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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
魔導天空都市編

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第百六十八話 風の鎧

ユーリ達が《賢者の塔》に侵入する少し前―――


アリアは《賢者の塔》にある地下牢に閉じ込められていた。地下牢という名前が付いてはいるが実際に地下というわけではない。《賢者の塔》は建物自体に魔法道具が大量に埋め込まれている。そのため上下階の位置関係はバラバラなのだ。その場所を入れ替えれるのはナムイ王が持つ杖だけなのだ。


「うっ…ここは…?」


アリアは気を失う前のことを思い出す。自分の《大賢者》の力を狙われてここまで攫われてきた。そしてナムイ王に捕らえられ抵抗むなしくこの牢に入れられたのだと理解した。


「早くここから逃げないと…。」


磔にされた手足をなんとか取ろうとするがびくともしない。当然魔法も使えない、恐らくこの枷が魔法道具なのだろう。アリアは痛みを堪えながらなんとか暴れて枷を抜けられないか試みる。すると牢の前の階段から誰かが降りてくるのがわかった。


「おぉ、おぉ元気に暴れておる。ご気分はいかがですかな《大賢者》様。」

「ナムイ王…早くここから出して!」

「そう慌てずともよい。どうせすぐに出ることになる。」


そういうとナムイ王はアリアの近くに寄ってくる。その美しい白金色の髪の毛をさらりと触る。そのまま手はアリアの腕の方へと伸びていく。さらりと触れたあとその腕を掴み自分の顔を近づけ舌を出し、味をたしかめるように舐めた。アリアはあまりの気持ち悪さのあまり恐怖し涙を流していた。


「なんと素晴らしい味わいなんだ!これほどの魔力味わったことがない。…おや?恐怖を感じるかね。安心しろお主自体には興味がない。興味があるのはここだけよ。」


ナムイ王は指をアリアの額に当てた。興味があるのはここ、つまり頭ということだろうか。アリアはまともに頭を働かせることができなかった。なぜ自分の頭を狙っているのか?《大賢者》が作れるという《生命の魔力》が目当てではなかったのか。


「それにすぐにここから出れる。お前の仲間がこの《賢者の塔》に来ているのだから。」

「皆が…?」

「ワメリ!」

「はっ!」

「“アレ”の準備と《大賢者》を連れて行け。」

「承知いたしました。」


皆が助けに来てくれたことを聞いて少しだけ折れかけていたアリアの心は再び立ち上がる。しかしナムイ王は何かの準備のためにワメリを呼びつけたと思ったらアリアは魔法を掛けられる。一体何が始まるのかはわからないが皆の無事を祈りながら眠りにつくアリアであった。


◇◆◇◆


シャーロットとカルロスは慎重に階段を上っていた。この《賢者の塔》という場所は魔法道具が大量に使われており、一体どこで何が起こるのか予想も付かなかったからだ。だが何かが起こることはなく、階段を上った先には少し大きめの部屋が広がっていた。その中心には小柄な男が一人。


「おっ来たようだな。」

「あなたは?」

「俺は《賢者の杖・風属性》担当のタサーンだ。俺のところに二人も来てくれるなんてツイてるな!」

「二対一では不利でしょうけどね。」


シャーロットは腰から細剣を抜く。カルロスも腰から《拳銃》を抜く。試作段階ではあったものの弾丸は魔力でどうにかできるし、カルロスの能力であれば使いこなすことができるため今回の戦いのために持ってきていたのだ。


「カルロス、サポートお願いしますよ。」

「お任せください。」

「それじゃあ行かせてもらうぜ!」


タサーンは真っ直ぐにこちらへ向かってくる。シャーロットは直線上に細剣で突く。タサーンはそれをギリギリで避け袖から短剣を出すとシャーロットの首元を狙う。シャーロットは身体を捻らせ短剣を回避した。お互いの距離が開く、そこでカルロスの援護射撃がタサーンを襲う。それすらもギリギリの所で躱していた。


「『魔法弾(マジック・ショット)』!」

「はぁ!…不思議な魔法道具持ってるなぁ!まあでも『魔法弾(マジック・ショット)』をその速さで飛ばせるのはとんでもねぇな!」

「シャーロット様、大丈夫ですか?」

「ええ。しかし彼、いい反応速度をしてますね。」


シャーロットの攻撃はともかく、カルロスの『魔法弾(マジック・ショット)』をあのギリギリのところで躱した行動には何か引っかかるところがあった。あの速さの『魔法弾(マジック・ショット)』を目で追うことは普通できない。だからこそ《拳銃》というのは驚異なのだが、タサーンは明らかに認識してから躱していたのだ。おそらく彼の能力に関係しているのだろう。


「俺の能力は《空気の鎧》。剣だろうが魔法だろうが、俺の空気の鎧に触れたものには絶対に当たらねぇんだ。」

「なるほど鎧という名前ですが、気配察知系に近い能力ということですね。」

「フルー様がやっている魔力操作の技術に近いですね。向こうの方が範囲のそれは大きいようですが。」

「よくわかってるな!だから俺には攻撃は当たらない、そっちの姉ちゃんはともかく兄ちゃんみたいな遠距離タイプは特にな。」


《空気の鎧》という名前ではあるが攻撃を防ぐ様な能力ではなく、身に纏っている空気で攻撃の方向を予測しているのだ。だがそれに反応して避けているタサーンの反射神経も並ではない。


「カルロス。」

「わかっています。」

「任せましたよ!」


今度はシャーロットの方から仕掛ける。例え攻撃が来るのがわかっていようが、タサーンの反射神経がすごかろうが必ず限界があるっはずだ。攻撃回数を増やせば必ず当たるはず、幸いにも攻撃回数には自身があるシャーロットである。


「『千の突きサウザンド・ストライク』!」

「おぉ!すっげぇ!『風の刃(エア・エッジ)』!」

「『魔法弾(マジック・ショット)乱打(ガトリング)』!」

「こっちもすげぇ数だ!『風の盾(エア・シールド)』!」


シャーロットもカルロスもかなり攻撃の手数を増やし攻撃をしているが、タサーンは喋るくらいにはまだまだ余裕がある感じである。とはいえ向こうにも決定的な攻撃手段がある感じではなかった。このままでは長引く、先を急ぐこちらとしては早く決着をつけたいところだ。


「さて、俺もそろそろ攻撃させてもらうよ。」

「あの短剣、魔法道具ですかね。」

「はい。何か振動しているように見えますが…。」

「そうだ。俺は攻撃は苦手だからな、この魔法道具である短剣を使っている。この短剣は『振動刃ヴァイブレーション・ブレード』という魔法を魔力さえ流せば誰でも使えるようにした魔法道具だ。」


振動刃ヴァイブレーション・ブレード』、無属性魔法の1つで剣や刀を高速振動させ切断力を強化する魔法である。一見単純ではあるが無属性であることから使用者は少ない。それを魔法道具にして誰でも使えるようにしたということらしい。カノンコートは魔法道具の研究をしているというだけのことはある。


「さぁ、行かせてもらうぜ!」

「来なさい!」


シャーロットは短剣に当たらないように気をつける。『振動刃ヴァイブレーション・ブレード』は刃が触れていなくても近づいただけで攻撃を受けてしまう。ギリギリで躱すのではなく、ある程度余裕を持たなければいけない。そのせいで攻めきれず、カルロスも援護をためらっていた。


「『風の刃(エア・エッジ)』!」

「『四角突き(スクエア・ストライク)』!」


シャーロットは距離を取る。ただでさえ短剣が厄介なのに魔法を組み合わされるとこちらが攻撃をする暇がない。シャーロットはこの先のことを考えて力を温存しておくつもりであったが、二人がかりでも余裕がない以上出し惜しみをしてもしょうがないと考えた。


「ふぅ、カルロス少しの間だけ相手を頼めますか。」

「お任せください。」

「お、今度は兄ちゃんが相手か!」


カルロスがタサーンの相手をしている間シャーロットは瞑想状態になる。まだ慣れていない力のため集中する必要がある。その間カルロスは慣れない近接戦闘で時間を稼ぐ。


「『魔法弾(マジック・ショット)』!」

「近くだったら当たるとでも!」

「ぐっ…!」


タサーンは至近距離の《拳銃》による『魔法弾(マジック・ショット)』を軽々と躱す。そして短剣はカルロスを斬りつける。擬似的な『振動刃ヴァイブレーション・ブレード』は掠っただけで深い傷となる。


「さぁてこれでおしまいだ!…ぐっ、何だこれは…」

「シャーロット…様…。」

「下がっていなさいカルロス。あとは私がやります。」


カルロスに止めを刺そうとしたタサーンは軽く吹き飛ばされ後退する。それは細剣に風を纏わせているシャーロットの仕業であった。


「一気に勝負を決めます。」

「また姉ちゃんが相手をしてくれるのか!俺はどっちでもいいけどな!」


タサーンはシャーロットの方に向かって真っ直ぐに突っ込んでくる。直線的な動きしかしないこともシャーロットにとっても都合が良かった。この一突きだけはまだ上手く狙いを定めることができない。


「じゃあね!姉ちゃん!」

「『剣神の一突き・旋風』!」

「ぐはぁ!」


シャーロットの細剣による一突きはタサーンの身体には触れていない、だがタサーンの身体には複数の切傷があった。短剣は砕け散り、その場で倒れ込む。シャーロットはカルロスの元へ駆け寄り、『治療薬(ポーション)』を飲ませる。


「ありがとうございます。」

「こちらこそ、おかげで集中できました。」

「な…何で…。」

「ただの突きなのにどうして反射神経に自信のあるあなたが反応できなかったのかという意味ならば、この技は触れなくても相手を切り刻むことができるからです。あなたの鎧で反応しなかったのは同じ風属性だからですよ。空気の魔力で感じる範囲を私の風属性の魔力で歪めたからです。」


《剣の勇者》の技とシャーロットが得意であると言われていた風属性の魔法を使用した技である。ただ風属性の魔法に関しては最近練習しているところなのでまだ慣れておらず発動に時間がかかってしまうことが難点なのだ。タサーンを倒したことで部屋に上へと続く階段が出現する。


「どうやら先へ進めるようですね。カルロスが回復したら先へ進みましょう。」

「私は大丈夫です。先へ進みましょう、何か嫌な予感がします。」

「わかりました。一刻も早くアリアさんを救出しなければいけませんから。無理をさせますね。」

「いえ、大丈夫です。」


シャーロットとカルロスは上へと続く階段へと進んでいく。


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