第百七十一話 《勇者》と兵器
《勇者》、そう呟いたコーデリアはゆっくりと女の子が捕らえられている水槽に近づいていく。コータ達にはわからないが《勇者》同士が感じる何かをお互いに感じているのだ。コーデリアが近づいていくと水槽の中の女の子がゆっくりと目を開いていく。
「《勇者》…なの?」
女の子は何かを伝えようと口を動かしているが、上手く動いていない。口からはごぼごぼと泡が少しだけ漏れている。
「すぐに助けないと!」
「任せて!せいや!」
デリラは大剣で水槽を破壊する。恐らく防御の魔法もかかっているだろうが、この程度の魔法ではデリラの攻撃を止めることはできない。そのまま繋がれている鎖を破壊して女の子を抱きかかえる。すぐに近くにある毛布を女の子を包み込む。
「衰弱しているけど息はあるみたいだよ!」
「『治療薬』だ。」
女の子に『治療薬』を飲ませる。命に別状はないがこのままこの状態にしておくのは危険だろう。それに勝手に破壊したことが気づかれる前に一刻も早くここを出るべきだろう。
「早くここを出たほうが良さそうだ。」
「急ごう!」
コータ達は囚われていた《勇者》と思われる女の子を連れて出口へと駆け出していくのであった。
◇◆◇◆
ユーリとルミは階段を上りきるとまた大きな部屋に辿り着く。そこは玉座であり《賢者の塔》の最上階である。入り口で分かれた皆の続々と玉座へと集合する。そしてその玉座に座る人物が一人。
「どうやら辿り着いたようだな。」
「お前がさっきの声の主だな。アリアを返せ!」
「まあそう慌てるなまずは自己紹介といこうじゃないか。私はナムイ・コートダス。魔導天空都市カノンコートの王である。」
男は全員が辿り着いたことを確認すると自己紹介を始めた。名をナムイ・コートダスというようでこの魔導天空都市カノンコートの王ということらしい。この男を中心とした国ぐるみの犯行である。やはり目的は《生命の魔力》ということだろうか。
「お前たちの仲間には手を出していない。まだだがな。」
「あなたの目的は《大賢者》が作り出せるという《生命の魔力》ですね。」
「ほぉ、そこまで調べているのか。侵入してからここに来るまでの短い時間でよく突き止めたものだ。流石は《勇者》達とでもいうべきかな?」
マルムさんが言っていたようにナムイの目的は《大賢者》が作ることのできる《生命の魔力》で間違いないようだ。これを使ってこの魔導天空都市カノンコートを浮遊させるための魔力を補おうとしているということである。
「安心したまえ。まだ君達の仲間には何もしていない。《生命の魔力》を取り出すまではだがね。」
「どうしてそこまでして《生命の魔力》に拘る?そこまでしてこの島を浮かせる必要はないだろう。もともと《大賢者》が作った島なんだ、いつかは終わるってわかってたはずだ。それに地上に降りることができるのだからここで暮らす人々だって救える。もし必要なら支援だって求めることができるだろう。」
「ふむ、なるほど。少しばかり私の目的を勘違いしているようだ。」
もし《生命の魔力》がなくなり《魔力融合炉》が魔力を作り出せなくなったとしても言い方は悪いがこの島が浮遊しなくなり、ほとんどの魔法道具が使えなくなるだろう。しかし、その前にここで暮らす人を避難させればいいだけの話だ。マルムさんは《魔力融合炉》がという話をしていたが本当の目的は何か違うことの様な気もする。するとランマが口を開く。
「ユーリ殿、この者達にまともな感性はないと考えていいでござる。」
「ランマ、どういうことだ?」
「拙者、先程相手をした《賢者の杖》の者が言っていたでござる。数十年前に大和国を襲ったっていう親交国、あれはここの国のことでござる。ただ魔法や魔法道具の実験をするために難癖を付けて無抵抗な人達を殺した張本人達なんでござるよ!」
以前、大和国でドウマ・ゲンジが事件を起こす元凶となった親交国がこのカノンコートらしい。大和国に済む人は皆記憶を消され、リューマ前将軍以外その事実を覚えていなかった。だが魔族によってドウマと九人剣客の一人ジュウベエだけがそのことを思い出し、魔法使いを国から排除して他国に戦争を仕掛けようと考えていた。俺はそのことを全て真実だとは考えていなかったがランマの話によるとそれは間違いないことらしい。
「チャードの奴か。そうだ大和国には実験台になってもらったのだよ。魔法の発展に尊い犠牲は必要だよ。」
「何!」
「欲を言えば魔族が接触してきたところに一枚かみたかったがね。まあ君達が解決してしまったが、魔族が使う魔法はこちらの魔法とは根本から異なる悪魔の魔法だ。非常に興味深い。」
大和国を実験台に使ったとナムイ王は笑った。そんな非人道的なことは許されない。いくら魔法の発展のためとはいえ
「さて話がずれてしまったな。私の一番の目的は《魔力融合炉》に《生命の魔力》を込めることだ。それは間違いではない、だが使用目的が違う。私は《魔力融合炉》を使ったこの兵器を使用するために追い求めていたのだ!」
ナムイがそう叫ぶと玉座の壁が破られそこには大きな龍の形をした兵器が出てきた。胸の中心部にはアリアは捕らえられている。
「アリア!」
「な、何なんだあれは?」
「まるでドラゴンの様です…!」
「これこそ我が人生における最強の魔法兵器《魔力融合炉式龍鎧・アポカリプスヘイロン》!!!」
それは鋼鉄で出来た龍の形をした魔法兵器《魔力融合炉式龍鎧・アポカリプスヘイロン》。ルミが龍化したときよりも一回りくらい大きい。尻尾は5つに分かれており先端にはそれぞれ5色の水晶の様な物が付いている。そしてナムイは飛び上がるとその兵器の頭の後ろに乗り込んだ。
「この兵器があれば地上にある全ての国を滅ぼすことができる!私は最初からそれが目的だったのだ!」
「これはヤバいな…。」
「ええ、とんでもない魔力が集まっています。それにアリアさんの魔力も吸収されています。いつもとは違う感じです。」
「まさか…?」
「はい。あれに捕らえられていると無理やり《生命の魔力》という物が吸い取られてしまうのかもしれません。」
《魔力融合炉式龍鎧・アポカリプスヘイロン》にはどんどん魔力が集まってる。いや、正確に言うならば魔力が作られているのだろう。それはアリアから無理矢理に《生命の魔力》を奪い取っているからに違いない。このままだとアリアの命が危ない。
「『炎の槍・三重』!!!」
「『雷の槍・三重』!!!」
エレン、ディランの二人はアポカリプスヘイロンに向けて攻撃を放つ。するとアポカリプスヘイロンは右腕を前に差し出す。右腕は変形し、花が咲く様に5つに分かれると防御壁が展開される。二人の放った魔法は防御壁を破ることなく消滅した。
「ただの防御壁ではないようですね。」
「それなら拙者が!『新山田流壱式・疾風迅雷』!」
魔法が防がれてしまったことから接近戦ならばと考えたランマはアポカリプスヘイロンに向かっていく。すると今度は左腕を前に出す。肘の当たりから手前に大きな鉄の棒が射出される。その棒を左手で掴むと棒は大きな盾の形に変形しランマの居合を防いだ。
「なんて硬さでござるか。」
「魔法で攻撃すれば右腕で防がれ、物理で攻撃しても左腕の盾で防がれる。」
「しかも図体の割には素早いときてる。厄介だな。」
「見たかね?これこそがアポカリプスヘイロンの三大兵器の二つ《マジック・アブソーバー》と《可変式武装》だ!」
「《マジック・アブソーバー》と《可変式武装》?」
《マジック・アブソーバー》と《可変式武装》聞き覚えのない兵器に俺達は困惑する。しかしエレナ達の魔法を防ぎ、ランマの技を防いだ二つの兵器。非常に厄介だ、それにアポカリプスヘイロン自体の動きも大きさの割にはかなり素早い。
「《マジック・アブソーバー》は私が発見した魔法を無効化する技術を魔法道具に落とし込んだものだ。」
「魔法を無効化するだって?そんなことどうやって…。」
「魔力を吸収する能力者を見たことはあるかい?あれと原理は同じさ。魔法を魔力として吸い取る、だがそのままでは炎や水そのものをなくすことができない。だから魔力壁でそれを防ぎつつ、魔力を吸い取るという二つを兼ね備えているのだ。そしてこの《可変式武装》、魔力を流すことによって変形するブロディンド鉱石を使用している。魔力量によって形を上手く変形できるように調整してある。」
「なんて技術なんだ…。」
《マジック・アブソーバー》も《可変式武装》もかなり高度な技術であることがわかる。だがそれを実現させるために能力者を犠牲にしているのではないかとユーリは考えた。無茶な実験でもしなければそこまで発展することが難しいのではないかと。実際にアリアを利用している点からもそう疑わざるを得ない。
「どうにかして壊さないと。」
「ええ、攻撃が効かないのなら効くまで叩くだけです!」
「おっと、さっきの言葉忘れたのか?このアポカリプスヘイロンにあるのは三代兵器であると。攻撃が効かないだけではない。」
するとアポカリプスヘイロンは両腕を地面に突き顔の部分が大きく開く。するとその中から大砲のような物が出てきた。どんどん魔力が集まっていくのがわかる。あれは確実に何か大きな攻撃が来る。
「皆後ろに!『防御・三重』!!!」
「『炎の壁・三重』!!!」
「『土の壁』!」
「これが3つ目の兵器《超高層雷放電カノン砲》だ!」
アポカリプスヘイロンの口から放たれたその高密度の魔力の塊はユーリ達を包み込み《賢者の塔》を突き破った。
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