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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
魔導天空都市編

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第百七十五話 黒幕

ワメリ・ミームは人間から魔族へと姿を変貌させた。


「なっ…!?」

「さっきまでは人間であったはずなのに…?」

「ふふふ。」


先程までのワメリ・ミームは確実に人間族であった。だが今はどこからどう見ても魔族なのである。いや見た目だけではなく、この荒々しい魔力も間違いなく魔族である証拠だ。だがこんなことはあり得ない。


「これが私の得意な魔法『変身魔法(トランス・マジック)』です。」

「『変身魔法(トランス・マジック)』だって?」


変身魔法(トランス・マジック)』とはその名の通り見た目を変身させる魔法である。だが見た目を変身させることはほとんど意味がないのだ。なぜならば人によって魔力の質が違う、だから知っている物同士には通用しない初見のみ通用する魔法である。それに他種族、特に魔族や龍なんかと人間では根本的な魔力が違うから直ぐにバレてしまうのだ。だからこそジェマが掛けられていた『仮装(マスカレード)』の様な認識そのものを入れ替える魔法でもなければあり得ないのだ。


「では改めまして自己紹介を。《上位序列五位》“変幻”のワメリ・ミームです。」

「《上位序列五位》!?」


《上位序列五位》、あのワンダーよりも上の数字だ。それに《上位序列》というのも聞いたことがない。だが今の俺達で勝てる相手ではないことだけはわかる。一番戦えるのは恐らく俺だろう。


「はぁぁぁ!!!」

「ほぅ。ですが…」


ユーリは《紅蓮の勇者》の力を引き出し、全ての魔力を右腕に集める。この全力で倒せなければ全滅するだろう。真っ直ぐにワメリに向かって行こうとしたその瞬間視界からワメリの姿が消える。いや魔力そのものが消えたように感じた。


「ユーリ君!」

「まあそう慌てないでください。私は戦いに来たわけじゃありませんから。」


エレナの叫び声で立ち止まると、自分の背後からワメリの声がした。まるで気付くことができなかった、早すぎる。いやこれは瞬間移動の魔法道具を使用しているのだろう。アリアを誘拐したときにも使用していた。急いでワメリとの距離を取る。


「くっ!戦いにきたわけじゃないだと?何が目的だ!」

「私の本来の目的は魔法道具の研究です。我々魔族の魔法と人間族の技術を組み合わせればそれは大層な物ができるかもしれないと先生は考えたのです。そしてナムイ王の最高傑作《魔力融合炉式龍鎧・アポカリプスヘイロン》を完成させる手伝いをしたのです。《勇者》を倒せるかもしれないのでね、結果は残念でしたが。」


《魔力融合炉式龍鎧・アポカリプスヘイロン》はたしかに強敵ではあった。だがアリアの、いや《大賢者》が作り出すことのできる《生命の魔力》がなければ本来の力を出せなかったことを考えると魔族側にしてみれば汎用性はないだろう。


「なので最後まで見届けた今目的は達成されました。それでどうしますか?私は戦っても構いませんが、見逃してもよいと思っています。」

「何だと?」

「私は個人的にあなた達《勇者》に興味があります。ここで倒してしまうのはもったいない。」


ワメリは俺達を見逃してくれるらしい。正直今ワメリと戦っても全員殺されてしまうだけである。見逃してもらえるのであればそれに乗らない手はない。ユーリは《紅蓮の勇者》の魔力を抑え、元の姿へと戻る。


「わかった。」

「それではここで失礼いたします。」


そう言い残すとワメリはどこかへと瞬間移動していった。そういえば魔族には移動する際に使われる黒い穴を出現させる魔法があったと思ったがワメリはなぜ使わないのだろう。いや、今はひとまず危機が去ったことを喜ぼう。


「ふぅ…助かった。」

「流石に危なかったですね。ワメリという魔族、今の私達では例え万全の状態だったとしても勝てるかどうか…。」

「まだ魔族にはあんなやつがいるのか。」

「少なくともあと5人くらいはいるね。まあとりあえず危機は去った。とりあえず皆と合流しよう、ケガの具合が心配だ。」


ジェマとエレナと俺は《賢者の塔》から皆の元へと降りていく。コータが最後の力を振り絞ってデリラとシャーロットそれに《賢者の杖》のメンバーは地面へと上手に着地させてくれたようだ。フルー達もそちらに合流している。


「皆!よかった倒せたんだね!」

「うん。だけどまたとんでもない魔族がいたんだ。」

「魔族が?」

「アリアを誘拐したワメリ・ミームは魔族だったんだ。奴の魔法のせいでまったく気付かなかったんだけどね。だけど見逃してもらえたよ、どのみち俺達が全開でも勝てる相手じゃなかったから助かったよ。」

「そんなになのか。」

「ディラン!もう大丈夫なのか?」


俺達を庇ってダメージを負っていたディラン、ランマ、ルミも目を覚ましている。もう動けるのは丈夫なメンバーだからこそと言えるだろう。


「さて俺達もここから退散するっとその前にこの国をどうにかしないとね。」

「そうですね。《魔力融合炉》を破壊してしまいましたし、この島を浮かせている動力が無くなっている状態ですからいつ落ちても不思議ではありません。」

「それを誰かに聞きたい所だけど…。」

「私に任せてもらえないかしら?」

「あなたはたしか…」


このしまを浮かせる動力であった《魔力融合炉》をどうにかしないとこの国の人々はこのまま島ごと墜落することになるのだ。しかしこの島の魔法道具の制御をどうしているのかが俺達ではわからない。そんな中気絶していたはずの《賢者の杖・水属性》担当のウェールだった。


「任せるとは?」

「そう構えなくても私にはもう魔力は残っていませんよ。私としてもこの島をただ墜落させようとは思いません。協力させてください。」

「わかった。」

「では動ける方はこちらへ。」


フルーには施設で見つけたという《勇者》の女の子と《賢者の杖》の残りのメンバーを見てもらい、その他はウェールに続いて地下道へと降りていく。


「この《賢者の塔》の地下部分にこの島全土に広がる魔法道具を制御する部屋があります。」

「俺達が入った地下部分のことか?」

「たしかあそこには何もなくて上階に上がることもできなかったはずだが。」

「あえて誰でも入れるようになっています。ですが隠し扉があるのです。」


俺達が地下通路から《賢者の塔》に侵入しようとした時に迷い込んでしまったあの部屋である。ルミがたまたま階段から転げ落ちたことで魔法道具よって上階に行くことができないと気がついたのだ。てっきり地下からの外敵の侵入を防ぐためだけの部屋だと思っていたがどうやらあそこが魔法道具の制御部屋に繋がっているらしい。


「ここです。」

「たしかにここだけ色が違う。」

「全然気付かなかったな。」


地下の部屋まで移動し、床の辺りをまじまじと見るとそこには少しだけ色の違う部分があった。ウェールはそこに触れ魔力を込めると階段の方から音がなった。


「これで階段が上階へと続く様になりました。行きましょう。」

「なるほどな。かなり手が込んでいる。」

「この《賢者の塔》は元々はただの建築物でした。ですがワメリ様がナムイ王の側近になって以降急激に色々な魔法道具が開発されたのです。」

「魔族の力か…。」

「魔族?」


ウェールはまだワメリ・ミームが魔族であるということを気絶していたため知らなかった。ユーリはワメリの招待を説明した。ウェールは驚いていたがどこか納得したような顔をしていた。


「そうだったのですね。通りで我々の見たことのない技術ばかりでした。魔族の使う魔法は我々が精霊の力を借りているのに対し悪魔に借りている魔法なのですから。」

「魔族の使う魔法について詳しいのか?」

「はい。といっても先程述べたことと能力がなく魔法が使えるのは悪魔と契約した者のみということくらいしかわかりませんが。」


なぜワメリがそこまで魔族側の情報を流していたのかはわからないが俺達が知らない情報を知ることができたのは素直に喜んでおこう。だがやはり魔族は悪魔の力を借りて魔法を使っているようだ。俺達が精霊の力を借りているという部分も気になる。


「俺達の魔法が精霊の力を借りているというのは?」

「私達は無意識の内に精霊から力を借りて魔法を使っています。能力によっては精霊と直接心を通わせる事で魔法を使用している者もいます。どちらに優劣があるというわけではありませんが。」

「なるほどそうだったのか。」


俺達は無意識の内に精霊から力を借りて魔法お使用しているのだな。直接心を通わせるとなると『召喚(サモン)』の魔法を使用してサラマンダーを呼び出しているアルフレッド団長くらいだろうか。


「着きました。ここが魔法道具の制御室です。」

「ここが…。」


魔法道具の制御室とされている場所にはそこら中に魔法陣が展開されていた。部屋の中心には映像魔法でこの国の色々な場所が写されている。すると急激に部屋全体に揺れを感じた。


「うわぁ!な、何これ?」

「…まさかもう落下が始まっている?」


ウェールは急いで部屋の中心にある石版の様な物に触れる。


「どうやら魔力が切れて島の崩壊が始まっているようです!」

「急いでなんとかしないと!」


このままではこの国に住む人々が落下してしまう。何かいい案はないかと急いで頭を回すのであった。


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