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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
魔導天空都市編

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第百六十一話 森の村

エレナ、シャーロット、カルロス、ディラン、ランマの5人は森へと落ちてきていた。幸い木が落ちた時の衝撃を和らげてくれたおかげで無傷である。


「一応侵入には成功しましたが…。」

「ユーリとはぐれてしまったのは痛いですね。これではアリアさんの場所がわかりません。」

「それにここで通信機を使うのも不味いな。奴らに居場所がバレてしまうかもしれない。」

「皆さん、どうやら悠長に会話をしている暇はないようです。」


いつの間にか5人は辺りを何かに囲まれている。木々の隙間から出てきたのは《フレア・ウルフ》、魔物である。


「こういう所は地上と変わらないですね。」

「私がお相手いたしましょう。魔法を迂闊には使えません、剣を扱える私が戦うほうが良いでしょう。」

「それなら拙者も同じこと。」

「俺達も魔法なしでも戦える。伊達に修行はしてないさ。」

「シャーロット様の盾にくらいはなれましょう。」

「油断は禁物ですよ!」


シャーロットは《フレア・ウルフ》の群れに飛び込む。愛用する細剣で次々と《フレア・ウルフ》の身体を突き刺していく。ランマも愛刀である《白月》で次々と斬り裂いていく。他の3人は敵の攻撃を躱しつつ、《フレア・ウルフ》の身体に掌底や蹴りを入れる。怯んだところをシャーロットとランマの二人が止めを刺す。


「きゃぁぁぁ!!!」


すると少し離れた場所から叫び声が聞こえた。もしかして魔物に襲われているのではないか、エレナはそれが頭によぎった。居ても立っても居られず、叫び声のする方へと走り出す。


「私が行きます!」

「拙者もお供するでござる!」


エレナとランマは叫び声の聞こえた方向へ走っていく。すると3体の《フレア・ウルフ》に囲まれた少女が泣きながら追い込まれていた。エレナは跳躍し《フレア・ウルフ》と少女の間に入り込む。


「もう大丈夫ですよ。」

「お姉ちゃん…誰…?」

「通りすがりの…学生ですかね。そこでじっとしててください!」


少女をかばいつつ、エレナとランマは《フレア・ウルフ》を倒した。そこにシャーロット達も合流する。


「お姉ちゃん達、ありがとう。」

「いえ、大丈夫ですよ。お名前は何というのですか?」

「あたちはマジュっていうの!よかったら家に来てお礼をさせて!」


エレナは皆と顔を見合わせる。普段であれば素直に付いていきたいところだが、ここはすでに敵地である。彼女は子供であるが、家に行けばその両親や村であればそこの人々に怪しまれる可能性は高い。だが現状ここの

情報がまったくないためこのまま情報収集するのも1つの手ではある。


「ここは付いていってみましょう。今は少しでも情報を集めなければいけません。」

「そうだな。危険はあるが、ここにいるメンバーなら大丈夫だろう。」

「何かあっても任せて欲しいでござるよ!」

「私もシャーロット様の意見に賛成です。」

「それではマジュ、お家に行かせてもらいますね。」

「そうこなくっちゃ!」


危険はあるが少しでも情報を集めるためにマジュに付いていくことにした。


「マジュはどうして一人であんなところにいたのですか?」

「お母さんが病気でね、薬草を取りにいってたの。本当は一人で行っちゃダメって言われてるんだけど…。」

「お母様が心配だったんですね。」

「うん。お姉ちゃん達がいなかったらあたち…あっ、もうすぐ家だよ!」


森の中を歩いていくと整備された道へと出る。といっても草木がなく、少しならされているくらいの物だ。その先を見ると村があるようだ。だが村にある家はどれもボロボロで今にも崩れそうである。お世辞にも栄えているとは言えない雰囲気の村だ。


「ここがあたちの家だよ!お母さんただいまー!」


マジュは家に入ると奥の方に行く。しばらくすると母親らしき人物を連れて戻ってきた。病気と言っていたがあまり体調はよろしくなさそうである。足取りは重く、顔色も良くない。


「マジュを助けていただきありがとうございました。私はマルムと申します。」

「いえ、お気になさらないでください。」

「あなた達、外の方ですよね?」


外の方という言葉に一瞬ドキッとする。シャーロットはエレナの方を見るが、エレナは首を横にふる。エレナの《副技能(サイドセンス)》は他人の魔力の流れから相手に悪意があるかどうかが判断できる。シャーロットはそれを確認したのだ。そしてエレナによれば大丈夫とのことだ。


「はい、私達は外から来ました。」

「マジェ皆さんにお茶を入れて差し上げて。」

「はい!」

「立ち話もなんですからどうぞ、お座りください。」


4人はマルムに促され、椅子に座る。マジェが入れてくれたお茶を飲みつつ、質問を投げかける。


「どうして私達が外から来たと?」

「警報機からね、外からの侵入者が来たって情報が回ってきたの。それにその格好で来たらバレバレよ。」


そう言ってマルムは微笑む、たしかにその通りだ。魔物との戦闘ですっかり失念していたがここは地上ではないのだ。地上でも別の国では服装などで他国の者かどうかくらいわかる。


「ではどうして家に入れてくれたのですか?」

「マジェを助けて頂いたんですもの。悪い人たちには見えないわ…ゴホッ。」

「大丈夫ですか?」

「ええ…元々病気を持っていてね。いつもマジェが薬草を取ってきてくれるのだけど…。」

「根本的な症状が解決するわけではないということですね。」


シャーロットは魔法袋(マジックポーチ)から『回復薬(ポーション)』を取り出してマルムに差し出す。


「気休め程度かもしれませんがよかったらお使いください。」

「こ、こんな高価な物いただけません。」

「構いません。その代わりといってはなんですが、この島について教えていただきたいのです。」

「マジェを助けて頂いただけではなく私にもこんな…私でわかることなら協力させていただきます。」

「お姉ちゃん達ありがとう!」


エレナはマジェの頭を撫でてやる。ここのことを知ることができるなら『回復薬(ポーション)』くらい安いものだ。実際そこまで高価ではないはずなのだが、マルムさんの高価な物という発言も気になる。地上とはかなり色々違いそうな感じがする。


「ここは魔導天空都市カノンコート、《大賢者》様が作ったとされる国です。」

「やはりここがそうなのか。」

「ここでは地上の国にあるあらゆる魔法や魔法道具について研究することを目的としています。」

「なるほど、たしかに島を囲んでいた魔力癖はかなり大規模な魔法道具って感じがしたでござる。」

「あれは外敵から島を守るために《大賢者》様が作ったとされる魔法道具ですね。」


やはりここが魔導天空都市カノンコートらしい。魔導というだけあって魔法や魔法道具の研究を主としている国のようだ。実際この島に入る際にされた攻撃も魔力壁もかなり大規模で凄いものだった。しかしそれだけの魔力をどうやって用意しているのかという疑問が皆にはあった。


「一体あれだけの規模の物を動かすのにどれほどの魔力が必要なのか想像もできません。」

「よく考えたらどうやってこの島が浮いているのかも疑問だしね。まさか《大賢者》が永遠に浮かす魔法でも使用したわけじゃあるまいし。」

「そうですね。この国は魔力壁の様な大きな物から警報機や通信機など一般にも多くの魔法道具が浸透しています。この島を浮かせているのもそうですが、島の地下にある《魔力融合炉》によって作られる魔力によって賄われています。」

「《魔力融合炉》?」

「はい。原理は私には難しくてよくわかりませんが、《大賢者》様は自分が居なくなってしまった時のことを考えて作られた半永久的に魔力を製造する装置と聞いております。」


《魔力融合炉》半永久的に魔力を製造するか。実際にそんな物が存在するとは考えにくいが、そうでもなければ説明が付かないだろうということには皆わかっていた。


「それにしてもマルムさん色々詳しいですね。」

「私元々、地上から来てるんです。」

「地上から?」

「はい、子供の頃に迷子になったのですがその時に地上に来ていたここの住人に誘拐されたのです。」

「誘拐って…。」


たしかにこの島だけでは人口を維持するのは難しいのかもしれない。地上から人を連れてきて、人口を増やしているのだろう。それが良いことかどうかは置いておくが。


「でもいいんです。両親は早くに亡くなっていましたし、一人で過ごすよりはと思って。私は魔力が多いようで病気になるまでは一階層で働いていたんですよ。そこで主人と出会いました。」

「一階層というのは?」

「カノンコートは中心からそれぞれ一階層、二階層、そしてここ三階層と居住エリアが分かれています。外側には私の様な病気や才能のない子供、年配者が住んでいます。二層には商人や研究者達の家族、一層には貴族が住んでいます。」


どうやら住む場所はその人の身分で分けているらしい。セルベスタ王国よりもかなり差別的な様だとシャーロットは感じていた。ディランも同じことを思ったようで質問をぶつける。


「階級で住んでる場所を分けているということか。言っては悪いがここの環境では治る物も治らないのではないか?」

「カノンコートでは『治療魔法(ヒール)』を受けるにはかなりの大金が必要なのです。なので働けなくなってしまった私には価値がなくお金を稼ぐ手段が…。」


先程の『回復薬(ポーション)』もそうだったがカノンコートではどうも回復に関することに関しては大金を求める傾向にあるようだ。薬草があるから『回復薬(ポーション)』が作れないというわけではないだろうし、『治療魔法(ヒール)』を使用できる者が少ないという可能性もあるが少し疑問だ。


「失礼ですがそのご主人は?」

「研究をしていた際に事故に巻き込まれて帰らぬ人になってしまいました。そして私の病気もありこの三階層へと移り住んだのです。」

「弱者には厳しい国だな。」

「はい、ですがこの階層では作物を育てやすくや魔物を狩ることができるので生活が必ずしもできないというわけではないのです。」

「たしかに生活できないことはないでござるが…。」


ランマは大和国でも比較的治安の悪い《遊郭》の生まれだが、ここはそれよりも酷い環境であると感じていた。いくら自給自足の生活ができるとはいえ上層に行くのはほぼ不可能なのではないかとランマは思った。


「それで皆さんはどうしてこのカノンコートに?」

「実は仲間を探しに来たんです。誘拐されてしまいまして。」

「そうだったんですか。」

「その仲間は《大賢者》なんです。」


そして話は本題へと進んでいく。


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