教の信者を騙し、人々を魔物を召喚するために犠牲にしてしまった。そのマンダムを裏で操っていたのもまた魔族であったわけである。
「だけどその勇者教ができた土地っていうのとアザミが《雷霆の勇者》と呼ばれているっていう話はどういう繋がりがあるんだ?」
「まず勇者教の成り立ちから話す必要がありますね。勇者教はその名の通り《勇者》を信仰するために作られた宗教です。《勇者》が明確に訪れたという記録が残っているの霊峰ベルベティスだそうです。でもそれ自体の証拠はないんですよ、何せ誰も霊峰ベルベティスに辿り着けないそうですから。」
「辿り着けない?」
「はい、オルロス国の北側にあるということはわかっていますが誰も辿り着いたことがないのです。レシア砂漠の様にその土地柄誰もが簡単に近づくことができないようになっているので。」
なるほど、それはたしかに簡単には近づくことはできなさそうだ。レシア砂漠は魔力を帯びているせいで方向感覚がわからなくなりその暑さで幻覚を見せる。だが自分の体から魔力を放出し続けていれば防げないわけではない。もちろん並大抵の人にできることではないが。
「そして霊峰ベルティスにはある噂があってですね。」
「噂?」
「能力者がいないそうなんです。」
「能力者がいない?」
「そこからは私がお教えします。昔は無能力者の方も多くいました。私たちの先祖は無能力者の集まりであり、まだ霊峰となる前の山に移り住みひっそりと暮らしていたのです。ですが魔物に襲われ困っていた時に《勇者》様が助けてくれ魔物が近づかないように山に魔力を帯びさせ魔物が近づかないようにしていたのです。その出来事が勇者教の始まりだと言われています。そういう背景から《女神》を信仰する教会が存在しません。」
「つまり能力者がそもそもいないから《女神の天恵》を受けることができる教会がなくて、アザミは《雷霆の勇者》という自覚はあるけども正確に調べたわけではないからわからないということか。」
「そうですね。」
たしかにそういう経緯があれば《勇者》を信仰する気持ちもわかるが、いくつかわからないことがあるな。そんな霊峰に住んでいるのになぜ勇者教自体は各所で活動をしているのだろうか?それに無能力者というのも気になる。昔の人々は《勇者》から《女神の天恵》が始まったわけだから無能力者もいるだろうが、現代の人々が《女神の天恵》を受けないということがあり得るのか?俺と同じ疑問を持ったのであろうディランが口を開く。
「ではなぜ勇者教は各地で活動しているんだ?」
「私にもわかりません。私たちは外の世界にでることはありませんから。外の世界のことは捕らえられてから知りました。」
「まあ大方魔族が関わっているんじゃないかな。奴らはあの手この手で魔族以外の種族を衝突させようとしているみたいだし。」
「そうかもしれないな。それともう一つ、なぜ現代においても無能力者がいるんだ?先祖が無能力者というのは理解できるんだが…。」
「いえ、可能性としてまったくあり得ないわけではありませんよ。《女神の天恵》を受けることのない種族はいます。」
エレナがとある可能性について述べる。《女神の天恵》を受けることのない種族。それってまさか…
「魔族…。」
「はい。私たちには魔族の血が流れているのだと思います。」
「そんなことがあり得るのか?」
「これだけ色々あると今更何を聞いても驚かないけどね。実際あり得てるんだからあるんじゃないのかい?」
「まあそれもそうかもしれないね。」
にわかには信じ難いが、コータの言う通り実際にあり得ているのだから信じるしかない。さてそろそろ切り上げることにしよう。目覚めたばかりのアザミにこれ以上無理をさせるのはよくないだろう。また国へ戻ってから彼女の情報を整理することにしよう。
「目覚めたばかりで悪かったね。またゆっくり休んでほしい。それととりあえず俺達の国へ来てもらうことになると思うけどいいかな?もちろん悪いようにはしないよ。」
「はい、わかりました。」
俺達はアザミの部屋を後にする。
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