第百六十二話 生命の魔力
コータは自信満々に歩くデリラの後を付いて行きながら周りの景色を見ていた。特段地上と変わるところがあるようには見えない。ただ思っていたよりもこの島というか国は大きいのだなと考えていた。それと同時にどうやってこの島は浮いているのかという疑問が出てきたが今考えても仕方がないと飲み込んだ。
「本当にこっちで大丈夫なんだよね?」
「うん!僕の直感がそう言っている!」
「デリラ…信じてる…。」
「任せてよ、コーデリア!」
フルーは半信半疑、根拠ない自信を本気で信じているのはコーデリアだけのようだが、コータはただの直感であれば信じる気にはならなかっただろう。ただ、もしかしたらただの直感ではない可能性があるからこうして後を付いて行っている。
「あっ!何かあるよ!」
「何かあるよっていうか…」
「人間…。」
デリラが何かを見つけたと指を差す方向を見てみると人が地面に埋まっていた。上半身が埋まっており、下半身だけ地面に埋まっているのだ。それにあのズボンには見覚えがある、聖リディス騎士学園の制服だ。
「ちょっと!」
コータは急いで地面に埋まっている下半身の元に近づき、足を持って引き抜いた。人が地面に埋まること自体変な話ではあるが、下半身を引き抜く時にその理由がわかった。ここの地面はありえないくらい柔らかいのだ。思いっきり地面を踏み込むと足が埋まりそうなくらいだ。しかも砂が付着しない、一体これは何でできているのだろうか。
「…ごほ、ごほ。」
「やぁウール、無事で良かったよ。」
「なんだ、埋まってたのはウールだったのか。」
引き抜いた下半身の人物はウールであった。どうやらルミの背中から飛ばされて来て、この柔らかい土に落ちてきたようだった。とりあえず無事でよかった。
「助かったよ。色々な意味で。」
「とりあえず合流できて良かった。」
「僕の直感が正しかったってことだね!」
「まあそういうことになるのかな?」
デリラの直感が正しい方に作用してくれたようだ。やはりただの直感ではないなと改めてコータは思った。
「で皆と合流したいところだけどどうする?」
「通信機や魔法を使えないから、どうしようか迷ってるところだったんだよ。」
「デリラの直感のおかげかウールとは会えたけどね。」
「うーむ。」
「デリラ…どうした…?」
さてウールとは合流できた所でどうするか。連絡は取れないし、魔法も使えないとなると街で聞き込みでもするしかないかと考えていた所デリラが唸りだしていた。
「いやまだ僕の直感が何かあると言っているんだよね。」
「また直感かぁ。」
「さっきも言ってたけど直感って?」
「ああ、ウールを見つけたのはデリラの直感を信じたからなんだ。」
どうやらまたデリラの直感が何か感じているらしい。それに疑問に思ったウールに直感のことを説明をする、まあいきなり直感がどうのと言われても意味はわからないだろう。実際説明したのに何を言っているんだという顔をしている。そしてコータはさらに説明を付け加える。
「多分だけど、デリラの《副技能》なんじゃないかな。」
「たしかにそれなら説明が付くかも。」
「なるほど!これが《副技能》ってやつなんだね!」
「自分のルーツを知ったから目覚めたのかな?」
「わからない…でも納得…。」
《副技能》ならばウールを見つけることが出来たのも納得である。恐らくデリラの《副技能》が発動したのは、龍の血が少なからず流れているということを認識したからだと思われる。《《副技能》は魔力を必要としないからこの状況であれば、一番頼りになる力だ。
「よし、それじゃあデリラの直感を信じて着いていくよ!」
「オッケー!任せなさい!」
「頑張れ…。」
「頑張って!」
「心配だなぁ…。」
ウールは不安を抱えながらも合流できたことは事実なので、とりあえずデリラを信用することにした。ウールを加えた一行は再びデリラを先頭にし、直感を頼りに進んでいくのであった。
◇◆◇◆
階層を移動したユーリ達は情報を集めるために酒場と思われる場所を訪れていた。ここの通貨は地上とは違う可能性があったので盗み見ていたが、この国独自の物もあるようだが、地上の通貨も使えないわけではなかったので助かった。
「情報を集めるなら酒場って相場は決まってるよね。」
「そうですかね?」
「まああながち間違いではないな。」
そしてユーリは聞き耳を立てる。まだ少し早い時間ではあるがそれなりに酒場は賑わっており、周りのテーブルからは色々な話が聞こえてくる。
「どうやら妙な連中が入ってきたらしいぜ。」
「それは本当か?侵入者なんていつ以来のことだ?」
「さぁな数十年くらいじゃないか?まあどうせすぐに捕まるよ。一階層じゃすでに厳戒態勢みたいだし、お偉方が慌てる顔を拝みたかったが、《賢者の杖》からは逃れられないだろ。」
「たしかにそうだな、あの連中はおっかねぇ。」
俺達が侵入していることはもうここの階層にも伝わっているようだ。一階層というのは先程、俺達がいた栄えている街の方だろうか。《賢者の杖》か、口ぶりから察するにこの国の騎士団的なものだろうか。アリアを誘拐したのが何者かはわからないが、例えばこの国の犯罪者とかであれば協力をしてもらえるんじゃないかと少し考える。
「しかし何でまた侵入者が来たんだ?」
「ほら例のアレが見つかったらしい。」
「後継者候補か?なるほど、そりゃあ連れてくるわけだ。するってぇと侵入者は助けに来たってことか。」
「ああ、そういうことだ。まあ理解して大人しく帰ってもらえりゃいいが。」
アリアが後継者候補?一体何の後継者なのだろうか。すると男達は立ち上がり店を出ていく、他のグループにも聞き耳を立てるが話題は似たようなことばかりだったので俺達は一旦酒場の外に出ることにした。
「なんとなくだけど情報を集めることはできたね。」
「アリアさんは何かの後継者にするために誘拐されたということですね。私でもわかりましたよ。」
「あんな一般の奴らにも情報が出回っているってことは、国ぐるみの可能性があるとアタシは思うぜ。」
「そうかもしれないな。」
酒場の男たちの口振りだと何か大きな役職の後継者候補として《大賢者》であるアリアを誘拐したということのようだ。となると国側と協力するのは難しい可能性が高く、あの警備をくぐり抜ける必要がある。
「ここらで皆と合流したいところだけど…」
「どうやって合流するかだな。」
「思い切って魔法でも使ってみます?」
「うーん。」
この情報を共有するにもアリアを助け出すにも流石に3人だけで行動するのは厳しいから人数が欲しいところだ。しかしどうやって皆と合流しようかと考えていると通信機から声が聞こえてきた。急いで人気のないところまで移動し、通信機に耳を傾けるとシャーロットの声が聞こえた。
「聞こえていたら返事をしてください。この通信は相手に観測されないので安心してください。誰か聞こえていたら返事をしてください。」
「シャーロット?」
「ユーリ、無事でしたか。今どこにいますか?」
「ジェマとルミと一緒に二階層って呼ばれるところにいるよ。それにしてもどうやって通信を?」
「詳しいことは後でお話します。私達は三階層にいますので塔を北側に見て南側に進んで三階層に来てもらっていいですか?一度合流しましょう。」
「了解。」
どうやってかシャーロットは通信することができたようで、なんとか合流する目処は立てられた。どうやらここよりも更に外側にある一階層という場所にいるようだった。俺達はシャーロットに言われた場所に行き合流することができた。
「無事で良かった。」
「ええ、とりあえずここは目立ちますから付いてきてください。」
村と思われる場所に着くとシャーロットがいた。そして言われるまま後を付いていくとボロボロな家へと着く。中に入ると病弱そうな女性と小さな女の子、そしてエレナ、カルロス、ディラン、ランマがいた。
「合流できて良かった。」
「はい、早速ですが話を聞いてください。」
そしてシャーロットはこの家の主であるマルムさんと出会った経緯とこのカノンコートという国についての詳細を聞いた。通信機を使用することが出来たのはマルムさんの魔法道具を使ったかららしい。彼女は以前、魔法道具の研究者として一階層で働いていたようでその時に発信側も受信側も魔力を悟られない通信機を開発したらしい。ただ範囲が狭いのが難点だったようだが、俺達には届いたようで連絡を取ることが出来た。
「なるほど、大体理解できたよ。」
「それでアリアがどうして誘拐されたのかという部分なんですが…」
話はユーリ達と合流する少し前に遡る―――
「その仲間は《大賢者》なんです。」
「《大賢者》ですか!?」
シャーロットはどうして自分達がこのカノンコートにやってきたのかを話した。するとマルムさんは《大賢者》という部分に強く驚いていた。
「すみません大きな声をだしてしまって。」
「いえ大丈夫ですよ。《大賢者》だと何かあるんですか?」
「この国の魔力は《魔力融合炉》によって生成されているという話を先程いたしましたが、あれには1つだけ問題があります。厳密には無から魔力を製造しているわけではなく《魔力融合炉》の内部にある《大賢者》様の特別な魔力と外側からの我々の魔力を組み合わせることで初めて魔力が生まれるのです。ですが現在その《大賢者》様の特別な魔力が不安定でその代替になる物を探しているのです。」
「少々話が大きすぎてあまり理解できない話だな。」
「要は《大賢者》の特別な魔力が必要だけど、それが危ないから《大賢者》であるアリア殿を誘拐したということでござるか。」
「はい。《大賢者》様は数百年前に亡くなられていますから、新しい《大賢者》様を長年探しているのです。どうやってアリアさんという方を見つけたのかはわかりませんが。」
細かい部分はわからないが要約すると《魔力融合炉》には《大賢者》の特別な魔力が必要で、そのためにアリアが必要であるということだ。アリアが《大賢者》であるということは調べようと思えばすぐにわかることだ。そして話は現在に戻る。
「今度はこっちが酒場で聞いた話をするよ。」
ユーリは酒場で聞いた話を皆にした。
「後継者候補…ね。マルムさんの言ってたことは間違いないみたいだ。」
「でもさそれって協力するんじゃだめなのか?一度《魔力融合炉》に特別な魔力を入れればいいんだろ?」
たしかにジェマの言うことも一理ある。最初から協力的であればわざわざ誘拐なんてしなくても良かったのではないだろうか。であればこうして俺達が無理やり乗り込んでくることもなかったのだが…。しかしマルムさんの顔は暗かった。
「代償があるってことですね。」
「はい、特別な魔力というのは言わば《生命の魔力》と呼ばれるものです。それを作るということは自らの命を削るということ《魔力融合炉》に使われる量の《生命の魔力》を生成すれば恐らくですが…死にます。」
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