第百七十三話 決着?
アポカリプスヘイロンは再びあの《超高層雷放電カノン砲》を放とうとしている。あれは防ぐことができないならば打たせる前に《超高層雷放電カノン砲》自体を潰してしまえばいいのだ。
「『風の牙』!」
「『土の爪』!」
アポカリプスヘイロンに向けて魔法を放っていく。だが二人が放った魔法はそのまま《超高層雷放電カノン砲》の中へと吸い込まれていく。《魔力融合炉》で作られた魔力だけではなく、俺達の魔法すら魔力として使用できるようだ。それならばと腰の魔法袋から《聖剣クラレント》を引き抜く。
「はぁぁぁ!!!」
「『龍の爪ドラゴン・ネイル』!」
「舐めるなぁ!《可変式武装》!」
「うわぁ!」
「ぐっ!」
デリラとユーリの二人は魔法が吸収されると考え、それぞれ剣で《超高層雷放電カノン砲》を破壊しようと突っ込んでいく。しかし左腕の肘から《可変式武装》を射出する。だがそれに魔力を込めず盾に変形させない棒状のままデリラとユーリにぶつける。二人は兵器の同時使用ができないと考えていたこともあり、不意を付かれてしまった。兵器の同時使用ができないのは魔力を込めた場合であり、魔力を込めなくてもそのまま射出することはできるのである。
「これで終わりだぁ!《超高層雷放電カノン砲》発射ぁぁぁ!!!」
このままでは皆消し飛ばされる。そう思った時、誰かに腕を掴まれたかと思うと一瞬で目の前の景色が変わる。頭上では大きな魔力が放たれているのを感じた。あれは《超高層雷放電カノン砲》だ。一瞬で《賢者の塔》の上階から地上へと戻ってきていたのだ。
「これは一体…?」
「はぁ…はぁ…この魔法道具のおかげだよ。」
「ウール?」
そこにはウールが今にも倒れそうな状態で佇んでいた。周囲を見ると他の皆の姿がある。するとフルーが駆け寄ってくる。その手には『回復薬』が握られていた。ウールに使用するためだろう。
「はい、ウール。」
「ありがとう。」
「これは一体どういうこと?魔法道具って…。」
「私達はここに来る前、この国の魔法道具研究施設にいたの。そこで《勇者》の彼女も見つけたんだけど、その時この魔法道具を私が盗んでおいたの。これは『瞬間移動』の魔法道具なんだ。」
『瞬間移動』の魔法道具、なるほどそれで俺を助けてくれたのか。フルー達がいきなり《賢者の塔》に現れたのはこの魔法道具のおかげだったんだ。
「さっきもあれと同じ大砲が飛んできて、飛んできた方に行けば安全だと思ったからこれを使ってこの《賢者の塔》まで移動してきたんだ。でもウールを見てると凄く魔力も体力も使っちゃうみたい。私が使った時はこうならなかったんだけど…」
「それは多分僕達皆がフルーに触れていたからだと思う。少しだけど移動した時、魔力が減った感覚があった。」
「人数が増えると負担は減るけど少ないと大きいってことか。たしかに結構魔力を使用した感じがある。」
仮にコータの仮説が正しければ人数がすくないと移動のために使用する魔力は人数が多ければ、負担が少なく逆に人数が多いと負担が多いということだ。なんにせよこれのおかげで皆助かった。
「さて、もう一度上がろう。急がないとアリアが危ない。」
「だけどどうする?さっきの作戦でいくか?」
「ですが本体もかなり早いので、また同じ手では避けられてしまうかもしれません。」
「アタシに任せてくれないか?」
先程のユーリの作戦は概ね上手くいった。しかし最後のところで失敗してしまった。それはアポカリプスヘイロンの素の能力を見誤っていたことだ。エレナの中で最も早く威力のある『揺レ動ク神ノ槍』でも完全には捕らえきれなかった。また同じ手に引っかかるかどうかはわからない。だがそこでジェマが自分に任せてくれと言った。
「何か作戦があるのか?」
「ああ、あいつの視界を奪う。これなら反応できないだろ?」
「わかった。ジェマに任せる。」
「よし、上までは僕が運ぼう。皆準備はいいね?」
「「「おう!!!」」」
「『風精霊の竜巻』!」
コータの魔法によってユーリ、エレナ、シャーロット、コーデリア、ジェマ、デリラは再び《賢者の塔》の上へと上っていく。
「何度も何度も避けおって!」
「あの程度の攻撃、俺達には通用しないんだよ。」
だが実際の所かなり通用している、二階とも上手く回避することができたが次も回避できるかどうかはわからない。打たれる前に破壊するか倒し切るしかないのだ。だが恐らくあの《超高層雷放電カノン砲》は連続で使用できない、魔力を貯めるのに時間がかかるからだ。一回目と二回目の間は5分ほどであった。だから5分以内に決着を着ける必要がある。
「時間がない!行くぞ!」
「アタシが行く!」
「アシストは任せろ!」
アポカリプスヘイロンへと向かってジェマは真っ直ぐに突っ込んでいく。その後ろに続いてコータが向かっていく。
「『土の弾丸』!」
「そんなチンケな魔法でどうしようと言うのだ!《マジック・アブソーバー》!」
ジェマは小さな複数の土の弾丸を全体に散らすように放つ。だが《マジック・アブソーバー》によって魔力を奪われ勢いをなくしただの土の小さな塊になってしまったために簡単に弾かれる。しかしジェマの本当の目的は《マジック・アブソーバー》を発動させることであった。
「『砂嵐』!」
「なるほどそういうことか!それなら『風精霊の竜巻』!」
続けてジェマはアポカリプスヘイロンを『砂嵐』の中に閉じ込める。ジェマの狙いに気付いたコータは『砂嵐』を包み込むように『風精霊の竜巻』を発動させた。ジェマの狙いは相手の視界を完全に奪うことである。
「なんだこの纏わり付く砂は。だがこの程度の魔法なら《マジック・アブソーバー》で吸収してやる!」
「吸収するって考えているんだろうな。だけどアタシの魔力は無限にある!このまま吸わせ続ける!」
「くっ!吸収しきれないだと!?ならばここから出るまでよ!ぐっ!何だ出れないだと?」
「そう簡単には脱出させないさ。」
ジェマは手元から離れた魔法の遠隔操作ができるようになっていたのだ、魔力がすぐに回復し無限であるジェマにとってはかなり有利になる技術だ。コータはジェマの狙いが理解できてた。しかしそれには弱点もある、『砂嵐』だけではアポカリプスヘイロンが突進すれば簡単に脱出されてしまうということだ。だから『風精霊の竜巻』で強化することで脱出できないようにしたのだ。とはいえジェマの様に魔力がすぐに回復するわけではないコータの魔法には限界がある。
「皆!今の内に!」
「『揺レ動ク神ノ槍』!」
「『海神の咆哮』!」
「何!?くっ、《マジック・アブソーバー》!」
エレナとコーデリアはアポカリプスヘイロンを捕らえた砂嵐の中に向かって魔法を放つ。急に現れた魔法に対処するべく《マジック・アブソーバー》を向けるが死角からの攻撃ということもあり、反応が少し遅れてしまった。全ての魔法を無効化することができず胸元のアリアが捕らえられている部分に魔法が当たる。
「しまった!」
「任せて!シャーロット!ユーリ!」
その隙を逃さなかったデリラは砂嵐の中を突っ切ってアリアを救出した。ジェマやコータが調整しているとはいえこの砂嵐の中を突っ切って行けるのはデリラの丈夫さあってこそだろう。そしてアリアを救出して離れると砂嵐が解かれる。コータの魔力が限界であった、だがデリラが突っ込むのと同時にすでにユーリとシャーロットは最後の一撃の体制にはいっていた。
「これで終わりだ!『聖剣・雷撃一閃』!」
「『剣神の一突き・旋風』!」
「《可変式武装》!ぐわぁぁぁ!!!」
砂嵐と竜巻が晴れアポカリスヘイロンの前にはユーリとシャーロットがいた。二人は最大の一撃を喰らわせる。《可変式武装》を盾にして二人の攻撃を防ごうとするも盾は切り裂かれ胴体を切り刻む。龍の様な頭は項垂れるようにしてついに動きが止まった。
「アリア!」
「うっ…皆…?」
「無事で良かったよ。はいこれ。」
「ありがとう。」
アリアは魔力がかなり減っているが命に別状はなさそうだった。ユーリは魔法袋から『回復薬』を取り出しアリアへと飲ませる。
「さて、後はどうやってここから帰るかだね。」
「下に残した皆も心配だ。一度戻って…。」
「どうしたんですか?」
「何か…聞こえないか?」
どうやってここから戻るかそんな話をしていた時、どこからか不協和音が聞こえてきた。それは破壊したはずのアポカリプスヘイロンの方から聞こえてきている。まさかと思いそちらに顔を向ける。するとそこには頭と尻尾がなくなったアポカリプスヘイロンの姿があった。
「おい、いなくなってるぞ。」
「ナムイ王はどこに行った?」
「あれ見て!」
デリラが指をさす方向に視線をやると、そこには頭から背骨の様な物と、尻尾が5つ繋がったまま浮いていた。尻尾の1つは先程エレナが破壊したはずなのにくっついている。すると尻尾の先の5色の水晶が輝くと中に人が入っている姿が見えた。あれはさっき戦った《賢者の杖》のメンバーのはずだ。
「あれは《賢者の杖》の…。」
「あっちもアタシと戦った相手だ。ってことは他の水晶の奴らもそうなんだろう。」
「一体何をする気なんだ?」
「ワァーハッハッハ!!!まさかここまで追い詰められるとはな!だが《大賢者》がいなくても《賢者の杖》で魔力は賄える!」
「なんて酷いことを…!」
「そしてこれが《魔力融合炉式龍鎧・アポカリプスヘイロン》の第二形態だ!」
龍の頭に5つの尻尾が包み込むように被さる。まるで大きな掌の様な形になったかと思えば中心部の龍の頭から《超高層雷放電カノン砲》が常に露出した状態へと変形する。
「これが《五晶式龍砲・アポカリプスヘイロン・デリート》だ!!!」
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