第百六十五話 別行動と賢者の塔
コータ達はデリラの直感を頼りに街から離れた森の中へと進んでいた。先程ウールと合流することが出来たのは恐らく偶然ではない。そのため再びデリラの直感を信じてこうして歩いているわけなのだが、ウールだけはまだ納得をしていなかった。
「それで本当に大丈夫なんだろうね。」
「大丈夫だよ!僕の直感がこっちだと言っている!」
「さっきからそればっかじゃないか。」
「まあまあ、実際ウールと合流できたのはデリラのおかげなんだし…。」
ウールを宥めつつ、コータ達は先へと進む。どんどん森から抜けているのか木が少なくなってきた。目の前には大きな岩山がある。デリラの直感はあそこに向かっているのだろうか。
「大きな岩山だな。」
「なあコータおかしくないか。」
「僕も同じことを考えていたよ。」
「二人共どういうこと?」
一行は森を抜けて、岩山へと辿り着いていた。ここまで歩いてきてコータとウールは同じ疑問を抱えていた。フルーには何がおかしいのかわからず、二人に質問する。
「これだけ歩いてきたのに人も魔物もまったくいないだろ?」
「それって普通じゃないの?地上でもそういう場所はあるでしょ。」
「そうだけどそれは特別な場合だよ。人がいないってことは住むのに適していないような場所ってこと。レシア砂漠とかみたいにね。後は強い魔物がたくさんいる場所とかもそうだけど。」
人が住むのに適していない場所というのは大抵環境が悪い場所か魔物が多く住んでいる場所である。そういう場所は生活のための物資を運ぶのが難しかったり、魔物に荒らされた土地では自給自足も難しいことも多い。
「魔物がいないのは魔物避けの魔法道具の可能性もあるけどそれにしてもこの辺りは生物がいなさすぎる。」
「こんなに良い環境なのにね。」
「たしかに。」
魔物避けの魔法道具は地上でも使われる。ありとあらゆる魔物に対しての効果があるわけではないが、よほど理性を失っている魔物か強力な魔物でなければ魔物は近寄って来ないのだ。だからこの辺りもそうなっている可能性は高いがそれならば人が住んでいてもおかしくないというわけだ。森の中には食べられそうな物がたくさんあったのに手は付けられていなかった。ということはそもそも生物がこの辺りにはいないと考えられる。
「ここだよ!」
「うわぁびっくりした。いきなり止まらないでよ。」
「ごめんごめん。でも僕の直感はここだって言ってるんだよ。」
デリラは急に足を止めた。岩山の中腹辺り、周りには相変わらず何もない場所であった。
「何もないように見えるけど…。」
「岩…。」
コータは注意深く周囲を観察してみる。見渡す限り岩である。しかし一部分だけ色が変わっているような岩があった。すぐさまそれに駆け寄っていく。
「皆!これを見て!」
「この岩だけなんか色が違う。というよりこれ岩か?」
「どうみても…違う。」
「よく気付いたねコーデリア。」
近づいて見るとより際立って見える。だが近づかないとわからないレベルの違和感だ。この岩山しかない景色でよくこの一部の違和感にコーデリアはよく気付いたものだ。
「私の…《副技能》…。」
「コーデリアの《副技能》ってたしか水の位置がわかるんだったっけ。それとどういう関係が?」
「この岩には…周りより…多く水が…付着してる…。」
「なるほど、それで違和感に気付いたってわけだ。でもどうして水が多く付着しているんだろう?」
コーデリアは自身の《副技能》によってこの岩山の違和感に気付いたようだ。だがどうして水が多く付着しているのかわからない。コーデリアは色の変わった岩を触る。すると岩山は横にスライドし、その中にはレバーの様な物があった。
「これって何のレバーだろう?」
「えい!」
「ちょっとデリラ!?」
デリラはレバーを思い切って動かす。すると近くの岩が崩れ落ち、中には空洞が広がっていた。魔法道具と思われる明かりもあり明らかに人の手によって作られた場所だということがわかる。
「ここは一体…?」
「中にこんな空間が広がっているとは。」
「でも早く皆と合流しないといけないんじゃない?アリアを早く助けないと…。」
フルーの言うことはもっともだ。俺達はもともとアリアを助けるためにここへやってきた。この先に何があるのかは気になるが今は皆と合流してアリアの救出に向かうべきである。
「わかってる。だけど僕の直感を信じてほしんだ。」
「デリラ真剣に考えてる?」
「うん、もちろんだよ。この先に進めば必ずアリアを助けることに繋がると思う。」
冷静な判断をするのであればここで引返すのが当たり前なのだが、いつもよりも真剣なデリラの言葉にコータは納得せざるを得なかった。他の皆も同じ気持ちのようだ。
「わかった。先に進もう。」
「しょうがないなぁ。そこまで言うなら付き合うよ。」
「うん、本当に何かあったし最後まで信じるよ!」
「うん…。」
ここまでデリラの言うことを信じてきて本当にウールは見つかったし、岩山の中にこんな隠し空間があったのも事実である。それにここまで真剣に言っているのだそれを疑うようなことはできない。合流していない皆もきっとアリアの事を真剣に探しているはずだ。だから敢えて別のルートを行くのも悪いことではないとコータは自分に言い聞かせる。
「それじゃあ着いてきて!」
デリラを先頭に一行は謎の施設へと足を踏み入れるのであった。
◇◆◇◆
ユーリ達は《賢者の塔》と思われる場所の階段を上っていた。階段は建物の上へ螺旋状に続いている。外から見た時にかなりの高さがあることはわかっていたが一体どれくらい階数があるのか検討も付かなかった。
「ふぅ、結構上ったと思ったんですがまだまだ先は長そうですね。」
「外から見ると高さがあったけど思ったよりも階数はないのかもしれないな。」
ただ《賢者の塔》が高いだけで一体何階建てなのかというのはわからない。最初の部屋もそうだが、ここには窓や扉がなく外側がどうなっているのかがまったくわからない。道は一本しかないので間違ってはいないと思うが、上っても上っても次の階層がない。
「痛っ!」
最後尾を歩いていたルミは階段を踏み外し、ころころと勢いよく階段を転がって落ちていく。ここはもうかなり敵地の深いところまで来ているはずだから、もう少し慎重にして欲しいものだ。すると下に転がり落ちたルミが何かを言っている声が聞こえた。
「皆さん!一度降りて来てください!」
「どうした?」
「いいからお願いします!」
俺達はルミが必死になって頼み込むので一度階段を降りることにした。するとそこには初めに来た何もない部屋にルミが座り込んでいた。一体これはどうなっているんだ?
「大丈夫かルミ?」
「はい。それよりもこの部屋って…。」
「ああ、俺達が最初に来た部屋で間違いないと思う。」
「それでは私達は階段を上っているようで上っていなかったということですか。」
ルミは大丈夫そうだったが俺達はそれどころじゃなかった。目の前に広がっている光景に頭が追いついていなかったからである。ここまで少なくとも数百段の階段を上ってきたはずだ。しかし十数段下に降りただけで元の部屋まで戻ってきていた。階段が螺旋状になっていいるおかげでに上ってしまうと下は見えなくなってしまうせいで気づかなかった。
「なんらかの魔法道具と考えるべきですね。」
「こんなのもあるのか。」
「おそらく地下から外敵が侵入した時のために用意してあるのでしょう。」
この部屋には窓や扉がなく階段以外に進む場所がないことを考えると、ここは地下水路から侵入してきたことを想定した一種の防衛手段なのだろう。
「しかしどうする?派手に魔法を使っても突破できるかわからないだろうし、かといってこのままでは。」
「幸い俺達が地下水路から上ってきた梯子には戻れるようだから、一度戻って別の梯子から地上に出よう。」
「そうですね。」
俺達は上って来た梯子を降りて再び地下水路へと戻る。そして少し離れた場所にある梯子を昇る。周囲の様子を見ると人はいない。そして目の前には《賢者の塔》がある。《賢者の塔》にはいくつか入口と思わしき扉があった。俺達は地上へと上がりきる。
「今度は外に出れたようですね。」
「わぁ扉がいっぱい。」
「どれを選ぶか…。」
「ふふふ、良く来たな侵入者の諸君。」
地上へ上がると、どこからか声が聞こえて来た。
「お前は誰だ!」
「そんなことはどうでもいい。君たちの仲間である《大賢者》は目の前の《賢者の塔》に捕らえられている。扉は全部で5つ。どの扉の先にいるのか当ててみせよ。」
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