第百六十四話 水竜
ユーリ達はマルムに案内をされて、村の井戸から下水路へと侵入していた。
「でも良かったのか?」
「何が?」
「マルムって人だよ。私らにこんなに色々話したってバレたらヤバいんじゃないの?それにあの人だってこの国に住んでんだから《大賢者》に助けて貰いたいんじゃないのか?」
ジェマはマルムさんの心配をしているようだ、いや俺も心配している。ここまで情報をくれたり良くしてもらったのは非常にありがたいのだがバレたら自分たちの立場も危ういはずだ。もちろん俺達がマルムさんから情報を聞いたというつもりはないが。それにこの島のことを思うのであればむしろ《大賢者》は手に入れたいと思っても不思議ではない。だがマルムさんは嘘を付いていないことはエレナじゃなくてもわかった。
「実はユーリ君達に合流する前に同じことをマルムさんに聞いたんです。」
「なんて言ってたんだ?」
「この国は地上に帰るべきだと言っていました。そのためなら協力は惜しまないと。」
「そうだったんだ。でもどうしてだろう。」
「わかりません、ですが私の《副技能》で見ても怪しい所はなかったのでそれ以上追求はしませんでした。」
地上に帰るべきか…そもそもどうしてこの国はこうまでして空に浮かぶことにこだわるんだろうか。別に地上に降りたからといって何か問題があるのだろうか?これだけ大きな国であちこちで感じる魔力の大きさからそこそこ戦闘ができる人間は多いように感じるし、大抵のことはなんとかなる気がするが…。
「どうやら次の階層が見えてきたようだぞ。」
そうこう考えている間に三階層と二階層の間に着いたようだ。水路の横に道があり俺達はそこを歩いて来たが、少しだけ開けた場所に出た。俺達が歩いてきた道と向こう側の道は少し色が違っている。これが階層の境目だと思われる。
「進もう。」
「待って!何かいる!」
辺りは暗く視界は悪い。しかし俺の《副技能》が反応しているということは間違いなく魔物がいる。ということはこれがマルムさんの言っていた水竜だろう。マルムさんに借りてきたランタンの火を暗闇に向ける。そこには水竜が3体いた。見た目は砂竜に似ているが身体の色は紺色です表面は濡れている。
「あれが水竜だ。」
「視界は悪いが、こっちは8人だ。」
「魔法がなくても戦えるでござる!」
「皆来るよ!水には気をつけて!」
「グェェェ!!!」
水竜はこちらに気付くと真っ直ぐに突進してくる。陸でも活動できるというだけあってそこらの魔物よりも相当早い。だがそれはあくまでもそこらの魔物よりもというレベルの話だ。
「『新山田流壱式・疾風迅雷』!」
「魔力を込めなくても剣技は使えます!『四角突き』!」
「『剣技・三段突き』!」
ここで魔法を使ってしまっては敵に気づかれてしまう。なので手こずる可能性もあったがどうやらいらぬ心配だったようだ。ランマとシャーロットそして俺は魔力を込めなくても使用できる剣技がある。速さや威力は落ちてしまうが魔物を倒すくらいなら問題はない。
「よし。先へ進もう。」
「ああ。」
そして俺達は二階層の下水路を走っていく。道は一階層よりも少しだけ広く横道も増えてきた。
「一階層よりも二階層の方が広いみたいだな。」
「俺達は二階層を見てきたけど、一階層には劣るもののそれなりには人もいたし店や住居もあった。」
「それだけ下水路も必要というわけですね。」
「これがあってよかったですね。」
カノンコートは落ちる時にわかったがかなり大きい。もちろん島が大きいのもあるが国としても十分大きめなほうである。そのため地下に広がるこの下水路もある程度広いということは予想ができていた。そのため地上ならまだしも地下だと迷ってしまう危険があった。そこでマルムさんに借りたのがこのランタンである。
「おっと、ここを右の様ですね。」
「ああ。」
このランタンはただのランタンではなく行きたい場所まで案内してくれる魔法道具なのだ。あの中心にある《賢者の塔》に行けるように案内をしてくれる。マルムさんはかなり魔法道具を作るのが得意なようだ。もし機会があるならばマークに会わせてあげたい。そして俺達は案内に従い二階層と三階層の間に辿り着く。
「水竜がいない?」
「いや…。」
「グェェェ!!!」
「今度は水の中だ!」
水竜は水の中に潜んでいた。そして頭だけを水面から出しており、こちらに向かって水を吹き出した。それはまるで弾丸の様な速さで次々に俺達を襲う。
「ぐっ…!」
「カルロス!」
「この視界の悪さでは避けきれない…!ぐっ!」
「ディラン!」
カルロスとディランは水竜の吹き出した水に直撃してしまう。無理もない、魔法が使えない状況で且つこの視界の悪さだ。完全に避けきることはできない。早く倒さなければいけないとわかっているが、水の中に潜られては攻撃することができない。
「どうする?」
「俺が囮になる!ランタンを!」
俺はランタンを持ち、水竜の攻撃を全て引き受ける。これで皆へ水を飛ばすことはなく、俺に向かって水が飛んでくる。ひたすら走り回り直撃を避ける。
「今でござる!『新山田流壱式・疾風迅雷』!」
「ここです!『剣戟一閃』!」
水竜が攻撃をする瞬間は必ず水面の上に頭が出る。そこを狙ってランマとシャーロットは水竜の頭を切り落とした。暗く視界は悪いが水を吐き出す音で水竜の正確な位置を割り出したのだ。二人共元々魔力が少なく、魔法に頼るタイプではないのでこういう状況では本当に頼りになる。
「よし、なんとかなったな。」
「ディラン、カルロス大丈夫ですか?」
「ああ、『回復薬』でなんとかなる。」
「私もです。」
ディランとカルロスは怪我こそしたものの『回復薬』ですぐに治る程度である。恐らく普通はそうはいかないのだが、それなりに鍛えているだけあって身体が丈夫である。特にディランは『身体強化』を多く使っている影響から自然と身体が鍛えられているらしい。らしいというのはあくまでの本人談であるからだ。
「すみません全然役に立てなくて。」
「アタシもだ。」
「私もです。魔法に頼らない様に鍛えているつもりでしたがまだまだですね。」
「そんなことないでござるよ!いつもは拙者は助けてもらってばかりでござるからこんな時くらいは任せてほしいでござるよ!」
「私も前回は家族のことで迷惑をかけました。今回は活躍させてください。」
ルミとジェマ、それにエレナは謝罪をする。ここまで魔法が使えていない組はほとんど活躍が出来ていないのを気にしているのだ。しかしそんなことはない、ここから先は必要になる可能性の方が高いし今は温存していると思ってもらえばいいのだ。ちなみにルミは使えないわけではないが、一部分とはいえ龍になるのは敵に見つかる危険があるため使用しないで貰っている。人間状態でも戦えなくはないがまだ完全ではなく無意識に龍の部分が出てしまうのだ。
「さぁ、先を急ごう。」
「やっと三階層まで戻ってきたな。」
「ええ、気を引き締めていきましょう。。」
ランタンを頼りに三階層の下水路を進んでいく。するといくつか梯子がかかっている場所が増えてきた。どうやら三階層では地下から地上に上がることができるようだ。そしてさらに進んでいくとランタンの火が強く灯った。どうやらここが《賢者の塔》の真下らしい。
「ここだ。」
「この辺りから地上に昇るか。」
「何があるかわかりませんから慎重に。」
俺達は慎重に近くの梯子を昇っていく。そして地上への扉を少しだけ開く。周囲を確認すると人はいないようだ。ここは《賢者の塔》の中なのだろうか?俺達は地上へと出ていく。
「今の所周囲に人はいないようです。ただあくまでも私の《副技能》の範囲にすぎないので油断はできませんが。」
「魔物とかもいないみたいだね。」
「ここは本当に《賢者の塔》で合っているのか?」
「わかんねぇな。だが階段はあるみたいだぜ。」
俺達が侵入した部屋には扉や窓はなく、物が何もなかったのでどういう部屋なのかというのがわからなかった。しかし周囲には人や魔物などの生物がいないことはわかる。そしてジェマが指を向けた方には階段があった。あれしか先に進む場所はないため俺達は慎重に階段を昇っていくのであった。
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